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 マニフェスト評価を通じて見えてきたこと
 ~日本の政党は国民に本気で向かい合っているか~

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マニフェスト評価を通じて見えてきたこと
 ~日本の政党は
    国民に本気で向かい合っているか~

聞き手:田中弥生氏 (言論NPO理事)


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田中:工藤さん、こんにちは。
工藤:こんにちは。

田中:ちょうど、来週が投票日ということで、恒例の言論NPOのマニフェスト評価の結果の公表を、まだかまだかと待っているのですが、いかがでしょうか。

工藤:一応、さっき完成して、今、製本しているという状況です。100ページぐらいの、きちんとした評価が完成しました。

田中:実は、私も参加させていただいているのですが、前に比べて、何が大変かと言えば、党の数がとても多いということで、単純にマニフェストを読むだけでも大変な作業だったと思うのですが、今回はどのような方法でこの作業をされたのでしょうか。


日本の政党は国民に本気で向かい合っているか

工藤:党も多いし、急に合併したり色々なことがあって、作業が少し混乱しました。ただ、評価をしてみると、明らかに政策の質が悪化しています。僕たちがやっている作業は何なのかと言うと、国民に向かいあう政治をきちんとつくろうということです。マニフェストはそのための道具なのですが、その道具としてきちんと機能しているのか、ということをこの評価に織り込みたいと思いました。

 そこで、私たちは全政党のマニフェストを評価する前に、全政党が国民に向かいあう政治を実現するための、約束を提供しているのか、また、提供する姿勢があるのか、ということを基礎評価として、まず6項目について評価をしました。まさにマニフェストが国民との約束として意識されているのか、それをまず全政党でチェックしようと考えたわけです。例えば、日本の課題に対して、重点的に絞り込んで政策を書いているのかとか、党のガバナンスはどうなっているのか。それから、公約の作り方だけではなくて、公約そのものが、公約と言っても有権者がチェックするためには財源やいつまでにやるのか、目標というものがはっきりしないと評価できないわけです。その1つでもいいから、公約に書かれていて、それが全公約の最低10%ぐらいないといけないと思っているわけです。10%だけ入っていればいいのか、という批判はあると思うのですが、最低10%ぐらいなければいけないということを織り込んで、まず絞り込みを行いました。

 そうしたところ、4党まで絞り込まれました。本来、今言ったようなことは、全政党がクリアしないといけないのですが、ちょっとハードルを上げてしまうと、日本の政党の公約が、ほとんど国民との約束とは判定できない、となるわけです。その基礎評価で4党に絞り込んで、もう1党を加えて、5党の公約をマニフェスト評価の対象にして、評価は財政、経済、原発など11の政策分野について、8つの評価基準で全てを評価し、公表することになりました。

 実を言うとかなり徹夜続きになりましたが、今日、ようやくまとまりました。後、1週間しかないという状況での発表になり、有権者の皆さんには申し訳なく思っているのですが、ようやく発表できることができて、ホッとしているところです。

田中:なるほど。今のお話は、なかなか複雑な内容だったと思いますので、若干繰り返しになりますが、12の政党をすべてに関して、マニフェストを国民との約束として、あるいは国民と向かい合うためのツールとして、外形的なものをチェックし、そこから5つの党に絞り込み、この5つの党については、11の政策について評価を行った。その時の評価の基準が、全部で8つあるということですね。
その5つの党というのは、具体的にどの党ですか。

工藤:12党全部やったのですが、結果として残ったのが自民党、民主党、公明党、未来の党の4つが残りました。ただ、党首の個性もあり、日本維新の会が今回の選挙の中で非常に話題になっていますので、維新の会も評価に加えました。。

田中:では、いよいよ中身についてお伺いしたいのですが、評価結果はどのようになりましたか。

工藤:さっきの8基準で11分野を評価し、それぞれ100点満点で点数を出しました。それを合計して平均点で総合点を出しました。その結果、最高点が39点でした。40点に届かなかったという状況です。新党は相対的にかなり評価の低い結果となっております。

田中:党別に点数を教えていただけますか。


最高点は100点満点で39点

工藤:自民党が39点、民主党が33点、公明党が28点、日本未来の党が7点、日本維新の会が16点という結果となり、非常に差が出ているという状況です。
では、なぜこのような低い点数になっているのか、ということなのですが、まず、1つの大きな要因は評価の仕方の問題です。私たちの評価は、大きく分けて2つの軸で評価をしています。そこに8つの評価基準があります。その2つの軸のうち、1つは約束として外形的な要件が整っているか。例えば、目標とか理念とか実行するための工程とか、政策の体系がきちんとできているか、ということを形式的に評価します。そして、その後、その政策が課題解決の手段として適切なのか、また、その課題としての認識が正しいのか、その政策を実現するための党内運営なり、党の体制があるかということを全体的に評価します。

