「議論の力」で強い民主主義をつくり出す
早瀬: 法律ではなくて、閣議で議論して、それで決まればということは沢山あったと思いますし、現に、いくつかはそれで済みましたね。
増田: とにかく、十数万人の命をとにかく救うということを最優先にして取り組むべきではないでしょうか。
高橋: 阪神淡路大震災の時には、避難所で亡くなった方が、二十数人だったかと思いますが、今は、もう280人とか、300人の方が亡くなっていますよね。ですから、これから、人命ということが非常に大事になってくると思いますね。
工藤: 増田さんは岩手県で、僕は青森県なのだけど、東北の人は本当に純粋で、困っていてもなかなかちゃんとそれを伝えられないのですが、本当は困っているのですよ。
増田: だけど、本当に手を差し伸べなければならない人は、自分たちからは決しておっしゃらないですよね。
工藤: そう、言わないのですよ。
増田: だから、それを聞いて上げないといけないのですね。
工藤: それが一番難しい。
早瀬: 人に物事を頼むということは、なかなかしんどいことですからね。受援力がなかなか使えないというのがありますよね。
工藤: 関西では、「あなた困っていますか」ではなくて、「誰か困っている人はいませんか」と呼びかけた、というのですよ。
早瀬: 最初はね。「何かすることはありませんか」ではダメだったのですよ。「どなたかこの近くで、困っている方をご存知ありませんか」と聞くと、心を開いてくれるのですよ。ちょっとした言い方の違いなのですけどね。
工藤: それにしても、ようやく動き始めたので、高橋さんがおっしゃったように、これが単なる勉強会とか、アイデアを言い合って終わってしまう、というのでは話にならないですよね。これが、実行という形でどういう風に動き出すかということが、今懸念されているところです。高橋さんも、そういう懸念なのでしょ。
高橋: おっしゃる通りです。
工藤: 今回の復興を考える時に、僕は2つのことを考えないといけないと思っていて、それを順次議論していきたいと思います。1つは復興の意義ですね。今回の復興で、僕たちは何が問われているのか、ということをやはりきちんと考えておかなければいけないと思います。そして、この復興は誰が担っていくのか、誰が実施を具体的に進めていくのか。今の段階では、まだまだわかりにくい状況になっていると思います。それから、「復旧」と「復興」という言葉の違いが整理されていない場合があります。「復旧」というのは、そのまま同じ状況に戻すということで、いわゆる原状回復ですが、今回の東日本大震災の場合は、復旧だけではダメで、もっと次に向けて新しく作り替えていくという未来志向の議論も必要だと思っています。そこ辺りは、みなさんはどう思っていらっしゃるか、ということをやりたいのですが、高橋さんいかがでしょうか。
工藤: 岩手県知事も務められた増田さんは、どうでしょうか。
増田: まず、産業面でどういう風にしていったらいいかという考え、道筋は必要だと思います。それから、今回の場合には、そもそも自分はどこに住むのかという、居住選択が迫られるのではないかと思います。阪神淡路大震災の時には地震による打撃のようなものでしたから、みなさん方も大変な被災にあわれたのですが、その次には元いた自分のところに戻って、堅い建物を建てて、地震があっても絶対にびくともしない建物をつくって、そこで生活を力強くやっていこうということでした。今回は、津波で何も無くなりましたので、そもそも元の自分の土地に戻ったらいいのかどうかを、少なくとも仮設住宅にいる間に落ち着いてみんなで議論して、それでいわゆる高台に移るのかどうかということから考えていかなければいけない。で、これは、明治29年とか昭和8年、昭和35年に大きな3回の津波がありましたが、その度ごとに議論されてきたことなのですよ。それで、結局、何にも無いですから、いい悪いは別にして、結局、元のところに戻るしかなかったわけです。今回、それを4回も繰り返していいのかどうか。今、高橋さんがおっしゃったように、これから、私は、そこに働く場をつくり上げて、しかもそれは、将来だんだん落ち込むような働く場ではなくて、少なくとも上に上がっていくような働き場をつくらなければいけません。それを考える前に、そういうことにみんなの気持ちが向かうためにも、一体どこに住むのかという仕組みを、単に自分たちの財産なのだから、自分たちでやれではなくて、福祉国家として公助ということをどこまで進めていくかというところが重要になってきます。今までは、共助でみんな必死になって支えてきたわけだけど、よく言われているように、土地を全部買い上げて、高台に移ってくださいと。そこまで乗り出してやっていくかどうかということが、まず最初に問われるのではないかと思います。
