日中の相互不信とメディアの役割
第14回:「両国とも互いの国の枠を超えた多元的な報道に努力すべき」
曹鵬程 人民日報日本支局の曹と申します。日本に3年ぐらい駐在していろいろな報道をしました。私から見ると、中国と日本のメディアは中日関係にどんな役割をするか。多元性と自然性が非常に重要なことですね。それは私も大変賛成しています。
その上に、中国と日本は特別な両国の関係ですから、その上に報道のときに、また、遠慮をしなければなりません。遠慮が不可欠ということも意識しています。それは、例えば中国人でも、さっきおっしゃった多元性と自然性はアメリカ人が提出した理論で、中国人と日本人にはお互いに儒教の影響があって、お互いに交流するときは、例えば相手のよいところがあればすぐ褒められる。しかし、悪いことがあれば、いろいろなよい点をまず言って、最後に、けれども、こちらがちょっと不十分と、遠慮しながらの言い方がなければ、相手も怒ると思います。
今からみれば、中国のメディアと日本のメディアがどうして悪循環になるか。やはり瀋陽総領事館の報道のときに、共同の記者が事前にそういうことを知って、わざわざカメラを設置して、それを日本に報道したときは、中国の解放軍に引っ張られるシーンを繰り返してやります。そういうことをやってもいいのですが、その前に、どうして解放軍がそこにいるのか、背景の解説が足りないと思います。その後しばらくたつと、中国では日本人の集団買春事件を報道しました。
しかし、日本人の方々が多分注意していなかったことは、それを報道したところは中国の地方のメディアではないですか。さっき劉先生もおっしゃったように、四川省でも1000万部以上の新聞と雑誌がある。だから、そういう報道をしたところは新華社ではなく、人民日報でもない。やはり中国の政府系レベルのメディアは、対日報道のときにはずっと遠慮しながら報道したことに、日本の方々は注意しなければなりません。
刺激的なことがあったら、やはり遠慮をしながら、報道しない、あるいは報道してもきちんとよく背景資料を載せて、どうして日本はそのようにしたか、そして日本国内でも反対の声があるということを総合的に報道した方がよいと思います。
今井義典 きょう、一緒に皆さんと議論をしていて、昔のことを思い出しました。日本とアメリカの貿易摩擦が激しかったころですから、今から15年ぐらい前でしょうか。日米のジャーナリストの会議の席で一番大きな議論になったことは、どちらのメディアがよりナショナリスティックかということで、お互いにおまえの方がナショナリスティックであるという議論をしました。恐らくそれぞれの国のメディアには乗り越えられない、ある種のテンプレートというものですかね、枠があるかもしれません。我々はそれを突き破って、何とか自分たちが自分たちで抱えている枠を越えていかなければいけないということがきょうの1つの印象です。
それから、マイナス面として言えば、今の我々の置かれているメディア環境は、熊先生から幾つかご指摘がありましたが、とにかく急げ、速く伝えろ、わかりやすく伝えろと。そしてこの速く、わかりやすくということを、メディアの取材の対象になる人たちが極めて巧みに利用する場合がある。日本でも小泉劇場などといわれるものがあります。
これもかつて幾つかの国のジャーナリストと話をしていたときに、アメリカのテレビの記者が、うちのナイトリーニュースはサウンドバイト(注:収録した発言をひとこと、ふたこと短く切り出すこと)を7秒しかくれないと。そうしたらイギリスのBBCの記者が、うちは15秒だと。そこで私は、うちは30秒だと言ったのですが、もしかするとこのインターネットとの競争の中で、テレビのサウンドバイトの時間はもっと短くなっているかもしれない。これは我々が戒めなければいけない点ではないかと思います。速く、わかりやすく、ショッキングに伝えていくということが、この新しいメディアの環境の中でどんどん進められていくとしたら、これは間違った方向になるだろう。
もう1つ、きょうの議論で多元的にということが出ましたが、これもテレビの立場から言うと、やはり恐ろしいことは、1つの断片的な事件、映像を伝えることによって、あたかもそれがすべてを代表しているかのように我々が伝えてはいけない、そのような事実を逸脱した、誇張したやりかたで伝えることに戒めを持って臨まなければいけないということだろうと思います。
これからの前向きな提案として申し上げたいことは、テレビの場合で言えば、番組の交換ということが挙げられると思います。先ほど劉さんからお話がありましたが、湖南省でこの時期、久しぶりに『おしん』が放送されて、夜の10時台、視聴率のナンバーワンになった。中国側ではこの番組を放送するに当たって、一番人気のある流行歌手に主題歌を歌ってもらう、そのようなことがあったそうです。それだけお互いに心の琴線に触れるものはあるはずなんです。その琴線に触れるものを何とかお互いに見つけ出して交換していこうということだろうと思います。
もう1つ、共同制作というものがあります。これは今、テレビの番組をつくるためにはお金もかかります。それから情報も集めやすい、にくいということがあります。NHKと中国のテレビ局の間では『シルクロード』を初め、共同制作をたくさんしています。時には一生懸命共同制作で合意をして、両方の厳密な計画の中で放送をつくって、中国側では10年たってもまだ放送してもらえていない『大地の子』などという番組もあります。しかし、こうした努力を積み重ねていくことによって、肌で触れることのできない人たちの間に、もう少しつながりをつくっていくことができるのではないかと思います。これからも努力をしていきたいと思います。
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「第14回/両国とも互いの国の枠を超えた多元的な報道に努力すべき」の発言者
今井義典(日本放送協会解説主幹)いまい・よしのり
1944年生まれ。68年日本放送協会(NHK)に入り、地方局、国際部などを経て、ワシントンおよびニューヨーク特派員。95年から3年間はヨーロッパ総局長。この間86年から朝の「ニュースワイド」、93年から「おはよう日本」のキャスターをそれぞれ2年間担当。その後国際放送局長、解説委員長を経て、現在は解説主幹。
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