令和7年度は、言論NPOにとって大きな転換点となる一年であった。
世界では大国間の競争と対立が拡大し、「力の政治」が国際秩序を揺るがしている。また国内では、SNSを中心とした情報環境の変化の中で、課題解決に向けた建設的な議論を支える言論空間の弱体化が進んでいる。
こうした状況の下で、言論NPOは①世界のシンクタンクとの連携強化と国際対話の拡大、②課題解決の意思を持つ世論形成に向けた言論空間の再構築、③世界の課題解決に行動で貢献する「DO-TANK」への転換、の三つを重点目標として事業を推進した。
その結果、「東京会議」を中心とする国際ネットワークは新たな段階へと発展した。パートナーシンクタンクは世界12カ国13団体に拡大し、世界36のシンクタンクとの共同調査を実施するとともに、「東京会議2026」では、多国間主義と法の支配に基づく国際秩序の維持に向けた国際的な議論と提案を世界に向けて発信することができた。また、「アジア円卓会議」の創設により、日本がアジアと世界を結ぶ新たな対話のプラットフォームとしての役割を担い始めたことも大きな成果である。
一方で、「東京-北京フォーラム」は延期となり、危機の時代における民間外交のあり方を改めて問い直すこととなった。しかし、この経験は、一つの対話チャネルに依存しない多層的な対話基盤の必要性を明らかにし、今後の新たな展開への課題を示すものとなった。
言論空間の再構築については、ウェブサイトの全面リニューアルや編集体制の整備、言論フォーラムや勉強会の継続的な開催など、基盤整備において大きく前進した。一方で、その成果を社会全体の議論の活性化や市民参加の拡大につなげる段階にはなお至っておらず、令和8年度の重要課題として残されている。
また、組織面では「戦略構想会議」を通じて「DO-TANK」構想を具体化し、新たなパートナー法人会員制度を創設した。多くの企業の参加が実現し、財政基盤強化への大きな道筋をつけることができたことは重要な成果である。
総じて令和7年度は、言論NPOが国際対話、言論空間、組織基盤の三つの分野で新たな段階へと踏み出した一年であった。世界の分断と不信が深まる今だからこそ、対話による課題解決の可能性を示し、市民と知識層、そして世界を結ぶ公共的な言論基盤の役割はますます重要になっている。
令和8年度は、本年度構築した国際ネットワークと組織基盤を活用しながら、「東京会議」「アジア円卓会議」「東京-北京フォーラム」を軸とした国際対話をさらに発展させるとともに、言論空間の再構築と市民参加の拡大を本格化させることで、日本から世界の課題解決に貢献する行動するシンクタンク(DO-TANK)としての役割を一層強化する。
世界のシンクタンクとの連携強化と国際対話の発展
(1)シンクタンク連携の拡大と国際専門家調査の実施
令和7年度は、「東京会議」を支える国際的なシンクタンク・ネットワークの強化に取り組んだ。世界では大国間の競争と対立が深まり、「力の政治」が国際秩序の前提となりつつある。こうした中で、多国間主義や法の支配に基づく国際秩序を維持するためには、国境を越えた知的協力と政策対話が不可欠であるとの認識の下、言論NPOは世界の主要シンクタンクとの連携強化を進めた。
その結果、これまで「東京会議」に参加してきた11団体に加え、米国のピーターソン国際経済研究所、欧州のブリューゲルが新たに参加し、パートナーシンクタンクは世界12カ国13団体へと拡大した。経済、安全保障、外交など幅広い分野を代表する機関が加わったことで、ネットワークの多様性と専門性は一段と強化された。
また、本年度はシンクタンク間の実質的な協働を進めるための新たな取り組みとして、国際専門家調査を実施した。13団体のシンクタンクと共同で調査設計を行い、世界36のシンクタンクの協力を得て、26カ国293人の専門家を対象にアンケート調査を実施した。
その結果、世界はG2体制へ収斂するのではなく、多極化と勢力圏化を伴う不安定な均衡へ向かっているとの認識が共有されていることが明らかになった。
これらの成果は、「東京会議2026」における議論の重要な基礎となっただけでなく、シンクタンク間の共同研究や政策対話を進めるための新たな出発点となった。
