「議論の力」で強い民主主義をつくり出す
続いて行われた第2セッションでは、「日韓関係を改善するための解決策は何なのか」をテーマに議論が行われました。セッション冒頭に司会を務める工藤は「日韓関係は本当に重要なのか。重要だと思わない人は挙手を」と投げかけたところ、挙手する人がいませんでした。そこで工藤は、「ではなぜ日韓関係は重要なのか」と再度問いかけ、この問題から議論することを提案しました。この呼びかけに応える形で、メディアの立場から日韓両国の2氏が問題提起しました。
まず、毎日新聞社論説委員長の小松浩氏は、日韓共同世論調査結果について、「両国民間で直接交流がない中、相手国のイメージが、実態ではなく虚像によってつくられている。そのイメージと実態とのギャップをどう埋めていくのかがメディアの役割」であると述べました。一方で、メディアの役割の限界についても言及し、政治家の問題発言やヘイトスピーチの元を断ち、相互作用としての悪循環を好循環に変えていくために、「核になる人が日韓関係の未来に向けて明るいビジョンを発言していく。それをマスコミがフォローすることで、悪いサイクルから、いいサイクルに変えていけるのではないか」と、多様な意見をメディアが発信していくことの重要性を指摘しました。
韓国側の発題者として朝鮮日報国際部部長の鮮于鉦氏は、現在の日韓関係が悪い原因は、政治指導者の影響が大きいと発言。日韓国交正常化50年を迎える来年、相手国の首相が嫌であっても首脳会談の実現と、しっかりとした土台の上に日韓関係をどう構築していくのか、考える必要があると述べました。
これらの発言を受け、ほとんどのパネリストが次々に発言を求めるなど、緊張した前半とは打って変わって白熱した議論が展開されました。
その中で、NHKソウル支局長塚本壮一氏は、安易な記事によってイメージを植え付けるような報道は改めるべきだ、と小松氏に同調。その上で、韓国の慰安婦問題や日本の徴用工問題なども含め、日韓関係の悪化により長期的な利益を逸失していることを、どのように示せるかが重要だと語りました。
中央日報論説委員の吳榮煥氏は、再生可能エネルギー、少子高齢化の問題など、政治問題だけではなく、両国が抱える生活密着型の問題について意見を交換し、新しい隣人国家のモデルになりたいと関係改善に向けた解決策を提示しました。加えて、慰安婦問題について、日本は韓国側にたいして時限を決めて期間を決めて交渉をするべきだとし、例え交渉が決裂したとしても、その段階で新しい問題を模索することが必要だと述べました。
これらの発言を受けて日本の元外務大臣の松本剛明氏は、日韓関係は極めて重要であるにもかかわらず、改善が進まない理由として、政治家の言動という意見があったことに触れ、「少なくとも外務大臣として国民の喝采を受けた政治家は後々の国益を大きく損する場合が多い。外交で国民の支持を得ようという行動はすべきでない」と自身の外務大臣としての経験を踏まえて語りました。
これに対して、韓国側の京紡株式会社社長の金畯氏は、「過去の反省なくして未来を話すことは出来ない、と多くの韓国人は指摘するが、その点は韓国人の限界だ」と韓国側にも問題があると話しました。その上で、韓国の政治家に対して「あなたはどんな成果を出したのか」とかなり厳しい意見を述べ、「歴史観にぶつかって未来にむかっていけないのは韓国人の問題である」と日韓関係改善に向けて、韓国人自身の問題点が指摘しました。
その後、さらに14氏が発言を求めるなどパネリストは積極的となり、日韓関係の改善に向けて、それぞれが自分の思いや提案をぶつけました。
これらの議論を受け、日本側座長である小倉氏は、今後の日韓共同事業について触れながら、日本と韓国は400年間戦争をしていないことは世界遺産であり、今こそ両国で不戦の誓いを行う時期にきているのではないか、と強調しました。
