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日本とインドネシアはアジアの民主政治のために何ができるのか

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セッション2:アジアの民主政治のための言論と民間の役割

 第2セッションのテーマは、「アジアの民主政治のための言論と民間の役割」で、引き続き工藤が司会を務めました。

 冒頭で工藤から、今回の対話に先立ち、「戦後70年、東アジアの『平和』と『民主主義』を考える」と題して行われたアンケートの結果についての報告がなされました。

 まず、問1では「アジアの中で今後、デモクラシーはどのようになっていくか」について、「発展していくと思う」との回答が42.6%で最多だったものの、「どちらともいえない」が32.9%と一定数あり、「衰退していくと思う」も10.1%あるなど、アジアのデモクラシーの行方について、日本の有識者の中にやや懸念が見られる結果となりました。

 次に、問2では「デモクラシーの中で、一番重要な基準」については、「個人の基本的な人権の尊重」が34.5%で最多となり、これに「政治的な自由」(14.3%)と「表現・結社・信教の自由」(12.8%)が続きました。

 また、問3では「これまでのインドネシアの民主化改革に対する認識」では、「全て知らない」が50.8%と半数を超え、有識者レベルでもインドネシア政治に対する認識度が低いことが浮き彫りとなりました。

 最後に、問4では、「アジアの民主主義国が抱える課題は何か」について、「政治・行政などに腐敗が存在し、国民の信頼が形成されていないこと」(36.8%)と、「国内での貧富の格差が大きく、改善に向けた政治の取り組みが進んでいないこと」(33.7%)の2つが3割を超えて、並びかけました。これに、「個人の基本的な人権が十分に保障されていないこと」(23.3%)と、「一部の国では軍の政治介入が正当化されていること」(21.3%)が2割台で続きましたが、「権力を監視するようなジャーナリズムや市民が育っていないこと」(17.1%)、「ポピュリズム的で、大衆迎合的な政治が台頭すること」(17.1%)、「市民が自発的に課題解決に取り組むまでにはいたらず、市民社会が成熟していないこと」(16.7%)を選択した回答も一定数見られました。


貧富の格差改善に向けた取り組みは不可欠

 この結果を受けて、ベルモンテ氏は、まず問3について、「逆に考えれば、半数はインドネシア政治についての知識があるということになるが、これは大きな驚き」と語りました。問4については、「スハルト時代、大きく経済発展したため、国民は後の政権にも『今よりさらに発展してほしい』と期待をかけてくる。だから、民主主義政治を進める上で、貧富の格差改善に向けた取り組みは重要な要素になる」とコメントしました。軍の政治介入に関しては、「かつてインドネシアでは、軍人は文民の政治家のことを『何もできない』と侮るなど関係が悪かったが、今は改善している。軍事政権に戻ったタイと異なるのは、軍部との関係が良く、文民政治家がリーダーシップをとりやすいことがある」と分析しました。


女性たちが声をあげ始めたインドネシア

 アブドゥラヒム氏は、問2に関連して、「インドネシアの民主化のプロセスにおいては、『議会をどう強くするか』ということに力点が置かれていたが、今の議会もまだまだ弱く、議会からきちんとした問題提起もなされていない」と今のインドネシア政治の課題をあげました。他方、インドネシア政治の新たな潮流として、汚職など腐敗の追及において、女性が積極的に声をあげ始めたことを紹介し、「民主化のプロセスにおいては、色々な声が出てくることが大切であるが、女性たちが声をあげ始めたことは今後のインドネシアの民主主義にとっても良い流れだ」と述べました。


民主主義をアジア地域の戦略的なアジェンダとして、対話を続けていく必要がある

 続いて、工藤から、「アジアの民主主義の状況をどう考えるべきか」という問いかけがなされました。

 これに対して明石氏は、「アジア全体としては悲観どころか、楽観しても良い状況である」と述べました。明石氏はその根拠として、インドで新鮮な印象を受けるモディ政権が誕生したことや、スリランカでも中道なシンハラ系で、北部の少数民族へ融和的な態度をとる政権が誕生したことをあげました。

 ハッサン氏は、アメリカのフリーダムハウスが発表している「世界の自由度」を引用しながら「アジア太平洋の56カ国中、自由な国は16カ国しかない」と指摘しました。そして、その背景として、「伝統的にアジアでは、インドネシアのスハルト、シンガポールのリー・クアンユー、韓国の朴正煕など、経済発展を最優先するため、効率を重視し、民主主義を軽視する政権が多かった」ことを指摘しました。

 ハッサン氏はその上で、「ただ単に選挙を実施すればそれで民主主義というわけではない。あくまでも正当な選挙を定期的に行うことが重要だ」と語りました。さらに、自身が主導する「バリ民主主義フォーラム」の取り組みに言及しながら、「中国のような一党独裁国家が台頭する中、本当に民主主義は必要なものなのか、という疑念が出てくるかもしれない。しかし、バリ民主主義フォーラムには中国やイランのような非民主主義国も参加してきている。彼らも『変わらねばならない』ということは気付いているのだから、今後も民主主義をこの地域の戦略的なアジェンダにして、対話を続けていく必要がある」と主張しました。


「自由」はどこまで許されるのか

 ここで明石氏は、ハッサン氏がフリーダムハウスに言及したことを受けて、「民主主義の成熟度を測る上での尺度として、『自由』を絶対視することは果たして妥当なのか。政治、経済、社会においては様々な要素があるのだから、それらも盛り込みながら考えるべきではないか」と新たな問題提起をしました。