 まず、1番初めに引っかかったのが、マニフェストの形式的な要件として、マニフェストが約束としてチェックできるような項目が、今回、非常にあいまいになってしまっています。この5党で、公約は685個あるのですが、財源をどうするか、いつまでやるのか、どういう目標があるのか、ということをたった1つでもいいから書いてある項目が、88しかありません。だから12%ぐらいですね。少なくとも国民との約束という点では、どの党も非常に悪い結果でした。

 これは、時価軸でも見ることができます。例えば、自民党と民主党に関しては、2009年の総選挙と、2010年の参議院選挙で同じような評価をやっています。それを見ると、この形式的な公約に対する点数が30、20、16点、どんどん下がっているわけです。つまり、形式的に見ると、マニフェストの形骸化が大きな問題になっているということになると思います。もう1つは、新しい政党が、シングルイシューとまではいかないまでも、全体的な課題解決のプランニングを出し切れていないだけではなく、課題認識自体もあいまいで、政権を争って課題を解決するというレベルには至っていないという状況がありました。
それだけではなくて、公示前に合併したり、党首が書かれている政策を否定していくとか、党内のガバナンス上、大きな問題があった。前の民主党政権もそうでしたが、それを実行する仕組みがないと、我々は安心して信頼できないわけですから、そこでかなり低い点数になってしまう。それが、全体の平均を押し下げているという問題もあります。


日本が直面している課題に集約し始めたマニフェスト

 全政党とも前の政権のようにばら撒いたりするのではなく、日本が直面している課題に問題意識は集約し始めている。例えば、原発・エネルギー、社会保障、経済成長に財政再建、外交・安全保障。それから、一票の格差の是正。今回の選挙は違憲状態で行われるわけですあら、それを政治改革としてどう考えていくのか、という課題に焦点は絞られてきています。これはプラスの点です、ただ、答えを出し切れていない。考える方向を正直に示していれば、私たちの評価としては高くなるのですが、それも非常にあいまいなところがあるので、直面している課題に問題は集約しているのにかかわらず、点数が大きく伸びない。だから、結果として30点台になった。

 ただ、田中さんはご存知のように、今までの評価から見ると、実質的基準は少しだけ良くなっている。それは課題に対する認識が集約し始めているということだと思います。

田中:なるほど。主要な課題にどの政党も着目しているということについても、私もマニフェストを読んでいて、同じように感じたのですが、他方で、政党の考え方の違いみたいなものが、あまりよくわからないという印象を受けたのですが、この点はどうでしょうか。

工藤:確かにその通りです。例えば、エネルギー・原発の問題で言えば、原発リスクは国民のコンセンサスになっている。ですから、原発に依存するようなエネルギーの構成はもう無理だ、ということは政党間ではほとんどコンセンサスになっているわけです。しかし、その中で、脱原発とか卒原発とか、30年後、10年後とか差を見せているように感じるのですが、政策評価をすると、別に10年、20年後に向けて答えを出してたわけではないわけです。これから3年間かけて道筋を考えるとか、再生可能エネルギーの投入を必死でやってみるとか、方向は示したのですが、プランとしてはまだこれから考えなければいけないという状況になっているわけです。

 ということは、答えを出し切れていない中で、威勢のいいことだけをマニフェストに書いてしまうという傾向が出てしまっているわけです。「○○には反対する」とか、「これは脅威だから対応しなければいけない」などですね。ただ、実を言うと、こういう勇ましい言葉を出すのが政党の役割ではありません。政党は国民の中に広がっている不安に対して、適切にその課題を認識して、答えを出すことが政党の役割なのですが、そこにはまだ至っていません。ただ、僕は、すごく失望しているわけではなくて、課題に対して向かい合ってそれに対して競争が始まる、1つの前兆は出てきているのではないかと思っています。しかし、今回のマニフェストは理想からすると、まだ不十分です。しかし、その党の姿勢に関しては、マニフェストを手に取ってみれば、かなり党の違いが見えると思います。ですから、まずその姿勢を見てほしい。何回も選挙をやっていくことで、日本の政治が約束に基づく政治になっていくような可能性は感じます。

田中:まさに、今の工藤さんの評価基準というのは、どういうふうに課題を認識し、論理的に分析をした上で、解決策としての政策、公約を導き出しているかという論理的な思考、知的なものがどこまで組み込まれているかということが論点のように思いました。