韓国側座長である申珏秀氏(前駐日韓国大使)は、日韓関係が悪化した理由として、中国の台頭によるパワーシフト、歴史問題、領土問題、国民感情の4点を挙げ、現在は、国交正常化50年で一番悪化しており、この状況を打開するためには、認識、信頼、理解、感情のギャップを埋めることが重要である。対決ではなく、相手の立場にたって議論し協力することが重要であると指摘しました。
その後、会場からの意見や質問が紹介され、日韓の共通益は何なのか、理性的な問題の解決によって感情的な問題を解決できるのか、若者の中でナショナリズムが増えてきたのはなぜかなど質問が出され、日韓両国のパネリストと会場参加者を巻き込んだ形での意見交換が行われました。
今回の対話を踏まえて、韓国側主催団体であるEAI院長の李淑鐘氏は「今日は、域内の情勢の変化、日韓間の利益、さまざまな価値の問題、文化の問題、いろいろな面から両国の重要性についての言及、日韓関係の改善が重要であるという認識が共有できたと思う。来年も世論調査を引き続き行い、一般の市民の人たちがもっと多く参加できるようにしたい。来年は東京で開催したい」と、来年の更なる対話の向上を目指す決意を表明しました。
これに対し言論NPOの工藤は、「両国の健全な輿論に支えられた両国関係というものをつくりたいと考えている。そのための主役は課題解決の意思を持つ市民だ。今回の議論がさまざまな市民の動きの触媒になればと思う」と締めくくり、「第2回日韓未来対話」は閉幕しました。
日韓未来対話の主催団体である言論NPOとEAIは、今回の議論を踏まえ、両国民に存在する冷静で健全な民意を十二分に尊重し、現状の改善のために取り組むこと、「日韓未来対話」をさらに発展させ、多くの市民が対話を通じてお互いを相互に尊重し、政府間の困難を半歩や一歩先んじて乗り越えるために全力で取り組むことなどを盛り込んだ「第2回日韓未来対話」主催者共同アピールを会場で公表しました。全文は、こちらからご覧いただけます。
参加者:【日本側】
小倉 和夫(日本側座長、元駐韓国大使、前国際交流基金理事長)
逢沢 一郎(自由民主党衆議院議員、元外務副大臣)
石川 えり(認定NPO法人 難民支援協会 事務局長)
川口 順子(明治大学国際総合研究所特任教授、元外務大臣、元環境大臣)
工藤 泰志(言論NPO 代表)
小松 浩(毎日新聞社 論説委員長)
添谷 芳秀(慶應義塾大学法学部 教授)
塚本 壮一(日本放送協会 ソウル支局長)
平松 礼二(日本画家、一般社団法人 日本美術家連盟 理事)
松本 健一(麗澤大学経済学部 教授、思想家)
松本 剛明(民主党衆議院議員、元外務大臣)
安彦 良和(漫画家、神戸芸術工科大学映像表現学科 客員教授)
山本 和彦(森ビル株式会社 特別顧問、森ビル都市企画株式会社 代表取締役社長)
【韓国側】
河 英善(韓国側座長、東アジア研究院理事長、ソウル大学校 名誉教授)
申 珏秀(韓国国立外交院 国際法センター所長、前駐日本国大韓民国大使)
金 世淵(セヌリ党 国会議員、日韓議員連盟 未来委員会 副院長)
金 栄煥(新政治民主連合 国会議員)
徐 瑛敎(新政治民主連合 国会議員)
洪 翼杓(新政治民主連合 国会議員)
呉 泰奎(ハンギョレ新聞論説委員長)
鮮于 鉦(朝鮮日報 国際部部長、元在東京特派員)
吳 榮煥(中央日報論説委員)
黄 永植(韓国日報論説委員長)
金 畯(京紡株式会社 社長)
孫 洌(延世大学校 国際大学院長)
李 淑鐘(東アジア研究院 院長、成均館大学校 国政管理大学院 教授)
韓国側出席者からの公正な発言に、やはり中国とは違うと納得するものがあった。日本のネット右翼の書き込みにはずいぶん過激なものがあるが、対立だけでは物事は解決しない。今回の会議はそれなりの意義があったと思う。
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