日本NPO学会で激論!/第4話:「自立経営できるNPOの進化をどう進めるのか」
自立経営できるNPOの進化をどう進めるのか
工藤 私は実践者として今の話は非常によくわかりますし、思いは同じです、ただ、一方でNPOの取り巻く状況に対する大きな議論をしなければいけない段階に来ているなと、思います。NPOの経営側に問題はありますが、頑張らないと経営できないという話で済ます段階ではないと考えます。NPOの挑戦は必要ですが、しかし、NPOの環境や制度設計に向きあわず、あとは経営の問題だというのは、結局は現状維持の議論になってしまう。NPOも進化は必要だし、議論を国会でやるというのであればそういう発展的な議論を行うべきだと思います。
田中 私は、パブリックコメント以降の議事録を特に細かいところまで全部拝見させていただいて、実はかなり質の話が入ってきているし、それから、規模に応じて何かを考えなければいけないというふうにトーンが変わってきていることについては、非常に共感をしておりました。雨宮先生、それから山岡先生、赤塚先生がおっしゃっている意図というのを改めて理解はさせていただいたんですが、法律がドラえもんのポケットみたいになって、何でもありとしたときに、そうすると、やっぱり信頼性はどこで担保するのか私の中でイメージができないです。本当に資本みたいなものをNPOが持っていいのであれば、それを適正に維持管理するための条件もあわせて検討してゆく必要があるのではないかと思います。審議会の中では出資制度について議論はされていますよね。
会場(山岡) 議論はしました。日本NPOセンターは特に出資制度はなくても出資にあたることをやっている。やっているけれども、集まるかどうかは力量の問題だと思うんですね。力量がないから集まらない。法律に出資制度について書いたら、集まるという話じゃない。
田中 もちろんそれはそうなんですが、でも、ある種の法律、ここで審議官はおっしゃっていましたけれども、信頼性の担保というところとトレードオフになってくるところはあるのではないかと。もちろんNPO自身の努力というのはありますけれども。法律のせいとは言いませんが、いろんなものの許容範囲が広くなっただけ、いろんなものは出てくるだろうと思います。
会場 私は工藤さんの言論NPOの信頼性は社員総会をやったとやらないとかから出てくるものではないと思います。言論NPOが湛山をはじめとする伝統ある「東洋経済」の言論の精神を継承していこうとする志をきちんと実行してきたことが一番大事なことでしょう。例えば、「規律」を規則化することで一番問題になっていのはどこかというと、アカデミックの世界です。研究費をもらいました、書面手続き上、研究費の使い方は問題なくできました。ガバナンス面で問題ありません。しかし、それに時間をとられて、研究は全くできていませんということがありえるのです。手段と目的は一体何なのか。なぜNPO法人が存在するのか、その上で、何によって信頼性を担保しなくてはいけないのか考えていただきたい。言論NPOは、主として東京の人を相手にしているから社員総会も簡単かもしれませんが、法人によっては社員が例えば全国に広がる、あるいは全世界に存在しているということもあります。法的にガバナンスを強化し、社員総会は定足数を50%以上にして、出てこいということになったら、社員総会のためにNPOが存在してしまいます。今、まさにそういう法律が公益法人の場では、出てきているわけです。
ここが非常に大事なところで、世界的にガバナンスという言葉と、日本のガバナンスという言葉の意味が全く違います。
今、規模別という意見が出ましたけれども、規模だけじゃないです。社員の分布はどこまで広がっているのか、どういうものなのか。法人の形態によって全部ガバナンスが変わってくる。それを法律の中でどこまで書き込んだら一番いいのか。そこはぜひ考えていただきたい。何によって信頼性を担保するのかというのは、法律では絶対ないんです。ガバナンスのしっかりした形態は、制度的に縛るのではなく、私的自治の中で行うべき問題です。
信頼性の担保は法律ではできない
会場(雨宮) 先ほどアメリカの例をあげました。ここが大事なことです。そういう規制ができたことによってNPO側が、信頼性を確保するために、自己規制をやりましょうと集まって報告書も作成しました。上からでなくて、自分たちの側で規制をしていく、自己規制をしていくという運動になっています。日本のNPOでもこのようなかたちになっていくといいなと思っております。
工藤 それでは堀田審議官、いかがですか。議論が白熱しておりますが。
堀田 もう時間を過ぎていますので簡単に。最初に言いましたように、一応夏をめどに、大体この審議会の報告書をまとめていきたいと思っておりますけれども、もうあと数カ月残された期間ではありますけれども、きょうも私も勉強させていただくということでここに来ておりますけれども、いろんなご意見があるということは、きょうもよくわかったところで、もし審議会のプロセスの中でさらに皆さんのご意見というのがあれば、ぜひ出していただければ。それはまた審議会の方にも、事務局としては紹介させていただくこともあるかと思います。パブリックコメントというフォーマルなものは終わりましたが、議事というのはオープンにされておりますので、議事録等をお読みいただきながら、何かその過程でご意見等がありましたら、事務局にお寄せいただければと思います。
