「東京会議2024」ワーキングディナー


 3時間にわたる非公開会議①に続いて行われたワーキングディナーでは、齋藤健・経済産業大臣がゲストスピーカーとして登壇。「リアリズムに裏打ちされた、自由で公正な国際経済秩序への新たな道筋」と題した講演が行われました。


第二次世界大戦以降で、グローバリゼーションが直面する最大の危機


 齋藤大臣は冒頭、「世界全体の貿易・投資は、コロナ禍で大きく落ち込んだが、足下では再び伸長傾向にある」とした上で、「地政学リスクや一部の国の不公正措置等が、各国の保護主義を助長している。法の支配に基づく国際経済秩序が揺らぎ、第二次世界大戦以降で、グローバリゼーションが直面する最大の危機を迎えている」と問題提起しました。

 その背景として、米国内での自由貿易懐疑論の台頭が示すように世界各国で格差が拡大し、自由貿易の恩恵を受けられない層が増加していることや、貿易制限措置を取る国が増加していることなどを挙げつつ、今年2024年に主要国が「選挙イヤー」を迎えることに着目。「各国で保護主義的な政策を掲げる勢力が伸長すれば、国際貿易と経済秩序にさらなる悪影響が及びかねない」「ルールに基づく貿易秩序が、このままではルールなき弱肉強食の世界になってしまう」などと強く懸念しました。

 その上で齋藤大臣は、日本をはじめとして西側各国が過去30年間、ルールに基づく貿易秩序をつくり上げることに注力してきたことを振り返りながら、「その結果、自由貿易による恩恵を誰もが享受できるような世界に繋がった。旧東側陣営も自由主義経済に移行し、WTOへ加入したことはその証左だ」と意義を強調。

 しかしその後、「WTOを中心としたルールメイキングが上手くいけば、それが理想的であったが結局そうならなかった」と通産官僚としての経験を振り返りつつ、その現実を受けた日本の方針転換について説明。「それを補完するために、TPP参画と同時に、RCEPや日EUEPAを推し進めるなどして、重層的に貿易自由化とルールづくりを進める戦略をとった」とその取り組みを紹介しました。

 もっとも、この自由貿易体制下では、「一部の国の不公正・非市場的な措置、さらにはそうした措置を通じてつくり出した経済的依存関係が"武器化"するケースもある」などと新たな課題を指摘しつつ、「自由で公正な国際経済秩序形成は大事だ。ただし、その在り方は時代によって変わるべき。リアリズムをベースに、今の時代だからこそ求められる道を模索するべきだ」と主張しました。


GX・エネルギーという切り口から、東アジアに新たな国際枠組みの構築を



 齋藤大臣はその上で、今後の日本のアクションとして「WTO体制の維持と改革推進」「米国をアジアにエンゲージさせるリージョナル・アーキテクチャの構築。IPEF や、サプライチェーンやデジタル等の分野における限定的なメンバーとの貿易協定締結推進」「産業政策とその協調」などを列挙。

 特に産業政策については、「現在の自由貿易体制下で生じた歪への手当を行いながら、各国が有する資源・技術を基に成長・発展するための新しい"勝ち筋"が必要だ」との問題意識を示しつつ、すでにGX(グリーン・トランスフォーメーション)や強靭で信頼性あるサプライチェーンの構築など経済安全保障の分野では、様々な産業政策が講じられていると解説。同時にここで重要なのは、「こうした課題への手当は、一国の産業政策だけでは難しく、各国の産業政策を協調させていくための新たなルールが必要だ」と指摘し、「そうしたルールをもとに新たな国際経済秩序を構築していく。その時代の入り口に我々は立っている」との認識を示しました。

 こうした状況下での日本の具体的取り組みとしては、米欧などの同志国だけでなく、「韓国、グローバルサウス諸国のパートナーともオープンに考え方を共有し、産業政策面での協力を戦略的に進めていきたい」と説明。

 また、岸田総理が提唱する「アジア・ゼロエミッション共同体構想(AZEC)も、こうした産業政策の延長線上にある一つの重要な取り組みだ」と解説。戦後、欧州はヨーロッパ石炭鉄鋼共同体を設立し、それが現在の欧州連合に結実しましたが、地域の脱炭素化というテーマの下、「日本とASEAN諸国は、50年前の欧州と同じ入り口に立ったのではないか」と昨年末の日ASEAN首脳会議に参加した際の実感を語りつつ、「GX・エネルギーという切り口から、この東アジアに、新たな国際枠組みを構築していきたい」と意気込みを語りました。


共通の理念に基づくグローバルマーケットの設計こそ、課せられた歴史的な使命


 齋藤大臣は最後に、「時代の変化の中で、新たな形のルールに基づく国際経済秩序を構想していくことが必要であり、今がその重要な転機だ。道を間違えてはならない」と改めて強調。そして、「普遍的なルールとしてのWTO やEPA の重要性が薄れることはないが、それらに加えて、自由貿易の歪みを看過することなく、各国と産業政策の協調を進め、共通の理念に基づくグローバルマーケットを設計するという『新たな道』を追求しなければならない。我々にはそうした歴史的使命がある」と居並ぶ各国のパネリストにも覚悟を求めました。

 講演後、質疑応答を経て参加者間で意見交換が行われました。日本政府が取り組む経済安全保障やアジアにおける自由経済への取り組みも含めて、自由主義経済をどのように守っていくのか、将来に向けてグローバル経済をどう再建するのか、経済安全保障とどうバランスを取るのか、といったテーマについて、齋藤大臣を交えながら、明日の公開フォーラムの前哨戦のような活発な議論が展開されました。