政府の震災復興への取り組みにもの申す

2011年5月13日(金)放送
出演者:
石原信雄氏(地方自治研究機構会長、元内閣官房副長官)
武藤敏郎氏(大和総研理事長、元日銀副総裁)
増田寛也氏(野村総研顧問、元総務大臣)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


 5月13日、言論スタジオにて、石原信雄氏(地方自治研究機構会長、元内閣官房副長官)、武藤敏郎氏(大和総研理事長、元日銀副総裁)、増田寛也氏(野村総研顧問、元総務大臣)が、「政府の復興計画を点検する」をテーマに議論を行いました。

第3部 被災地の復興をどう動かすか

工藤:では、最後の議論に入りたいと思います。今までの話を伺っていると、被災地の復興がちゃんと動くのか、ということが心配になってきました。2つの面で議論しないといけないと思うのですが、1つは政治の問題、もう1つは執行の仕組みの問題だと思います。
 自然災害と人的災害は違うかもしれませんが、9.11のときにブッシュさんが、選挙の時に僅差で勝ってどちらが当選したのか分からないような状況でしたが、9.11の危機をバネにして、議会の中の支持を集めて、国民の合意も得るという形で、国を守らなければならないということでまとまりました。しかし、今の日本の政治状況は、この危機の時に政局が分裂していて、党内もおかしいという状況になっています。つまり、政治的な求心力がないように見えてしまうわけです。
 一方で、冒頭に石原さんにも言われたのですが、「政治主導」が「政治家主導」になってしまっていて、官も含めた政府の機能を全面的に使って、被災地対策に全力を尽くす仕組みにまだなっていないような気もしています。もしこの状況が続くのであれば、復興はまだ遠い先に思えます。8月のお盆までに仮設住宅をつくるとか、瓦礫処理も8月に終えるとの目標は出していますけれど、それすらちゃんとできるのか疑わしい。


政治と官が一体で動かす仕組みが急務

石原:先ほど言いましたように、これから復興構想会議から色々な提案があったら、それを具体化せねばいけない。その時に、やはり私は政治主導という形にこだわってはいけないと思います。各省とも大臣以下、政務三役が中心で動くのは結構ですが、その中に直に担当局長が一緒に入って議論すべきです。そうすればすぐ具体化します。見ていますと、依然として政治家だけが動いて、事務方の動きが見えません。やはり、こういう非常事態ですから、政も官も一体にやらなければいけません。

工藤:武藤さんはどうですか。実行させるためには、どうしたらいいのでしょうか。


武藤:実行段階になりますと、政治が全部決めて、後は実行だけなどということはあり得ません。決めたことが、いざ実行してみると、ここを変えなければいけないとか、これはどうもだめだとか、そういうフィードバックが当然あるはずです。だから決めるまで動くな、決めたからやれとか、そういう順番で物事を考えているとすると、役所の機構の使い方としてちょっと現実離れした話です。決めたらどんどん指示が出て、やっていく中でまたフィードバックして決断を仰いで、ということで実行していくわけで、本当の意味で、実行するというのはそういうことだと思います。

工藤:増田さん、例えば8月のお盆までに仮設住宅の目途をつけますと言っていますよね。瓦礫処理もそうです。でも、これまでの話だとそれが実行できるかわからないわけですよね。一方で、被災地の住民の理解が得られないような復興ということは、問題なわけですよね。そのためには現地との連動も大切ですし、東北の未来を考えるようになるためには、被災地が出口が実感できるようにならないとならない。それについて、どのように懸念されていますか。

