「エクセレントNPO」をめざそう市民会議と毎日新聞社が共催し、言論NPOが事務局を務める「第6回エクセレントNPO大賞」の表彰式が、1月17日、東京都千代田区の毎日ホールにて開催されました。
計110団体の応募の中から、栄えある「エクセレントNPO大賞」には、「がんサポートコミュニティー」が選ばれました。また部門別では、「市民賞」を「みらいの森」、「課題解決力賞」を、「エイズ孤児支援NGO・PLAS」と「フードバンク山梨」、「組織力賞」を「がんサポートコミュニティー」が受賞しました。
受賞団体とノミネート団体の一覧は以下の通りです。
エクセレントNPO大賞
- 受賞団体:がんサポートコミュニティー
市民賞
課題解決力賞
- 受賞団体:エイズ孤児支援NGO・PLAS/フードバンク山梨
- ノミネート団体: エイズ孤児支援NGO・PLAS/吉備高原サラブリトレーニング/きらりびとみやしろ/フードバンク山梨/ ユニバーサル・ケア
組織力賞
- 受賞団体:がんサポートコミュニティー
- ノミネート団体: がんサポートコミュニティー/八東川清流クラブ/ブリッジフォースマイル/ミュージック・シェアリング
エクセレントNPO大賞は、「日本のNPOセクターは、法人数が急増し活動の多様化が進んでいる一方で、何が正しいのか、その芯となる非営利組織像が揺らいでいるのではないか」という問題意識から生まれました。そして、望ましい非営利組織の姿を明らかにし、各組織がそれを目指して切磋琢磨しあう環境を作るため、非営利組織の研究者や実務家による1年間の議論を経て、「エクセレントNPO」の定義を次のように定めました。
それは、「自らの使命のもとに、社会の課題に挑み、広く市民の参加を得て、課題の解決に向けて成果を出している。そのために必要な、責任ある活動母体として一定の組織的安定性と刷新性を維持している」非営利組織、というものです。
この定義に基づき、「市民性」「課題解決力」「組織力」の三つを柱とする評価体系を構築しています。そして、応募団体による自己評価と審査委員による評価を経て、各賞を選出しています。
NPO法施行から20年、市民社会の進歩と課題
表彰式ではまず、市民会議の共同代表でもある島田京子・審査委員(元横浜市芸術文化振興財団専務理事)が主催者挨拶に立ちました。
都合により欠席した小倉和夫・審査委員長(国際交流基金顧問)に代わって登壇した島田委員は、6回目を迎えた大賞が、応募団体や協賛企業、後援団体、多くのボランティアの協力に支えられていることに謝意を表しました。そして、評価基準の意義について、「表彰のためのものではなく、自己評価を通した団体の成長、信頼性向上に役立てることが何より重要だ」と説明。15項目にわたる自己評価に手間暇をかけて取り組み、応募にこぎ着けた110団体への感謝を重ねて強調しました。
続いて、共催者の毎日新聞社を代表し、審査委員でもある古賀攻・論説委員長が登壇しました。古賀委員は、表彰式の当日が、NPO法制定のきっかけとなった阪神大震災から24年の節目であることに言及。「多くのボランティアが活躍し、助け合いや支え合いという価値観を社会に広げたのが震災だった」と振り返った上で、1998年末のNPO法施行以降からの20年間で「公共空間は役所だけが担うものだという日本人の意識が変わり、市民が公共空間を担うことの大事さが浸透した」と評しました。一方、「NPOの中には、行政活動の補完に終始する団体もまだ多い。また、『ふるさと納税』の返礼品競争にみられるように、非営利の活動が無償のものであるという共通認識は必ずしも広まっていない」と、市民社会の課題をも指摘。
そして、「この賞自体が、NPOがどういう存在であるべきかを一緒に考えようという一つの運動だ。その一端を担わせていただいていることを誇りに思う」と発言。「そのための有意義な時間にしてほしい」と、集まった15のノミネート団体に呼びかけ、挨拶を締めくくりました。
ドラッカーが説いた非営利組織の使命とは
次に、各賞の発表に先立ち、田中弥生・審査委員(大学改革支援・学位授与機構特任教授)が、「エクセレントNPO」評価基準の基本的な考え方や、今回の審査方法を説明しました。
