「日本の社会保障、本当に持続可能なのですか」
-ON THE WAY ジャーナル 2010.11.24 放送分
放送第8回目の「工藤泰志 言論のNPO」は、日本総研調査部主任研究員の西沢和彦さんをお迎えし、日本の社会保障について考えました。
ラジオ放送の詳細は、こちらをご覧ください。
「ON THE WAY ジャーナル
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「日本の社会保障、本当に持続可能なのですか」
工藤: おはようございます。ON THE WAY ジャーナル水曜日、言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが自分たちの視点で世の中を語るON THE WAY ジャーナル。毎週水曜日は私、言論NPO代表の工藤泰志が担当します。
はやいものでもう、11月も終わりです。東京は銀杏が非常にまぶしい季節になっていますけれど、皆さんのところでは紅葉はまだ見られるのでしょうか。さて、今日はスタジオにゲストをお招きしました。日本総研調査部主任研究員の西沢和彦さんです。西沢さんは僕たち言論NPOのマニフェストの評価で、社会保障の分野を担当してもらっているんですね。西沢さん、今日はよろしくお願いします。
西沢: よろしくお願いします。
工藤: というわけで、今日は西沢さんをお迎えして議論をしたいと思います。今日のテーマは、「日本の社会保障、本当に持続可能なのですか」です。実を言うとこれは、2週間前にですね、私は、必ず社会保障の話題を議論しますと皆さんに約束しました。
それで今日は最強のサポーターを呼んで、議論することになったのですが、今、僕たちが日本の未来を考えるときに一番考えなければならないことは2つあるとそのときも言いました。1つはこのままでは日本の財政破綻の可能性が出てきているということ、もう1つは日本の超高齢化、それから人口減少という問題を真剣に考えなければならないのではないかと。にもかかわらず、政府なり政治が、この問題に対する対応を非常に中途半端にしている、怠慢だなと思うところがあるのですね。ということで、今日はこの問題を中心に考えたいと思っています。社会保障といっても医療の問題、年金の問題、それに介護など、そういう問題が全部あって、これはほとんどが、今の現役世代の人たちがとくに高齢者のサービスを負担するお金を出しているという支え合いの構造でやっているのですね。そうなってくると、人口が減少してお年寄りが増えてくると、このモデルは非常に難しくなってくると、そのほころびがかなり出てきているんですね。この前、政権交代が行われたときに、この年金・社会保障問題というのはとても大きなテーマでした。民主党はまさにこれを抜本的に変えなくてはいけないということをおっしゃっていました。にもかかわらず、政権交代をしたこの1年あまりを見ますと、年金改革とか社会保障の話が急になくなってしまったような気がするのですが、西沢さん、このあたりはどのようにごらんになっていますか。
西沢: そうですね。この社会保障の話というのは、限られたパイの中で誰からお金を取って誰に与えるかという話ですね。パイが増えない以上、誰から取るかということを、きちんと取られる人に説得しなければならないわけです。これは非常に骨の折れる話であって、政治的にそれは避けたいのでしょうね。政権与党になっている以上は。ですから議論が非常に停滞しているのだと思います。
工藤: ただ、政治というのは、やはりいまの政策のアジェンダ、課題から逃げられないわけですから、政治がそれを怠っているということは、実際の状況は非常に悪化していくと思うんですね。今、年金とか医療とか、この社会保障の現状は、簡単に言うとどのように悪化しているのでしょうか。
西沢: 超少子高齢化と雇用の流動化・多様化、非正規の増大などが社会保障を直撃しているわけです。というのも、現役の所得の一部を高齢者の医療や年金に移転しているわけであって、その現役が少子高齢化で減っている。そして、現役の雇用自体が、大卒の内定率が非常に低いというのもありましたけれども、悪化しているわけで、現役から所得の一部を高齢者に移転するというシステムは、非常に機能しにくくなっているというところです。
