言論NPOの第15回メンバーフォーラムは、谷垣禎一自由民主党政務調査会長をゲストスピーカーにお招きして開催されました。日本の政治や政策について、谷垣氏からスピーチがあり、その後出席者の間で活発な議論が交わされました。
谷垣氏のスピーチの中で重点が置かれたのは、与党の直面する課題とその背景、今後の政策のあり方などでした。
谷垣氏はまず、11年前の英国における政権交代を振り返り、サッチャー、メイジャーと改革路線を続けた保守党政権の大敗は、改革がイギリス経済を立て直したものの、コミュニティーを崩壊させるなど様々な反発を引き起こしたことによる面が大きいと述べました。谷垣氏は、これを教訓とし、日本においても内蔵脂肪をとり除く改革は必要である一方、潮目の変化を捉えなければ選挙に負けるのであり、それが示されたのが安倍政権下での参院選大敗だったと語りました。
続いて谷垣氏は、過去十数年間の政策として、①低金利政策の継続、②多額の国債発行に依存する財政運営を克服できていないこと、③いわゆる円安政策を挙げ、特に①と②の克服が急務であると述べました。
ここで谷垣氏は福田政権発足に至るまでの政治状況を振り返りました。小泉政権はグローバル化という世界の流れに乗り遅れないよう、規制緩和や歳出削減を断行し、景気も回復基調に乗ったが、その負の側面として、地域格差、地方自治体間の財政力格差、企業間格差、所得格差などの問題が顕在化したとしました。また、原油や穀物価格の高騰にみられるような資源制約や地球環境の問題を強く意識せざるを得ない状況になっていると述べました。昨年の参議院選挙における自民党の敗北の原因としては、スリムな政府を進めることへの地方の不満が鬱積していることを指摘しました。
福田政権へのバトンタッチは、そうした傷口を癒すところからスタートしましたが、その支持率が伸び悩んでいる原因について谷垣氏は、ねじれ国会の中で政策策定が進まないという政治の迷走ぶりや、(後始末をする政権という)後ろ向きのイメージを挙げました。第一点に関しては、政策の優先順位をはっきりさせ、衆院での3分の2を使ってでも通すべき政策は何かを整理がすることが大切だとしました。続けて、景気対策、災害対策及び期限切れの迫るテロ特措法などが今秋の臨時国会の主要テーマになるだろうとした上で、国会運営方法に関して党内の意見集約を試みていると述べました。
第二点に関して谷垣氏は、新しいビジョンを打ち出すことの重要性について述べ、それについて現在、タマ込めをしているとしつつ、世界経済が様々な不安を抱える中で、外需依存よりも内需の拡大を目指すべきこと、所得再分配による消費の振興などに触れました。その上で、谷垣氏は、第一に要素価格の大幅な変化に耐えうる仕組みづくり、第二に新しいニーズの掘り起こし、第三に外国の力の活用の3点を柱として掲げました。
まず、価格高騰への対応については、一次産業の再生・維持によって食糧の海外依存を軽減すること、エネルギー価格の高騰を前に日本の原子力発電に関する技術を国際的な切り札として用いること、及びその戦略的重要性についての世論の説得が必要だとしました。次に、新規ニーズの開拓に関しては、民間に任せるのではなく政府も率先して取り組むべきだとし、特に安心・安全、健康、環境の分野を挙げました。そして、外国の力の活用に関しては、「インベストジャパン/ビジットジャパン」キャンペーンの強化が必要だと述べ、直接投資や外国人観光客の呼び込みが重要としました。一方、移民の受け入れ促進に関しては慎重な姿勢を示し、国内の女性・高齢者の活用や、外国人労働者が地域社会へ溶け込むための仕組みづくりなどが優先課題だとしました。
最後に谷垣氏は財政について、「これだけのことをやりたいから、これだけの財源が必要」という明示の仕方を徹底すべきだとしました。基礎年金については、国庫負担率の2分の1への引き上げが法律に書き込まれた決定事項であり、いつ、何%の消費税率引き上げかを明言することは難しいとしても、恒久的財源措置の必要性をパッケージとして提示することが求められると述べました。
続いて議論は質疑応答に移り、まず代表工藤が、新たな歳出拡大要求が出る中での 2011年までのプライマリー・バランス達成や、基礎年金の財源確保が本当に可能なのかを問いました。谷垣氏はこれに対し、経済成長の鈍化によって税収が落ち込み、党内にも達成を悲観視する声があるとする一方で、今は達成の先送りを議論する時期ではないと述べました。一方で、今の骨太2006に基づく現在の財政再建のフレームが縮小均衡路線であるとすれば、現在はむしろ、拡大均衡路線をとるべき時期に来ていると述べました。また基礎年金に関しては、税制改革の議論が固まれば不可能ではないとし、埋蔵金などの目先の財源に飛びつくのではなく恒久財源の確保を目指すことの重要性を改めて強調しました。
この後、出席者が様々な論点について質問やコメントを出し、谷垣氏を交えて活発な議論が展開されました。
「大阪府の橋下知事のような、財政再建のわかりやすい説明が必要だ」、「雇用創出をベースとした明確な成長戦略が必要であり、補助金をばらまくのではなく、新規事業の支援を通して民間の力を活用するべきだ」とする意見が出たほか、公的サービスについての受益と負担の問題について「NPOなどを通じた社会参加によるサービス需要側の意識変革も視野に入れるべきではないか」という指摘も出ました。また、「与党のマニフェストは野党のものよりも責任感があり評価できるが、選挙になると政策論争が隅に追いやられる現状は変えるべきだ」とする意見もありました。
代表工藤はこれらの議論を受け、政策論争無き選挙、本音を言えない選挙の一因は有権者側にもあったが、政策を主体的に評価しようという動きは有権者の間に広がりつつあるとし、フォーラムを締めくくりました。
言論NPOの第15回メンバーフォーラムは、谷垣禎一自由民主党政務調査会長をゲストスピーカーにお招きして開催されました。日本の政治や政策について、谷垣氏からスピーチがあり、その後出席者の間で活発な議論が交わされました。