世界では大国の力による行動によって分断が深まる等、歴史的な困難に直面しています。しかし、そうした状況下でも、日本の未来に関する議論は国内にとんどありません。最も考えるべきことは、将来世代に課題を先送りにするのではなく、持続的な日本をどのように作っていくか、ということです。

言論NPOは創立以来、日本の政策がきちんと日本が抱える課題に見合った形で立案されているのか、政府の政策評価や政党の公約評価で厳しく点検してきました。私たちが評価作業を一時中断したのは、政党が選挙で政策実現を掲げて有権者の信を問うサイクルが事実上機能しなくなり、選挙自体が単なるイベントと化したためです。

しかし、私たちは日本の未来のために様々な課題に真剣に向き合い、その解決を目指さなければなりません。「日本の課題を考える」は私たちが考えるべき政策課題を明らかにし、その解決に挑む場です。ここで日本の未来に対する論点を明らかにします。

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脱ホルムズではなく脱石油が課題 ~言論フォーラム「イラン危機に日本のエネルギー確保は大丈夫か」~

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ホルムズ海峡をめぐる地政学的緊張が断続的に高まっている。日本のLNG輸入の約2割、原油輸入の約8割がホルムズ海峡を経由しており、同海峡の封鎖は日本のエネルギー安全保障にとって最も直接的な脅威であるといえる。

こうした中で日本の専門家は、日本のエネルギー政策は抜本的な構造転換が必要だとの認識で一致。各氏は、日本が依然として中東産石油への依存度が高く、危機のたびに同じ脆弱性が繰り返し露呈していると指摘し、「脱ホルムズ」ではなく「脱石油」こそ本質的課題だと強調した。

さらに4氏は、再生可能エネルギー拡大、電化推進、原発再稼働などを組み合わせたGX(グリーントランスフォーメーション)の推進が不可欠だと提言。再エネ拡大には送電網整備や制度改革が必要であり、日本は国産資源やリサイクル資源も最大限活用しながら、20402050年を見据えたエネルギー構造転換を進めるべきだとの認識を共有した。


I言論フォーラム「イラン危機に日本のエネルギー確保は大丈夫か」

参加者:橘川武郎(国際大学学長)

    田中伸男(タナカグローバルCEO、元国際エネルギー機関(IEA)事務局長)

    寺澤達也(日本エネルギー経済研究所理事長、元経済産業審議官)

    平沼光(東京財団主席研究員)

司会者:伊藤俊行(読売新聞編集委員)



橘川武郎氏(国際大学学長)発言要旨

・ナフサは実質的に中東原油依存であり、石油化学分野も高いホルムズ依存を抱える。本質的な課題は「脱ホルムズ海峡」ではなく「脱石油」である。石油を使い続ける限り、中東依存はなくならない。

・石油化学はメタノール・ツー・オレフィン(MTO)やC1化学への転換が必要。

・政府のガソリン補助金政策は「今まで通り使える」というメッセージとなり、消費抑制に逆行している。

・日本は第一次石油危機後、石油火力比率を73%から6%へ下げるなど、大規模な構造転換を実現した実績がある。日本人には危機時に構造転換を成し遂げる力がある。

・EV一辺倒には疑問。日本では発電の7割が火力依存のため効果に限界がある。

・2050年時点でも車・船・航空機では液体燃料需要が残るだろう。石油系燃料ではなく、e-fuel(合成燃料)やバイオ燃料による「液体燃料の脱化石化」が重要。

・エネルギー自給率向上の手段は「原子力・再エネ・省エネ」の3つ。原子力は必要だが、即効性がなく新設に時間がかかる点が弱点。SMRや次世代炉は有望だが、建設に20年かかる点が課題。

・既存軽水炉を活用して水素を製造する政策を重視すべき。安価な水素供給によって合成燃料普及への道が開ける。

・再エネの中心は太陽光であり、特に営農型太陽光や休耕地利用に可能性がある。しかし、政府は太陽光の問題点ばかりを強調し、普及施策が不足している。

・再エネ事業では、住民・漁民・温泉業者など地域主体の参画を進めるべき。欧州の市民風車のような地域共同型モデルが参考になる。


田中伸男氏(タナカグローバルCEO、元国際エネルギー機関(IEA)事務局長)発言要旨

・ホルムズ海峡封鎖は「最悪の悪夢のシナリオ」であり、IEAの備蓄放出でも対応困難な規模。

・従来は「イラン自身の利益を損なうため封鎖は起きない」と考えられていたが、ドローンによる選択的攻撃で実際に可能になった点が今回の最大の変化。

・日本は第一次石油危機時には電力の7割を石油火力に依存していたが、その後LNG・石炭・原子力へ転換し、石油火力依存を大幅に低下させた。現在も運輸・石油化学分野では石油依存が残っており、中長期的に依存低減が必要。