シンクタンク連携は世界だけでなく、アジアでも進んでおり、令和8年度は、専門家調査を継続・発展させるとともに、シンクタンク間の定期的な対話や共同事業の実施を通じて、ネットワークの実効性をさらに高めていくことになる。
(2)「東京会議2026」が実現した歴史的な意義
言論NPOは、世界で大国の行動が広がり、米国とイスラエルのイラン攻撃で中東情勢が緊迫する中、2026年3月10日から12日までの3日間、「東京会議2026」を開催した。
本会議は2017年の創設以来10回目の節目となる会議であり、世界13団体の主要シンクタンク代表をはじめ、20カ国から約40人の元首脳経験者、元・現職閣僚など世界の要人が参加し、「力の政治」が常態化しつつある世界において、多国間主義や法の支配をいかに維持・再建していくのかを中心テーマとして議論を行った。
こうした議論を踏まえてまとめられた議長声明では、「大国による力の行使がもはや例外ではなくなりつつある」という現実を直視しながらも、「力による平和」を安易に容認するのではなく、法の支配と多国間主義に基づく国際秩序を維持するために各国が主体的な責任と行動を果たすべきであるとの認識を共有した。この議長声明は、世界の不確実性が高まる中で、日本から発信された重要なメッセージとなった。
議論に当たっては、事前に実施した国際専門家調査の結果を共有しながら、①大国主導の秩序が常態化するのか、②多国間主義は再生可能か、③ミドルパワーはどのような役割を果たすべきか、という3つの論点を軸に検討を進めた。これらのアジェンダは、パートナーシンクタンクとの協議を経て設定されたものであり、会議の企画段階から国際的な協働が実現したことも大きな特徴であった。
公開フォーラムでは、トランプ政権関係者と欧州の元首脳経験者との間で、「力による平和」をめぐる率直で激しい議論が展開された。これは単なる政策論争にとどまらず、今後の世界秩序をどのような原理で支えるべきかという根本的な問いを提起するものであり、参加者のみならず国内外のメディアからも高い関心を集めることになる。
「東京会議2026」の議論や提言は国内外の主要メディアで幅広く報道されたほか、参加した世界のリーダーや専門家によるSNS等での発信を通じて国際的な波及効果を生み出した。これにより、「東京会議」は日本発の国際対話プラットフォームとしての発言力をさらに高めることとなった。
また、公開フォーラムに加えて5つの非公開会議を開催し、安全保障、経済、グローバルガバナンス、AIなど幅広いテーマについて率直な議論を行った。さらに、最終日の総括会議では、参加シンクタンクから定期的な対話の仕組みや共同研究の実施など、今後の協働を発展させるための具体的な提案が数多く示された。
「東京会議2026」は、単に国際会議を開催しただけでなく、世界の主要シンクタンクが共通課題について継続的に議論し協働するための基盤を強化したという点で大きな成果を上げた。特に、世界が分断へ向かう中で、日本が国際的な対話の舞台を提供し、多国間主義や法の支配の重要性を発信し続ける役割を果たしたことは、本事業の大きな意義であった。
一方で、会議で生み出された議論や提案を、その後の政策形成や国際社会での行動につなげていくための継続的な仕組みづくりは今後の課題である。今後は、会議を年1回のイベントとして終わらせるのではなく、年間を通じた対話や共同事業へと発展させることで、その影響力をさらに高めていく必要がある。

(3)アジア円卓会議の創設 ― アジアの主体的な秩序形成に向けて
令和7年度の重要な成果の一つが、「東京会議2026」に合わせて新たに創設した「アジア円卓会議」である。
近年、国際秩序を巡る議論は米中対立や大国間競争を中心に進められる傾向が強まっている。しかし、国際秩序の変化による影響を最も大きく受けるアジア諸国が、自らの立場や考えを持ち、主体的に秩序形成に関与していくことがこれまで以上に重要となっている。
