「議論の力」で強い民主主義をつくり出す
2013 / 12 / 28
認定NPO法人 言論NPO(東京都中央区日本橋、代表:工藤泰志)は、12月26日に安倍政権が1年を迎えるにあたり、選挙でのマニフェストや国会での演説で国民に約束したことについて、この1年でどのような成果を出したのか、実績評価の結果を「安倍政権通信簿」として公表しました。また同時に、有識者を対象に「安倍政権1年評価」アンケートを実施し、この結果もあわせて言論NPOホームページに公開しました。
政権実績の総合評価は、今年7月の参議院選挙時に行った安倍政権の実績評価の全体評価と比べて0.1ポイント減と同水準ながらも、今回の評価結果において、政策分野ごとの評点にはばらつきがあります。2年目に突入することから、久々の安定政権となるか成果が注目される段階にきています。力点を入れている経済、外交分野でも厳しい評価が目立っています。特定秘密保護法をめぐる説明責任も問われ、今後「国民に向かい合う政治」が求められています。評価結果の概要についてはこちらをご参照ください。
447人が回答した有識者アンケートでは、「首相の資質」評価点数が、第1次安倍政権以来歴代最高得点を出した「100日政権評価」時点の3.3点(5点満点)から2.7点に低下しましたが、依然と高得点を維持しています。久しぶりの本格政権への期待が有識者から寄せられているものの、今回、安倍政権を「支持しない」とする回答が「支持する」を上回るほか、「今後の政策運営」についても「期待できない」が「期待できる」を上回るなど、厳しい見方も増加しています。詳しくはこちらをご参照ください。
今回、安倍政権の目玉事業であるアベノミクスを要する経済政策の評価は3.2点と参院選時の3.7点から評価を下げましたが、これは異次元の金融緩和や公共事業等の公需から民需へのバトンタッチの姿が見えず、経済の本格的な回復がまだ始まっていないからです。異次元の金融緩和と弾力的な財政運営で経済のマインドに明るさが戻りましたが、設備投資や賃金の拡大にはまだ至っていません。その中で、2年後に2%の物価目標の達成に「黄色信号」がともり、公需依存の時間稼ぎが、逆に財政再建の道筋を見え難くしています。
復興や減反を打ち出した農業政策は評価を高めましたが、社会保障や地方の政策については力点が置かれていないことが分かります。
ただ全体的に自民党のマニフェスト自体が約束として不完全で、それぞれの分野で将来像や理念に基づいた政策体系がまとまっていないことが、実績評価にも負の影響を与えています。全般的に説明不足が問題視されており、特定秘密保護法のように公約に書かれていない問題については国民に対する説明責任が問われました。
原則として、下記の基準に従い、マニフェスト等に具体的な政策の記載がある場合のみ採点するものとしました。
・未着手
・着手後、断念したが、その理由を国民に対して説明していない |
0点 |
・着手後、断念したが、その理由を国民に対して説明している
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1点 |
・着手し、一定の動きがあったが、目標達成はかなり困難な状況になっている
・政策目標を修正した上で着手したが、その修正理由を国民に説明していない |
2点 |
・着手し、現時点では予定通り進んでいるが、目標を達成できるかは判断できない
・政策目標を修正した上で着手したが、その修正理由を国民に対して説明している |
3点 |
・着手し、現時点では予定通り進んでおり、目標達成の方向に向かっている
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4点 |
・この一年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
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5点 |
今回の評価は、2012年末の衆議院選挙で自民党が掲げた政策BANKの169項目から、参議院選挙時の公約、Jファイル、安倍総理の所信表明・施政方針演説なども踏まえながら、政策として評価できる11分野、70項目を抽出しました。それらの項目ついて、個々の政策が、その目的を実現する方向でどのように取り組み、動いているのかについて判断しています。
