次の日本をつくる言論

被災から復興に向けた日本のビジョンをどう描くのか

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復元するだけでいいのか

高橋: 被災者の方々は、さっきおっしゃったように、働く場所、それから日々の収入が必要ですよね。そうすると、漁港だったら、早くこの漁港を直して漁に出たい、とお思いになる。その話を進めていくと、どんどん復元の話になっていくわけです。それはある程度必要だと思うのですが、それをやったらその地域が全体的に活性していくのかどうか。こういう言い方をすると失礼かもしれませんが、東北は相当過疎が進んでいた。それから、農林水産業もこのまま続けていけるのだろうかというところまできていたところが結構あります。そういうところを復元するだけでいいのか、ということになってくる。そこは、住民参加でみなさんの意見を聞きながら決めていかなければいけないわけですが、黙っていれば、みなさんはどんどん復元したいとお思いになる。そこのところを、どう話し合いをしながら進めていくか。

工藤: それは、どうやって止めればいいのですか。阪神淡路大震災の時は、建築基準法だけで止めていましたよね。

増田: それは、建物は建築基準法で止められるのですが、今おっしゃったように、被災者の人達が生活をしていけるように、危険物も含まれていますから、がれきの処理なども役場で臨時職員として被災者を雇って、ケインズではないですが、とにかく仕事をつくりだしていく。それで2年、3年と生活資金をきちんと持てるようにしないとダメだと思います。

早瀬: 先般、がれきの処理は被災者の人達が働くための職場にしていこうという話があります。当面は被災者の人達が働いて、解決するようにしていけばいいと思います。

工藤: 4月11日に復興構想会議がようやくできて、議論が始まったのですが、やはりちょっと不可解なのは、その議論をどういう風にして実行するかという仕組み、態勢を政府がどう描いているかが見えないのですね。昔の阪神淡路大震災の時はそれがあったわけです。今は、後藤新平の復興院から始まって、復興庁とか戦前の内務省時代の議論が出るなど、様々な議論が出てくるのだけど、結局、それを推進しない限りは、さっき増田さんがおっしゃいましたけど、制度的なことは何も動きません。この状況をどう考えればいいのかということ。それから、さっき早瀬さんがおっしゃったのだけど、最終的に地域の人達の意向をどのように組み入れていくのか、ということも合わせて考えないと、自分たちに誇りを持てない地域の人たちがいたら、どんどんコミュニティが崩壊してしまいますよね。この2点について話をしたいのですが、どうでしょうか、増田さんから。

増田: 復興構想会議は、メンバーはそれぞれ立派な方で、結局入った方よりも、どういう目的であの会議をつくったのか、つくった人がしっかりと示す必要があります。それは、会議のメンバーだけではなくて、全国民にその役割をきちんと言う必要があると思います。もちろん、東北地方をよくするためにつくった会議ではありますが、1つ私が気になるのは、市町村長さんがいないことです。構想会議の下の検討部会には全国市長会長の森さんがいるのですが、知事さんももちろん地元の代表だけれども、本当に生活をどうするかということを代弁してくれるのは市町村長さんです。やはり、市町村長さんが地元では信頼されているのですね。それ以外の人達は、どうしても上から目線で見がちです。市町村長さんを含めて、意見をじっくり自治体でまとめないと絶対に動きませんので、誰にどういう役割を担わせるのかということをやっておかないと。絵だけ描いても意味がありません。描いた学者の先生方も、色々と地元の人達から、何だ、あれは、と言われるようなそういう風なことにならないかなという心配と同時に、そうなっては絶対にいけないという風に思います。

工藤: 僕も、見ていると、あの会議の役割は絵を出すだけじゃないのかと感じてしまいますよね。普通は、復興のビジョンだけではなくて、政府の支援の枠組みですよね。その枠組みをつくり、議論したらそれがすぐ政府で動くとか、そういう体制が同時的にないとやはり機能しないし、阪神淡路大震災の時はまさにそうだったのですね。

町や村にはそれぞれのビジョンがある

早瀬: 阪神淡路大震災よりも、今回の震災の方が、一つひとつの自治体の単位が小さいような気がします。阪神淡路大震災の時には、神戸という非常に大きな町がありました。逆に言うと、一つひとつの町が小さいということは、その町ごとにビジョンをつくりやすいわけで、しかも町や村のビジョンはみんな違うわけです。それぞれのビジョンがあって、そのビジョンが応用して使えるような枠組みをベースにつくってもらわないといけないので、細かいことなんていうのは、中央でつくったところで有効に働きません。

工藤: 高橋さんどうですか。

高橋: 今おっしゃった、町のビジョンはもの凄く大事で、例えば、三陸だとか東北だとか一概に言えなくて、各市町村でみんな事情が違う。だから、高台がいいのか、やはり海沿いがいいのかとか、住民の方々が、議論して決めていく。しかし、そうやって町のビジョンを一つひとつつくっていって、トータルで何が出てくるのかという、そこについては復興構想会議のようなものがあって、全体として東北地方はこうしたいというマスタープランなり、マスタービジョンみたいなものがあって、それを描くということは大事なことだと思います。それに、反しない限りにおいて、町が色々とビジョンをつくっていく。そういう役割分担が必要だと思います。そのことと、実行させるための仕組みをどうするのかということですが、例えば、復興構想会議に町のビジョンについてイエスかノーかということまで言う権限を持たせるのか、それとも、それを別の組織をつくって裁いていくのか、というところが、まだ全く見えませんね。

工藤: 政府の方は、復興省とか復興庁をつくるとか、色々な議論がありましたよね。あれ、どうなったのですか。

増田: 無くなったのかどうかわからないですね。復興構想会議の第1回の議論の中で、原発の問題をどうしようかという話があったということです。私が思いますのは、今お話にも出たように、これから産業ビジョンを色々と考えるにしても、当面は西日本が日本経済を引っ張っていくようになると思います。現実問題として、西日本の方に工場や人を移す企業経営者は出てくると思います。電力はありませんし、東北はやられている。だから、東北を応援するつもりでも、当面は西日本に拠点を移すということは、当然あると思います。今、あそこで議論して欲しいのは、西日本を強くするし、それをどうやって東北の復興の方に役立たせるのかということを、全体の中でどう考えるか。

工藤: そういう全体的な戦略を立てる必要がありますね。

増田: それから、あの東北の中の人では、どうしたって議論できないのは、原発が、どういう風にだんだん静まっていくのか。原発から東北新幹線と東北自動車道まで50キロぐらいの距離があって、そこがこれからも本当に使えるかどうかということは、東北の復興に非常に重要なことです。そうしたことを、一段高い復興構想会議で、色々な見通しを議論してもらう。で、菅さんはたまたまた高台に移ってどうのこうのということを言ってしまったので、どうもあの議論をあの会議でやるようなことになってしまっているのですが、私は、そういうことを思ってあの会議に入っていったらダメだと思うので、大きなところ、しっかりとした復興の姿というのは、日本全体の、あるいはアジアとの関係を議論する。

    


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