安倍政権2年実績評価【政治・行政・公務員改革】評価結果
昨年:2.7点
ポイント
【政治制度改革】
・政府として議員定数の削減のビジョンを示せたか
・議員定数の削減に向けた工程を国民に示したか
・議員定数の削減に向けて具体的にどのような進捗があったか
【行政改革】
・省庁再編を含めた行政改革について、そのビジョンを国民に示したか
・行政改革に向けた道筋を国民に説明しているか、
・行政改革に向けた取り組みはどのくらい進んでいるのか
【公務員制度改革】
・公務員制改革について、その目的を国民に対して示したか
・改革に向けた手順を国民に説明しているか
・それらの取り組みについて進捗はどうなっているか
【政治改革】
2012年秋、議員定数の削減について、自民党・公明党・民主党の3党が合意した。3党の合意文書では、議員定数の削減を「次期通常国会終了までに結論を得た上で必要な法改正を行う」とされた。また、2012年の衆議院選挙における自民党のマニフェストでも同じ趣旨の内容が記載された。
しかし、その通常国会では、衆院小選挙区の「一票の格差」を是正するため、議席数を5つ削減して定数は増やさない「0増5減」という調整策が決まったのみであった。そのような中、2012年衆院選の「1票の格差」について、最高裁が「違憲状態」との判決を出したことを受け、2013年11月、自民、公明、民主3党は、衆院選挙制度改革は、現行の小選挙区比例代表並立制を維持し、先に定数削減から進める方針を確認した。ただ、定数削減の方法について各党の考えが大きく食い違う状況が続いていた。
評価の視点として、これまで安倍政権が議員定数について、そのビジョンをしっかりと示したか、また、改革に向けた手続きを国民に説明しているか、それらの取り組みについて進捗はどうなっているか、といった観点から評価した。
【行政改革】
行政改革は、変容する国民ニーズへの対応、危機的な財政状況、社会保障・税一体改革(消費税増税)を前提とした「身を切る改革」などの現下の課題を踏まえると、行政機能や政策効果を最大限向上させ、政府に対する国民の信頼を得るためにも、きわめて重要な取り組みとなる。
2012年の衆議院選挙の際に、自民党が出した『総合政策集J-ファイル』には、「省庁再々編といった中央省庁改革を政治主導で実行。行政を効率化・最適化するための改革の計画立案、実行、さらに改革進行の監視と定期的な機構や制度の点検をする。『行政改革推進会議』を設置し、発足から1年以内に改革計画を立案、3年以内に立法措置」(要旨)することが記載されている。
安倍政権は、2013年3月に首相官邸に行政改革推進会議を設置し、「行政の無駄撲滅」「特別会計改革」「独立行政法人改革」の3つのテーマについて議論が進められた。特に「独立行政法人改革」については、今回の改革を「集大成」として位置づけ、これまで議論と廃案を繰り返してきた独立行政法人改革に終止符を打つことを目指していた。そして、2013年12月には、独法の組織を見直し、6独立行政法人を三つに再編する方針を固めるなど大きな動きがあった。ただし、「研究開発法人」では改革の結果制度が複雑になったこと、「UR都市機構」改革については大胆な改革に踏み込めなかったことなど、課題は残されていた。なお、中央省庁改革については特段の進捗はなかった。
評価の視点として、これまで安倍政権が省庁再編を含めた行政改革について、そのビジョンを国民に対してしっかりと示したか、また、その改革に向けた手順を国民に説明しているか、それらの取り組みについて進捗はどうなっているか、といった観点から評価した。
【国家公務員制度改革】
2012年の衆議院選における自民党のマニフェストには、「『公務員制度改革基本法』を踏まえて、改革を断行します」と書かれている。この「公務員制度改革基本法」とは、2008年に成立した法律のことであり、この基本法では、官僚主導から政治主導への転換、各省縄張り主義の打破、キャリア制度の廃止を三本柱とし、幹部人事の内閣一元管理などを打ち出した。この基本法は改革の枠組みを定めたものであり、実際の改革には、国家公務員法等の個別法の改正が必要であった。麻生政権以降、関連法案の提出と廃案を繰り返し、基本法の具体化には至っていなかった。