田中委員はまず、本賞における「望ましい非営利組織」の定義が、自身が米国留学時代に師事した経営学者ドラッカーの非営利組織論をベースにしていることを説明。ドラッカーは、戦前のドイツにおける失業者が市民としての自らの立ち位置を見出すことができず、ヒトラーがその不安を煽ったことで、人々は生活の安定と引き換えに自由を放棄してもいいと考えるようになってしまった、と分析します。その教訓からドラッカーが導き出した非営利組織の使命として、「社会課題の解決」だけでなく、「寄付者やボランティアといった資源提供者が、課題解決プロセスへの参加を通して自分たちの『市民性』をバージョンアップすること」も同じくらい重要だ、と、非営利組織評価のバックボーンを熱く語る田中委員でした。
さらに田中委員は、前回(第5回)の大賞実施後から今回にかけ、運営において改善したポイントを紹介しました。
まず、前回の応募団体に対する審査委員からのフィードバックについて、各団体への総評のみにとどめていた従来の方式を改め、審査基準の全ての項目に対する細かいフィードバックを実施したと紹介。前回と今回で続けて応募した団体の採点結果から、「その効果はあった」と語りました。
また、政策評価に携わる官僚や、協賛企業の有志に対して評価基準のレクチャーを行い、審査委員とともに評価に加わってもらっていることを紹介。これにより、公正な審査だけでなく、評価にかかわる人材育成やコミュニティ形成にもつながっていると説明しました。
市民賞は「みらいの森」
表彰式はいよいよ、各賞の発表に移ります。
まず「市民賞」の発表のため登壇した島田委員は、審査の視点を次のように説明しましたまずボランティアについては「活動が多くの市民に開かれ、参加する人々への十分な配慮がなされているか。どのようなスキルや知識を持つ人を募集しているのか、応募する人の立場に立って案内しているか。ボランティアとの面談など、活躍につながるような工夫をしているか」、また寄付については「寄付募集のお知らせや寄付者への活動報告など、基本的なことが着実に行われているか」というものです。
そうした観点から市民賞を受賞したのは「みらいの森」です。
同団体は、児童養護施設で暮らす子供たちが、社会で必要なスキルや考え方を、アウトドア体験を通して学ぶプログラムを企画、運営しています。島田委員は同団体について、必要なスキルや期間などボランティア希望者が必要とする情報が分かりやすく説明されていること、また理事長が米国出身であることを活かし、日本語と英語のパンフレットを作成し、日本の児童養護施設の課題を多くの人に伝えようとしていることを評価しました。
受賞スピーチに立った岡こずえエグゼクティブ・ディレクターは、「日英で発信できる力を利用し、今後も一人でも多くの子供を幸せにし、社会で活躍できるように頑張りたい。活動が広がるにつれ課題も感じているが、逆にそれを乗り越えた後の可能性について、スタッフ一同わくわくしている」と、今後の抱負を語りました。
課題解決力賞は「エイズ孤児支援NGO・PLAS」「フードバンク山梨」
「課題解決力賞」の発表を行った山岡義典・審査委員は評価の視点について、「課題認識のあり方や、課題の背景にある原因や制度、習慣を把握しているか、明確な目標設定を設定しているか、アウトカム(成果)を意識した活動をしているか」を重視したと説明。ノミネートされた5団体はいずれもこれらの点に対する評価が極めて高い上、「世界で活動する団体と、地域に根差した活動をする団体の両方があり、比較が難しかった」と、審査を振り返りました。
課題解決力賞を受賞したのは、「エイズ孤児支援NGO・PLAS」と「フードバンク山梨」の2団体です。
「エイズ孤児支援NGO・PLAS」は、アフリカを訪れた大学生によって2005年に設立されました。エイズ孤児(エイズで夫を失ったHIV陽性シングルマザーの家庭の子供)たちが未来を切り拓ける社会を実現するために、現地のパートナー団体と連携しながら支援活動を行っています。山岡委員は、同団体がこれまでに1370人のエイズ孤児に教育を届けたほか、現地ボランティアの育成により2万7000人にエイズ教育を施したこと、などを評価しました。
門田瑠衣子・代表理事は、今回の受賞が「活動を応援してくれる寄付者や企業、メディア、さらには現地のパートナー団体のお陰」と、まず関係者への感謝を述べました。そして、「社会、経済、政治など様々な面で課題の背景がどんどん変化している時代になっている。今のやり方にあぐらをかくのではなく、自分たちが課題をしっかりと把握しているだろうかという自問自答をしながら活動を続けていきたい」と、さらなる課題探求への決意を語りました。
