第4回アジア言論人会議
セッション2 「アジアの民主主義の目指すべき姿とは」

2018年11月22日

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⇒ 第1セッション「アジアの民主主義は信頼を取り戻せるのか」報告
⇒ 第2セッション「アジアの民主主義が目指すべき姿とは」報告


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 続く第2セッションでは、「アジアの民主主義の目指すべき姿とは」をテーマに議論を行いました。

 この第2セッションでは、アジア各国のパネリストは第1セッションから引き続きの参加となり、日本からは小泉、玉木両議員に代わり、近藤誠一氏(近藤・文化外交研究所代表、元文化庁長官)と本名純氏(立命館大学国際関係学部教授)が新たに議論に加わりました。

 第1セッションの議論で浮き彫りとなった民主主義の危機的状況を踏まえ、工藤は「民主主義の未来を守るため、我々民主主義国家は何をすべきか。そして、どのように連携すべきか」と各氏に問いかけました。


今こそ民主主義の優位性を証明する必要がある


ha.jpg ウィラユダ氏はまず、「非民主的な中国の国家運営が人々の生活水準を一気に引き上げたため、これを手本とする国が出始めている」とし、現在の民主主義国家は中国を中心とした権威主義国家との競争に直面していると指摘。そうした状況の中では、民主主義の高尚な理念をひたすら説いたところで逆に反発を生むだけであるため、「権威主義よりも民主主義の方が人々の生活をより良くすることができる」ということを証明することが大事だと主張しました。

 各国の連携のあり方についても、民主主義に基づく生活改善の成功例・失敗例を共有すべきであるとし、自身が2008年に立ち上げた「バリ民主主義フォーラム」もそうした場になっていると説明。さらに、この「アジア言論人会議」も、各国が経験を持ち寄る場として最適であると高く評価しました。

 その上でウィラユダ氏は、「バリ民主主義フォーラム」が「アジアにおける民主主義の普及」を目的として掲げていたにもかかわらず、むしろアジアの民主化が後退している現状を踏まえ、「民主主義は一歩進んで二歩下がるもの。大事なのは常に地域共通のアジェンダとし、連携を深め続けていくことだ」と現状を嘆かずに粘り強く取り組んでいくことの重要性を説きました。

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「アジア型民主主義」に向けた連携を

aki.jpg アキノ氏はまず、民主主義を「振り子のように揺れ動くもの」と表現。政府に権限を集中しすぎたために汚職が頻発し、その対策として三権分立を進めたフィリピンの経験を振り返りつつ、このように「揺れ動く中で改善し続けるしかない」と語りました。

 一方、自国の強権的なロドリゴ・ドゥテルテ大統領への向き合い方に関しては、政治家任せではなく国民各自が「自分がガバナンスの中心にいる」という自覚が必要であるとすると同時に、各国のネットワークを強め、その助けによって民主主義の基盤を固める必要があるとし、連携の必要性を強調しました。

 もっとも、ここでいう民主主義とは欧米のモデルそのものではなく、「アジアに合うようにカスタマイズすべき」とも主張。例えば、欧米の裁判では弁護士の果たす役割は大きいが、フィリピンの貧困層ではなかなか弁護士に依頼できない現状を挙げ、基本的な枠組みは残しつつも、「民主主義にアジア独自の修正を加えるべき」との見解を述べ、そのためにもやはり各国の連携が必要と語りました。

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求められるのは尊厳ある政治

honna.jpg これを受けて本名氏も、欧米型民主主義の限界が見える中、アジアの新しい民主主義モデルが登場し、「民主主義のサバイバルが始まる」と予測。ただ、そうした中でも不可欠なのは「dignity(尊厳)ある政治」や「寛容」であるとし、これをメインストリームとしていくためのネットワークをアジアで張りめぐらせる必要があると強調。それができなければ、ポピュリズムの言説に既存の政治が抵抗できず、やがて個人、とりわけマイノリティの尊厳が侵される悲劇を引き起こすと警鐘を鳴らしました。