第2次安倍政権では、2013年6月28日に、国家公務員制度改革推進本部で「今後の公務員制度改革について」を決定し、安倍政権としての公務員制度改革に取り組む姿勢を明確にした。その後、中央省庁の幹部人事を一元管理する「内閣人事局」を新設する国家公務員制度改革関連法案を2013年11月の臨時国会に提出した。しかし、他の法案審議が優先され、成立には至らなかった。安倍政権は2014年の通常国会での早期成立を目指し、5月の大型連休後に内閣人事局を設置する方針を示していた。
評価の視点として、これまで安倍政権が公務員制改革について、その目的を国民に対して示したか、また、その改革に向けた手順を国民に説明しているか、それらの取り組みについて進捗はどうなっているか、といった観点から評価した。
【政治・行政・公務員改革】個別項目の評価結果
2点(5点満点)
昨年:2点
2012年12月の衆院選後、与野党各党は選挙制度改革の議論を始めたが、与野党協議は30回以上に及び、議論は難航した。難航した理由は、小選挙区のほとんどに議席を持つ自民党が比例代表の30削減を提示したのに対して、比例代表の割合が高い野党側は小選挙区削減を主張するなど、意見が対立したためである。
その後、衆院議院運営委員会は2014年6月、衆議院議長の諮問機関として「衆院選挙制度に関する調査会」設置を議決し、定数削減の議論は第3者機関による調整に委ねることになった。2014年7月29日に委員(座長:佐々木毅氏)が確定し、9月より議論をはじめている。
7月29日に委員確定を発表した際に、伊吹文明衆院議長は最終答申の時期について「2016年12月の衆院議員の任期を考慮していただく」と述べた。2014年10月9日、調査会座長の佐々木毅氏は、「今年中かけて、幅広い意見集約に努めたい」と述べ、年内をめどに方向性を示す意向を表明した。
しかし、2014年11月18日に安倍首相が衆議院を解散することを発表し、今回の衆議院選挙には定数削減の実施は間に合わなかった。
評価
以上のように、議員定数の削減に向けて、与野党で議論を開始したものの、当初結論を出すことを想定していた2013年の通常国会では議論がまとまらず、最終的には第3者機関に議論を委ねた。しかし、その結果を見る前に、解散総選挙となってしまった。
また、議員定数削減に関して、削減理由として出てくるのは「議員自身が身を切る改革を必要がある」というものばかりである。しかし、単純に身を切るだけでは、議員一人ひとりの負担が重くなり、国会が機能不全に陥る可能性がある。議員の数を減らし、かつ、政治の質を向上させるとするなら、衆参二院制の仕組み、選挙制度の仕組みなどを抜本的に変える必要がある。こうした点を踏まえて、政治制度改革のビジョンを国民に示していく必要がある。
3点(5点満点)
昨年:3点
中央省庁の再編
自民党が筆頭に掲げた中央省庁改革については与党内部の検討段階にとどまっており、政府としての取組に至っていない。現在、中央省庁再編問題に取り組んでいるのは、自民党の行政改革推進本部である。2014年11月13日に原案をまとめ、組織の肥大化が指摘される内閣府と内閣官房について20業務を廃止・縮小することを提案した。早ければ来年の通常国会に関連法案を提出する予定であるが、安倍政権としての動きにはなっていない。
行政改革推進会議での取り組み
2013年2月に行政改革推進会議が設置され、①「無駄の撲滅(行政事業レビュー)」、②「特別会計改革」、③「独立行政法人改革」を通して主に行政業務の効率化・最適化、独立行政法人制度改革に関する議論とその業務が進められた。
①行政事業レビュー
行政事業レビューについては、2013年11月に実施した10府省55事業の点検結果、2014年度予算編成で概算要求から計4,574億円の歳出削減を確認した。特別会計を含めると、総額4,789億円の削減となった。2014年11月12日から14日まで、14分野47事業(2015年度概算要求額16兆800億円)を点検している。
歳出削減については、一定の効果をあげているものの、2014年2月6日に成立した13年度の5.5兆円の補正予算の中で、削減されたはずの約3,600億円の事業が復活していると国会で批判されており(実際には削減された事業ではなく、類似名の事業が補正予算で計上されていた)、当初予算に比べ、補正予算のチェックが弱いことが指摘されている。