・石油は中東以外からも調達可能だが、価格上昇は不可避。

・一律の燃料・電力補助金は大量消費を促すため望ましくなく、困窮者や公共交通など対象を絞った支援に転換すべき。

・世界ではEV化が急速に進み、中国製EVが競争力を持つ時代に入っている。日本はEV・自動運転分野で出遅れており、このままでは産業競争力を失う危険がある。

・世界は「石油・ガスを武器にするペトロステート」と、「電化によって脱化石燃料を進めるエレクトロステート」の対立構造に向かっている。日本は資源小国として「エレクトロステート」を目指すしかなく、政策転換を急ぐべき。

・SMR(小型モジュール炉)は重要であり、産業政策として積極推進すべき。SMR普及を妨げている最大要因は規制であり、日本は規制改革が必要。欧米ではSMR事故時の影響範囲をプラント内に限定する考え方が進んでいる。日本だけが過度に慎重な規制を続ければ、世界の電化競争から取り残される。

・再エネ拡大には送電網整備と優先給電が不可欠。既存電力会社は競争を嫌い、再エネ導入や送電網整備に消極的だ。

・日本の東西周波数分断(50Hz/60Hz)は大きな問題であり、改善が必要。

・東京電力は福島事故を踏まえると原子力事業継続は難しいとの認識。東電の原子力資産と関西電力の送配電資産をスワップするなど、大胆な制度改革が必要と提案。

・再エネ拡大・原子力維持・送配電改革を統合した「大きなビジョン」が不可欠。


寺澤達也氏(日本エネルギー経済研究所理事長、元経済産業審議官)発言要旨

・今回の危機は過去のオイルショックとは異なり、電力・LNGLPG不足ではなく、「ナフサ」と下流化学製品が最大の課題である。短期的には、中東以外からのナフサ調達を進めることが重要。

・日本は備蓄政策により比較的状況をコントロールできている一方、アジア諸国は中東依存度が高く深刻な影響を受けている。日本だけでなく、アジア全体のエネルギー供給網を視野に入れた対応が必要。

・ガソリン補助金は「激変緩和」ではなく実質的な価格維持策になっている。電力・ガソリン補助金に多額の財政資金が使われ、GX投資に回るべき予算が圧迫されている。短期対策だけでなく、脱炭素化・GXへの中長期投資を重視すべき。

・再エネ推進は必要だが、「メガソーラーは悪」といった極端な議論では前進しない。

・陸上風力や洋上風力推進には、送電線整備や港湾整備などインフラ整備が不可欠。太陽光発電拡大には、耕作放棄地を含む農地利用の議論が必要。

・原子力再稼働については、脱炭素化とエネルギー安全保障の観点から国民的支持が高まっている。しかし、柏崎刈羽原発7号機は、安全審査・地元同意を得ているにもかかわらず、特重施設の期限問題で再稼働できていない。ここが稼働すれば年間110万トン分のLNG消費削減につながる。

・再エネだけで100%の電力供給は現実的ではなく、バックアップ電源が必要。再エネ、原子力、省エネを組み合わせた「総力戦」でエネルギー政策を進める必要がある。


平沼光氏(東京財団主席研究員)発言要旨

・今回のエネルギー・資源問題は、過去と同じ問題の繰り返しだ。

・IEAは短期対策として、省エネや公共交通利用促進など10項目を提示したが、これはウクライナ危機時にも同様に議論されていた。石油需要の約50%は自動車運輸部門であり、短期的には節約対応しかない。

・1970年代の石油ショック後、日本は海外資源依存から脱却しようとしたが、現在も構造は変わっていない。中長期的には、海外資源依存をやめ、再生可能エネルギーや都市鉱山など国産資源への転換が必要だ。

・日本は「資源に乏しい国」ではなく、再エネやレアメタル、海洋資源など豊富な潜在資源を持つ。

・ガソリン補助金は激変緩和措置として限定的に使うべきで、恒常化は誤りだ。補助金を使うなら一律ではなく重点化し、それ以上にGX投資へ資金を振り向けるべき。

・EVと再エネは相互補完関係にあり、再エネ拡大でクリーン電力を供給し、EVの蓄電池で電力変動を調整できる。自動車の約10%をEV化すれば再エネ主力化に対応できる。

・日本のプラスチックリサイクル率は約20%にとどまり、80%が未活用。

・レアアース問題でも、2010年の尖閣問題時と同じ議論が繰り返されている。都市鉱山からのレアアース回収技術は進んでおり、積極活用すべきだ。

・国全体で「どの資源を、誰が、いつ、どう活用するか」を明確化した戦略が必要だ。

・再エネ拡大策として、営農型太陽光発電に注目すべき。国内農地の約2%で年間1000kWhの発電が可能。農地の2割を活用すれば、日本の年間発電量を理論上賄える。

・日本に足りないのは資源ではなく、「資源を活用する知恵と実行力」だ。

日本の課題を考える

言論フォーラム「日米同盟の意義と、今後の同盟関係」

5月25日(月) 18:00~19:00