増田:お盆までというのはほぼ限界で、今の状況も埃が舞うような中ですから、非常に衛生的にも悪いのです。お盆を過ぎると非常に気温が下がってきて、9月になると気温が10度以下になるような地域です。ですから、やはりある程度プライバシーが守られて、居住環境があるということが最低限必要です。そういう意味で仮設住宅などは急がなくてはならない。これからの将来に向けての話になると、例えば、水産業をどういう風に立ち直らせるか。6月になるとカツオがやって来ますし、9月になるとサンマとか秋サケ、そういう時期がやってきます。私は、仮設住宅も非常に大事ですけれども、被災者のみなさんが、体を動かしてお金を稼げるという場を無理してでもいち早く作っていく、そういうことができると将来に向けて少し落ち着いた気持ちになってくるのではないかと思います。仮設住宅の建設や、瓦礫の処理は男手が必要で、非常に危ないのですが、それだけではなくて、避難所で女性陣が洗濯していますけれども、あれもやっぱり立派な仕事だということで、お金を少しでも支払うようなことをする。被災者みなさん方が、きちんとしたお金を得るような仕組みを早く作ってあげていく。そういうことを含めてやらないと、なかなか復興についての議論ができないと思います。
 多分、そういう声というのは、市町村はもちろん切実ですが、今回は市町村がかなり打撃を受けているので、なかなか国にそうした声がきちんと上がっていかない。県がその点を相当綿密に考えて、国につないでいくということが必要になると思います。今見ていると、その場が復興会議だけになっていて、なかなかそれ以外の所について役所との上手いつながりが見えていません。お二方もおっしゃいましたけれど、政務三役が色々な問題を最終的に判断する、それはそれで政治が判断しなければならない、財源の部分などはあると思います。しかし、もっと手前のところで、そこまでやらなくて判断できることは沢山あって、それがまだ決まっていない。そこで溜まっているものを、一気に吐き出して処理するようなスピード感が絶対に必要になってくる。そのリズムを早く作り出していかなければならないと思います。

工藤:今の仕組みでできますか。

増田:やはり、形式的に20ある会議を、少し名前を変えて整理しましたけれど、思い切って削るところは削る。こういう緊急の時には、かなり少ない人たちで判断できるようにしなくてはいけないので、今のままだとそれはなかなか動けないと思いますね。

工藤:なんか20の会議があって、官僚の人たちがあちこちに出されている。

増田:あんまり具体的にいうと固有名詞がわかってしまうので、後で冷や飯食らうのがかわいそうなのですが、私の同期も、そういう事務局の次長とか枢要なところにいますが、彼から、今日もまだあと2つ会議があると、聞くわけです。しかも、そのほとんどが同じメンバーなんですが、少し政治家の人たちの参加が違うこともあるので、官邸周辺、内閣府あたりを次から次に渡り歩いているわけです。

工藤:会議がそこまで増えたというのは、政治が責任を持って決定できないから、増えているように見える。

石原:これから復旧から復興の段階に移ってきます。やはり、政府の中枢に会議が多過ぎる。意思決定のメカニズムというのはシンプルな方がいいと思います。特に、こういう災害対応というのは、要するにスピードなのです。今、色々な組織があって議論をしていて、その答えを政治が待っているようなところがあります。そこの整理がないと、困ったことになりますよ。


なぜ官邸の会議が乱立するのか

工藤:石原さんは、なぜ会議がどんどん増えてしまっているのだと思いますか。

石原:どうしてそんなに作ったのかわかりませんけどね、色々な問題が起こると、それについてこういう人を集めて、意見を聞こうということで、次々につくっていったのではないでしょうかね。
 とにかく数が多いですよね。どこの意見を聞いたらいいのかわからない、なんて言っている人がいるわけですから。

増田:議論好きだけど、決めない政権だから。
工藤:責任を持って政治が決めれないから議論が自己増殖をしている。

武藤:議論している中のかなりの部分は、昔であれば役所が案をつくって、それをああいう人たちの前でご判断を仰ぐという流れだったと思います。ところが、ああいう人たちが集まって初めから具体的な案を作るというのは、時間もかかるし、ちょっと無駄なのですよね。

石原:そうなのですよ、原案を役所に作らせて、それをベースにして議論してどっちにするかを決めていくというのが早くいくのです。今は、復興構想会議あるいは政務三役会議で議論して、原案をどうするかの議論から始まっているのですよ。

武藤:4月中につくれと言えば、おそらく役所は作りますよ。それを審議するというやり方を踏むべきだと思います。

工藤:政治がそれを決定すればいいだけですよね。

武藤:さっきの仮設住宅の話ですが、用地が未定なのがまだ何万戸もあり、用地さえも決まっていないのだから、できっこないのです。

石原:それは用地が先ですよね。

武藤:用地が先です。そういうことをすぐに上げれば、みんながそうだということになって動くはずなのだけれども、なんだか締まりのない議論になってしまっていますね。


石原:用地は、具体的にどこ、という話なのですから。
武藤:もう現場の判断ですよね。

石原:阪神淡路大震災の時に、非常に幸いだったのは周辺に仮設住宅を建設する用地があったことで、どんどん建設できました。しかし、今回の被災地はみんな湾のところで、今まで生活していたところはみんな水浸しでしょう。だから、高地に作らなければならない。ところが地形を見ればわかるように、そのままで適地というのはあまりありません。削って作るのか、少し奥に入って作るのか、それは現地判断でどんどん具体的な議論をしたらいいのですよ。

