「議論の力」で強い民主主義をつくり出す
2016 / 06 / 29
非営利シンクタンク言論NPO(東京都中央区、代表:工藤泰志)は、参議院選挙まで2週間を切った6月28日、主要8政党の公約が、日本が直面する課題の解決策として妥当なものかを採点した「マニフェスト評価」の結果を、言論NPOホームページにて発表しました。こうしたマニフェスト評価は、言論NPOが2004年より一貫して、選挙の際に独立・中立の立場で各党のマニフェスト評価を実施し、有権者に判断材料を提供するために公表しているものです。
また、言論NPOがこの日、「参議院選挙の争点と日本の民主主義の課題」と題した有識者294人のアンケート結果を公表しました。この中では各党の公約が「国民との約束といえる内容」と答えた有識者がわずか1割未満にとどまりました。
その結果、8党の公約の評価は、最も高い自民党でも100点満点で29点にとどまり、2014年衆院選時の評価と比べて若干の改善傾向がみられたものの、依然、国民との約束としての公約が、日本の将来や課題に対する解決プランとしてつくられていないということが明らかになり、極めて厳しい評価となりました。
報道関係者の皆様には、こうした取り組みをぜひご取材・ご報道いただきたく、お願い申し上げます。なお、分野別の評価結果・アンケート結果の詳細については、次ページ以降、ならびに言論NPOホームページをご参照ください。また、代表・工藤への個別取材も随時お受けしております。
自民党 33点 :人口減少という課題は抽出しているが、社会保障の恒久財源の見通しは示していない
公明党 27点 :少子化対策の財源について信を問わず、課題を先送りしている
民進党 25点 :賃金低下などの課題に対応しているが、無駄撲滅による財源確保の発想が残る
共産党 28点 :具体的な財源は示したが、提示した政策に見合ったものかが不明
自民党 30点 :成長戦略の進展の遅さなど現状の政策の成果を見る限り、示された政策では不十分
公明党 28点 :バラマキ色が強く、可処分所得を増やす具体策も示されていない
民進党 15点 :格差是正の方向性は妥当だが、その財源に一切触れていない
共産党 18点 :国民に税負担を求めたのは進歩だが、歳入と歳出の整合性や、成長力を高める手段がない
自民党 28点 :財政再建が経済成長だけで達成できるかのような説明。社会保障の恒久財源も曖昧
公明党 11点 :成長による増収だけでは不十分という認識が希薄。社会保障の優先順位も示さず
民進党 14点 :19年4月に消費増税ができる根拠を説明せず。社会保障財源やその規模も不明確
共産党 16点 :20兆円の自然増収の根拠が不明。「2030年のPB黒字化」では手遅れという認識もない
自民党 9点 :三党合意による年金医療の改革構想を説明せず、財源の裏付けもない
公明党 10点 :年金医療の持続可能性に必要な政策や、介護人材確保の財源に一切言及せず
民進党 7点 :負担増と給付の抑制など構造問題に手を付けず、バラマキ政策が目立つ
共産党 9点 :財源は明記しているが、税制改革の工程や成長率2%の根拠が不明
自民党 51点 :課題認識はほぼ網羅的。日中関係改善や安保法制運用の具体的構想を示していない
公明党 29点 :「人的交流」だけでは与党の政策として小ぶり。外交安保の全体に占める優先度も不透明
民進党 31点 :米中との関係の具体策を示さず。自衛隊の活動範囲の制限は日本の安全保障環境の変化に逆行
共産党 26点 :北東アジア平和協力構想は非現実的。日米安保の位置付けや日中関係の方針を示していない
自民党 21点 :地方再生の具体策が説明されず。東北復興のビジョンはスローガン的で方向性が見えない
公明党 20点 :地方の将来ビジョン、東北の復興ビジョンに言及していない
民進党 15点 :「地方消滅」をどう解決していくのかや、復興の財源、ビジョンが明らかにされていない
共産党 12点 :地方消滅、人口減少という課題を認識しているか不明。震災復興は政策の列挙に過ぎない
言論NPOは、約束の評価可能性を重視した形式要件と、内容自体を評価する実質要件の2つの基準でマニフェストの評価を行っています。
評価の公表にあたっては、実質要件を評価するために、「その分野で政治に問われる課題は何か」に関してまず言論NPOの判断を明らかにした上で、評価基準に沿った評価をまとめています。
言論NPOでは、今回の選挙が持つ意味や選挙の争点、日本の民主主義の現状についてマニフェスト評価や民主主義をめぐる今後の議論に役立てるため、6月23日~26日にかけ、言論NPOに参加する6000人の有識者を対象としてアンケートを実施し、294人から回答を得ました。
アンケート結果の詳細は、言論NPOホームページをご参照ください。
今回の選挙における各党の公約を「読んだ」と答えた人に、その感想を尋ねたところ、「国民の約束といえる内容である」と答えたのは8.0%と、1割未満にとどまりました。一方、最も多かった回答は「相変わらず、スローガンや政策の羅列に過ぎず、実現性が全く不明」(51.5%)、次いで「国民が負担すべき痛みを避けており、日本現状や将来を正直に説明していない」(49.6%)で、日本の政党の公約に対する有識者の厳しい見方が明らかになりました。
まず、今回の参議院選挙がどのような意味や目的と持つ選挙だと思うかを尋ねたところ、最も多かった回答は「安倍政権の3年半を信任するかの選挙」で28.6%でした。