 工藤もこれを受けて、「『自由』なら何でも許されるのか。例えば、イスラム過激派の襲撃を受けたフランスの新聞『シャルリ・エブド』の事件では、表現の自由はどこまで許されるのかが議論となった」と問いかけました。

 川村氏は、「民主主義をどう考えるべきか、については色々な考え方があるが、選挙が行われているかどうかだけでなく、政治的自由、さらに表現・信教・結社の自由がないと民主主義が安定しないというのは、1つの共通理解になっているのではないか」と主張しました。その上で川村氏は、「民主主義をさらにステップアップさせる時、そこで新たに格差やジェンダーといった要素を考える必要が出てくる」と述べました。

 見市氏は、日本、インドネシア共通の課題として、「メディアの報道の自由が拡大するにつれ、ポピュリズムも台頭しやすくなってくる」という問題を指摘しました。見市氏はその例として、ジャカルタ特別州のアホック知事が州議会の汚職を摘発している事例をあげ、「議会が頼りにならない中、メディア報道で人気の出た首長が、議会を一刀両断する。その意味で、民主主義の発展の裏返しとして民主主義の形骸化というものが出てきているが、その背景にはメディアの報道の自由の拡大があるのでは」と述べました。

 アブドゥラヒム氏は、「自由に制限をかけるべきではないが、その分、メディアの力が大きくなるのだから、メディアはそれに伴う責任を自覚する必要がある」と指摘しました。さらに、「国民もきちんとメディア報道の質を判断する必要がある。そのためには教育が不可欠で、これも成熟した民主主義のためには不可欠な条件である」と語りました。


 これらの議論を受けて、明石氏は、「我々は相互依存的な世界の中で、他の宗教や文化と並存しながら生きている。日本は島国なのでガラパゴス的な発想に陥りやすいが、他国の宗教や文化に対する畏敬の念を忘れてはならない」と述べた上で、「シャルリ・エブドもフランス的な価値を追求しすぎている、という点では疑問の残るところもある。やはり自由だけを殊更神格化することはやや危険である」と主張しました。


アジア特有の複雑な事情を加味しながら民主主義の発展を見守るべき

 続いて、会場からの質疑応答を経た後、工藤から「民主主義をアジアのアジェンダとしていく場合、中国をどう考えるべきか」との問いかけがなされました。

 これに対しハッサン氏は、「中国は素晴らしい経済発展をしたが、『政治的スペース』を拡大していくことには苦労している。しかし、中国が民主的、平和的に発展できなかったとしたら、それは周辺諸国に対しても大きな悪影響を及ぼすことになる」と述べた上で、「中国自身、そもそも民主化のためにはどうすればいいのか分かっていない。我々の成功体験を『共有』して民主主義の推進を手助けしたい」と語りました。

 ベルモンテ氏は、「インドネシアはビッグバンのように急速に民主化したが、これから民主化する中国やミャンマーなどは色々なことを地道に積み重ねていくべき」と語り、その上で「まず選挙。それが民主主義のスタートだ。それから格差の問題などに取り組んでいけばよい」と述べました。ベルモンテ氏は、民主主義の発展に伴って生じてくるポピュリズムに関しては、「かつてのインドネシア政治はエリート向けのものだったが、それが市民向けの姿勢になったと考えればポピュリズムにもある程度意味はある」と語り、国民のニーズに合致した政治への第一歩にはなり得ると一定の評価をしました。

 明石氏は、「民主主義には色々な発展の仕方があってもよい。アメリカのように普遍主義的に1つ、2つのガイドラインに則って判断するのではなく、アジア特有の複雑な事情を加味しながら、色々な基準で見ていくべき」と主張しました。


成熟した民主主義国が、新興民主主義国を手助けしていくことが必要

 最後に、工藤から「今後、日本とインドネシアの間で、どのような協力が考えられるか」と問いかけがなされると、明石氏は「インドネシアはアチェの紛争や東ティモール問題、カンボジア和平などにおいて、成熟した知恵を出して解決に貢献してきた。北東アジアと東南アジアをつなぐことにもその英知を出してほしい」とインドネシア側に語りかけました。

 ハッサン氏は、「民主主義において、アジアは大きなチャレンジに直面しているが、これからも民主主義を推進していくべき、ということでは地域のコンセンサスは得られている。そのためには、日本とインドネシア、さらには韓国など成熟した民主主義国が新興民主主義国に協力していくことが必要」と訴え、さらに、「『21世紀はアジアの世紀』と言われているが、政治的な協力体制はまだまだ構築できていない。この状況で、アジアで紛争が起こったら大変なことになる。各国が協力体制の構築に真摯に向き合っていくべき」と主張しました。

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 工藤は、「アジアで民主主義の後退が懸念されているこのタイミングで、民間レベルでアジアのデモクラシーについて語り合える国がいることは日本にとって大きな幸運である」と初の試みとなった日本とインドネシアの民間対話の意義を強調し、「言論NPOは市民が強くなり、自分で判断できることを目標としているが、インドネシア側にもそういう議論ができる人がいることがわかり、北東アジアと東南アジアをつなぎながら、アジアの将来を共に考えられるのではないかと期待を持った。今後もこのような対話を続けていきたい」と日本とインドネシアの新たな対話への意気込みを語り、白熱した議論を締めくくりました。

⇒セッション1「日本とインドネシア、二つの民主主義を再考する」
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