12月15日、毎日新聞社「毎日ホール」において「第4回エクセレントNPO大賞」の表彰式が行われ、ノミネート団体、支援企業、一般参加を含め総勢91名の方々が参加しました。
「第4回エクセレントNPO大賞」は「SOS子どもの村JAPAN」に決定
今回の「第4回エクセレントNPO大賞」から、審査基準が「市民性」、「課題解決力」、「組織力」の3分野15基準に刷新されると同時に、本大賞の評価基準における3つの大きな柱のひとつである「市民性」について、市民からの共感性、およびより普遍的な視点から評価するため、二次審査においてクラウドファンディングを導入しました。
過去3回に比べて、今回の審査はやや複雑な工程となりましたが、合計66団体からのご応募をいただきました。その中で栄えある「第4回エクセレントNPO大賞」は、「SOS子どもの村JAPAN」に決定いたしました。
その他、市民賞では「さぽうと21」「ACE」、課題解決力賞では「SOS子どもの村JAPAN」、組織力賞では「杜の伝言板ゆるる」がそれぞれ受賞しました。
各賞のノミネート団体は以下のとおりです。
(1)エクセレントNPO大賞
- 受賞団体:SOS子どもの村JAPAN ( ⇒ 受賞インタビューはこちら )
(2)市民賞
- 受賞団体:さぽうと21、ACE ( ⇒ 受賞インタビューはこちら )
- ノミネート団体: ASIAN PEOPLE'S FRIENDSHIP SOCIETY
アスクネット / かみえちご山里ファン倶楽部 / 子育て支援コミュニティプチママン
(3)課題解決力賞
- 受賞団体:SOS子どもの村JAPAN ( ⇒ 受賞インタビューはこちら )
- ノミネート団体: 介護保険市民オンブズマン機構大阪 / 「飛んでけ車いす」の会
にじいろクレヨン / フードバンク山梨
(4)組織力賞
- 受賞団体:杜の伝言板ゆるる ( ⇒ 受賞インタビューはこちら )
- ノミネート団体: TABLE FOR TWO International / 福田会
プールボランティア
強い市民社会を作り出すことが民主主義の基盤になる
表彰式ではまず、「『エクセレントNPO』をめざそう市民会議」の事務局長を務める言論NPO代表の工藤泰志が、主催者を代表して挨拶に立ちました。その中で工藤は、まず、昨今の世界の政治においてポピュリズムが台頭し、民主主義の基盤が揺らぎ始めていると述べ、「民主主義がいま問われている」と語りました。
その上で工藤は、こうした民主主義の現状は、政治と市民の断裂を生み、課題解決に向かわない政治は国民の不安につながっていく、と指摘。そして、「民主主義の立て直しには質の競争によって課題解決の流れを作り出す必要がある。『エクセレントNPO』などを通じて、社会の課題に向かい合っている非営利セクターを見える化し、強い市民社会をつくっていくことこそが民主主義の基盤になる」と4回目となる本賞の意義を語り、挨拶を締めくくりました。
自立した多様な社会をめざし、これからもNPO活動への応援を続けていく
続いて共催の毎日新聞社を代表して小松浩・主筆が登壇しました。まず、本大賞への協賛の意義について小松氏は、日本や世界が直面する課題を解決していくためには、非営利セクターの存在は欠かせない存在であり、そうした存在を多くの人たちに知らせることは、非常に重要だと語りました。
また、現在の政治状況に対する工藤の挨拶を踏まえながら、「強い指導者が現れれば世の中は変わるのか」と問題提起した上で、そうしたポピュリズム的なものを望むのではなく、NPOを始めとする非営利セクターが市民社会のすそ野を広げ、市民社会を強くしていくというアプローチを続けていくことが重要だと指摘しました。
最後に小松氏は、「毎日新聞は自立した多様な社会を目指すことをモットーとして、これからもNPO活動への応援を続けていきたい」と語りました。
その後、審査委員の紹介、審査方針の説明があり、表彰式が始まりました。
市民賞は「さぽうと21」、「ACE」の2団体が受賞
始めに「市民賞」についての講評が、「『エクセレントNPO』をめざそう市民会議」の共同代表の島田京子・審査委員(横浜市芸術文化振興財団専務理事)より行われました。
まず、島田氏はボランティアを募集することで、「多くの人々に参加の機会を提供すると同時に、多様な利用者の課題にも対応可能になる」と述べ、利用者のニーズにあったプログラムを組み立て、ボランティアの募集を行っているかなどを評価指標の1つとして挙げました。
