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「第7回北京-東京フォーラム」事前会議 報告

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会議終了後の日本側参加者による座談会

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参加者:
明石康氏(財団法人国際文化会館理事長、元国連事務次長)
秋山昌廣氏(海洋政策研究財団会長、元防衛事務次官)
高原明生氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
松本健一氏(麗澤大学経済学部教授、内閣府参与)
宮本雄二氏(前駐中国特命全権大使)
司会: 工藤泰志(言論NPO代表)

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工藤泰志 工藤: 皆さん、お疲れさまでした。「第7回 北京-東京フォーラム」に向けて、今回かなりいい打ち合わせができたと思いますが、まず、団長の明石さん、どうでしたか。

明石康氏 明石: 我々が目指した初期の目的は達成されたと感じています。昨年の第6回フォーラムでは、その直後に尖閣の思わざる事件が起きて、日中関係がかなり暗礁に乗り上げた感があって、第7回のフォーラムが開かれるとしても非常に険悪な雰囲気の中で行われるであろうと心配をしていたが、東日本大震災が起こったので、中国側に、大震災に際しての日本に対する同情、連帯感、何かしてあげたい、しなければならないという意識が支配的になったと思うんですね。そういう意味で我々は日中関係について改めて、こういう大災害のときに、アジアの有力な国として、日本と中国が、どういう風に協力すべきかという大きな課題、チャレンジに直面させられたわけですね。中国側もそれをきちんと受け止めて、単なる情緒的な同情ではなくて、改めて日中のあるべき姿を考えさせられたのではないかと思う。そういう事で、日中関係の課題はありすぎるほどあるわけですが、それに対して前向きに、両国の長期的な、基本的な利害に基づいて一緒に対話を続けたい、その手段として、北京-東京フォーラムは絶好の機会ではないかという気持ちが中国側の参加者から感じ取れた。そういう意味では大きな収穫であったと思います。

工藤: お疲れさまでした。次に、松本さん、中国メディアの人気の的でしたが菅総理のメッセージも伝えられたということでしたが。

松本健一氏 松本: 中国の方から見ると、鳩山さんの時には日中関係、アジア共同体、アジアの未来ということを考えているように見えたけれども、菅首相になってから、どうも米国の方を向いているのではないかという疑念、懸念があった。それが今回の震災があったことによって、実際に菅総理と会ったら、今年は辛亥革命100年の年であり、来年は日中国交回復40周年という年であり、菅総理とすればアジア関係ということを考えていないわけではないどころか、辛亥革命100年を糸口にしてアジアの問題について考えている。だから、今年訪中して、実際に日中の関係を修復したいというふうに思っている。その流れの中で、実は中国の側からも東日本大震災に対して非常な関心を持ち、共感あるいは支援をしてくれることがあったわけで、菅総理も中国の人々にお礼を言っておられました。もちろん、胡錦涛国家主席は日本大使館に来てくれたわけですし、中国政府もそういうメッセージを出してくれています。それに対してほとんど毎日のように原発の問題があるので、いちいち応えられなかったけれども、丁度、松本さんが行くなら、いい機会だ、フォーラムは長い歴史を持っているので、自分の意見を伝えることができて嬉しいと、そしてお礼を言っておきたいという形で、メッセージを預かってきた。そういうわけで、役割を果たせたと思います。
 私は第2回からのフォーラムの常連ですが、同時に日本政府、首相からのメッセージを今回は伝えることができて、その上に第7回の北京-東京フォーラムがうまくいくようにと思える、そういう時間だったと思います。

工藤: 本当にお疲れさまでした。中国メディアの人たちからどういう質問が一番多かったですか。

松本: それは色々ありました。時には悪口を言い合っていますが、近い関係になっているということがよく分かりましたし、毎日TVでは情報が出ているけれども、今日は北京で雨が降っているときには、日本では雨が降っているときに放射能が降ってくる、それに対して日本はどういうなふうな怖れを持っているか。どういう対処の仕方を持っているのか、そういう質問もありました。そんな大した放射能の量が出ているわけではないし、中国までたどり着くのは少ないわけですが、実際に聞いてみたいという感じですね。そして、今は放射能の問題でメディアが動いているけれど、日本がこれからどう復興していくのかという、長期的な展望を教えてくれということでした。具体的に、東アジアと言いながら、日本と中国の風土は違っていて、日本の場合には海に面していて津波が起こってくるという風土であると。これは地震が起こる量も中国の方が10分の1以下ですし、津波もほとんど経験したことがなくて、映像で見て非常にびっくりしたと。それが中国にも襲ってくるのではないか、という風な怖れも感じていました。ですが、それは違うと。日本の場合は、海溝が1万メートルもあるところから津波が起こってくるので、これは日本の特性、風土的な特徴だという説明をしました。