また、行政事業レビューの方針および進め方について改善が図られている。そもそも、民主党時代に実施されていた「事業仕分け」のように削減を一方的に行うのではなく、「締めるところは締め、伸ばすべきところは伸ばすべき」という指摘が、行政改革推進会議でなされてきた。これを受け、2013年に一旦は、「廃止」を「抜本的な見直し」に統合したが(正確には「廃止」の判断は可能で現存していた)、府省側の対応が芳しくなかったことから、2014年には「廃止」枠を復活させた。他方で、「伸ばすべきは伸ばす」の対応として、業務改善優良事例が選定され、行政改革推進会議において、総理大臣に報告された。
また、行政事業レビューの対象として、13年度からは公益法人などに委託金として拠出された基金の点検が実施されたが、14年度からは地方自治体への補助金で作られた基金も点検に加えられ、対象範囲を拡げている。ただし、地方自治体向け基金4000、公益法人向け100超という相当数の基金をいかに点検してゆくのかは今後の検討課題である。また、基金の無駄遣いや返納金の大きさ(6年間の基金拠出金が6億円超、同期間の返納額は1兆円超と大きく、新たな埋蔵金と批判される可能性もある)は、以前より繰り返し、国会などの場で指摘されてきたが、抜本的な改善に至っていない。基金問題を抜本的に解決するためには、行政事業レビューによる事後評価だけでは不十分で、補正予算のあり方や、基金の査定など財務当局による予算のつけ方を見直す必要がある。しかし、基金が予算編成の硬直化の予防や柔軟性を担保するための便利な手段として戦後、長らく用いられてきたという経緯や、補正予算問題と表裏一体の関係にあるため、政治と行政機関がどこまで本気で問題解決に取り組もうとしているのか定かでない点がある。
②特別会計改革
特別会計改革については、財政の効率化・透明化を図ることを目的に、2013年11月15日に「特別会計に関する法律等の一部を改正する法律」が成立した。この法律に基づき、2014年度より特別会計とその勘定の廃止・統合等を実施し、2013年度と比較し、特別会計の数は17から14に、勘定の数は51から34に減少した。
③独立行政法人改革
独立行政法人改革については、2014年4月15日に「独立行政法人通則法」の改正法案を国会に提出し、6月6日に参議院において採決され、13日に公布された。この法律により、組織見直しが行われることとなり、具体的には、19法人を8法人に統合、2法人を廃止、1法人を特殊会社化するなど100法人を87法人に削減する予定である。
独法改革に関連して、多額の負債を抱える独立行政法人都市再生機構(UR)の改革については、行政改革推進会議ワーキンググループが2013年12月18日にUR改革の報告書をまとめ、その骨格が改革基本方針として12月24日に閣議決定された。国土交通省と都市再生機構は、それに基づき、第三期中期目標を策定し、2014年3月31日に発表した。今後、巨額の負債、膨張した関連会社数、民業圧迫の問題、住民の権利主張や政治的配慮から家賃値上げが困難な制度になっている問題などの解決が実際にどこまで進むのかを注視する必要がある。
研究開発系の独立行政法人については、その業務の特性に対応して「国立研究開発法人」制度が設けられ、さらに、世界トップレベルの研究成果を生み出す業務を担う法人として「特定国立研究開発法人」を別法で設けることが2013年12月24日に閣議決定された。この制度は、総務省による所管に、首相(科学技術担当)による所掌部分を新たに加えた制度となったため、運営を複雑にし、責任の所在がわかりにくくなるだけでなく、管理運営のための行政コストを増やす可能性がある。
なお、「特定国立研究開発法人」に関する法案は、2014年の通常国会で提出されることで進められていたが、「特定国立研究開発法人」の候補団体であった理化学研究所がSTAP問題を起こし、法案の提出は見送られた。臨時国会での提出も見送られ、当初予定していた2015年春からの設置も先送りとなった。
評価
行政改革推進会議が設置され「無駄の撲滅(行政事業レビュー)」、「特別会計改革」、「独立行政法人改革」を通して「行政を効率化・最適化するための改革の計画立案、実行、さらに改革進行の監視と定期的な機構や制度の点検」は、ほぼ予定通りに進められカタチを整えている。ただし、カタチを整えたことが、政策目標(アウトカム)達成に寄与しうるかどうかは定かでない。
他方で、「中央省庁改革」については、大きな動きにはつながっておらず、その見通しも立っていない。