こうした問題意識の下、言論NPOは東アジア7カ国から現職・元職を含む11人のリーダーを招き、「アジア円卓会議」を創設した。会議では、岸田文雄元首相とユドヨノ元インドネシア大統領が共同議長を務め、急速に変化する国際環境の中で、アジアがどのような役割を果たすべきかについて率直な議論が行われた。
議論では、アジア諸国が大国間の対立に翻弄されるだけではなく、平和と安定した秩序の維持に向けて主体的な責任を果たすべきであるとの認識が共有された。また、国際秩序の変化に対してアジアとしてどのような価値や原則を提示できるのか、多国間協力や地域協力をどのように発展させるべきかについても活発な意見交換が行われた。
その成果として取りまとめられた共同声明では、アジアが単なる受け手としてではなく、国際秩序の形成に主体的に関与することの重要性が明確に示された。また、本会議を一過性の取り組みとせず、継続的な対話の場として発展させていく方向性についても確認された。
この取り組みは、言論NPOがこれまで進めてきた国際対話を、世界のシンクタンク間の連携から、アジアのリーダー間の戦略的対話へと発展させる新たな試みとなった。特に、日本が主導してアジア各国のリーダーを結び付け、共通課題について議論するための独立した対話の枠組みを構築できたことは、本年度の大きな成果である。
今後は参加国の拡大や議論の深化を図りながら、アジアが主体的に国際秩序の形成に関与するための恒常的なプラットフォームとして定着させていく必要がある。

(4)「東京-北京フォーラム」の延期と対話再開に向けた取り組み
令和7年度は、「第21回東京-北京フォーラム」を2025年11月22日から24日まで北京で開催するとともに、「第21回日中共同世論調査」の結果を公表することを計画していた。しかし、中国側実行委員会から延期の通告があり、フォーラムの開催及び世論調査結果の公表は実現しなかった。
今回の延期は、日中関係を取り巻く環境がこれまでになく厳しい局面にあることを示している。言論NPOは20年間にわたり、政府間関係が困難な状況にあっても民間対話を継続してきたが、今回は民間外交の枠組みそのものが大きな影響を受ける結果となった。
一方で、この経験は、危機の時代における民間外交の役割と課題を改めて考える契機ともなった。政府間の対話チャネルが限定される中で、民間対話には依然として大きな役割が期待されているが、同時に一つの対話チャネルに依存することの限界も明らかになった。
言論NPOは延期後も、「日中関係の立て直しは可能なのか」「日本外交はこのままでいいのか」などをテーマとした言論フォーラムや勉強会を継続し、市民や有識者が冷静に現状を分析し議論する場の維持に努めた。また、フォーラム再開に向けた中国側との協議も継続している。
今後は、「東京-北京フォーラム」の再開に向けた努力を続けると同時に、中国を含む多国間対話や多層的な対話ネットワークの構築にも取り組む必要がある。今回の経験は、危機下における民間外交の新たなあり方を模索する重要な機会となった。
令和7年度は、世界で大国主導の力の行動が広がる中で、言論NPOが進める世界のシンクタンクとの連携が量・質ともに新たな段階へと発展し、「東京会議」を中心とする国際対話の枠組みが大きく前進した一年であった。
今後は、こうした成果を継続的な協働やより大きな発信力につなげることで、日本発の国際対話プラットフォームとしての役割をさらに強化していく必要がある。
課題解決の意思を持つ世論喚起に向けた言論空間の立て直し
令和7年度は、課題解決の意思を持つ世論を喚起し、多様な知識層の発言を可視化することで、日本の言論空間の再構築に向けた基盤整備に取り組んだ。
現在、日本の言論環境では、インターネットやSNSを通じて多様な情報が流通する一方で、不安や感情に迎合する言説やフェイクニュースが拡散しやすくなっている。また、社会課題について冷静かつ建設的な議論を行う空間が縮小し、多くの専門家や知識層が発言しにくい環境も生まれている。
こうした状況に対し、言論NPOは、国内外の知識層の発言を可視化し、市民が課題について主体的に考えるための言論空間を再構築することを目指して取り組みを進めた。
