世界とつながる言論

日中の相互不信とメディアの役割


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第7回:「日本の歴史認識の問題点は何か」

添谷芳秀 私が1つ思っていたのは、小林さんのコメントと関連するのですが、軍国主義にしても、民族主義、国家主義にしても、こういう「主義」という立て方にそれなりの問題が潜むということなのだろうと思います。我々が日本国内で日本における民族主義的な雰囲気、あるいは国家主義的な雰囲気というものを感じているということは全くそのとおりだと思いますが、ここで多少、先ほどの問題提起を一歩進めますと、我々が日本的なコンテキストでそれを取り上げている取り上げ方と、中国の方から日本を見て同じような心配をなさるということは、必ずしも同じことではないのではないかということが、あえて言えばさらなる問題提起ということになろうかと思います。

1つだけ具体的なことを申し上げますと、これは必ずしも中国だけではなくて韓国でもそうですし、あるいは東南アジア、それから欧米にも一部そういう見方があるわけですが、特に小泉内閣になってからの日本の一連の外交政策に対する解釈です。例えばイラクへの自衛隊派遣、小泉首相による靖国訪問、それから、いわゆるアジア外交全般、日米のミサイルディフェンス防衛の問題、場合によっては台湾問題に対する日本政府の変わりつつある姿勢等が、いわゆるこういう国家主義であるとか、民族主義というような理解の中で一連の体系を持った日本外交の変化である、システマティックな変化であるというような理解がかなり常識的に語られます。、例えば中国の側に存在するのだろうではそうした傾向が強いと思いますけれども、日本国内で見ていると、それらはかなりばらばらに起きている、別々の脈絡コンテキストでそれぞれの背景を持って起きている出来事なわけです。そこに国家主義であるとか民族主義というような枠組みでもって、最近の日本の政治の変化の雰囲気を体系的に理解してしまうというのは、私は必ずしも正しいと思っておりませんし、なおかつそういう前提で中国メディアが日本に起きている政治的な出来事もを解釈されし、それが中国の人々に伝えられるということは、最初に申し上げた、間違った前提での相互理解ということの一面なのだろう。これは最初に申し上げた日本側の中国理解にも同じようなことがあるわけです。例えば、中国外交すべてを共産党支配体制のもとでの体系的な対日政策であるかのような解釈が日本国内でも現にあるし、恐らくふえているのだろうと思います。しかしそして、その構図自体の中でマスメディアが果たす役割というのは実はかなり大きいのではないか。

今井義典 張さんのおっしゃられたドイツのナチスの問題と日本との比較について、私の知っている限りのポイントをはっきりさせておきたいと思います。

1つは、中国との戦争、歴史の中における日中戦争についての認識というのが、日本の国民の中で対米戦争といいますか、太平洋戦争と比較して非常に認識が薄いということは言えると思います。中国には満州の建国以降、日中戦争の中で延べ数百万人の日本の兵隊が行って、40万人、50万人の日本の兵隊が命を落としている。勿論中国側にはそれをはるかに上回る犠牲者がいました。しかし、特に、沖縄戦や原爆の投下によって日本が壊滅的にアメリカに負けた「太平洋戦争」という認識の中で、中国に負けたのではないのではないという思いが日本の中にあります。対中戦争が中国の歴史の中で極めて重大な戦争であったのにもかかわらず、日本の国民の間でその侵略者、加害者としての認識は十分とはいえないものがあると思います。歴史の中に消えてしまった、あるいは埋めてしまったといえます。一方、中国においては、中国の建国の歴史の中で、日中戦争のウエートは非常に大きく、人々の心の中にきわめて鮮明に残っているのだと思います。そしてこの戦争が現在の中国の存在、正当性の一つの根拠なのですから。

もう一つ、ナチスの問題ですが、これは私の親しいユダヤ人に聞いたことですけれど、ナチスの犯罪は、ドイツ人、あるいはドイツの国家としての犯罪というよりはナチスという1つの政治グループによる犯罪である、そして、日本の侵略戦争、植民地化戦争と違ってナチスはユダヤ人を殲滅する、600 万人の人たちを戦闘ではなくて殺してしまったということにまず質的な差があるということ。それから、実はこれは余りよく言われていないことだそうですが、ヨーロッパのユダヤ人が感じていることは、実はヨーロッパのほかの国々もナチスのユダヤ人殲滅に積極的か、消極的か、否応なしにか、協力したという罪の意識がある。この意識のもとで、戦後出直すときにナチスの問題を早く片づける、そして、このような過ちを犯さないということを常に認識している。そこに大きな差が日本と中国の関係と比べるとあるのだろうと思います。

ですから、日本の歴史認識に問題があることは間違いないと思います。ただ、ナチスと同列に議論することには私は大きな抵抗を覚えます。

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「第7回/日本の歴史認識の問題点は何か」の発言者

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添谷芳秀(慶応義塾大学法学部教授)
そえや・よしひで

1955年生まれ。79年上智大学外国語学部卒業。81年同大学大学院国際関係論専攻・修士課程修了。同大学国際関係研究所助手を経て87年米ミシガン大学大学院国際政治学博士(Ph.D)、同年平和安全保障研究所研究員、88年慶応大学法学部専任講師、91年同助教授の後、95年より現職。専門は東アジア国際政治、日本外交。主著書に『日本外交と中国 1945―1972』(慶應義塾大学出版会、1995年)、Japan's Economic Diplomacy with China (Oxford University Press, 1998)、『日本の「ミドルパワー」外交―戦後日本の選択と構想』(ちくま新書、2005年)などがある。

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今井義典(日本放送協会解説主幹)
いまい・よしのり

1944年生まれ。68年日本放送協会(NHK)に入り、地方局、国際部などを経て、ワシントンおよびニューヨーク特派員。95年から3年間はヨーロッパ総局長。この間86年から朝の「ニュースワイド」、93年から「おはよう日本」のキャスターをそれぞれ2年間担当。その後国際放送局長、解説委員長を経て、現在は解説主幹。

更新日:2006年10月14日

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