4点(5点満点)
昨年:3点
安倍政権は、2013年6月28日に、国家公務員制度改革推進本部で「今後の公務員制度改革について」を決定し、安倍政権としての公務員制度改革に取り組む姿勢を明確にした。この中では、「幹部人事の一元管理」「幹部候補育成課程」「内閣人事局の設置等」「国家戦略スタッフ、政務スタッフ」「その他の法制上の措置の取扱い」に取り組むとした。その後、2013年11月に関連法案が国家に提出され、2014年4月11日に「内閣人事局の設置」を柱とする改正公務員制度改革関連法が成立した。
幹部人事の一元管理と内閣人事局の設置
「内閣人事局」については、政府は2014年5月30日に設置した。内閣人事局では、審議官級以上の約600人の人事決定が行われる。幹部候補者名簿は、閣僚による人事評価を踏まえ官房長官が作成し、これに基づき閣僚が候補者を選び、首相や官房長官が加わる「任免協議」で最終的な人事が決まる。また、内閣人事局では、昇任試験や研修を担当し、また、職員の人数や給与を決める「級別定数」も管理することになった。これらの役割を内閣人事局が担い、人事管理機能を強化することにより、政府主導を実現しようとする狙いがあった。
しかしながら、幹部候補者の名簿作成の際に「あらかじめ人事院の意見を聴取」することになっており、また、「級別定数」についても「人事院の意見を求め、尊重する」となっており、人事院が関与する余地が残っていることが、政治主導の障害になるのではないかと懸念が出されている。
しかし、現在のところ安倍政権は政治主導の印象を与えている。内閣人事局の初代人事局長には、警察官僚出身の杉田和博官房副長官が就任すると見られていたが、加藤勝信・衆議院議員を抜擢した。また、2014年7月4日の幹部人事では、安倍政権の政治主導により、法務省と経産省で初めての女性局長が誕生している。(法務省人権擁護局長・岡村和美最高検検事、経済産業省貿易経済協力局長・宗像直子通商政策局審議官)局長・審議官級の女性幹部をこれまでの8人から15人に増やしている。
幹部候補の育成
「幹部候補を育成するシステム」については、2014年8月29日に、政府は中央省庁の幹部候補育成の統一基準をまとめ、施行されることとなった。これまでは各省が独自に幹部候補を養成してきたが、「内閣人事局」の設置に合わせ、統一基準をつくった。
各大臣は、課長補佐級までを対象に、入省から3~15年目程度の職員を選出し、各府省庁に設ける「幹部候補育成課程」に参加させ、首相や各府省などが主催する研修や自己研修を受けさせる。対象者には他省庁や民間企業、国際機関への2回以上の出向を義務付けている。
国家戦略スタッフ、政務スタッフ
2014年4月に成立した国家公務員制度改革関連法では、国家戦略スタッフは既存の「総理補佐官」をもって置き換えることとなった。また、政務スタッフは各省1人の「大臣補佐官」とした。大臣補佐官には具体的な権限はなく、主な業務は大臣への助言となる。
大臣補佐官の起用は、2014年9月3日に成立した改造内閣から実施された。しかしながら、補佐官への登用は、少数にとどまっている。塩崎恭久厚生労働相における経済同友会の菅原晶子執行役、石破茂地方創生担当相における伊藤達也元金融担当相、竹下亘復興相における副復興相を務めた谷公一氏、の3例である。
副大臣、政務官との役割分担がどうなるのかが課題となっており、指揮系統の混乱を懸念もある。政治主導を実現する手段として、今後どう運用されるか見ていく必要がある。
評価
2008年位に成立した「国家公務員制度改革基本法」を踏まえた改革は進んでおり、6年越しで「改正公務員制度改革関連法」を成立させ、内閣人事局を設置し、幹部人事の一元化を実現させたことは評価に値する。また、幹部候補の育成や大臣補佐官の設置など基本方針で想定した政策は動いている。しかしながら、何を行うための政治主導なのか不明確な点もあり、今なぜ公務員改革なのかについて、もっと国民に説明する必要がある。
各分野の点数一覧
評価基準について
実績評価は以下の基準で行いました。
・未着手、断念
・着手して動いたが、目標達成は困難な状況になっている
※理由を国民へ説明していなければ1点減点としました。
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