工藤: すると、その中でさまざまな制度や仕組みが壊れ始めているのが見えてくると。実は2004年のときも、僕も西沢さんとずっといっしょにマニフェスト評価をやっていたのですが、年金の改革があったんですよね。このままだったら年金制度というものが破綻していくのではないかと。当時、国民年金の未納も増えていましたし、そういう形で制度に対する信頼も失われていたと。それで何とか100年もたせようということで、給付は抑制し、保険料は上げていくということを決めましたよね。なんだか値上げのほうだけは動いたのですが、そのあと経済も悪くなったからかわからないのですが、給付の抑制がほとんど利いていないという状況で、あの2004年の改革はちゃんと機能していないような感じがするのですが、どんな状況なのでしょうか。
西沢: 機能していないです。柱は3つあって、工藤さんの言われた給付の抑制と保険料の引き上げ、そしてもう一つが基礎年金という全国共通の年金の国庫負担の引き上げ、これは毎年2兆5千億かかるのですが、この財源の目処が立っていない。ですから、3本柱のうち2つができていないわけです。
工藤: まさに基礎年金の2分の1というのは、本当は自公政権が続いていたら、来年から消費税が上がって、2兆5千億が入るという話になっていたわけです。
西沢: そうです。
工藤: それがないということになれば、そのお金はどこから・・・、2分の1はやるわけですよね。
西沢: 2分の1は、いますでに、2009年、2010年とやっているわけですけれど、いわゆる埋蔵金から捻出しました。来年以降は目処がたっていないわけでして、来年、基礎年金を配るお金の一部はもう目処が立っていないような状況なのです。もう11月が終わろうとしている中で。
工藤: ということは、いま言っていた自公政権時代に年金は100年安心だと言っていたのですね。それが今はその3つのうちの2つが機能していないと。それはどういうことかというと、100年間の財政のバランスなのですね。入りと支出。で、それがつまりうまくいっていないということで。
西沢: うまくいっていない。
工藤: しかし今のお年寄りに対する年金の給付はしっかり守られているわけですから、その資金源は将来の若い世代とか、これからの人たちにどんどんしわ寄せがいっていると、そういう状況ということですね。
西沢: はい、そうです。給付水準はむしろ上がってしまっていて、本来、将来の世代が使える今の積立金を先食いしてしまっているわけです。しかし政治はそれをきちんと問題として認識していない。与党も、それを作った野党も、問題提起すらされていないと。そういった問題が放置されてしまっている。これは非常に専門的ではあるのですが、こういった状況が続いているというのは国民も皮膚感覚でわかっていると思うのですよ。問題があるのに、政治が認識、問題提起すらできていない。それが、社会保障、将来に対する不安の根底にあるのではないですかね。
工藤: そうですね。年金の若者層も含めて、さっき雇用の流動化の話もあったのですが、未納がやっぱり多いですよね。4割くらいありませんか。
西沢: そうですね。まあ、国民年金は2200万人ですかね。第一号被保険者というのですが、この納付率が6割を切りました。
工藤: ということは、半分近くの人から信頼されていないと、そういう状況があるわけですね。
西沢: ありますし、また、制度的に、所得にかかわらず一定額の保険料負担なので払いにくいということがありますね。これは直さなければならない、とずっと前から言われているのですが、ここも全く手つかずです。
工藤: 一番問題なのは民主党政権になって、自公政権のときにそれはおかしいと言っていたことが、どんどん悪化しているまま放任されているということはよくないですよね。
西沢: 全くよくないですね。
工藤: 年金財政という、その再試算というのはやっているのですが、次は2014年ですよね。13年でしたっけ。
西沢: 2014年です。
工藤: すると、菅政権の終わった翌年じゃないですか。終わったというか、任期の後ですよね。ということは、この政権中に、今、行われている年金制度の問題点を国民にきちんと説明してね、それに対してどうするかというチャンスがないわけですよね。もし2014年にやるとすれば。それはおかしいと思いませんか。
