マーケットは震災復興に何を求めているのか

2011年4月28日(木)放送
出演者:
湯元健治(日本総研理事)
内田和人(三菱東京UFJ銀行円貨資金証券部長)
鈴木 準(大和総研主任研究員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


 4月28日、言論スタジオにて、湯元健治氏(日本総研理事)、内田和人氏(三菱東京UFJ銀行円貨資金証券部長)、鈴木準氏(大和総研主任研究員)が「マーケットは震災復興に何を求めているのか」をテーマに、議論を行いました。



第1部 日本経済は最悪期は脱したのか

工藤泰志工藤:こんばんは。言論NPO代表の工藤泰志です。さて言論NPOではこの前の3月11日の東日本大震災から、市民が色々なことを考える判断材料を提供したり、色んな情報を共有する目的で、言論スタジオという形で議論を発信することにしました。今回はその第2弾になりますが、言論NPOのマニフェスト評価で力を貸してもらっている国内を代表する3人のエコノミストの方と「マーケットは震災復興に何を求めているのか」」について、議論したいと思います。
 出席者の紹介ですが、三菱東京UFJ銀行円貨資金証券部長の内田和人さん。よろしくお願いします。

内田:よろしくお願いします。

工藤:内田さんは、マーケットの問題を専門的にやっていますので参加していただきました。お隣は日本総研理事の湯元健治さんです。よろしくお願いします。

湯元:よろしくお願いします。

工藤:湯元さんは以前、内閣府に出向して審議官をしていましたよね。最後が大和総研主任研究員の鈴木準さんです。よろしくお願いします。

鈴木:よろしくお願いします。

工藤:先ず、日本経済の状況は震災をふまえてかなり落ち込んできていますが、それが今の段階でどのような状況なのか。湯元さんどうでしょうか。

湯元:4月28日に、3月分の経済統計が発表されました。特に工場などの被災により、工業生産が前月比15%以上のマイナスになり、これはリーマンショック時を上回る過去最大の下げ幅となっています。電子部品などの生産が大きく落ち込みました。いわゆる東北地域とか北関東地域には、サプライチェーンといわれる自動車部品や電子部品をつくっている工場が多く、そこの生産がストップすると、実際に自動車の生産が全国的に落ち込みます。被災地の生産の落ち込みだけではなく、全国的な生産の落ち込みで業績がマイナスになってしまいました。
 個人消費も大きく落ち込みました。自粛というのもありますが、当然、震災地域の消費は大きく落ち込みました。それから、原発の影響がありますから、旅行などが落ち込み、特に外国人観光客は7割も減少しています。個人消費の落ち込みについては、全体の数字が分かるのがもう少し先ですが、個別のデータを見る限りでは非常に大きな落ち込み、足元については非常に大きい。ただ、生産の動きを見ますと4・5月は持ち直す計画を製造業は出していますので、工場再開の動きもあり、最悪期は過ぎ去ったと思います。しかし、まだまだ厳しい状況だと思います。

工藤:最悪期は脱したとの話ですが、鈴木さん、どうですか。

鈴木:サプライチェーンの問題は意外に大きくて、東北とか北関東は重要な部品を作っているのが今回明確に分かりました。経産省が数日前に調査を発表していましたが、10月ぐらいにならないと7~8割くらいの製造業者は部品が十分には調達できるようにならないので、当面は弱い動きが続くのではないかと思います。
 今回はリーマンショック時とは違い、需要ショックではなく供給ショックなので、どんどん落ち込むというわけではありませんが、ただ中長期的に考えると、電力需給の問題もあり、急いで復興しないと企業が海外に出ていくことになりかねません。それは日本経済にとって大変なことになりますから、復旧・復興をとにかく急ぐことが重要です。


