「議論の力」で強い民主主義をつくり出す
木村: 政治は舞台劇のようなものでもあり、表面的なイメージやパフォーマンスに頼るポピュリズムはある面で避けられないものです。現代社会は複雑な構造になり、利害は錯綜しています。ある政策についての良し悪しの判断・選択というのは、実は口で言うほど簡単ではなく、福祉や年金をめぐる負担と給付の問題ひとつをとっても、難解な制度をすみからすみまで理解している人などほとんどいない。よほど複雑さに耐える強靭な知力と根気がないと実は民主主義はもたないのですが、たいてい議論は過度に単純化され、「AとBとどっちがいいか」というデジタル型の選択を有権者に迫ることになってしまう。ものを深く考えられるリーダー層と、小泉パフォーマンスに喝采を送ったごく普通の有権者の「裂け目」のようなものを、メディアはどう埋めていけばいいのか。そこが、まさに媒介者としてのメディアの力量と役割が問われるところでもあるのですが、逆に一部のメディアがテレビのワイドショーなどでポピュリズムをあおるような現象が起きている。選択という行動は「右か左か」のデジタルでも、選択までの思考の過程はあくまでアナログであるべきです。そのために有権者にできるだけ深く良質な議論や視点を提供し、多様な選択肢を示すことに、メディアも政治ももっと意を砕かなければなりません。「こちらを選べば100%いい国になる」という魔法はありえないのですから。
浅海: 今回のアンケート結果で、有識者がこのような反応を示したことは理解できます。「ポピュリズム」については、先の小泉政治と今の小沢民主党の政治手法のいずれをイメージして答えている人が多いのではないでしょうか。
メディア報道という言葉が出ていますが、「メディア」の中身がよくわかりません。テレビなのか新聞なのか。テレビでもNHKと民放は違います。テレビだとすると、93年の椿事件のあたりから、「テレポリティクス」ということが言われ始めました。政治が不安定なときはテレビの影響力が強く出るのかも知れません。
工藤: アンケートでは、「政治が責任を果たしていない原因」に関する設問の答えについて、まず民主党の責任を問う選択肢があり、福田政権の責任を問う選択肢がある。そして国民の責任を問う選択肢があり、メディアの責任を問う選択肢がある。加えて、「そもそも政治家に能力を感じない」(25%)と「政治家に二世議員が多い」(12%)という、いずれも政治家の問題ですが、そのふたつは合わせて30%台後半になります。
浅海: 政治家不信というのはとても強いものがあります。政治不信というより政治家不信です。
工藤: 民主党が政権交代に非常に近いところにいるのに、政治不信が強まるというのはどういうことなのでしょうか。
浅海: 現実には、民主党が政権交代をするには、次の総選挙で相当議席を増やさなくてはならないので、かなり厳しい。わかっている人も多いのでしょう。
工藤: 民主党への政権交代に「賛成」が40%で「反対」が34%で「どちらともいえない」が25%ですが、「賛成」の内訳は、半分が「政権を取れば責任感も出るので政権交代を優先すべき」を選んでいます。
浅海: そう答える人は、マニフェストの重要性を聞いたときにどう答えているのでしょうか。マニフェストを大事にする人は「とにかく政権交代優先」という考えには反対のはずです。
山田: 61%の人が「今はマニフェスト政治になっていない」と答えながら、「有権者に求められるもの」という設問に対しては、4割が「政党にマニフェスト作成を求めること」と答えている。マニフェスト政治の現状を冷ややかに見ながらマニフェスト政治に期待するという心理は何やら偽善的だという気もしますが、これは「有権者は、政党マニフェストの質の向上を求めている」と解釈すべきなのでしょうね。
会田: 政治家の質が低いのはどこの国も同じだろうと思います。理想的な政治家がいる国なんてない。その国の持っている相対的なシステムの強さが政治をどう生かしていくのか、ということが大切です。人材はあまり関係ありません。われわれのシステムを強くしていく議論をしたほうがいいと思います。