その中心となったのが、ウェブサイトの全面リニューアルである。このリニューアル作業は、決済システムの導入など一部機能を残しながらも、令和8年1月までに主要部分がほぼ完成した。新たなサイトでは、「日本の課題」「世界課題」「アジアの平和と課題」「民主主義を強くする」という4つの柱を軸に、社会が直面する重要課題を継続的に取り上げるためのコンテンツ制作体制を整備し、試験的な議論も行われた。
また、客員編集委員制度の整備や研究員・評価委員体制の準備など、多様な知見を結集するための基盤づくりも進めた。
さらに、言論フォーラムや各種勉強会を継続的に開催し、安全保障、国際秩序、日中関係、民主主義、経済など幅広いテーマについて議論の場を提供した。SNSを活用した情報発信も強化し、無料登録者数は前年を上回るなど、新たな支持層との接点を広げることができた。
これらの作業は、当初目標としていた「一般市民が課題について主体的に考え、多様な知識層の発言が継続的に可視化される言論空間」に向けた取り組みの一環として進められたものである。
そうした議論発信に向けた制度や仕組みづくりでは一定の前進が見られたものの、ウェブサイトの機能改善やコンテンツネットワークの活用、外部識者の協力も得た計画的な議論の展開や参加者層の拡大など、多くの課題が残されている。
令和8年度は、整備した基盤を活用しながら、議論の発信や市民参加と知識層の発言を結び付ける新たな言論プラットフォームの形成に取り組むことが求められる。
言論フォーラムや勉強会の開催と言論環境の活性化

言論NPOは、社会が直面する重要課題について、多様な立場の専門家や有識者が議論し、その内容を広く社会に発信することで、市民が課題を主体的に考えるための環境づくりに取り組んできた。
令和7年度は、安全保障、国際秩序、米中関係、日中関係、民主主義、エネルギー、AIなど、日本と世界が直面する重要課題をテーマに、「言論フォーラム」を18回開催した。フォーラムには延べ67人の専門家や有識者が登壇し、延べ485人が参加(オンラインを含む)した。また基幹会員を対象とした中国勉強会や国際課題勉強会も継続して開催し、より専門的な議論の機会を提供した。
特に本年度は、トランプ政権の政策変化、国際秩序の変容、日中関係、民主主義の課題など、社会的関心の高いテーマを積極的に取り上げた。様々な立場の専門家と率直に意見を交換できるこれらの勉強会も、令和7年度は8回開催し、133人のメンバーが出席している。これらの勉強会は会員がそれぞれ運営委員を務め議論を企画するもので、会員間の自発的な議論の場としても設計されている。
こうした取り組みは、社会的な分断や情報の断片化が進む中で、専門家の発言を社会に届けるという点で、一定の役割を果たすものとなったが、これらの議論が広範な市民層に届き、社会全体の議論を活性化させるという、本格的な取り組みには至らなかった。
フォーラム参加者の多くは既存の関係者や関心層が中心であり、若い世代や新たな参加者層への広がりは限定的であった。
今後は、フォーラムや勉強会を単なるイベントとして終わらせるのではなく、その成果を記事や動画、解説コンテンツなどを通じて継続的に発信し、より多くの市民が社会課題について考えるための資源として幅広く活用できるように取り組む必要がある。
また、客員編集委員や研究員との連携を強化しながら、これらのフォーラムや勉強会と言論NPOが計画的にウェブやSNSなどで行う議論を連携し、多くの市民が現状の世界や日本が直面する課題に主体的に参加できる機会を拡大することも求められる。

情報発信の強化とウェブサイト利用状況
令和7年度は、言論空間の再構築に向けた取り組みと並行して、ウェブサイトやSNSを活用した情報発信の強化に取り組んだ。
特に、言論NPOおよび代表・工藤泰志のX(旧Twitter)、インスタグラムなどのSNSを活用した発信を強化した結果、言論NPOの活動に関心を持つ新たな層との接点を広げることができた。その成果として、無料登録者数は、3月末時点で6,970人となり、前年度から1,162人増加した。これは、言論NPOが発信する国際秩序、民主主義、日中関係などの課題に対する関心の広がりを示すものであり、将来的な参加者や会員基盤の拡大につながる成果と評価できる。
