言論NPOの第12回メンバーフォーラムでは、前金融庁長官の五味廣文氏をスピーカーにお招きし、日本が経験した1990年代の金融危機と監督当局の対応、およびその教訓と現在のサブプライムローン問題に関わる示唆などについて、出席者と活発な議論を交わしました。
フォーラムではまず、五味氏が1990年代の日本の金融危機と金融監督当局の対応から得られた教訓や今日的意義をご自身の行政経験を踏まえて説明しました。この中で、五味氏はまず、日本の金融危機の際に銀行側や当局の対応が遅れたことについては、バブル崩壊後、いずれ地価が反転し経済環境が好転すると想定されていた中で、そこには状況認識の遅れがあったことなどを認めつつ、日本の経済規模の大きさやIMF等の介入によらない自力での対応を図ったこと、日本経済が歴史的に大きなバブルをそれまで経験してこなかったことなどにも鑑みれば、一旦、危機認識がなされた後の対応は比較的動きが速かったといえると語りました。
五味氏はさらに危機対応の様々なプログラムの実行過程や成果について詳細に説明した後で、これらの経験を踏まえた教訓として、危機的な状況が起こる時には、市場に不確実性が広がり、全体の機能が著しく低下するため、リスクの所在と大きさを速やかに把握して公表すること、資本不足の際には資本増強策の断行と再発防止策を併せて提示することが重要であると、さらに日本の場合は経済リスクが銀行のバランスシートに集中し過ぎているため、銀行の資産を軽くしてリスクが分散されるよう図っていくべきことなどを指摘しました。
出席者との質疑応答では、現在の中国経済のバブル懸念やサブプライムローン問題などについて議論が行われました。中国経済については、90年代の日本経済と同様、歴史上初の大きなバブルの発生と崩壊に直面する可能性について五味氏は懸念を示しました。またサブプライムローン問題では、小口債券化した証券化商品の流通により、リスクの所在を突き止めることが一層困難となっているとしつつ、かつての日本同様、より早く実態を明らかにして資本対応策を示せるのかどうかがポイントであり、証券化商品の組成や格付けに関する手続きや情報開示方法の整備を進めることや、特に預金取扱金融機関のリスク管理体制の整備が急務であるとしました。五味氏は加えて、サブプライムローン問題で金融機関が欧米に比べて大きく傷ついていない日本は、今夏の洞爺湖サミットに向けて中立的な立場から国際的なリスク管理体制整備の議論を主導できる好機を迎えていると述べました。
また、日本の金融・資本市場の国際競争力が低下しているのではないかとの質問については、五味氏は、日本の市場の将来性に対する投資家の信認こそが重要であり、そのためには内需主導型の持続的な成長を実現することが前提であるとしました。また、言語や人材の点で欧米の金融業界とのハンディキャップを埋める改善努力の必要性はあるとしながらも、日本にしかない特色・魅力を活かした市場の構築を通して海外市場との差別化を図ることこそが重要であり、日本が産業として有する強さや特長を日本独自の魅力ある市場の形成にいかにつなげていくかが課題ではないかとしました。
今回のフォーラムは、先進国の中でも極めて貴重な経験となった、日本のバブルの崩壊とデフレの中での不良債権処理や金融再生の流れを、整理された形で包括的に当事者に語っていただくことができたという意味でも、大変実りの多い議論の場となりました。
次回のメンバーフォーラムは衆議院議員の塩崎恭久氏をお招きし、3月12日に開催する予定です。
文責:インターン 山中浩太郎(東京大学)
言論NPOの第12回メンバーフォーラムでは、前金融庁長官の五味廣文氏をスピーカーにお招きし、日本が経験した1990年代の金融危機と監督当局の対応、およびその教訓と現在のサブプライムローン問題に関わる示唆などについて、出席者と活発な議論を交わしました。