マーケットはまだ疑心暗鬼の段階

工藤:内田さん、マーケットは、株が大幅に下がったり円高になったりと不安定になりましたが。

内田:そうですね。震災直後は、マーケットは基本的に思考停止状況でした。その中で、どういうことが起きるかというと、リスク資産である株式などの売却に入るということと、円については金利が海外に比べ非常に低いので、海外の投資家や銀行などの金融機関が円を借り入れて海外に投資する円キャリーをしていたのが、このような危機下では、クローズと、つまり売買を止めることになります。そうすると、どういうことが起きるかというと、円を借りていますから、その逆の状況になります。要するに、円を返さなければいけない。そうするとどうしても円を調達しなければいけなくなる、あるいは、円を買うことになる。これが震災直後に急に円高になった原因です。それがようやく介入などで、落ち着きました。

 株で見ると震災前は10,500円近辺でしたが、8,000円台に落ちました。今は9,500円近辺で、要するに、急落した後、下げ幅の半分の水準に戻っている。これは安定しているのか、それとも下に行くのか、どっちにいくのかが今の市場の関心事です。戻ると言う期待はありますが、なかなか政府の復興対策が出てこないとか、生産とかの需要サイドのマインドが落ちています。例えば自動車の販売とかが落ちていますので、そういったところに少し復興対策という事で、前向きの動きが出るのかをマーケットは注目しています。しかし、それが、なかなか出てこないので、日々上値が重くなっている状況です。

工藤:復興に向けての政府の動きが遅いと市場は思っているわけですね。

内田:今回の震災の場合は非常に広域に被害が広がったということもあり、なかなか復興対策が動いていない。地方行政とか地方自治体との調整も必要ですが。それ自体はある程度想定しているでしょうけど、過去の大震災のケースを見ると、だいたい復旧に1~2ヶ月かかり、それから3ヶ月後6カ月後に復興対策の大体の絵が見えてくるのです。これが通常のパターンです。そうすると期待感から株式や為替とかに影響が出始めますが、なかなかそこが見えてこないのが今回の特殊な面です。

工藤:今回の震災は規模や広がりの面で阪神淡路大震災とは単純に比較はできないのですが、あの時は1月17日に震災があったのですが、1カ月後には復興の基本法ができて、復興に対する実行体制が整い、すでに動き出していて、お金の問題では地域の復興基金が出来たりしていました。そして7月末には被災者の皆さんが全員仮設住宅に移っていました。

内田:当時は1月に震災があり、そのあと英国の大手金融機関の不正取引な取引によって、株が一時暴落しました。名門の銀行が不正取引をしたせいでそれによって急落しました。その後、日米摩擦が起きて、為替が80円になり、マーケットとしては、震災の後にかなり数カ月の調整期間が続きましたが、ただしその間に復興対策が進んでいたので、その後為替も80円になって、株が安定して、一本調子に株高の動きに戻っていったのです。それが今回起きるかどうか。


工藤:新聞を見ていたら格付け機関のS&Pがまた日本国債の格下げを検討していると出ていましたが、これは政府側の動きが期待できるものになっていないと言う見方が市場に広がっているという認識でいいのですか。

鈴木:もちろん、それは復興そのものではなく、財政赤字や国債に対する格付けの話ですが、復興資金がどのくらい要るのかのかがわからない。それで財政の悪化がどんどん進んでしまうかもしれない。本当に前向きな復興投資であれば国債でやっても問題ないのですが、日本は経常的な収支バランスが悪化しているという財政問題を抱えているのです。平時に財政を健全化させておかなかったツケが、有事の対策を制約しているといわざるを得ません。その難しさをきちんとコントロールできていないと言う警告と受け止めるべきだと思います。

工藤:先ほど湯元さんは「最悪期は脱した」とおっしゃっていましたが、これまでの話だと、まだまだその動きへの疑心暗鬼がマーケット側にありますね。

湯元:当然、夏場のピーク時の電力不足対策が問題になります。一応5500万キロワットまで、供給量を増やせる見込みがたったので、一時と比べればだいぶ安心になりましたが、この夏の暑さがどうなるかにもよるので、下手をすれば電力不足で生産がダウンすることもありえます。それから国債の格下げに象徴されるように、まだ復興プラン全体が見えてこなくて、どれくらいお金がかかるかわからない。当面は国債発行でしょうけど、どうやって財源を調達するのかということについて、色んな増税の議論が出ていますが、まだ固まっていません。そこが先行き不安な状況です。
 元々少子高齢化で財政が膨らむというベースがあって、震災が無くてもこの赤字をどうするのか、という懸念があったのに今回震災が起きてしまった。ここに大きなインパクトがあったと思います。