ただ、ウェブサイトの訪問者数(UU)は259,420人に留まり、前年度の266,756人から微減した。また、ページ閲覧数(PV)についても471,417件となり、前年度の563,270件を下回る結果となった。
こうした減少の背景には、ウェブサイトの全面リニューアルによる影響があると考えられる。リニューアルに伴うサイト構造の変更や機能調整、検索流入の変化などにより、一時的にアクセス数が減少したものの、訪問者数は依然として高い水準を維持しており、言論NPOへの関心そのものが大きく低下したわけではない。
また、本年度は情報発信の量的拡大に一定の成果が見られた一方で、その発信が継続的な議論への参加や会員化に十分結び付いているとは言えなかった。無料登録者は増加しているものの、ウェブサイト利用者やSNSフォロワーが、言論フォーラムへの参加や会員登録につながる流れは十分には形成されていない。
今後は、単に情報を発信するだけではなく、ウェブサイト、SNS、フォーラム、会員制度を有機的に結び付け、利用者が段階的に言論活動へ参加できる仕組みを整備することが重要である。
また、リニューアルしたウェブサイトを活用しながら、多くの人が課題を理解し、議論に参加しやすいコンテンツや導線を強化していく必要がある。
令和7年度は、情報発信基盤の整備を進めた一年ともいえるが、言論NPOのコンテンツや取り組みへの関心を継続的な参加やコミュニティ形成につなげることができなかった。令和8年度は、情報発信と参加促進を一体的に進めることで、より実効性のある言論プラットフォームの構築を目指していく。

「DO-TANK」に向けた言論NPOの脱皮と組織改革
言論NPOは創設以来、対話と議論を通じて課題解決を目指すシンクタンクとして活動してきた。しかし、世界の分断と危機が深まる中で、単に議論や提言を行うだけではなく、日本から世界に向けて対話の場を創り出し、課題解決に向けた具体的な行動を担う組織へと発展する必要性が高まっている。
こうした問題意識の下、令和7年度は、言論NPOが目指す「DO-TANK」の姿を具体化し、その実現に必要な組織改革を進めるため、理事会とアドバイザリーボードの中核メンバーによる合同会議である「戦略構想会議」を設置した。
戦略構想会議では、今後の言論NPOが果たすべき役割や組織のあり方について議論を重ねた。その中で共有された認識は、世界秩序の不安定化が進む中で、日本から国際社会に向けて継続的に対話の場を提供し続けるためには、事業の拡大だけでなく、それを支える持続可能な組織基盤と財政基盤の確立が不可欠であるということであった。
また、「東京会議」や「アジア円卓会議」などの国際対話事業をさらに発展させるためには、世界の多くの知識層と連携すると同時に、より多くの企業や市民がその意義を共有し、活動を支える仕組みを構築する必要があるとの認識でも一致した。
その結果、従来の会員制度や支援の枠組みを見直し、「DO-TANK」としての活動を支える新たな組織基盤づくりに取り組む方針が確認された。
こうした議論を通じて、「DO-TANK」とは単なる組織改革のスローガンではなく、世界の課題解決に向けた対話の場を創出し、その成果を社会や国際社会へ還元するための実践的な組織モデルであることが明確になった。
令和7年度は、「DO-TANK」への転換に向けた議論と方向性の整理を進めた一年となった。今後は、この構想を具体的な制度や事業へと落とし込みながら、持続可能な組織運営の実現に向けて取り組みを進めていく必要がある。
(1)パートナー法人会員制度の創設と財政基盤の強化
「DO-TANK」としての活動を持続的に発展させるためには、安定した財政基盤の構築が不可欠である。この認識の下、令和7年度は新たなパートナー法人会員制度の創設に取り組んだ。
「戦略構想会議」における議論では、言論NPOが目指す多国間主義や法の支配に基づく国際秩序の維持、さらには世界的な課題解決に向けた対話の場づくりは、企業にとっても持続可能な経営環境の実現に直結する重要な課題であるとの認識が共有された。そのため、こうした活動を支える新たなパートナーシップの仕組みとして、企業との連携を強化するパートナー法人会員制度を整備した。
