総論
東日本大震災の復旧・復興において、主に、被災地の復旧事業を早期に実現する政策がどのように動いているのか、そして福島第一原発の廃炉への道筋など、福島の再生をどのように進めようとしているのか、という点が主な焦点となる。
12月4日、東日本大震災から1000日を迎えた。安倍政権は民主党政権の失敗を学び、高台移転、土地区画整理、がれき処理などについてこれまでの目標を適宜見直しながら、加速を図ろうとしている。また、東京電力福島第1原発問題では、除染、廃炉、汚染水対策など国主導で対処しようとしていることもあり、「復興分野」においては個別の政策はそれぞれ動いており、一定程度の成果は出ていることから比較的高い評価になった。一方で、個別の政策は動いているものの、どのような復興ビジョンを描き、その実現に向かってどのように対処していくのか、という大きな方向性は見えてこない。地域の復興は地域が考えるという立場から復興ビジョン・復興計画は被災自治体によって策定されているが、広域大震災と原発事故という国家レベルの有事に直面し、当該政策及び目標の体系そのものが本当に被災地の復興のために寄与するものかどうか、そしてその政策が実現した際に、現政権はどのような復興のビジョンを描いているのか、そういった点はあまり見えないことは、評価を下げる点である。
次に、原発事故からの復興についてである。もちろん、前述したとおり、除染、廃炉、汚染水対策に対して国主導で対処しようとしており、それぞれの対策は進んでいる。
しかし、原発の事故という歴史的にも未曽有の事故により、福島の避難地区では雇用機会としての原発及び関連産業が失われ、広域生活圏の中心である自治体の帰還が困難な状況にあり、広域的な経済基盤・生活基盤が崩壊してしまった。現在進めている除染と東電による補償金対策を進めても簡単な復興・再生は難しいかもしれない。仮に復興・再生ができたとしても、もともと基盤が弱かった農業・畜産・特用林産物・漁業がなどの地域産業は風評被害も手伝って復興のめどが立っていないのが現状である。
そういった現実を踏まえながら、やはり国は原発事故に見舞われた福島の復興ビジョンをどのように描き、進めようとしているのかを示すと同時に、国民に説明しなければならないと考えるが、現時点でそういうビジョンは見えてこない。やはり、この点において、評価を下げる点である。
安倍政権1年実績評価 個別項目の評価結果 【復興・防災】
一方で、政府は復興事業の進捗の遅れを加速化するために、13年3月の復興推進会議において「住まいの復興工程表」を公表した。13年9月末時点で高台移転などの防災集団移転促進事業については、工程表で示された 332 地区中の全てにおいて事業着手の法定手続である大臣同意に至り、土地区画整理事業についても約 9割は事業化の段階に達しており、現時点では目標に向かって動いている。
復興庁公表の指標(11月公表)では、二重ローン対策655社となり、融資実績約6.22兆円、保証実績9.5兆円となるなど、一定の成果は上がっている。しかし、中小企業庁によると、大震災による津波及び原子力発電所事故の地域に立地していた中小企業数が約4万社、津波等で被災した市区町村に所在する中小企業数は、約12万社もあり、震災から1000日が経過した段階の支援数としては少なく、中小企業への支援は十分とは言えない。
また、14年度予算の概算要求で再生可能エネルギー支援に333億円を計上。また13年度補正予算に再エネ・IT等の実証研究・拠点整備事業に378億円を盛り込み、浮体式洋上風力実証事業が始まり、福島再生可能エネルギー研究所が設立された点などについては評価できる。
除染の目標値として、原子力規制委員会は13年11月20日、福島第1原子力発電所事故で避難した住民の帰還に向け、個人ごとの放射線量の実測値を安全性の目安とすることを正式決定した。これまでの基準からは事実上の基準緩和となる。これを受けて政府は来春にも一部地域で避難指示の解除を目指しており、被災者の帰還実現に向けて動き始めたが、現時点で帰還実現が達成できるかは判断できない。
政府の汚染水処理対策委員会は12月10日、従来の汚染水対策に加え、地表からの雨水の浸透を防ぐ舗装などの追加的対策などを盛り込んだ報告書を取りまとめた。この報告書を元に、12月20日に行われる原子力災害対策本部で、汚染水追加対策を正式に決定することになっており、政府主導での対策が確認できる。
但し、12月4日に、国際原子力機関(IAEA)が、敷地内での放射能汚染水貯蔵が持続不可能になりつつあるとして、低濃度汚染水の海への放出を検討するよう東電に勧告した。報告書でも低濃度汚染水について触れられているものの、具体策については先送りしている。しかし、先送りについての明確な説明はなされておらず、この点については評価を下げざるをえない。
政府が12月20日に決定する汚染水の追加対策次第だが、そこでは放射能汚染の程度が少ない汚染水の放出にどう対応するかも1つの試金石になる。
各分野の点数一覧
実績評価は以下の基準で行います
・未着手
・着手後、断念したが、その理由を国民に対して説明していない
・着手後、断念したが、その理由を国民に対して説明している
・着手し、一定の動きがあったが、目標達成はかなり困難な状況になっている
・政策目標を修正した上で着手したが、その修正理由を国民に説明していない
・着手し、現時点では予定通り進んでいるが、目標を達成できるかは判断できない
・政策目標を修正した上で着手したが、その修正理由を国民に対して説明している
・着手し、現時点では予定通り進んでおり、目標達成の方向に向かっている
・この一年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
原則として、マニフェスト等に具体的な政策の記載がある場合のみ採点するものとします。
しかし、特例として、記載がないにもかかわらず施策を動かした場合、以下のように採点します。
なぜ実施に踏み切ったのか、その理由について国民に対する説明をきちんとしていれば各項目で1点加点するものとします
マニフェスト等から理念は読み取れる場合
・着手し、現時点では予定通り進んでいるが、目標を達成できるかは判断できない
・着手し、現時点では予定通り進んでおり、目標達成の方向に向かっている
・この一年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
マニフェスト等から理念も読み取れない場合
・着手し、現時点では予定通り進んでおり、目標達成の方向に向かっている
・この一年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた