相互接続された世界では、
違いではなく共通項を見つけながら協力すべき

お集まりの皆様、閣下、御来賓の皆様。私は基調講演を行うことに難しさを感じています。これまでの方が皆パーフェクトなスピーチをなさいました。追加できることがなかなか見つかりません。ですが、例えばウクライナ戦争においても、気候変動においても、どちらか側に立つということなく、私の見解を共有させていただきたいと思います。
一変した世界の経済的な力関係
銀行界で四半世紀ほど前に役員を務めておりました。その経験もあり、経済の現状からお話ししたいと思います。
まず、GDPです。名目GDPの世界第1位はアメリカです。非常に巨大です。2022年の数字では日本の5倍近いです。一方、中国は昨年18兆米ドルに迫っています。購買力平価(PPP)ベースGDPでは30兆米ドルになっています。アジア各国にバンカーとして駐在いたしましたが、その頃に中国が日本の3倍の経済規模を持つようになるとは想定もしませんでしたが、現在そうなっています。
そして、インドは2022年の名目GDPが約3兆3800億米ドル、PPPベースでは11兆米ドルに達したと報じられています。名目ベースで見ても、イギリスを超えています。ヘイグ卿も現職でいらっしゃった頃に、インドがGDP規模でイギリスを追い越すことになるとは夢にも思わなかったのではないでしょうか。ですが、それが現実です。ドイツは4兆米ドル、ロシアは2兆2000億米ドル、我が国インドネシアは少し小さく1兆3000億米ドル規模です。しかし、それなりに大きくなっています。
インターネットやソーシャルメディアによる世界的な情報流通が進んでいる
2つ目の問題は、先程ヘイグ卿もおっしゃっていましたけれども、インターネット、そしてデータが自由に流れている、自由な流通をしているということについてです。私の娘の世代の人たち・・・20代後半、30代前半の人たちは、インターネットやソーシャルメディアの利用に多くの時間をかけています。私の子どもたちは、テレビ中毒ではありません。私や私の妻はまだテレビ中毒ですけれども、私の娘の世代はそうではありません。タブレットやスマートフォン、ラップトップ、コンピュータなど様々なデバイスを信じています。それは過去20年~30年間で、インターネットを通じて世界的に自由に情報が流れるようになったからです。私たちの世代にとっては理解することがとても難しいことも多いですが、自由な情報の流通によって、人々がよりグローバルな課題に触れやすくなってきた面もあります。
違いではなく共通項を重視しながらグローバル課題に取り組み、人類共通の繁栄実現を
こうしたことを踏まえながら、ヘイグ卿が6つの提案をされましたので、私も倣っていくつか提案をしたいと思います。
まず、グローバルサウス、そして重要な途上国・・・サハラ以南のアフリカ諸国、中東、アフリカ北部、あるいは南部への重要な途上国とともに集まって議論をするということです。すでに申し上げた通り、途上国の経済規模はどんどん拡大しています。世界の経済的な力関係の変化を反映しながら、多国間関係のパラダイムも見直すべきです。その上で、議論し、共通利益を模索する必要があります。
ただし、そこでは違いにフォーカスしすぎるべきではないということも提案したいと思います。1つ例を挙げましょう。日本は民族的に分裂をしているということはなく、90%以上同じ民族から成り立っています。しかし、インドネシアの場合、800ほどの民族がいます。国内でも自由の尊重の仕方が違うかもしれません。同じ自由という価値でも、日本と同じ形をインドネシアで擁護しようとすると、社会的な基盤によっては異なる反応をするかもしれません。工藤代表は自由の価値観は議論の余地がないとおっしゃいましたが、地域によって、そして文化によって違うかもしれません。
ですから、共通の利害を見つけ出し、違いにはフォーカスをしないでいただきたい。自由の価値観ということについては特にです。法の支配という原則、人権。そういった原則については私たちもサポートしています。
2つ目に、民主主義国家は相互接続する世界の中では、より責任を果たさなければいけないということを認識する必要があり、したがって、国内の利害以外にも目を向けなければならないということです。なぜそう申し上げるのかと言いますと、過去10年、世界各地でポピュリスト的なリーダーがよく見られるようになりました。G7の国々においてもです。しかし、我々はグローバルな課題に責任を持たなければなりません。国内の利害だけに依拠してはなりません。
3点目に、公平な対話をして、相互理解を深めることがとても必要です。先進国、それから新興国においてもです。ロシアがサウスに入るかどうかなど、難しい問題がありますので、ここではグローバルサウスという言葉はあえて使わないようにしたいと思います。
そして4点目に、援助を行うことです。ただし、これまでと同様の援助のあり方ではもはや十分ではないかもしれません。これからの国内政治の鍵を握る新世代であるY世代やZ世代にとって魅力が薄れてきているかもしれません。利益を共有し、ともに公正な繁栄を目指していく、先進国だけではなく、人類共通の繁栄を発展させることに重点を置いていただきたいと思います。
5点目に、皆さんも同意してくださると思いますが、私たちは一つの惑星、一つの家に住んでいます。少なくとも私が生きている間は、ほかの星に移住するということはできないでしょう。若い皆さんの生涯の間にも、それはおそらく不可能でしょう。ですから、公平に責任を持って共通のグローバル課題に当たるということが必要です。その一つは気候変動、そしてもう一つは平和の問題です。
最後に申し上げたいのは、G7諸国あるいはG20が、世界においてリーダーシップを発揮するということであれば、模範となるようなリーダーシップを発揮していただきたいということです。グローバルサウス、あるいは新興国の多くの住民は、「G7は掲げている政策と、実際の行動が異なるのではないか」と感じているかもしれないからです。御清聴ありがとうございました。