新制度では、企業が単なる支援者としてではなく、世界の課題や国際秩序を巡る議論に参加し、知見を共有できる関係を構築することを目指した。その一環として、グローバルな人的ネットワークへの参加機会や、世界的課題をテーマとしたラウンドテーブル、各種ブリーフィングなどを提供する仕組みを設計した。
令和8年度からの制度開始に向けて企業への説明や働きかけを進めた結果、パートナー法人会員15社、「東京会議」支援法人会員2社、「東京-北京フォーラム」支援法人会員2社が参加する見通しとなった。新規参加企業は13社に達し、言論NPOの活動を支える新たな支援基盤を形成することができた。
この成果は、単なる会員数の増加にとどまらない。これまで言論NPOが進めてきた国際対話や課題解決に向けた活動に対して、企業社会から一定の理解と支持を得ることができたことを意味しており、「DO-TANK」への転換に向けた重要な前進と評価できる。
ただ、制度の創設はあくまでも出発点である。今後は、参加企業との関係を深化させ、対話や情報共有を通じて制度の価値を高めていくことが求められる。また、企業からの支援拡大と同時に、言論NPOの公益性や独立性、中立性を維持しながら、世界のシンクタンクや知識層との連携を維持・発展させながら活動を運営していくことも重要な課題となる。
令和7年度は、新たな法人会員制度の創設とその立ち上げ準備を通じて、「DO-TANK」を支える財政基盤強化に大きな道筋をつけることができた一年だが、それをもとに持続性を持った「DO-TANK」をどのように設計、運営するかが、これからの課題となる。
(2)個人会員基盤の強化と課題
言論NPOは、社会に開かれた市民の参加によって支えられる独立した言論プラットフォームを目指しており、個人会員はそのガバナンスと活動を支える中核的な存在である。
言論NPOの個人会員は、組織を構成する基幹会員(メンバー)と一般会員、学生会員で構成される。メンバーはこの国の言論活動や政策議論に関心を持つ、国や民間企業、学識経験者、ジャーナリストなどが個人の資格で参加しているが、創業時からのメンバーが多く、高齢化が進んでいる。ただ、令和7年度は、新しい法人会員制度の創設に優先的に取りくみ、本格的な取り組みが遅れている。
ただ、基幹会員向けの活動として、中国勉強会と国際課題の勉強会を8回開催し、133人が参加した(※勉強会のテーマ・講師などは15ページを参照)。これらの活動は、会員が国際情勢や政策課題について理解を深める機会となるとともに、言論NPOの活動を支えるコミュニティの維持に一定の役割を果たした。さらに、新たな基幹会員がこれらの勉強会の運営委員になるなど、組織内での新陳代謝も徐々に進み始めている。
令和7年度は、ウェブサイトのリニューアルやSNSを活用した情報発信の強化により、新たな支持層の拡大に取り組んだ。その結果、無料登録者数は6,970人となり、前年度から1,162人増加した。これは、言論NPOの活動に関心を持つ人々との接点が着実に広がっていることを示している。
言論NPOが持続可能な「DO-TANK」として発展していくためには、企業からの支援だけでなく、日本の各分野で言論NPOの使命を共有する幅広い知識層や個人の参加と支援によって支えられる組織基盤の再構築と世代交代が今後の重要課題である。
言論NPOの取り組みには会員ではない寄付者やコンテンツ面の協力者も多いが、今後は、これからの言論NPOの活動を担う個人メンバーの拡大を目標として設定して意識的に取り組むほか、無料登録者、フォーラム参加者、SNS利用者などとの接点を活かしながら、言論NPOの活動に継続的に関わる人々を増やしていく必要がある。
令和8年度は、新たな法人会員制度の本格運用と当事者意識を持つ個人会員基盤の再構築を進めるとともに、国際対話事業、言論空間の再構築、知識層の協力と議論参加者の拡大を一体的に推進することで、「DO-TANK」としての機能を一段と強化していくことが求められる。
むすび