 その上で本名氏は、今回の「アジア言論人会議」に参加した日本・インドネシア・マレーシア・フィリピンの4カ国がいずれも島国ないし半島国家であり、アジア大陸、とりわけ中国との地理的距離感があることに着目。こうした共通の状況を有する4カ国が独自のネットワークを形成することの意義を強調しました。

vi.jpg ヴィラリン氏も、世界各地で人々の不安につけ込み、憎悪をかき立てるような政治が横行する状況の中では、人々の本当のニーズにきちんと共感した、尊厳ある政治が求められていると主張。

 一方で、権威主義の特徴として男尊女卑が著しいことなど個人の尊厳を軽視していることを指摘。その上で、今月のアメリカ中間選挙では女性当選者が過去最多となったり、全米初のLGBT(性的少数者)の州知事が誕生したことなどから、「人間の尊厳を侵す政治に対する反発は必ず起こる」とし、ここに民主主義の逆襲の目はあるとの認識を示しました。

 そして、アジアではすでに各国議員で構成される人権擁護に関するネットワークがあることを紹介。こうしたネットワークを市民社会レベルでも構築していくべきと語りました。

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「相互尊重」と「寛容」をいかに守るか

sfi.jpg スフィアン氏は、マレー系、中華系、インド系などから構成される典型的な多民族国家であるマレーシアの経験を踏まえ、「相互尊重」と「寛容」を民主主義における重要理念として提示。そして、こうした価値を破壊しようとするポピュリストの言説に、いかに対抗していくかが今後重要な課題となると語りつつ、そのためには法の支配を徹底することや、単なる多数派支配ではなく、少数派にも配慮した立憲民主主義の原点に立ち返ることの必要性を指摘。これは各国共通の課題である以上、やはり連携は不可欠であると述べました。


SNSに起因するリスクにどう対応すべきか

wa.jpg ワヒド氏は、「ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)大国」であるインドネシアの視点から問題提起。SNSは閉じられた世界の中で、「自分の見たいものしか見ない」傾向を助長すると解説し、それは政治的な意見に対しても同様であると言います。自分とは異なる意見、特に対立する政党の意見に対しては目を向けようとしなくなるため、これが社会の分断や非寛容を生む要因になっていると分析。こうした問題は今後ますます民主主義にとって大きなリスクになっていくと予測し、各国共通の課題であると語りました。


日本が果たすべき役割

 次に工藤は、民主主義を守るため、日本は何をすべきか、アジア各国は日本にどのような期待をしているのか尋ねました。

kondo.jpg 近藤氏はまず、民主主義を車、国民を運転手に喩え、「国民が適切に民主主義を運転できなければ事故を起こしてしまう」とし、国民の意識改革や教育の重要性について論じました。その上で、日本の民主主義の状況について、欧米のような深刻な危機には至っていないとの認識を示し、アキノ氏が言うところの「振り子」が振れすぎないように専心する必要があると指摘。民主主義の高尚な理念を上から目線で説くことよりも、安定的に民主主義を「運転」している姿を、アジアの若い民主主義国家に見せていくことこそが日本の役割であると語りました。

 ワヒド氏は、混乱の最中にある国にとっては手本となる国が必要であり、アジア各国にとってはそれがまさに日本であるとし、ウィラユダ氏もこれまでアジア各国の民主主義国家は連携に消極的であったが、現下の危機にあたっては「民主主義のベテラン」である日本の果たす役割は大きいと期待を寄せました。

 スフィアン氏は、海上安全保障や気候変動など、日本がすでに様々な分野で進めている「能力構築支援(キャパシティ・ビルディング)」に言及し、これを民主主義分野でも進めていくことに期待を寄せました。すでに欧米の財団などから様々な支援はあると紹介しつつも、「欧米のアドバイスよりは、同じアジアの国である日本のアドバイスの方が受け入れやすい」と、アジアという枠内での協力関係構築の意義を強調しました。

kudo2.jpg 議論を受けて最後に工藤は、「民主主義の価値を守るためこれからも汗をかいていきたい」と今後に向けた抱負を述べ、前日の「言論NPO設立17周年記念フォーラム」と合わせて2日間にわたる民主主義対話を締めくくりました。