「議論の力」で強い民主主義をつくり出す
地方分権は、今、中途半端な状況ではないでしょうか。戦後の日本は歴史的に失敗していることがいくつかあると思います。1つは、地域が自立するための税財政的な足腰ができているかどうかについてです。戦後にシャウプ勧告が出た時代には、ある程度のグランドデザインはありました。例えば、市町村だったら固定資産税と住民税を考えましょう。これはプロパティ・タックスというアメリカの考え方です。あとはインカム・タックスです。こういうもので安定的で、しかも経済社会の発展とともに伸びていくような財源の仕組みをつくりましょうということでした。
県のほうも、本来は住民税と、今で言う事業税です。事業税といっても、当時、アメリカから日本に輸入しようとした制度は付加価値税です。付加価値税を日本で事業税と呼んだのです。しかし、この事業税に対して、事業という名前がついていたがために、法人は所得もないのに払えないではないかという話になりました。今でしたら、いわゆる消費税と同じですので、何ということはありませんが、ここで法人に対し所得税としての事業税を入れてしまった。これが現在の都道府県税の大宗になっているわけです。ここは政策的に、歴史的に、少し失敗したところではないかと思います。
以来、景気の波に翻弄されるような県財政になります。しかも、今日、問題になったように、東京都や愛知県のように企業が集積して税収が伸びるところもあれば、そうでなくて税収が全く伸びない、むしろ落ち込むというところもあって、その格差がどんどん広がる、その偏在性の原因にもなってしまったのです。
この地方税財政の失敗を正すのであれば、消費課税と個人所得課税とを基本にした地方税体系を都道府県の段階で入れていく必要があると考えます。ただ、どうしても財政的な調整の必要があるので、現在の交付税のような仕組みを充実していかなければ、なかなか自ら立っていけないと思います。
地方税財政の仕組みはこうした再構築が必要です。幸い、年末の税制改正の中でも、こうした考え方に対する理解は広がり始めたと思っていますから、地方団体にとって本当の勝負どころがやってくるのではないかと思っています。
佐賀県の古川知事が言う、消費課税と法人二税との入れ換えという考えは正しいと思います。企業として存在するがゆえに財政需要があるので、それに応える部分としての法人住民税というのは必要かもしれませんが、私は、事業税のようなところは全部、付加価値税にするほうが素直だと思います。本来、それを戦後、目指したのです。シャウプさんはアメリカの財政学者でアメリカでもまだ実現していないような夢の税制を日本でやろうとしました。それを政治的にねじ曲げてしまったのですから、これはどこかで正さなければいけない時期が来るだろうと思っていました。
地方自治の形の話をしますと、道州制の議論をするのであれば、私は中央政府を解体すべきだと思います。アメリカ、ドイツなどの連邦制国家では、中央で防衛や外交といった基本的な国家機能を担い、残りは州政府でやる。それと同じで、道州制の議論を一般論でやると、みんな同じことを言います。実はこれは中央政府を解体して連邦制にするのがいいと、みんな皮膚感覚では理解していることではないかと思うのです。
ところが、現状は、大規模な官僚装置が東京のど真ん中にあり、その解体に対する抵抗が非常にある。ここを解体しない限りは道州制をやっても意味がないと思います。確かに一部、全国にまたがっている電波など、幾つかは国に残る部分はあるかもしれませんが、基本的権能は、中央政府を解体して地方に移すということでないと意味はないだろうと思います。地方政府として完結して、自分たちの力量でいろいろな計画を立てたり、事業の執行をしたりする一連の権能が基本的になければいけないと思います。
そうなるのであれば、道州があって、そして市町村という構造でもいい。ところが、現実には、中央政府の解体というところにどうしても手がつかない。いくら議論しても、先日の自民党の議論を見ても地方支分部局をまとめるといったことにとどまっている。これでは霞が関が地方支分部局の出先機関に命令するのと同じことが、都道府県と市との間、道州と国との間で残ってしまう。これでは結局は何の意味もないわけです。単なる都道府県間の合併の話になってしまって、住民にとっては地域に何の権限も付与されない。
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