今回の評価には、言論NPOのマニフェスト評価会議から、湯元健治(日本総合研究所)、西沢和彦(同)、鈴木準(大和総研)、内田和人(三菱東京UFJ銀行)、神保謙(慶應義塾大学)、川島真(東京大学)、田中弥生(大学評価・学位授与機構)、山地憲治(地球環境産業技術研究機構(RITE))、松下和夫(京都大学名誉教授)、小峰隆夫(法政大学)、小黒一正(法政大学)等30氏が参加しました。
今回の評価で、安倍首相の資質は平均で 2.7 点となり、100 日時点の 3.3 点と比べると0.6点下がりましたが、歴代政権の 100 日評価より比較的高い評価となっています。全8項目で評価が下がっていますが、中でも「アピール度、説明能力」は前回より 0.9 点低下の2.5点となり、最も点数が低下しました。最も評価が高かったのは前回に引き続き「指導力や政治手腕」の 3.1点でしたが、前回と比べて 0.5点低下しました。安倍政権に対する否定的な意識の増加の主な原因の一つに国民に対する「説明不足」があると考えられます。
これまで安倍政権が打ち出した政策や政権対応の 34 項目の評価では、「うまく対応できた」と「うまく対応できていないが、今後期待できる」の肯定的な回答の合計が 50%を超えたのは7項目に過ぎませんでした。このうち6割を超えたのは、「緊密な日米同盟の復活」(65.3%)と「政策決定における首相のリーダーシップや統率力」(60.2%)の2つです。それに対して「対応できておらず、今後も期待できない」という否定的な回答が半数を超えたものは 17項目あり、100 日時点での 3項目を大きく上回りました。17項目のうち 6割を超えたのは「竹島の領土問題解決に向けた取り組み」(68.2%)、「一票の格差と選挙制度の見直し」(67.1%)などの8項目でした。
安倍政権を「支持する」という回答は 41.4%で、これに対して「支持しない」という回答は 43.0%となっており、不支持が支持を上回りました。100 日時点でのアンケートでは「支持する」が過半数を超えていましたが、厳しい評価が増加しました。また、「安倍政権の今後の政策運営に期待できるか」という問いには「期待できない」が 43.2%で、「期待できる」の 30.4%を上回りました。100 日時点の評価では、「期待できない」が 19.2%であったことと比べると、24%悪化したことになります。
一方で、安倍政権が「衆議院議員の任期満了まで続く」と答えたのが 47.4%で最も多く、次いで「2016 年の衆議院議員の任期満了以降も続く」の 21.5%でした。安倍政権が任期満了か、あるいはそれ以上続くと見ている有識者が 7割近くいました。これに対して「衆議院議員の任期満了まで持てないと思う」と答えた有識者は 19.5%いました。
安倍政権の財政再建について「現状の取り組みでは困難」との回答が 58.6%と約 6 割ありました。それに対して、「現状の取り組みで可能だと思う」との回答は、わずか 2.0%でした。ただし、「現状の取り組みでは難しいが、まだ間に合うと思う」との回答が 35.8%で今後の取り組みに対する期待も一定数ありました。「社会保障制度の構築を実行できるか」という問いには、「できないと思う」が 33.6%、「どちらかというとできないと思う」が 35.3%となり、否定的な見方が 68.9%と 7 割近くになりました。これに対して「できると思う」が 3.1%にとどまり、「どちらかといえばできると思う」の 23.0%を合せても、3割に満たない結果となりました。
安倍政権1年評価結果の詳細はこちらからご覧いただけます
言論NPOは、2001年に設立された、有権者側に立つ、独立、中立、非営利のシンクタンクです。言論NPOは、議論の力で「強い民主主義」をつくり出すことをめざしています。
そのために、言論NPOは、有権者が政治や政策を判断し、民主政治を機能させるために質の高い議論づくりやマニフェスト評価・政権実績評価などの政策評価に取り組んでいます。言論NPOの活動には500人を超すオピニオンリーダーが参加し、健全な議論づくりに取り組んでいます。
言論NPOは2001年に設立、2005年6月1日から34番目の認定NPO法人として認定を受けています。(継続中)
また言論NPOの活動が「非政治性・非宗教性」を満たすものであることを示すため、米国IRS(内国歳入庁)作成のガイドラインに基づいて作成した「ネガティブチェックリスト」による客観的評価を行なっています。評価結果の詳細はこちらから。
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