「フードバンク山梨」は、安全に食べられるにもかかわらず何らかの理由で販売・消費しきれなくなった食品を企業や市民などから提供してもらい、生活困窮者や施設・団体などに無償で配布しています。山岡委員は、2009年9月から9年間で約4億円相当の支援を行い、特に県内7市の学校との連携により、県内の相対的貧困状況の子供のうち約13%に支援を提供していることを評価。さらに、メディアや政府への提言など、社会全体の意識を変えていく取り組みが活発であること、また全国フードバンク推進協議会を設立し、各地に同団体をモデルとした活動を生み出していることを、受賞理由に挙げました。
米山けい子・理事長は、「フードバンクはまだまだ新しい活動だ。また、海外の貧困には世間の注目が集まりがちだが、一方で国内の相対的貧困には支援が行き届いていない」と率直に語りました。そして、「今回の受賞が、困窮する子供たちや、フードバンクという新しい活動で頑張っている全国の人たちの後押しになる。この活動をさらに日本で広げていきたい」と意気込みを述べました。
組織力賞は「がんサポートコミュニティー」
「組織力賞」を発表した近藤誠一・審査委員は、田中委員が語った非営利組織の「二つの使命」に触れ、「市民性の創造」と「社会課題解決」の両方を支えるのが組織力だ、と、その位置付けを説明。そして、審査の視点として、「組織の使命や目的が文書に明確に書かれているか。課題やその解決の方針が明確になっているか。成果が公開されているか。情報開示や資金調達の多様性・透明性、また運営の独立性・中立性が担保されているか。さらに、使命を持続的に遂行できる基盤を持っているか」を挙げました。
そうした観点から組織力賞を受賞したのは「がんサポートコミュニティー」です。
同団体は、首都圏で生活するがん患者やその家族を対象に、医療・看護・社会福祉や臨床心理等の専門家を交えて、自分と似たような境遇にある人たちと語り合う機会を提供しています。これにより、患者や家族は、自分が独りではないことや、自分らしく生きていくことの大切さに気づくことができます。近藤委員は、特定の勢力からの関与や資金流入を防ぐため、理事会内に指名・報酬委員会と監査委員会を設けている点、高額な資金調達のプロセスが公募制になっている点など、活動・運営の中立性・透明性を維持するための仕組みづくりを高く評価しました。また近藤委員は、NPO法施行から20年を経て、世代交代が各団体で大きな課題となる中、同団体がそれを見据えた人材育成・運営のプランを構築していることにも言及しました。
渥美隆之・理事長は受賞の挨拶で、「設立からの18年、理念や活動の中身を評価してもらうこともあったが、組織運営を含めた総合的な評価をいただくことは初めてだ」と語った上で、「私たちが大事にしてきた、活動の継続性のための姿勢を評価してもらえた。その道は間違っていなかった。今後も、NPOのあるべき姿に少しでも近づけるように努力していきたい」と述べました。
そして、各賞受賞団体の中から「エクセレントNPO大賞」に選ばれたのは「がんサポートコミュニティー」でした。
改めてスピーチに立った渥美理事長は、「病気は生き物である以上、我々健康な人もその順番待ちをしており、患者と医療提供者の境目があるわけではない」と発言。さらに、「治らないかもしれないという生命への危機感が、年齢を重ねるとともに増していく患者は非常に寂しいものだ」と、自らが支援するがん患者らへの強い共感を語りました。そして、表彰式に参加した感想として、「いろいろな取り組みがあることをここに来て知り、自分たちの励みにもなった」と語り、挨拶を終えました。
2時間にわたる表彰式の最後に田中委員が再びステージに上がり、審査を終えての総評を述べました。
応募団体と運営側、それぞれで明らかになった今後の課題
まず田中委員は、今回応募した110団体について、「過去にも応募したリピーターが6割、新規が4割で、初めて海外からの応募があった。予算規模も100万円台から3億円くらいまで幅がある」と述べ、応募団体が多様になっていると総括しました。