工藤: これまでの政治改革は、政治主導の二大政党制の方向に動いてきました。しかし、ただ権力を取って政権交代を目指すというだけでは、課題を解決してくれない。94%は「政治家はもっと課題を解決してほしい」という、そういう不信を抱いているわけです。
今まで色々な改革がありましたが、税制ひとつにしても仕組みづくりにきちんと取り組めていないように思います。政治がやることは、もっとインフラを整えたりすることではないか。労働市場に関して齋藤誠さんも言っていましたが、「みんなが努力して、その結果としての現実に自ら納得できる環境」が大切です。その議論は橋本政権のビッグバンも含めてずっと行ってきたはずですが、中身を見ると、有権者との合意を形成する努力をしているのか疑問です。日本の政治や政治家をどう考えて、どうしていけばいいのかということをうかがいたい。
木村: 政局本位なのか政策本位なのかという議論は、あまり生産的ではないように思います。政局と政策は実は不可分なもののはずです。
政治家に何を求めるかという問いは重要ですが、そこで気をつけるべきは、政治家に求めすぎてはいけないということでしょう。政治家の役割は、中長期的なゴールを見すえてゲームプランをつくり、着実に実行することに尽きます。脱官僚は必要ですが、情緒的な反官僚のポピュリズムは、大衆の喝采を受けるかもしれないが、逆に政治家の気まぐれと恣意的な判断を許し、公益を損ないかねない。日本は経済も人口も収縮していきますが、その中で負担と給付の問題をどう考えるか、煎じ詰めて言えば、政治家としての理念と力量が問われるのはまず、この一点だと考えています。
サッカーで言うと、ゴールの1点取るために政治は何をするかということです。問題なのは決定力不足、つまり実行力不足なのか、目的意識のあいまいさなのか、戦略フォーメーションのまずさなのか。誰にボールを蹴らせるのか、政治の現状を冷静に分析し、戦略目標を立て、そのための人材を配置するしかない。政治家にあまりあれこれ多くを望んでも仕方ない。
工藤: 今の政治はそういう方向に向かっていますか。
木村: 最近では、「空気が読めているか」「テレビ時代に向いているか」などといった政治家の品定めのための新しい指標もありますが、多様な視点で政治や政治家を点検することは重要です。100%完璧な政治家などいない、ということをまず押さえるべきでしょう。政権交代は政治を活性化するためにも必要な過程ですが、ゴールではない。
工藤: となると、やはり、マニフェストか何かできちんと示してほしいということになりますね。
木村: それは大事だと思います。ただ、マニフェストも最近はやや色あせた感じになっていませんか。「衆参で国会がねじれているから政治が動かない」という批判がありますが、政策の実行がままならない「ねじれ」を経験したことによって、ある意味で政治の認識が深まった面もありますね。こうした経験がマニフェストをつくる政党の側、それを評価する有権者側の視点をいちだんと深める契機になればいい。与野党が衆参で「ノー」を連発しあって政治が動かず、マニフェストが宙に浮いているようにも見えますが、一喜一憂しないほうがいいと思います。
浅海: 政治家全体の資質を問う声がこんなに多いのもわかるような気がします。政治家が相対的に若くなってきているということもあるかもしれません。
最近感じるのは、政治家、大臣が官僚の悪口を言う。官僚をコントロールすべきは政治家のはずですが、それを棚に上げて「役所が悪い」と言う。先の公務員制度改革にしても、政治家が弱体化したので、少しでも官僚をコントロールしやすくしようという発想だと思います。「官僚に対する政治主導を強化する」というのは、政治家そのものの資質とか力量と裏表の話でしょう。木村さんはゲームプランの話をされましたが、そういう力があって初めて官僚をリードし、コントロールすることができるのではないでしょうか。
会田 弘継
共同通信社編集委員 論説委員
浅海 伸夫
読売新聞東京本社論説副委員長
木村 伊量
前朝日新聞ヨーロッパ総局長
山田 孝男
毎日新聞政治部専門編集委員
工藤 泰志
認定NPO法人 言論NPO代表
マニフェスト評価の
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