工藤: コミュニティというのは、そのまま残るように意識した取り組みが必要なわけですよね。
増田: 今のままだと、そこにつくる人と出ていく人が出てきて、コミュニティがどんどん崩れていきます。あの地域は、いずれにしても相当コミュニティの力がないと生活が支えきれません。それであれば、コミュニティがきちんと移れるような条件まで言う。菅さんが高台に移ってそこから港に通勤して、エコタウンとか色々言っていましたが、それを語るのは住民の人達だと思うし、それは最後だと思います。私はそうではなくて、今までの3回の津波の時も、みんなそうは思いながらできなかったというそこの条件のところ、つまり、国でこういう風にするから、それでみなさん色々な住まいを考えてほしいという風に持って行けないかな、と思いますね。
工藤: その意見を、もう少し聞きたいのですが、その前に早瀬さんどうでしょうか。
早瀬: 確かに、記憶にある中で3回同じようなことがあって、当時は重機の力も含めて、山を崩してなんていうことがなかなかできなかったから、そのまま住むしかないということだったのだろうと思います。逆に言うと、その町を離れないということは、目の前に世界有数の漁場があって、生活できるベースが元々はあるわけだし、それは失われていないわけですよね。後は、それをどのようにするかです。ただ、辛いのは、本来は、そういったことは被災されている当事者自身が考えるべきなのだけど、今は当面の生活に追われて半年後、1年後のことを考えられないということがありますよね。でも、逆に言うと、半年後、1年後のことを考えることでもって希望が出てくるわけですから、どこかのステージから、現地のみなさん自身が自らビジョンをつくるためのステージというか、場所をつくっていくことを並行してしないと。国の方でこう決めましたからというのでは絶対にダメだと思います。
工藤: その人達が、自分たちの地域の未来に誇りを持てないと地域は再生できませんよね。ただ、今の話は非常に難しい話ですね。
工藤: それをいつまでに、希望者全員...。
増田: この仮設住宅は、原則は公有地に建てるということになっています。ところが、今、高橋さんがおっしゃったように、あそこにはないわけです。ですから、民有地を今探しています。私の知る限りでは、民有地は本当に丹念に探していくと相当あることはある。但し、それは、今ある田んぼや畑まで潰して、それをやるということになります。ところが、それを今の仕組みでいうと、50戸とか60戸を集落単位でつくろうとする大きさだと、ざっと言って、地権者が100人から150人ぐらいいて、その人たちの判子を全部もらわないといけません。ですから、2年なら2年で限定する仮設住宅、あるいは、できれば3年ぐらいは仮設住宅を覚悟するぐらいにしていけばいいと思います。3年間なら3年間、みんな近場で事情がわかるわけですから、100戸も150戸も役場の人達が判子とるだけに流された登記簿を探したりしてやるということではなくて、手続きをかなり簡素にして、一挙に建てられるような仕組みをつくる。そういう仕組みを特別法でやればいいと思います。そうしないと、通常でも入会地とかが多いのですが、今回は多くの方が亡くなっていて、相続の問題がかなり発生しています。誰がどういう風に相続するか、ということがわからない。だから、民有地を探していると、永久に仮設住宅を建てられない可能性がある。そういう制度的な問題をスパッ、スパッと早く整理してあげるということが非常に大事だと思います。
工藤: そうですね。そういう制度的な問題がちゃんと動いていかないと、次に動けないですよね。
増田: 本当に、自分たちが真剣に高台に移るかを考える。さっきの高台に移る場合、その下の土地を買い上げるためのお金をどうするのか、という問題が出てくるでしょう。下は公園にして、高い堤防をつくるのは止めて、そのお金で土地を買い上げるようにする。ところが、高橋さんがおっしゃったように、「復元」ということについては、実に制度がよくできあがっているものだから、元の堤防をつくるとか、漁港をつくり直すとかには、お金がパッと出る仕組みになっています。だから、復元をしやすいような仕組みをガラッと変えて、本当の命を守るとか、生活をつくり上げるということに仕組みを変えていくことが必要だと思います。
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