 少し、各論についてお伺いしたいのですが、例えば、経済政策、財政再建の辺りは、どのようにご覧になっていますか。


各党の経済政策、財政再建の評価は

工藤:やはり、今、財政再建ということは非常に重要です。これは国際公約でもありますし、世界のマーケットがこれを見ていると思います。しかし、その手順としては、今、景気が後退して、経済そのものをもっと筋肉質にしていく、生産性を上げていくという方向を目指そうというところでは、各党でほぼ同じになっていますが、そのプランニングができていません。マーケットとのコミュニケーションということはわかりますが、で対応することがあります。今、どこかの党首が発言をかなりしているみたいに、いろいろな形でマーケットが変化することがあります。しかし、本当に経済の生産性を上げるためには、その経済構造の基盤をどういうふうにして変えていくのか、ということに踏み込まない限り、日本経済は人口が減少して、労働者が減ってくる状況ですから、生産性を上げない限り駄目なわけです。そこに関する方向感は出ているのですが、答えは十分ではない。一方で、それよりも大型の公共事業で、とりあえず、経済を底上げしなければいけない、という論調がかなり出てきているわけです。ということになると、その裏側で、財政再建という問題が矛盾してしまうので、財政再建の点数が経済成長より小さくなっています。日本の債務残高GDP比が200%を超えて、世界のマーケットがそれを非常に気にしている状況の中で、国際社会に対しても、日本社会に対しても、財政の規律をきちんと守っていくという姿勢をこのマニフェストでも出していないと、非常に不安定な政治を招きかねないと思っています。

田中:結果、どの辺りの点数が高かったのでしょうか。

工藤:私たちの評価では、自民党の評価が高い結果となりました。ただ、評価が高いと言っても50点でした。つまり、自民党の場合は、経済成長をするための規制緩和とか、構造改革とか、それから「日本経済再生本部」をつくって、経済政策を、時間を区切って一気にやっていくという点では、かなり政策の体系が整理されています。ただ、その問題と財政の問題が連動していないと見えるので、財政の評価は低くなっています。

 民主党は、今の政権はやっていることをそのまま書いている状況になっていて、日本が抱えるデフレや円高を克服してやっていくということについて、まだ力不足、まだ説得力がない状況があります。また公明党の場合は、防災をベースにするのですが、公共事業に非常に力を入れていますから、そうなってくると、財政をどうなのかと見ていくと、一番最後のページに少しだけ出ていまして、債務残高比率を安定化させるとあるのですが、どうやって安定化させるのか、ということが全く見えない状況にあるわけです。後、他の新しい政党も、財政再建とかについては、基本的にテーマを言っているだけで、具体的な政策体系になっていない、ということで点数が低くなっています。


消費税を争点にすること自体が問題

田中:工藤さん、税と社会保障の一体改革がこれまで争点になってきたわけですが、今回のマニフェスト評価で、社会保障の政策についてはどうでしたでしょうか。

工藤:基本的に、3党合意で消費税を上げるということになっていて、そのほとんどを社会保障に当てるということになっています。ただ、選挙戦を見ると、消費税を上げる、上げないという話がでてきているのは、私たちにとっては不可解です。確かに、経済条項があって、経済が悪化すれば上げるかどうかを考えないといけないわけですが、上げないという話になってくると、いろいろなことが壊れてしまいます。上げるか上げないか、ということを争点にすることは、僕は非常に問題があると思っています。であれば、社会保障をどうするのか、ということの答えを対案で出すべきだと思います。社会保障の争点はたった1つです。お年寄りが増えて、高齢者がかなり増えた結果、若い世代がそれを支えられない。つまり、現行の年金制度、医療保険制度は持続可能性については、黄色信号がともり、非常に難しいということが私たち国民も分かっているわけです。それに対して、どういうふうに立て直すかということに関しての提案が出ていないわけです。

 逆に、日本維新の会の方が、初めて高齢者の給付制限をするとか、負担や給付の問題に踏み込んでいます。ただ、これはアイデアのレベルです。だから、第一段階として、これは実現する。しかし、中期的にはこういうことをやらないと世代間格差とか、今の社会保障の問題について答えを出せないという説明をすればいいだろうし、例えば、医師の偏在の問題を含めて、どういうところに偏在があって、どうやって解決するのか、ということなど、もっと突っ込んだ議論を期待しています。やはり政策が課題に合わせて深化していない、という感じを受けます。こういうところは、私たちの評価では低くなっています。

田中:興味深いのは、公明党が38点、民主党が37点、自民党と維新の会が29点となっていますが、この差は何でしょうか。

工藤:これは、次元がそれぞれ違います。まず、民主党はまさに政権党でして、彼等は既存の仕組みでは持続不可能で、新しい仕組みを導入しなければいけない、と主張して3年前に政権交代を果たしたわけです。例えば、誰でも受け取れる7万円の基礎年金とかを主張したわけです。しかし、そうした政策を実現するためには、さらに消費税を上げなければいけないことがわかり、結局、失敗したわけです。にもかかわらず、公約にはそのまま出しています。やりたいのであれば、訂正すればいいのに、できなかったことをそのまま出してしまうから評価が低くなるわけです。