西沢: そうですね。民主党が政権につく前は、「ミスター年金」という長妻昭さんとか山井和則さんが、2009年の2月に出された自公政権のときの年金の将来像の姿、数字がおかしいと、楽観的すぎると、強く批判していたわけですね。彼らが政権について大臣、政務官になって、もっと保守的な姿で将来像を示す、チャンスがめぐってきたわけです。
工藤: もっと積極的にやるんじゃないかと思いましたよね。
西沢: それなのに何にもしないと。
工藤: どうしてしないのですかね。怖くなっちゃったんですかね。
西沢: そう。おそらく、保守的な経済前提や人口の前提で年金の将来像を示すと、今よりも悲惨な姿が現れるわけです。とくに高齢者にとって。そうすると彼らは手を打たなければいけない。手を打つということは、高齢者に年金の一部を我慢してもらう、増税をするということにつながりますから、それをするまでの勇気、責任感、義務感というものがなかったのでしょうね。
工藤: 菅政権は強い社会保障をしようということで、こういう問題を解決しようという意識を言ったのですが、ほとんど手はつけられない。それで口をつぐんでしまった。一方で自公の人たちも、自分たちで作っていた100年プランが、今うまくいっていないと言うことを認めないとだめですよね。ただ民主党を批判するだけでなくて。だから政治が、今やっていることがおかしいのだと、これを認めないとすべてのドラマが始まらないのですが、そういう議論は国会ではありますか。
西沢: まったくないですね。自公政権でつくった年金プランというのは、政治家がつくったわけではありません。厚生労働官僚が、給付抑制で負担増であることを国民にも政治家にもわからないように仕組んだわけであって、それを100年安心というオブラートに包んできわけですよね。ですから政治家自身がつくった案ではなく、たぶん多くの方は理解していないと思います。
工藤: ただこのままいったら若い世代にどんどんつけを飛ばして、自分たちだけが良ければという雰囲気になってしまいますよね。
西沢: ですから、官僚も、与党や野党の政治家にこういった問題点があるということをきちんと言わないといけないですね。
工藤: いまの安心プランというのは破綻していると、だから抜本的に変えないとだめだということですよね。さっき言った、今の社会保障の全ての制度が、現役世代が高齢者を支えるという構造になっていて、どんどん高齢者が増えていくわけですから、理論的に難しいですよね。人口の推計を見ていると、何十年後には1対1で支えると、今は3人で1人を支えている。昔は10人とか7人くらいで1人を支えていたのが、いまは3人で1人だと。1対1で支えるという構図は、誰でも無理だと思うじゃないですか。それがわかっているのに、今の状況を認めないだけではなくて、抜本的な手を打たないということになると、この国の未来はかなり厳しい事態になると思うのですが、これはどういうふうに考えていけばいいのでしょうか。
西沢: そうですね。いま年金の話をしましたけれど・・・
工藤: 医療もみんなそうですよね。
西沢: 医療もそうです。例えば後期高齢者医療制度、国もやりたくない、都道府県もやりたくない、市町村もやりたくない、みんな財政的な負担になることを恐れて、やりたくないということを各所で繰り広げているわけです。
工藤: 抜本的な解決が無理なので税金を投入し、一方でとれる現役世代からお金をつないで、なんとか応急措置でやってきたわけです。介護も、医療もすべて。それがいずれだめになりますけれど、だましだましでやっている状況じゃないですか。それで今度、税金投入で日本の財政破綻のほうにつながっていって社会保障のゾーンの1.3兆円の自然増は、いまそれを止めようというよりも、放任しているから、どんどん国債が増えていく。悪のスパイラルというかね、大変な事態だと思うのですが。これは抜本的に変えなければならないという局面にきているでしょ。
西沢: そうです。健康保険も年金も1980年代の初めくらいからですからね、だましだまし対処してきたわけです。既存の制度を変えずに、ちょっとずつお金を融通してきたりしながら。それがいよいよ限界に来ていると思いますね。ですから1つの主義主張、プリンシプルのもとに、新たに制度を作り直すと、国民の誰がみてもわかりやすい制度をつくって、そのうえできちんと負担増を求めるということにしていきませんと、だましだましをいつまで続けていくのかということになります。