会場 一言いいですか。林〔林 雄二郎 (日本フィランソロピー協会顧問・財団法人労働科学研究所理事長) 〕といいます。
工藤 では最後に御願いします。
NPOにも生産性に相当する物差が必要
会場(林) 時間がありませんから結論だけ申し上げますけれども、これからの活動について、今の法制度のことも非常に重要です。これはもう一本重要な柱があるんです。それは企業活動の場合に、生産性という揺るぎなき物差しがあります。NPO活動に対して、それに相当するような物差しをぜひつくっていただきたいんです。壇上には会長、副会長もおられますのでぜひお願いいたします。今までのいろんな不祥事なんかは、それがないから起こるんです。
工藤 これは重要なご指摘です。田中さん、いかがですか。
田中 大変いいご指摘、ありがとうございました。先生の今のご指摘と雨宮先生のいわゆるコードオブコンタクト(行動倫理規定)だったり、目指すべき基準みたいなものについては通ずるところがあると思います。ピーター・ドラッカーという人の論文を1950年代から 2000年までを全部レビューすると、おもしろいことに、80年代から突然頻繁にケーススタディーとしてあらわれます。しかも、なぜ彼が関心を持ったかといえば、1970年代から80年代に新規に雇用された2000万人のうちのほとんどを中小の企業家とNPOが占めていたことで、NPOに強い関心を示したそうです。
ドラッカーが示したNPOのイノベーション
田中 そして、今、生産性という言葉をおっしゃっていただきましたけれども、イノベーションが生産性の鍵となるということで、そのケースをいろいろと紹介しています。そして、イノベーションは、それはまさに官と民との間(80年代、70年代のアメリカのことです)、医療だとか教育など公共の分野で生まれている。そして、だからこそイノベーションを生んでいるNPOの経営モデルというものについて関心を示されたのだと思います。それはどこまでできるかわかりませんけれども、私たちの研究者に課された大きな課題だと思っています。
工藤 いい締めになったなと思います。実を言うと、田中先生、山内先生も含めて今NPOの勉強会をやっていまして、それで今日の議論につながりました。今日の会場の皆さんにも参加いただいた議論はとても有意義なものでした、ただ、議論を作りながら痛感したのは自身のことです。つまり私や井上さんに問われているのは、評論することではなくて実践ですから、自分のミッションに対して実現していくしかないんですね。だから、どれだけ私たちがそういう大きな社会の公的な役割を自立的な民間人、個人として担えるかが勝負ですから、それは皆さん、一緒にやっていきましょう。しかし、こういう議論はもっと真剣に国民的にもやった方がいいと思います。NPOの制度設計や環境づくりはそうした実践の上に立って、みんなで考えなくてはならないからです。その意味でも議論の舞台はいろいろつくっていったらどうでしょう。私たち言論NPOもつくっていきたいと思います。
きょうは本当にどうもありがとうございました。(大きな拍手)
Profile
山内直人(大阪大学大学院国際公共政策研究科教授)
1955年愛媛県松山市生まれ。1978年大阪大学経済学部卒、M. Sc.(英London School of Economics)博士(大阪大学)。経済企画庁エコノミストとして経済白書の執筆など日本経済の実証分析に従事した後、1992年に阪大へ。経済学部助教授を経て、大学院国際公共政策研究科教授。この間、米イェール大学客員フェロー等を歴任。専門分野は公共経済学。特に、税制、医療・福祉、環境、社会資本、NPO・NGO、 ボランティア、国際開発援助等の実証研究を手がける。
田中弥生(独立行政法人 大学評価・学位授与機構 助教授)
国際公共政策博士(大阪大学)。東京大学工学系研究科助教授、国際銀行を経て現職。財務省 財政審委員、外務省ODA評価有識者委員。日本NPO学会副会長。言論NPO言論監事。専門は非営利組織論と評価論。米国でピーター・F・ドラッカー氏に指示。主な著書に「NPOが自立する日 ~行政の下請け化に未来はない~」(日本評論社206年)『NPOと社会をつなぐ ~NPOを変える評価とインターメディアリ~』(東京大学出版会 2005年)、訳書にドラッカー・スターン著『非営利組織の成果重視マネジメント ~NPO、公益法人、自治体の自己評価手法~』(ダイヤモンド社、2000年)ほか。
堀田繁(内閣府大臣官房審議官)
大阪大学経済学部卒。経済企画庁入庁。
井上優(宮崎県NPO活動支援センター所長、特定非営利活動法人宮崎文化本舗理事)
1957年生まれ、宮崎市在住。1982年3月、東海大学文学部史学科卒業。会社員を経て、宮崎地域文化実践委員会、宮崎アート&ミュージック協会など設立。平成14年から(特)宮崎文化本舗理事就任、平成17年度から副代表理事、また宮崎アート&ミュージック協会会長、宮崎県NPO活動支援センター、センター長を兼ねる。
工藤泰志(言論NPO代表)
1958年生まれ。横浜市立大学大学院経済学修士課程卒業。東洋経済新報社で、『週刊東洋経済』記者、『金融ビジネス』編集長、『論争 東洋経済』編集長を歴任。2001年10月、特定非営利活動法人言論NPOを立ち上げ、代表に就任。
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