 自民党や公明党は、今の問題に関しては的確な視点はあるのですが、元々、今の年金や社会保障の制度は以前の自公民政権の時にできた仕組みなのですね。その矛盾に関して、どうするのかという案を持っていないわけです。だから、それぞれのポジションが違う中で、点数だけが似通ってくるわけです。

 維新の会は、持続可能ではないという問題意識から、積立方式を含めた抜本的なアイデアを出しています。しかし、アイデアの域を出ていない。アイデア的には私たちと同じような認識を持っているところもあったのですが、やはり政策論としては評価は低くなってしまいます。


政党間で差が出た震災対応

田中:原発に関しては、課題は認識されているけど、どこの政党も答えを出し切れていないので、あまり点数差がついていないのだろうな、と拝見しました。他方で、震災対応もマニフェストの表紙ページによくでていますが、ここについては、政党間で点数に差が出ているのですが、この辺りも解説していただけますか。

工藤:私たちは、被災地の市長さんたちにヒアリングをしました。どういうことが、今問題なのか、ということになった時に、現場の課題はスピード感がないということでした。今の復興庁を含めた動き方が遅い。復興庁そのものに特別な権限があるわけではなく、各省庁のバランスを調整する仕組みの中で、復興計画を進めている。そのために、現行法の調整でやるという状況になっているわけです。すると、いろいろな問題がでてくるために、その調整で手間取る。課題に対して、スピードが追いついていないのですね。それから、がれきの処理についても広域的にどこかに移転するということがあるのですが、地域内にきちんとやって早く移行しようとか、土地の収用とか高台移転とか、もっと強制的にやってくれないとなかなかスピード感が出ない、ということを地元の市長さんたちは言っています。こうした課題に、自民党の公約は体系的に取り組もうとしています。被災地の事情を知らないような公約も目につきます。それでも、一般論の中で復興こそが日本にとって重要である、と主張する党もあります。ですから、震災対応については、差がついてしまったということです。

田中:今のように、解説を頂きながらマニフェストの採点表、あるいは中身を見て行くと、確かにみんな同じような政権公約、マニフェストに見えますが、中身は随分違うということが分かってきました。来週、いよいよ投票日になりますが、有権者のための言論NPOですから、最後に有権者の人達に一言お願いします。


今度の選挙では、有権者が問われている

工藤:私たちが一番気にしているのは、「選挙とは何なのか」ということです。それは、やはり有権者が自分達の代表を選ぶということなのですが、本当にそういう気持ちで、僕たちは向かい合っているのか、と思います。やはり代表を選べないということで、悩んでいる人達も多いと思います。少なくとも有権者主導の政治ということを、理解している政党でないと、いくらその人に期待しても、民主主義ということが深まらないと思います。

 この政策の中身に関しては、田中さんがおっしゃったように、よく読めばある程度、見えてきます。本来なら、一般の人達でもわかるマニフェストをつくらなければいけないのですが、公約の書き方だけでも政党の違いが見えてきます。なので、今回は、自分でマニフェストを手にとって欲しいと思います。意外に、そこに政党の違いがあるので、そこから政党が今、どういう状況にあるのか、ということを考えていただいて、自分達がこれは本当に自分たちの代表になれるな、という政党や政治家を自分達で見つけるしかないと思っています。その手がかりは、マニフェストの中にあると思っているわけです。多分、今回だけで答えをだすのではなくて、これから何回もこうした選挙での取り組みは続くと思います。つまり、課題解決に対して、日本の政治が国民を代表して競争できるような社会をつくるためにも、マニフェストが必要なのです。我々もまだまだいろいろな情報を提供していきたいと思いますので、そういう風なことを考えながら、今度の選挙に向かい合って欲しいと思います。

田中:各政党のマニフェストはホームページからダウンロードできますが、合わせてぜひ言論NPOのマニフェスト評価採点表、あるいはその詳細説明版もご覧頂ければと思います。

工藤:最後に、現在、私たちは政治家一人ひとりにアンケートを行っています。ギリギリ間に合えば、政治家が何を考えているか、ということについても公表していきたいと思いますので、言論NPOのサイトを見ていただければと思います。

田中:ありがとうございました。



⇒ 「私たちは政治家に白紙委任はしない」の呼びかけへの賛同はこちらから

 

2012年12月 9日 23:34

言論NPOのホームページはこちら

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