日本の政治が課題に向かいあい、解決を競い合うためのスタートに
日本の政治が課題に向かいあい、 聞き手:田中弥生氏 (言論NPO理事) ※テキスト部分は、一部加筆しています。
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田中:工藤さん、こんばんは。
工藤:こんばんは。
田中:昨日選挙の結果が確定しまして、自民党の大勝ということだったのですが、工藤さん、この結果どのようにご覧になっていますか。
消極的な支持を本当の支持に変えるには何が必要か
工藤:ここまで非常に大きな、地滑り的な変化になるとは私も想定はしていませんでした。小選挙区制による民意が、こういう形の選挙結果にするという点では、選挙制度の問題について、非常に考えさせられました。ただ、答えからいうと、基本的に今回の民意は民主党の政治を否定したということの一点に尽きるわけですね。
その結果、自民党を消極的に選んだ。つまり、自民党の政策なり、自民党が課題解決のために示したで色んな提案に対して支持を得たわけではない。このことは自民党の候補者、当選した政治家が恐らく一番気づいているのだと思います。テレビで、自民党の候補者が、今回は民主党が否定された結果、我々が選ばれた。それを自分たちの本当の支持に変えないといけない、ということを言っています。そういう点では今回は民主党という政党が否定され、結果として自民党が政権を持つチャンスを得た、ということだと思います。だからこれからが大変だと私は思っています。
田中:確かに、おっしゃる通りではないかと思われるのは、言論NPOが短い時間で有識者アンケートを行って、その結果が出ていますが、特に今回の選挙結果について不安を感じていると回答されている方が、けっこういらっしゃいますよね。
工藤:そうですよね。「心配な結果だ」という人が42.6%いました。
田中:どうしてこのように感じているのでしょうか。
工藤:たぶん、勝ちすぎているということですよね。
しかも、選挙戦での安倍総裁の発言が、憲法改正も含めてかなり勇ましい発言になっていました。昔、鳩山さんも逆の意味で(普天間の基地の県外移転という)マニフェストに書かれていないことを発言して、それがある意味で首相の行動を縛ってしまうのですが、今回の安倍さんの総理候補としての発言に、大丈夫かという心配がある。つまり今回、民主党を否定したのですが、自民党の少なくとも安倍さんが言っていることについて、全面的に白紙委任したわけではないということが、この結果の原因ではないかと思います。「あなたは今回の選挙で自民党の政策を支持していますか」ということを尋ねると、「支持していない」とか、「どちらかというと支持していない」という回答が合わせて6割あります。自民党は今後、公約をベースにしながら、国民に対して何を実現するのか、ということを改めて説明して、有権者に向かい合うという必要があると思います。
田中:おっしゃる通りで、民主党の大敗の理由、否定の理由というのは、国民に向かい合わなかったからだと工藤さんが前におっしゃっていたと思います。もし自民党が同じように国民に向かい合うことができなければ、また同じようなことが繰り返されるということでしょうか。
機能している民意の判断
工藤:そうですね、私たちは選挙公約や政策実行の評価を何回もやっていて、今回の民主党政権以降は3回やったのですが、はっきりわかったことが2つありました。1つは、政治は日本が抱えている課題からは逃げられない、ということです。そのため政党は自分がやりたいことをいうのではなくて、国民が直面している課題に対して答えを出さなければいけないのです。
もう1つは、国民に向かい合う政治を行わないと有権者の信頼を失うと言うことです。まさに前の民主党政権はその典型で、しかも政党としてのガバナンスが壊れ、党内対立から政策に対する合意を形成できず、ある意味で党が壊れているのに、選挙の時期をただ延ばしていくような状況が有権者に見えてしまうと今回のように解党的な大敗になってしまうわけです。
そう考えると、今回、選挙で問われたのは政策よりも政党のガバナンスそのもの、だったのではないか、と思います。民主党はその点で完全に否定され、第三極も準備不足で、しかも党内のガバナンスが急ごしらえで固まっていない。自民党がその中で一番安定しているように見えたわけです。
つまり、問われたのは政党そのものであり、それが民意だったと私は考えています。
それは日本の政党政治が信頼を失い始めている、ということなのです。しかも、自民党の政策そのものが支持を得ていない、ということが問題なのです。自民党が課題に対して答えを出し、それに対して仕事をし、一方で国民に向かい合うということをやらなければ、今度はその批判が自民党に向かうと思いますね。
田中:なるほど。民意は反映されていたのですね。
工藤:民意は結果として理性的です。ただ、日本の現状を考えれば政党のガバナンスが問われるだけで済む状況ではない。だから、一方で投票率が戦後最低になったのは、今回、投票する政党がない、だから投票できなかった。それも、もう1つの民意なのです。
つまり、民主党を否定したけれども、ではどうすればいいかということに関して、有権者は今の政党のメッセージだけでは納得できていないわけですね。そういう問題も合わせて考えなくてはいけないと思っているわけです。
田中:なるほど。それでは自民党政権に対して、有権者として私たちは何を注意してみていったら良いのでしょうか。
候補者アンケート結果からわかる各候補の課題認識
工藤:今回、衆院選の立候補者にアンケートを行って789人、つまり、半分以上の人から回答をもらいました。自民党の人たちも回答しているのですが、多くの候補者が日本の課題についてみんな認識しているということなのです。つまり、課題を認識しているけれども具体的なプランや方向を、国民にまだ示し切れていないという状況があります。