次に実際の活動現場を多くの方に見学してもらうという試みに対して島田氏は、「活動や課題の社会的周知に役立つ」と評価し、またそうした取り組みには「ボランティアに対するコーディネート能力が不可欠であり、その実践が社会からの信頼定着にも結びつく」と語り、その重要性を強調しました。
そして今回初めて導入したクラウド・ファンディングについても、知人や友人といった身近な人たちから一般の方々までより多くの共感を呼んだ結果を評価し、「活動の周知や参加の呼びかけにより一層力を入れることの重要性」を訴えました。
こうした評価の視点や重視した点を指摘した上で、第4回の市民賞として「さぽうと21」と「ACE」を選出したことを発表しました。今回、2団体の選出に至った経緯として島田氏は、新たな試みであったクラウド・ファンディングという手法を通して市民の共感を得るという視点を加えた結果だ、と紹介しました。
この結果を受けて、登壇した「さぽうと21」事務局次長の福田泉氏は「私たちは多くのボランティア、また外国人ボランティアの支えによって活動しており、今回の賞は彼らに向けられたものだ。これからもより多くの方々への共感に向けて努力していきたい」と受賞の喜びを語りました。
続いて登壇した「ACE」の代表理事の岩附由香氏は、「私たちが学生のときに発足させ、当時はほとんど前例がなかった児童労働に対する活動も、現在20年目を迎えた。ACEでは活動に対して5つのバリューを掲げており、そのひとつに『市民の力を信じる』というものがある。これは学生だった頃の何もできない自分からスタートしたことによるもので、今後もその市民の力を信じて活かしていきたい」と語り、今後も益々の活動に尽力していく決意を語りました。
課題解決力賞は「SOS子どもの村JAPAN」が受賞
「市民賞」に続いて「課題解決力賞」の講評が行われました。
毎日新聞論説委員長の古賀攻・審査委員は課題解決力賞の評価について、「課題認識に基づいて目標設定がなされているかが重要だ」という点に言及した上で、各ノミネート団体の活動に関して良い点と改善点の両面からそれぞれコメントを行いました。
その中で古賀氏は、「大きな社会問題に取り組む際には相応の客観的なデータに基づく現状把握や分析が求められること」、また「活動側の目標設定だけでなく現場のニーズも知る必要があること」などを指摘しました。
そして、全体として課題認識の明確性および具体的な目標設定に関して、「各団体ともアウトカムへの意識が高まりつつある」とする一方で、「アウトカムに対する客観的な視点や分析力が不足している」という実態に触れました。その上で、「課題を踏まえての中長期を見込んだ計画がなされれば、さらにより大きな成果が期待できるだろう」と今後の改善点について指摘しました。
こうした講評を受けて古賀氏から、課題解決力賞として「SOS子どもの村JAPAN」の受賞が発表されました。その理由として古賀氏は、「課題認識の明確さ、目標設定の具体性など、課題解決の基本となる点をしっかりと押さえた上で、実績を積まれている点」を挙げました。
この結果を受けて、「SOS子どもの村JAPAN」理事長の福重淳一郎氏は、今回の受賞にあたり、「多くの協力者の方々に感謝を申し上げたい」と、支援者や子どもの村がある地域の人たちに感謝を述べると共に、「これからもより多くの課題解決に向けて、地に足のついた堅実な活動を続けていきたい」と受賞の喜びを語りました。
組織力賞は「杜の伝言板ゆるる」が受賞
引き続き組織力賞の講評が行われました。
近藤文化・外交研究所代表で、文化庁長官も務めた近藤誠一・審査委員は組織力賞の評価について、使命の開示、中立性・独立性・透明性、そして持続性の3点が基準となると説明した上で、各ノミネート団体の活動に関して良い点と改善点について言及しました。
その上で近藤氏は、財源の多様化や資金調達力はもちろんのこと、
その基礎となるアイデアの創出や長年の活動で得たノウハウなども組織力として評価した旨、述べました。またクラウド・ファンディングでの成果について、市民性のみならず、組織力としても評価できる面があるだろうと語り、新たな資金獲得の手法が生まれてくることにも期待を示しました。改善点としては情報開示の徹底や、頻繁な情報の発信および更新などを挙げると同時に、応募書類の基準には含めていないとしながらも、「人材育成も大きな課題」だと語りました。
