言論NPOの次の10年-日本の課題に答えを出す議論づくりを
言論NPOの次の10年 聞き手:田中弥生氏 (言論NPO理事) |
これまで10年間を振り返って
田中:工藤さん、こんばんは。
もうすっかり秋めいてきましたが、言論NPOは今年の11月で10周年を迎えることになるのですね。言論NPOはいつ設立されたのですか?
工藤:ちょうど10年前の2001年の11月21日が設立日で、設立総会が10月10日だったのを今でも覚えています。あの時はちょうど小泉政権が発足し、アメリカで9.11が起こった直後でした。
僕は言論NPOを設立する前はメディアにいました。しかし、きちんとした議論の舞台を日本に作りたいということで10年前に言論NPOを設立し、その時はとりあえず10年継続できればいいと思っていました。それがあっという間に10年目になってしまって、もう10年も経ってしまったのかと感じています。
この10年を通して、僕たち言論NPOが言い続けたことは、多くの市民が自分たちの社会で起こっていることに対して当事者意識を持っていないといけないということです。単なる議論のための議論とか、評論家的な議論をするのではなく、メディアはもちろん市民1人1人が社会を構成しているという意識や自分たちの力で未来を切り開いていくという覚悟が必要だと主張してきました。また、同時に、このようなきちんとした健全な議論をする舞台を市民社会に作りたいと考えていました。
しかし、これらはまだ十分に実現できていないと今感じています。ですので10年目以降で次の動きをはじめないといけないと思っています。
日本を大きく変える議論形成を
田中:次の動きというのは具体的にどういうものですか。
工藤:やはり今考え方を変えようとしている点で一番大きなことは、日本を変えるような議論形成をするということです。健全な議論っていうのは日本の社会に必要なのは事実です。そのような議論を聞いたり参加したりすることが、市民が政治を選んだりする際の判断材料になりますので。
しかし、ただ議論することを目的にするのではなく、その議論が日本を変えるくらいの大きな力を持たないといけません。日本が未来に向かい課題を解決につながらないといけないと思っています。単に議論を交わすのではなく、議論をする中で必ず課題に対する答えを出して、その答えによって、日本の未来に向かうための何か大きな流れを作るような議論形成にこれから徹底的に取り組んでいきたいと思います。
また、言論NPOの議論の舞台には多くの有識者が自発的に手弁当で参加していただいていますが、こうした知識層との草の根の市民が一緒に対話をする場も作りたいと考えています。
今日本は大きく変わらないといけない時期であり、有識者層だけではなく、草の根の市民が持っている大きなパワーとかエネルギーが必要なのです。原発や民主主義などこれまで当たり前に考えられてきた問題を考え直してみようという動きも始まっています。こうした議論を有識者が持つ専門的な知識などと交えて、日本が抱える課題の解決につなげなくてはならないと思うのです。
そのためにも知識層と草の根の市民が交流することが必要だと思っています。言論NPOは有識者間で健全で質の高い議論をする舞台と、その知識層と草の根をつなぐ議論の舞台、この2つの舞台を構築し、この議論の中で答えを出す取り組みを10年目の今年から開始しようと思います。
地域の草の根の活動とつながる
田中:逆説的な質問をしますが、知識層に課題解決をする力が本当にありますか?
工藤:日本はもうかなり厳しい状況ですが、自分たちが直面している課題をきちんと認識して、当事者として課題解決に取り組むという意思を持てば、知識層は力になると思います。
問題なのは、多くの人がこうした現実に傍観者として接し、自分の仕事や組織を維持することだけに躍起なことです。余裕がないこともありますが、こうした人が先頭に立つくらいでないと、動きが始まらない。ただ、言論NPOには多くの知識層が参加していただいていますし、その輪は確実に増えている実感はあります。言論NPOはこういった努力や挑戦をしている人たちとつながろうと思っていますし、言論NPOの議論の舞台で議論に参加して、流れを作ってもらうことを期待しています。
また、東京だけではなく、地域で頑張っている人たちともつながっていきたいと思っています。地域の草の根の活動を巻き込んだ議論作りを、言論NPOは間違いなく作っていきたいと思います。これが次の10年に向けてのスタートだと思っています。
世界へ日本の議論を発信する
田中:知識層に関しては、震災あるいは原発事故を経て、色んな反省の議論がなされています。草の根の側から見れば知識層を本当は課題解決の力があるのか疑問を持っているところがあると思います。そういう意味で、課題解決に向けて言論NPOが知の力を集結していただきたいと思います。
工藤:もちろんそのために動いていくつもりです。
それと同時に国内問題だけではなく、国際社会に対しても積極的に発言していかなければ、と思っています。「北京-東京フォーラム」はその一つの舞台ですが、それだけではなく、常設で対外問題を討議する舞台もできないかと考えています。今日本は国際社会の中でかなり孤立しています。日本が世界のグローバル・アジェンダに関してきちんと日本の意見を発信する必要があります。しかし、国際社会の中でアジェンダに対してきちんと答えを出して発言するためには、日本が自分たちの将来とか日本社会が抱える課題の解決に取り組まないといけないのです。言論NPOは日本の課題解決のための議論を行いながら、同時に世界にその議論を発信していくことも考えています。
健全な社会には健全な言論の舞台は必要ですが、議論だけではこの国は変わりません。有識者と草の根の市民をつなげ、現場の当事者の意見を交えながら議論を通じて、課題解決に踏み込まなくてはいけないと思っています。そして、同時にその内容を国内だけではなく対外発信し、大きな目に見える変化を必ず作り出していきたい、これが僕の10年目の決意です。
田中:そうですね。是非知識の力を課題解決のためのエネルギーに変えて、日本を変えるための流れをつくれるように頑張ってください。
工藤:必ず実現します。
田中:どうもありがとうございました。
2011年10月25日 12:07
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