増田:農地法の手続きとか土地計画法の用途地域の手続きがあります。だから思い切って仮設住宅は最大で2年間と法定されていますが、仮に、今回特別に最大3年間延ばすにしても、その間だけはそういう手続きはフリーにする。農地の提供者本人もいいと言っているわけですから、その間のお金は払って、その人たちの補償はし、手続きは一切いらないという風にすると、もっとパッと決まると思います。
 この際、思い切って手続きを全部、災害復旧ということで用地を決められるようにするということを、決めればいいと思います。

工藤:今は、被災地の復興のためには地域指定などが必要ですが、建物を作ることは建築基準法で縛っている段階です。それも時間的な制限があります。

増田:だから、私権制限につながる部分があるので、根拠は何かということを明示する必要があります。そういう手続きについては全部無しにしてもいいという根拠をきちんと今決めることが必要ではないかと思います。

武藤:阪神淡路大震災の時は、16本の法律をつくりましたが、現行の法規制を緩めるということが、かなりの部分ありました。法律で決まったことは、法律で緩めればいいわけです。それを、すぐにやらなければいけない。

工藤:ただその法案が今回はまだ通っていない。

石原:いわゆる、特区的な発想で幅広く認めたらいいのです。この期間は、農地法にしても都市計画法にしても、そういういうものの制約を、この期間は仮設住宅については取り払うということをすればいいのですよ。

増田:仮設住宅についての役割分担で言うと、資材はお金を含めて、国がきちんと用意をする。発注は県になります。できあがった仮設住宅は県の住宅になります。但し、用地手当は市町村ということになっています。ただ、国の方は、色々と言われるので、資材はきちんと用意したけど、遅れているのは用地手当ての部分で、これはやはり地元の問題だという、そんな雰囲気になりつつあります。しかし、現実にはなかなかそれでは動きません。お互いにどんどん前に出ていって、用地手当の分については、手続きの規制を緩和するから、どんどんやれという風な形で市町村の後押しをすれば、市町村はもっと見つけやすくなると思います。


現場主義の復興をどう考えるか

工藤:さっきの議論だとちょっとまだ深まっていなかったのですが、地方と国、政府との復興計画の進め方の問題はどうすればいいのでしょうか。
 宮城県は復興委員会を作っていますよね。阪神淡路大震災の時は、兵庫県がつくっていました。やはり、地方がかなり動いて、それを政府がバックアップして実行させた。今のこの動きというのは、確かに、阪神淡路大震災の時には神戸市がありましたから、財政力の弱い東北の場合は少し違うという問題はあるのですが、地域を主体にしながら国が一緒にサポートしてやっていくというこの仕組みは、どういう風に実現すればいいのでしょうか。

石原:私は基本的には具体的な計画というのは、県の計画をベースにすべきだと思います。県はもちろん市町村の意見を聞きながら作っているですから。東京で決めるのは大きな方向付けで、県が決めたものをバックアップするってことに徹したらいいのですよ。
 東京で考えている通りにはいきません。その点は、阪神大震災の時は両方平行して、やっていました。現地の復興会議で議論したことを、神戸市長や兵庫県知事など同じメンバーが国の会議にも入っていましたから、そのまま持ってきてそこで議論したわけです。

工藤:復興構想会議は30人くらいいる中で、地元関係は3人程度しかいない。

石原:復興構想会議に知事は入っています。ただ、具体的に審議をどういう風にやっているのかは分かりませんが、一定の時間を与えられて発言しているだけでは不十分です。

武藤:工藤さんがおっしゃったように、新しい組織を作るのは時間の無駄だし、多分、機能しないのではないでしょうか。今ある行政機構は、県・市町村とそれぞれの省庁であり、それらが密接なチャネルがあるわけです。その日本のシステム、チャネルの強さはすばらしいものだと思います。要するに、現場の力は、アメリカやヨーロッパと比べても、私は、はるかに日本の方が強いと思う。その部分をどうも活かしていない、という感じがします。

石原:従来フルに動いていたものが、今回は動いてない。やはり政治主導ということが、災いしているのですよ。要するに、県や市町村や現場の色々な声を、すぐ各省の担当者に届けて、取り上げればいいのですよ。政務三役会議で仕切ってからというのは、時間の無駄ですよ。


