NPOが自立する日 ― 行政の下請け化に未来はない
著者:田中弥生〔独立行政法人大学評価・学位授与機構評価研究部准教授〕 出版社:日本評論社(2006/10) 定価:¥ 2,100(税込) |
著者による 「この本の読みどころ」 聞き手:言論NPO代表 工藤泰志
この「NPOが自立する日 ~行政の下請け化に未来がない」では、NPOの活動が極端に行政の委託に傾き、下請け化してしまうことに警鐘を鳴らしています。全国のNPOへのアンケートやヒアリング調査から、下請け化の7つの特徴を挙げましたが、寄付を集めず、ボランティアが辞めてゆくこと、そして何よりもNPOの真骨頂である社会的イノベーション力が減退してゆくことを懸念します。
2008年はNPO法が制定されて10周年の年です。この間、租税をベースに政府が公共領域を担うことの限界がより顕著になり始めました。他方で、高齢者、格差問題など社会のニーズは膨らむ一方ですから、このギャップを埋める必要があります。NPOはこのギャップを埋めるために重要な役割を果たすでしょうし、そこで生じた政策的な矛盾につい問題提起をすることもあるでしょう。そのためには市民が自由に選択し、自発的に支える公共領域をNPOの立ち位置として築いてゆく必要があります。それは市民社会という言葉に置き換えても良いのかもしれません。この10年間、NPOは市民社会をどこまで構築しえたのでしょうか。NPOの役割には、サービスを提供し人々のクオリティ・オブ・ライフを向上させるというものと、寄付やボランティアなどの参加の機会を提供することによって人々の市民性を養うというもうひとつの重要な役割があります。その意味で、寄付とボランティアは単なる収入源や労働力の確保にとどまらず、深遠な意味を持っているのです。しかし、行政の下請け化の特徴にもみられるように、寄付やボランティアを集めない傾向は、後者の役割を軽視してきたことを意味しています。
本著は、行政の下請け化の問題とその背景にある政策的課題について記しましたが、問題の根底には、NPOによる市民性創造という視点の欠如と、ひいては日本の市民社会の問題が隠されているように思います。次の著書では、市民社会を立ち位置にしたNPOの自立的経営をテーマに記してみたいと思っています。
書評
みなさんの書評を募集しています!
(戴いた書評は担当者が選択し掲載させていただきます。)