鳩山政権の半年をどう見るか
鳩山政権の半年をどう見るか
聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 監事)
田中: 工藤さん、こんにちは。鳩山政権が誕生してから半年が経ちましたが、今の状況をどう見ていらっしゃいますか。
工藤: もともと鳩山政権には、国民との約束を軸にして、それをどうやって実行していくのかということが問われたわけです。それは、何が何でもマニフェストを守らなければいけないという意味ではなく、できない場合は「できない」ということをきちんと言わないといけない。にもかかわらず、予算編成でマニフェストをそのままやることができないということが明らかになったにも関わらず、それに対する説明を聞いたことがない。国民に向かい合う政治とは国民に対する説明責任が伴う政治です。それが全くできていない。
田中: つまりそれは、何を目標にしていて、何をどこまでできたのかという説明ですか。
工藤: 事実上、マニフェストは修正されたわけです。それだけではなく、今回の予算編成ではっきりしたのは、マニフェストをそのままのかたちで実現することはもう不可能になったということです。このマニフェストを実現しようとなると、膨大な財源が必要になりますが、その財源の捻出ができない。今年はなんとか予算を組みましたが、マニフェストをそのまま行うとなると、毎年膨大な財源が必要になる。子ども手当も来年は満額の支給となるし、そのほかにも支出が増えます。そうなると国債をさらに増やすか、増税を行わないと、予算を組むことは難しくなるわけです。いずれにしてもマニフェストをそのまま実行することは難しい。となると、国民に約束の履行に関して説明する、今はまさにそのタイミングにあるのです。しかしメディア報道だけを見ていると、あたかもマニフェストがそのまま実現に向かって動いているかのように説明されている。こういうごまかしをして政治を進めるのでは、約束に基づいて政治を行っているとは言えません。
田中: 私たちが昨年の選挙の際にマニフェストを評価したときにも、実現可能性に問題があるという結論を出していました。実際に予算を編成してみて、政府自身が、難しいということに気づいていると。そして、マニフェストの修正が実際に行われているのだけれども、その説明がなされていないということですね。
工藤: そうです。だから、今度の参議院選挙までに約束を見直して、もう一度、国民に信を問う必要がある。私たちが昨年の選挙で27点というとても低い数字を付けたのは、マニフェストが準備不足であり、党内で政策形成のガバナンスがきちんと機能していなくて、政策の体系化ができていなかったから。だから、混乱に陥るのはわかっていました。にもかかわらず、政策目的も説明できないままに、様々なばらまき的な政策が組まれた。その財源は無駄の削減で捻出できると説明していたのに、その捻出ができなかったわけですから、あのマニフェストが行き詰まったと見てもいいわけです。だから、マニフェストを見直すのか、国債を発行してでもやるのか、それとも増税するのかをはっきりさせないといけない。もうそういう局面に来ていると思います。
鳩山政権は、政策をつくるということが本当に大変なのだということに、政権に入って気づいたと思います。だから百歩譲れば、今はまさに政権運営をしながら、自分たちのマニフェストをきちんと現実的なものにしていくというプロセスだとも考えられます。ですから、やはり今度の選挙では今のマニフェストを見直して、国民にもう1回信を問う、ということをやってくれないと。この国の政治を古い政治から、約束を軸にした新しい政治に変えたいという、国民の期待を裏切ってしまうような状況にあるような気がしています。
田中: マニフェストを大幅に修正できるチャンスは、次の選挙だとおっしゃっているのですね。
工藤: それまでに用意をしないと。約束を軸とした政治自体が行き詰まってしまう。もうひとつ、半年間の鳩山政権を見ていて感じるのが、政策決定のプロセスに違和感があるということです。
田中: 政策決定プロセスに問題があるとおっしゃいましたが、もう少し詳しく説明していただけますか。
工藤: マニフェスト政治というのは、国民にきちんと約束をして、それを政府が責任を持って実行するというプロセスなのです。だからマニフェストそのものを実行したかどうかというよりも、それを実現するというプロセスを政府が責任を持ってやって、そのプロセスをオープンなかたちで開示して、国民に開かれたものにしていくことが重要なのです。その中で約束が実現できなくなった場合は、国民にきちんと説明しなければいけません。あくまでも、国民が主体なのです。
しかし、この半年間を見ていると政府がそれに責任を持って取り組んだのか、疑問です。それができず最終的には党の意向でその最終決定がなされるということが、予算編成でもありました。つまり幹事長室が最終的に要望を集約して、それによってガソリン税などの暫定税率を残した。これにはやはり違和感を覚えます。党の要望が国民の声だというのなら、それをもっとオープンにして、どういう声があったのか、明らかにしてくれないといけません。にもかかわらず、予算委員会で鳩山首相は「私は暫定税率を廃止したかったが、こういう国民の声があったから維持した」みたいなことを話している。それは党の声なのに、「国民の声だ」と言う神経に驚くわけです。仮に政府がそれをできないということであれば、政府の責任で「やめます」と言い、そして「こういう事情です」という理由を国民に説明しなければいけない。
それから、予算編成の前に公共事業の箇所付けの資料が流れてしまうということがありました。国民に開かれた政治を目指すと言いながら、実際には利害誘導型で、昔の古い党の体質のようなものが見えてしまうわけです。そうなると国民に開かれた新しい政治を期待した国民は「どうなっているんだ」と思ってしまいます。民主党の政治も自民党と同じく古い政治なのだとしたら、そういう政治を期待したわけではないからです。
新しい政治とは、国民に開かれた、国民に向かい合った約束に基づく政治であるべきなのです。私たちがマニフェスト型の政治にこだわるのはそのためです。そう考えれば、マニフェストをつくり直すしかない。いっぽうで、その約束を実現するための政策決定のプロセスを、国民に見えるかたちで、政治主導でやるというしくみに対しても責任を持っていただきたい。
その2つが、半年を迎えた鳩山政権に突きつけられている課題だと思うのです。これを乗り切ってくれないと、鳩山政権がどうだというよりも、新しい政治を期待した国民の声や期待を、台なしにしてしまう。僕たちはそれを非常に危惧しています。
田中: わかりました。ありがとうございます。何よりも、政策決定プロセスの透明性、そして私たちに開かれているということが重要だとおっしゃっているのですね。それから、マニフェストを守り続けるというよりは、修正のプロセスがあるということも、私たちは理解しないといけないわけですね。
工藤: そうですね。その代わり、そこでは国民に対する説明が問われるということです。あくまでも国民との約束ですから。できなかったら国民に説明する。最後は必ず国民だという姿勢を貫いてくれないと、マニフェスト型の新しい政治に、今の政権がこだわっているとは思えなくなってしまう。今はそういう重要な局面だと思います。
田中: ありがとうございました。
(文章は、動画の内容を一部編集したものです。)
鳩山政権の半年をどう見るか 聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 監事) |
2010年3月18日 22:46
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