工藤: 非常に良くないのは、こういう時代状況のときは政治ができないことを約束するのですね。給付は守ります、保険料は上げませんと、それは僕たち有権者にとっては非常に居心地が良くて、聞きやすいのですが、それはつじつまがあいませんよね。やっぱりサービスが増えると負担は誰かがしなければならない。その当たり前の現実が、かなり巨大な額になってしまおうとしているという状況なので、これは有権者も、事の重要性を考えなければならないという局面にきたといえないでしょうか。
西沢: だいぶ前に来ていると思います。
工藤: だいぶ前・・・。もう手遅れですか・
西沢: うーん、次、選挙があるときがラストチャンスととらえた方がいいですね。そのときに政権与党は具体的な時間軸、負担増の幅をきちんと提示して、国民に受け入れてもらいながら選挙をしないと、結局その選挙のときに、みんなハッピーです、みんな幸せです、負担もないですよと甘いことを言って選挙に突入したら、もう終わりかもしれないですよね。
工藤: 終わりということはどうなっていくのですかね。つまり、まずは財政の破綻が始まるということですね。社会保障関係のお金がない。
西沢: 急激には年金は破綻しません。積立金が数年分ありますので。ただしそれは後の世代が使うべきお金であって、それを先に使ってしまうと。後の世代の負担が急激に増えるか、あとの世代の年金支給者の年金が急激に減るか、ある時点で急激な下落なり負担増が起こるということです。
工藤: そういうふうなお金がないとなれば、その使い方を考えなければだめですよね。本当に困っている人に出すとか。医療でも何でも本当に必要な人とか。そういうことを調整して決めるということが、まさに政治の役割ですよね。
西沢: 誰が困っているかということは、科学というよりも、主観的な問題ですから、それをまさに政治が考えて言葉でしゃべるべきことですが、全然語らない。誰が困っているかを政府がとらえるというのは、例えば納税者番号制度ですとか、行政インフラがしっかりしていないと誰が困っているかわからない。でもその行政インフラを整える議論もなかなか進んでいないわけですね。
工藤: これはかなり、政治の役割が今問われてきていますね。決定的に問題なのは若い世代ですよね。これからの日本を背負う人たちの老後がまったく見えない、つまり未来が見えない状況になっちゃいますよね。そうしたら今度はそういう人たちが反発しますよね。
西沢: します。反発するか、反発する気力もなく、心の中に不安だけを抱え続けていくのか。
工藤: でも今でもフリーターなど、若い人たちがきちんと収入を得ることが難しいと。非常に社会が不安定になるという状況ですよね。そういう状況は何としても回避しなくてはいけないので、やはり政治的にそれを直す時期にきたのだなと思います。今日、西沢さんのお話を聞いて、次の選挙が最後だと、僕は鳥肌が立ちました。今まで僕たちも何回も言ってきたんですよ。だけど、僕たちの言う側の方がね、何回も言っているからといって慣れてくるんでですね。だけど、もういま決めないとだめな局面まできていると。ただこれは決められるのですよ。僕たちが、有権者がこういうことをちゃんと考えなければいけないのだと考えれば、流れを変えられると僕は思います。だから次の選挙は、いつあるかわかりませんけど政治は間違いなく、年金や医療など社会保障に関するプランを出してくれないといけないし、今の制度がここまで崩れている、これは大きな問題があるんだということをまずは認めてくれないと。それから国民に選択肢を出してもらいたい。有権者側はそれに関してはきちんと見て、どの政治家が、政党が本当のことを言っているかどうか、を考える、そういうふうな段階にきたのだと思います。
ということで、時間になりました。今日は、僕がずっと喉に魚の骨が刺さったように気になっていた社会保障の問題を、ぜひみなさんに考えてもらいたいと思って、僕の最強のパートナーである西沢さんをお呼びしました。西沢さん今日はありがとうございました。
西沢: ありがとうございました。
工藤: 今日は日本の社会保障制度について考えてみました。意見があったらどんどん寄せて頂きたいと思います。今日はどうもありがとうございます。
(文章・動画は放送内容を一部編集したものです。)
【 前編 】
【後編】
2010年11月24日 14:06
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