また、前回の応募団体へのフィードバックをよりきめ細かな方式へと変更したことにも改めて触れ、それによって「リピーターの中にかなりの高得点層が生まれた」と紹介。「フィードバックの重要性が浮き彫りになった。明日から早速、今回の110団体全てにコメントを書いていきたい」と意欲を見せました。
次に田中委員は、今回の自己評価15項目のうち最多の7項目を占めた「課題解決力」について、「活動の成果だけでなく、自分たちの課題は何か、課題に適した目標を設定しているか」が重要だと指摘。「自分たちの課題」を、身の丈に合わない壮大で抽象的なものとしか認識していない団体が目立ったと振り返り、「目の前のアクションプランをもっと具体的にする必要がある」と注文をつけました。
一方、田中委員は、次回の大賞に向けた運営側の課題として、以下の五つを挙げました。
第一に、「市民性」については応募団体のレベルが上がっている、とした上で、「今の受益者が次はボランティアとして活動を支えるという『お互い様』の関係が循環してこそ社会が強くなる」と指摘。しかし、これは今の評価基準で表せていない、と語りました。
第二に、ボランティアのマネジメントについて、「企業と異なり、無償同然、また雇用関係もない中でどうやってモチベーションを上げていくかは非常に難しい」と指摘し、この点については「米国などで体系化・理論化が進んでいるが、これに合わせて私たちの基準も改善する必要」と述べました。
第三に、田中委員は、組織力賞の授賞理由でもある世代交代について、「以前は資金不足や人材不足が多くの団体の課題だったが、加えて最近は世代交代に悩んでいる団体が目立つ」と、内閣府の調査結果を引用。「がんサポートコミュニティー」のように、次世代の発掘・育成のプランを持っている団体があることには非常に刺激を受けた、と語り、今後、人材育成に関する評価基準を新たに導入できないか検討していく意向を示しました。
第四に、今回ノミネートされた15団体のうち2団体が、予算規模100万円前後だったことを「小規模団体は脆弱だという固定観念を拭い去ってくれた」と評価。他方で、小規模団体の中には、情報公開の必要性を感じていなかったり、資金不足から情報公開に取り組む余裕がなかったりする団体も目立つと指摘し、そのような団体には自助努力を促すだけでなく、社会のサポートが必要だと訴えました。
第五に田中委員は、設立間もない団体の点数が低い傾向にあることにも言及。これらを実績豊富な団体と同じ土俵で評価するのが適切かどうか、検討していく考えを示しました。
「人生100年時代」で非営利組織が果たす役割とは
最後に田中委員は、昨今の社会課題に関連し、審査から明らかになった二つの論点を提示しました。
まず、今回の応募団体の中で、大賞を受賞した「がんサポートコミュニティー」や、市民賞にノミネートされた「ジャパンハート」など、医師が設立した団体が目立った点です。田中委員は、審査の過程で「医師の仕事は公益性が強いにもかかわらず、なぜNPOを作るのか」という疑問が出されたことを紹介。その答えとして「医療制度をベースにした医療行為ではできない社会課題を、医師が自ら発見しているのではないか」との見方を披露。「そうした課題に挑むために、NPOという『乗り物』を活用しているとすれば、これは非営利組織の存在意義そのものだ」と語りました。
二つ目の論点は「人生100年時代」の到来に関するものです。田中委員は、会社や役所から離れて人生を送る期間が長くなっていることについて、協賛企業の社員に計60時間かけて実施したインタビューの内容を紹介。それによると、「NPOという存在は認識しているが、どういう団体か分からない」「ボランティアをしたいが団体の数が多く、どこを選んでいいか分からない」という声が多かったとのことです。田中委員は「NPO法施行から20年経っているが、一般企業とNPOの距離が縮まっていない。これを解決するため、NPOの信頼性を高めることが重要だ」と訴え、そのためにも「エクセレントNPO基準を使った自己評価が大事になってくる」と強調。「評価される側、する側の枠を超えて、より良い市民社会を作っていくことができれば」と、会場に集まった計120人の参加者に呼びかけ、表彰式を締めくくりました。
この後の交流会でもノミネート団体や関係者らによる活発な交流が行われ、6回目のエクセレントNPO大賞は盛況のうちに幕を閉じました。
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