被災地で広がる国との距離感

工藤:阪神淡路大震災の話を見ていると、そのやり方、例えば、県民との意見とかね、住民に対してフィードバックしていました。地域のみんなが色々な情報を共有して考えていく。そういうプロセスを大事にしていたのですが、今はそんな余裕が無い状況なのですが、やはりそういう視点も必要ですよね。

武藤:我々の時は、各省が現場とすぐに議論して、何が必要かということで、中央の本部にすぐに上がってきて、現場の議論をすぐに聞いていたわけです。これは、従来のチャネルを使えば、ただちに上がってくるわけです。

工藤:増田さんはどうですか。地域と政府との関係。

増田:今、被災地の人たちの空気は、とても復興を議論するような雰囲気ではありません。こちらで復興構想会議の資料とか色々貰って見ていますけど、向こうに戻りますと、とても復興を言い出せる状況ではありません。復興会議の議論が、もの凄く遠くに見えてしまいます。やはり、もっと近づける必要があると思います。

石原:目先の問題を早く解決することが必要ですね。

増田:もう1つは、東北は非常に共助の仕組みとか、共同体の力が強いので、むしろ公的なことでやれることの限界を早く示せれば、後は共助でやり抜くしかないという覚悟が決まります。そういうことがやはり必要ではないでしょうか。


石原:何がネックになるか、どういうことについて法律の特例を設けたらよいか、担当者はよく知っているわけです。彼らを一緒に議論に加えれば、どうすればいいかという案はすぐに出てきますよ。やはり政治家は距離を置いて物事を見ていますから、どこをどうしたらいいか、という話にすぐにならない。

工藤:時間も差し迫ってきましたので、最後に一言ずつお願いします。僕は、本当に今の政権、今の政治の仕組みで、復興に期待できるかということを、非常に心配にしているわけなのですが、東北、日本の復興を進めるために、みなさんが今思ってることを、一言ずつお願いしたいと思います。

石原:くどいようですけど、今回はこういう大災害ですから被災者の立場に立って、復旧にしても復興にしても、スピードが大事なのです。そのためにはどうしたらいいのか。私は、国民の力を結集することが重要だと思います。具体的に言うと、政も官も一体となって必要な事務をやる、ということに徹したらいいと思います。役人諸君は、何が必要か、何が不要なのかということを、よく知っているわけです。彼らの意見をどんどん取り入れたらいいのですよ。まず政治が決めるというスタイルではなくて、彼らと一体でやってもらいたいと思います。それがポイントですね。


武藤:私の立場では1つ。今日は話題に出ませんでしたが、結局、復興財源の問題に最終的にはなると思います。まだ、早いとは思いますけれども、少なくともむしろ政治は、そこをまず頭の中において行動してもらいたいと思います。おそらく赤字を垂れ流すような安易なやり方でやれば、財政問題が色々な形で起こってきて、復興事業の円滑な遂行さえも困難になりかねないと、私は思っています。したがって、こういう時の国民連帯というものをどうやって示すか、ということです。昨年、オーストラリアで大洪水がありましたが、あの時に所得税の増税をしました。災害に対してどうやって、国民が将来に負担を残さずに処理していくかということを、政治がみんな真剣に考えているわけです。増税が大変だというのはわかりますけれど、しかし、どういう形かはともかくとして、最後はそれを国民連帯で負担をしていく、政治がきちんと説明していくことが必要なのではないかと思います。

工藤:この前の第一次補正は。その点を先送りしていますからね。
石原:財源の問題こそ政治の出番ですよ。

工藤:それでは、最後に増田さんお願いします。


日本や世界に役立つ復興を

増田:岩手県で知事をしていた立場から言えば、東北の復興は日本だけではなくて、世界に役立つような、そういう復興にしなくてはいけないなと思います。現実にはサプライチェーンが、日本だけではなくて、世界で止まっている。必ずあそこの復興を成し遂げる。それは日本の為にもなるけれども、世界のためにもなる。そういう絵をきちんと描いて、それを復興に結びつける。そういうつもりでこれから復興していかなくてはいけないと思います。

工藤:もう時間との戦いです。これをやりきらなければいけないと思いますので、そういう意味で政府には期待したいし、僕たちもその動きをきちんとした形でチェックをして、色々な議論をやっていきたいと思っています。
 この言論スタジオは、次は5月18日にやることになっています。今度は、緊急医療の問題の総括を含めて、今、被災地の医療でどういうことが問われているのか、ということを議論したいと思います。引き続き、みなさん、よろしくお願いします。
 今日は、ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

報告・動画 第1部 第2部 第3部


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