工藤: はい、日本のスポークスマンになったかのような松本さんでした。宮本さんどうですか。

宮本雄二氏 宮本: これまでは来賓で3回参加させていただきました。今回はメンバーのひとりとして、第1回目の事前の準備委員会的なものに参加させてもらい、非常にいい仕事をしていらしているなと感じました。我々もそうですが、中国側の参加者も、日本と中国の関係は大国同士、引っ越しできない隣国同士ですから、したがって、いい関係を築いていくしかないと、そのためにどうしたらいいかと。ですから、問題をあげつらうのではなくて 問題に直面して、いかにして解決の糸口を見出すか、これが私たちの仕事だという風に、中国側の発言も聞いて大変心強く思いました。それからやはり、昨年9月の尖閣絡みの問題に関しても、中国側もこういう問題が起こるのを、二度と見たくないと思っていることが、ひしひしと伝わってきました。したがって今回の東日本大震災を契機に、中国側としても日本との関係をいかに強化していくか、どれだけ震災を通じて、どういう日中の協力の仕方があり得るのか、ということを真剣に探ろうという気持ちが伝わってきたということに、私は元気づけられました。率直な意見を交わしていらして、なかなかいい仕事をしていらっしゃるなということで、非常に勉強になりました。

工藤: 本当にどうもお疲れさまでした。では秋山さんどうですが。今回初めて参加していただいて、面白かったですか。

秋山昌廣氏 秋山: 大変面白かったですね。6回までは参加していなかったし、特に第6回のフォーラムの後にああいう事件があってご苦労されたということについては、私はシェアできないのですが、非常に有力なオピニオンリーダー、ポリティカルリーダーが参加して、あるいは、経済界の重鎮が参加するという形で、率直に意見交換をし、相互理解を深めて、かつ、対外発信をするフォーラムだなという事を感じました。今回はある特別な環境のもとで、ある意味での外交活動も必要だったから、それもされた。非常にマスコミの関心も高く、多少外交的配慮のための発信でもあったが、それなりに成果があったと思います。

 少し懸念を持ったのは、さっき言った3つの要素です。つまり、非常にハイレベルなリーダーが参加するということは、いいと思います。対外発信もいいだろうと思います。しかし、率直な意見交換をして相互理解を深めるという要素をもう一度重視して、次の第7回を成功させるようにするべきかなと思いました。というのも、安全保障の関係では、はっきり言って、今日は率直な意見交換はできませんでした。確かに、そういう必要がなかったということもあります。それにしても、例えば参加者の楊さんが、ちょっとブレイクがあると、非常に率直に聞いてきます。「秋山さん、今度の大地震は、日中の安全保障関係にプラスと出ますか、マイナスと出ますか、今どういう感じですか」ということを、非常に聞きたいわけです。それに答えることは難しかったけれど、あのみんなの席の前で言わないですよね。非常に公式なことだけを言って、がんがん言って終わりでしょ。しょうがないから、私もがんがんと言うけれど。これまでもやってきたと思いますけど、今回初参加の中で、そういう率直な意見交換と相互理解がこのフォーラムの中でできるような仕組みを、どうつくっていくか、ということは結構難しいなと思いました。だから、工夫する必要があると思います。

明石: 私たちの今回の訪中は序曲をお互いに演じたに過ぎないので、本番の時には何とかもっと時間をかけ、より多くの人が参加して、問題をより深くより広く語り合うことができそうだな、という感じをお互いに持てたということだと思います。私は、相手方がそういう印象を持てたと思いますが、実際にそうなるかは分からない。その方向で努力すべきであると思います。第6回のフォーラムに鑑みて、できそうだなと思いますが、今の段階では中国からどんな人が参加するかわかりません。ご懸念はよく分かりますし、我々としてはそういう風になるように、また、どれだけオープンに、ないしはどれだけクローズに、ないしは中間的な形になるか、北京でやるということもあって、東京ほど率直な意見交換ができないかもしれないけれど、昨年の東京よりも、方向性において一歩前に進んだというところまで持っていければすばらしいな、と思っています。

工藤: とりあえず、僕たちは本音で話し合いました。確かに、すぐには変わらなかったのですが、この6年の間に、段々進歩してきているという感じです。でも、それが目的ですから、それに向けて近づくような努力はしなければいけないな、ということを非常に強く感じたということですね。高原さんどうですが。昼から来られたのですが、これまでずっと一緒にやっていますから。

高原明星氏高原: 前半をほとんど聞いていないので、その限りでの印象ということになりますが、少人数でやったわけですから、一般の会合に比べますと、かなり密度の濃い議論ができたのではないかと思います。それに、皆さんもおっしゃっている通り、こういう状況下での協議なので、いつもよりは打ち解けて、胸襟を開いて議論したという印象を持ちました。
 いま中国は、国内も色々と問題があるのですが、外交政策をどうするかという大きな曲がり角というか、分岐点に来ているわけであって、そういう状況の中で日本と長期的にどうやって付き合っていけばいいのか、ということを非常に真面目に考えているな、という印象を受けた日だったと思います。