震災で分かった日本経済の構造とは

工藤:やはり政府の取り組みが非常に重要だと思うのですが、日本経済は今回震災があったから変わるのではなく、元々日本経済を筋肉質にして、力強いものにしないといけないという大きな課題がありました。一方で財政的な破綻リスクが高くなっている。一方で地震を見て、意外に日本の経済構造、先ほどのサプライチェーンの寸断が世界に影響を与えているというのが見えてきました。震災で分かった日本経済の問題をどう判断していますか。

湯元:サプライチェーンの構造というのは、日本の基幹産業である自動車や電機の部品生産が、東北や北関東地域で集積してつくっているということですので、地域的なリスクがあるのです。西日本にすぐに生産を移すことはできなかったので、そういう態勢の問題はあります。企業努力で西日本に移したり、場合によっては海外に移そうという動きもごく一部では始まっています。ですので、政府が復興対策にもたもたしていると、海外に企業が進出してしまうので一刻も早く修復しなければいけない問題があります。

 それから東北地域の産業構造を考えると、特に津波にやられた地域は農村や漁村がコミュニティごと流されてしまっています。震災前に農業については、強い農業をつくり輸出をして日本経済の成長戦略をやっていこうということで、TPPへの参加をはじめ、やっていかないといけないと議論がスタートしましたが、こういうことが起きたので、まさに農村・漁村の被災地をどうやって復旧・復興していくかという議論になりかけています。 

 復旧・復興の後に、この東北地域をどういう形で新しく再生していくか。ある意味、新しくモノをつくっていく「新興」の観点で考えていかないといけない。そういう意味では産業基盤をどうやって強化するのかという意味では、例えば、国の成長戦略で特区制度をやろうとしていました。これを日本企業が出て行くのを防ぐという目的だけではなく、外資系企業や外国人がどんどん入ってくるように税制、規制や予算処置などを優遇する特別区域をつくって、東北に集中して、産業基盤の再編をしっかりやっていくというのは1つあると思います。例えば、世界最先端の技術開発特区をつくって、そこに人や金を呼び寄せるというアイデアもあると思います。もう1つの問題は、エネルギー政策を根本的に変えていくという意味では、当然、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを導入していかないといけない、という政府の政策はありましたが、これは原発を相当上げる計画だったので、本当に太陽光や風力などはごく一部でした。ですからエネルギーが全くクリーンな新しいまちづくり、スマートシティと呼ばれていますが、全く新しい発想で町づくりが求められています。

工藤:鈴木さんは、この震災を踏まえて日本の東北地域はこんな状況だったのか、と気づいたことはありますか。

鈴木:今回分かったことということで申し上げれば、湯元さんがおっしゃったサプライチェーンということで、実は東北地域は製造業にかなり強い。特に電子部品や自動車部品、それから飲料などの生産拠点がたくさんあったということが分かりました。ただ私が特に申し上げたいのはエネルギーの話です。やはり電力を使わない産業はありません。電力が供給されないと、みんなマインドも沈み消費をせずに自粛をしています。電力がいかに重要かがよく分かった災害でした。短期的には夏場のピーク時の電力をどうするかという問題ですが、長期的にはいつまでも火力発電でいいという話ではない。エネルギー政策をどうするかが見えないと、今後、日本の企業がどう活動していけるだろうか、という問題にもなります。

内田:3点キーワードを申し上げますと、1つはやはり「日本は安心安全」というブランドがありましたが、それが崩れてしまった。このこのブランドをどう立て直すのか。2つ目は、広域な復興対策は政治的な調整が必要なので、これが非常に難しい点です。3つは、やはり復興に向けた政治のリーダーシップです。こらが今、問われていると私は思っています。

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