これは自民党も同じです。現状認識についてはなされていました。それに対する当面の解決は、ある程度出されているのですが、抜本的な解決のためのプランはやはり出ていない。それは恐らく党内の支持基盤の問題とか色んな問題からできないのだと思います。今回、自民党は公明党と連立するのだと思いますが、この課題解決に進まなくてはなりません。その中で国民にちゃんと説明しながら進んでいくことが必要だと思います。だけど、進めば進むほど、どこかで壁にぶつかって、本当の意味で国民に選択を仰がなくてはいけない。そういう局面がそう遠くない時期に来てしまうと私は思っています。
例えば、候補者アンケートを見てほしいのですが、このままでは社会保障の制度は恐らく破綻する、それから財政再建は非常に難しい、という認識を持っている人たちが自民党の中にもたくさんいるわけですね。
つまり、そうした現状を認識しながら、それに対して具体的なプランが出されていない、という状況なのです。
だから、今回、自民党は大勝しましたが、本当に日本の課題を解決できるかは、これからなのです。
田中:なるほど。そして、私たちにきちんと説明するということですね。
工藤:そうです。つまり、今回の選挙は結果ではなくて、スタートなのです。やはり、国民に向かい合う政治がこれから問われなければいけないし、日本の課題解決に向かって日本の政党政治が動かない限り、日本の政党政治そのものが国民の支持を失うという段階にきているわけですね。
田中:今、日本の政党政治と言われましたが、二大政党制を目指してこれまで色々な政治改革が行われてきました。今のところ、とてもその状態を維持しているとは言えませんが、この点についてはどのように考えていますか。
課題に向けた競争が行われるためにも、政党政治の建て直しは急務
工藤:私たちのアンケートにもあったのですが、自民党と民主党、これからの日本の政治を考えた場合、「民主党が立ち直って2大政党になる」と思っている人は、たったの7.9%しかいないわけです。つまり、今まで二大政党をベースにした競争を行っていたのですが、今回の民主党の完全な失敗で、非常に深い傷を負ったという状況です。
民主党は、なぜ国民から否定されたのか、真剣に考えないと再出発できない、と思います。
一方で、第三極というものもそれに代わる大きな民意の受け皿になれなかった。これも今回の選挙結果のもう1つの特徴です。
まだ党首で持っているだけで、政党としてあまりにも準備不足です。
国民の不安に迎合し、ポピュリズム的な風潮に乗って勇ましい発言をすることが、政党の役割だと私は考えていません。
こういう政党政治の在り方を我々はどう考えていけば良いのか、ということも有権者に突き付けられた課題なわけですね。
今回準備不足もあったと思いますが、民主党やその他、第三極と言われている政党も、党のガバナンスをきちんと立て直して、それから国民にきちんと向かい合うというような政党を作っていかなければいけないと思います。
また、課題に向けた政党間の競争がきちん行われるという状況を僕たち有権者は求めているわけですから、自民党が大勝したから問題が解決したわけではありません。
日本の政党が変わらなければ、もう有権者は選ぶ政党がない、ということになります。
田中:選択肢がなくなるということですね。
有権者が強くなり、政治を自分の問題としてとらえることこそ重要
工藤:そうです。私が注目したのは、アンケートで、「これからの日本の政治はどうなっていくのか」と日本の有識者に聞いてみました。すると、38.4%が「当面は自民党や自民党中心の連立政権が長期化する」と見ています。
今の日本の政党を考えると、相対的に安定しているのは自民党しかない、という判断です。民主党との二大政党の復活を期待するする人はごくわずかです。
しかし、課題解決を1つの政党にだけ任せることはできず、選択肢が必要です。こういう状況は日本の政党政治の1つの危機だと私は思います。
私がむしろ気になったのは、それに並ぶように37.1%が「大衆迎合的なポピュリズム政治が一般化して、政治が日本の課題解決に機能せず、この国が完全に衰退の危機に向かう」と回答していることです。それから「政党政治が国民から支持を失う」など、非常にネガティブに考える人がいるわけです。
これは何を言っているのか。この選挙を経た今も、日本の民主主義が問われている、ということなのです。
この状況を変えるのは有権者しかないのです。
今回、「私たちは政治家に白紙委任はしない」ということへの賛同を求めましたが、やはりそういうふうに有権者が強くならないと、今回の大きな変化を次につなげるということにはならないのだと思います。そういう意味では今回の選挙は、まさにこれから続きがあるわけです。つまり、ドラマはこれから本番に向かっていくわけですね。そういう政治を有権者がきちんと自分の問題として考えていかないと、大変なことになってしまうと私は思っています。
田中:最後に一言、言論NPOは今後どうするのでしょうか。
工藤:私たちは政治に白紙委任しない、というこの立場を貫くために、有権者が考えるための様々な議論と発言の舞台を用意して、絶えず今の政治に有権者の立ち位置で向かい合っていくという強い姿勢で、議論を徹底的に行い、日本の政治にプレッシャーをかけ続けたいと思っています。そういうことでぜひ言論NPOの動きを見守っていただきたいと思っています。
田中:はい、頑張ってください。ありがとうございました。
2012年12月31日 00:00
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