今回の参議院選挙で、政党や政治家が本来、国民に説明すべき争点は何かをいくつでも選んでもらったところ、最も多かったのは「急速に進む人口減少や少子高齢化への全体的な対応や、目指すべき日本の将来像」で78.4%に達しました。以下、「財政再建に向けた具体的な道筋」(66.3%)、「急速に進む高齢化に耐えられるような医療介護、年金制度の具体化」(48.1%)、「消費税の10%への引き上げの是非や、それを見込んだ財政再建や社会保障への取り組みや、そのための財源」(45.0%)が続き、日本の有識者の大半が、急速に進む少子高齢化・人口減少や財政赤字への対応について、今回の選挙で政治に説明を求めていることが明らかになりました。
今回の選挙を前に安倍首相が消費税の10%への引き上げを先送りし、野党も足並みを揃えていることについて、こうした判断の是非を尋ねたところ、「反対」「どちらかといえば反対」を合わせると53.3%と、半数を超えました。一方、「賛成」「どちらかといえば賛成」の合計は36.1%にとどまり、多くの有識者が消費税の予定通りの引き上げを求めていることが分かりました。
今の日本で、選挙を軸に国民に向かい合う民主主義が機能しているかどうかを尋ねたところ、「どちらかといえば機能していない」「機能していない」は56.8.4%となり、過半数の有識者が、日本の民主主義が機能していないという認識を持っていることが分かりました。一方、「機能している」は5.5%で、「どちらかといえば機能している」と合わせても25.9%にとどまりました。
日本の民主主義を機能させ、この国が将来の課題に向かって真剣に動き出すために何が必要かを2つまで選んでもらったところ、最も多かったのは「有権者自身が当事者意識をもち、課題に向かい合うこと」の59.3%で、約6割もの有識者が、民主主義を機能させるために有権者の役割が重要だと指摘しました。以下、「知識層が沈黙せず、日本の課題解決に向けて声を上げていくこと」「言論界が政治を監視するという役割を果たしていくこと」がそれぞれ22.4%で続きました。
言論NPOは、日本の政治が真に課題に向かい合った強いものとなるためには、政治家を選ぶ有権者の側が強くならなければならないと考えています。そのため、日本にマニフェスト選挙が導入された2004年から一貫して、選挙の際に各党のマニフェスト評価を、また政権発足1年などの節目に政権の実績評価を、継続的に実施しています。これらを通して、政治が課題解決のプランとしてマニフェストを提示し、有権者はその妥当性を見極めて投票し、選挙の後もその成果を監視する、という民主主義のサイクルを機能させるため、有権者の判断材料に資する議論を提供しています。
言論NPOは、今回の参院選の争点を「日本の将来」と位置付けています。言論NPOが今年3月、海外の有力なジャーナリストを対象に行ったアンケートでは、日本の課題について気になっていることで「急速に進む人口減少や少子高齢化への対応」が6割を占め、日本の政治が、人口減少社会や財政赤字のマネジメントに失敗するのではないか、との懸念が寄せられました。このように、日本の将来に対する切迫した課題が明らかになり、国民の不安が高まっているにもかかわらず、政治の世界では課題解決に向けた競争が始まっていません。言論NPOでは、今回の選挙を機に、有権者が日本の将来に対して当事者意識を持ち、課題に向かい合う「強い民主主義」を機能させるため、様々な議論を提供します。まず、今回の選挙で政党や政治家が国民に説明すべき争点を明らかにするため、294名の有識者へのアンケート調査や、各分野の専門家20氏による計6回の公開議論を実施し、その内容を全てインターネットで公開しました。加えて、自民・公明・民進・共産の主要4政党の政策責任者を個別に招き、各党のマニフェストを説明してもらった上で、言論NPOのマニフェスト評価委員らと突っ込んだ議論を行いました。今回のマニフェスト評価は、これらを参考にして実施しました。
新藤義孝(自民党政調会長代理)、上田勇(公明党政調会長代理)
長妻昭(民進党代表代行)、小池晃(共産党書記局長)
司会者:工藤泰志(言論NPO代表)
(言論NPOのマニフェスト評価委員(敬称略))
湯元健治(日本総研副理事長)、田中弥生(大学改革支援・学位授与機構教授)
河合正弘(前アジア開発銀行研究所所長)、小黒一正(法政大学経済学部教授)、
他、言論NPOに参加する有識者のべ33氏
言論NPOは、2001年に発足した独立、中立、非営利のネットワーク型シンクタンクです。2004年より政府の政策実行や政党のマニフェストの評価を定期的に実施し、有権者の判断材料を提供しています。また、2012年には米国の外交問題評議会(CFR)が設立した世界25ヵ国のシンクタンク会議に日本から唯一参加し、地球規模の課題に対する日本の多様な議論を世界に発信しています。日本の民主主義のあり方を考える議論や、北東アジアの平和構築に向けた民間対話、世界的な課題に対する国内外の有識者との議論など、4つの言論に取り組んでいます。
◇◆設立15周年を迎える今年、課題に挑む言論人ネットワークの形成に本格的に取り組む◇◆
言論NPOは今年の11月21日に15周年を迎えます。今、言論人ネットワークの形成に本格的に取り組んでいます。
言論NPOは2001年に設立、2005年6月1日から34番目の認定NPO法人として認定を受けています。(継続中)
また言論NPOの活動が「非政治性・非宗教性」を満たすものであることを示すため、米国IRS(内国歳入庁)作成のガイドラインに基づいて作成した「ネガティブチェックリスト」による客観的評価を行なっています。評価結果の詳細はこちらから。
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