宮本: 高原先生が提案された、討論する具体的項目をあらかじめ決めておいて、何を聞きたいかということを事前にぶつけ合っておく、という提案は、非常によかったと思います。そのことを、もう少し早めにしておくことによって、もう少し掘り下げた議論が可能になってくるのではないかという気はしています。

工藤: そうですね。今回、初めて事前協議をやったので、昔からみると段違いに準備をしているのですが、ただ、折角やっているわけですから、今度は議論の準備をしなければいけないなと思っています。ただ、今回は議論もそうだけど、まだまだ中国の人達の中で誤解とか、色々ありましたよね。原発問題で、記者が日本は核兵器を準備しているのではないかという質問が来たことに驚きました。まだまだ、もっともっと日本側の考え方を伝えるという作業が必要だなと思ったし、一方で本気の議論をしなければいけないと思いました。

明石: 日中関係がよくなったと言っても、我々はバラ色の幻想を抱かないで、中国の一部の人達には日本に対するかなり現実的とはいえない見方が存在する、ということを忘れてはいけないと思います。

秋山: 僕は、少し違和感を持つのは、宮本さんの話にもありましたが、日中関係が非常によくなったという雰囲気の中で、ということを盛んに言われるのは、僕は非常に違和感を持ちます。去年の尖閣の問題を、このフォーラムで体験していないからなのだけれど。そんな日中関係が、今回の地震の問題で急激によくなるとは、僕は全然思っていません。むしろ、楊毅氏が質問したように、大地震は自衛隊と人民解放軍の関係について、プラスに働くのかどう思う、ということを非常に気にしているわけです。だから、変な意味でのギスギスしているのはなくなったかもしれないが、日中関係が非常にいい環境で、今日の会議ができたという、みなさんの感想に、少し違和感を持ちます。

工藤: 多分、それは、状況に対してというよりも、このフォーラムが始まった2005年というのは、こんなレベルでは無くて、ほとんど儀礼的な会話しかできなかった。つまり、再スタートということで議論をして、本音を言い合えるようにつくっていかないといけない。誰かがやってくれるわけではありません。

宮本: 日中関係は、もともとそんなによかったことがありません。

工藤: だから、元々困難な中から始まっているので、その変化率で、そのプロセスがそうだったという形であって、絶対的な水準としては、秋山さんがおっしゃるとおりだと思います。つまり、下がっているエスカレーターを上がるようなもので、努力を止めたら下がっていくということだと思います。ただ、この対話を続けることは非常に大事だと思います。

明石: しかし、時間の制約で触れることができなかった問題が、特に安全保障関係では多かったわけで、日中間のパワーの問題とか、軍事的な意味での信頼醸成、そのために必要な透明性の確保などの問題について我々は聞いておくに留まったことはその通りです。例えば、石破さんや長島さんが出席していたら、もっと厳しくやったに違いないと思います。しかし、今回はその必要は無かったと思います。

工藤: 今日は、日本と中国の人達の、「我々のこのフォーラムは」という言い方をしていました。我々ということに関して、1つの何かをつくろうとしているところを共有しているなと思いました。

宮本: 今回は、準備委員会なので、現在の状況が、大まかにどういう風になっているかということについて、我々が共通意識を持つようにして、7回目の議題をどうするかということを話し合うことが主たる目的でした。ですから、このテーマを掘り下げて議論するということは、7回目のフォーラムにとってあるわけです。ですから、今回の仕事ということでは、私はこれでよかったと思います。

工藤: とにかくドラマがスタートしましたから、きちんと準備をしてやらないといけない、ということですね。

宮本: だから、7回目の時に、何と何を具体的に話すのかということを、事前にお互いに明確にしておく方がいいです。そうすることで、誰が参加するかということも決まってきます。そうすると、それに見合った人を中国側が出してくる。そうすれば、我々の議論は、益々意味を持って来ると思います。

工藤: ただ秋山さんがおっしゃることもわかって、今まではオープンにするということで議論してきたのが、今回はクローズドでもいいから、より本音ベースの対話にしたいという要求も日中間で出てきていましたよね。

明石: そういう希望に対して、中国側からは、ある程度の疑念、抵抗のようなものも感じ取れたと思います。その意味では、第7回のフォーラムが素晴らしい我々の期待するような結果に終わるかは、幕を開けてみないと分かりません。だから、無理矢理めでたし、めでだしで終わらせない様にすることも、我々の配慮すべき点だと思います。

工藤: これから、長い本気のドラマが始まるわけですよね。そういう意味では、1つの幕を開けるきっかけを作れたかなと思います。本当に、みなさんお疲れさまでした。これから日本に帰って、日本の復興、再生のために頑張りたいと思います。


(文章・動画は収録内容を一部編集したものです。)

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