こうした講評を受けて近藤氏から、組織力賞として「杜の伝言板ゆるる」の受賞が公表されました。その理由として近藤氏は、「情報開示や法令順守、資金調達に関する課題認識も明確であり、総合的な面で、組織力に優れている」とする一方、「今後はさらなる財源の多様化に向けて具体的に取り組むことが重要だ」と指摘、今後の活動に期待を寄せました。
受賞結果を受けて「杜の伝言板ゆるる」代表理事の大久保朝絵氏は、「私たちの団体には弱点がたくさんあり、受賞にびっくりしている」としながらも、今回の受賞を受けて、「これからも努力を重ねて、活動を続けていきたい」と語り、更なる活動の飛躍を誓いました。
子どもたちの笑顔を糧に、愛ある豊かな家庭の提供を目指していく(福重氏)
各受賞団体の発表の後、本大賞審査委員長の小倉和夫氏(国際交流基金顧問)に代わり、登壇した本大賞審査委員主査の田中弥生氏(大学改革支援・学位授与機構教授)から、第4回エクセレントNPO大賞として、「SOS子どもの村JAPAN」の名前が告げられました。
この受賞結果を受けて、再度登壇した福重淳一郎(同理事長)は、「多くの団体が参加している中、私たちがこのような大賞を受賞できたことは大変ありがたい」と語りました。続けて福重氏は、「私たちの活動は子どもたちの笑顔によって支えられている。そうした子どもたちの笑顔が、ボランティアや支援者の皆さんの力添えという成果につながっている。これからも愛のある豊かな家庭の提供を目指して、地に足のついた活動を継続していきたい」と語り、これからの益々の発展とさらなる目標達成に向けて、決意を新たにしました。
「良い活動が良い支援につながる」という良循環を起こしていくために
最後に今回の「第4回エクセレントNPO」大賞の総評が田中氏から行われました。
まず、田中氏は、「エクセレントNPO」の成り立ちについて紹介しました。特定非営利活動促進法(NPO法)制定から約10年を経た2007年、実態調査を行った結果、現実のNPO活動の実態が本来の使命から変質し、硬直化や停滞が多く見られていたと指摘しました。さらに、ボランティアや寄付を募る団体の少なさは、単に労働力や資金源の確保という問題ではなく、意志ある市民の参加の場や経路を断っているという認識を持たなければならないと、当時のNPOの現状と問題意識を語りました。
その上で田中氏は、当時はそれらの課題に対し、NPOが目指すべきモデルが存在しなかったため、ドラッカーの「非営利組織論」を軸に評価基準を用いたモデルとして、研究者、実践者などと様々な議論を行いながら、NPOの現状と理想とのギャップを埋めるべく設定されたのが「エクセレントNPO」の33基準であったと紹介しました。
続いて田中氏は、今回の審査に関するこれまでの大きな変更点としてクラウド・ファンディングを導入した経緯を語りました。ノミネート15団体が目標を達成するかどうかも分からなかったと当時を振り返り、「審査に導入する際には審査委員の中にも賛否両論があった」としながらも、市民の共感性の代替指標として導入された経緯を紹介。結果的に審査委員会の予想を上回り多くの団体が目標額を達成したことに触れ、来年以降の導入について審査委員会でも今回の事例を分析していく姿勢を示しました。
次に田中氏は、各賞について、市民性では「記述内容の質が向上し、理解度も深まりが見られる一方、市民の成長とは何かという視点が弱い」という点を指摘しました。
課題解決力では「全体的に記述力が乏しく、実態との食い違いも散見された」と述べるとともに、「社会的視点の共有については、「今回用いられたインパクトやアウトカムといった専門用語や論理性は学習によって技術を習得することで、自らの活動を適切なかたちでアピールすることが可能になる」と語りました。
組織力では「事実の説明にとどまり、団体のポリシーに関する記述が少なかった」ことを指摘しました。一方で、田中氏は、評価基準にも問題があることを挙げ、「今後の審査委員会の課題」についても触れました。
最後に多くのNPO活動に対して「評価が全てを網羅できるわけではない」と述べた上で、「良い活動は良い支援につながる。そうした良循環が我々の市民生活を"足元から"よくしていくのだ」と訴え、総評を締めくくりました。
文責:水野陽介(エクセレントNPOをめざそう市民会議インターン)
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