「第8回言論NPOメンバーフォーラム/ ゲストスピーカー:王毅氏」報告

2006年3月23日


 中国の駐日特命全権大使の王毅氏が言論NPOメンバーフォーラムで日本の有識者たちに日中関係について本音を語る。
言論NPOと第1回 北京-東京フォーラムに支持と期待を表明。


 3月23日、言論NPOのメンバー(基幹会員)の集まりであるメンバーフォーラムが、中国の在日特命全権大使の王毅氏を招いて開催されました。

 王毅大使の発言に先立って、最初に、言論NPOの工藤泰志代表から、「第1回 北京-東京フォーラム」についての報告がありました。このフォーラムは、言論NPOと中国のチャイナデイリー及び北京大学との共催で、昨年8月の北京での第一回の会議以降、今後10年間継続することになっていますが、代表工藤は、これは、「仲良しの友好」ではなく、「仲がいいからけんかができる」本音レベルの継続的な議論の場を民間で構築することを目指すものであり、日中間で深刻化する政府レベルの関係悪化を民間が乗り越える試みであること、さらに、昨年の第一回会議は議論の内容が日中だけではなく、世界に発信される中で立ち上がったが、それが所期の目的を達成できる場になれるかどうかは今年の東京での第二回の会議を成功させられるかどうかにかかっていることなどを述べました。

 その上で、代表工藤は、北京との交渉も踏まえ、開催時期が政治の問題で影響を受けることのないよう、今後、毎年、8月という決まった時期に開催することとし、今年は8月2日の夕食会を皮切りに、3~4日にパレスホテルで開催する方向であることを報告しました。

 これにつき、王大使は、日本の有識者の集まりである言論NPOが日中関係やアジアの発展を考える上で、北京ー東京フォーラムは非常に素晴らしいことであるとして、民間交流の活発化こそが日中関係の基盤であり、ここで本音の議論を続け、大きな視野で日中関係の将来、東アジア共同体、アジアの平和などについて中国側と議論を深めてほしいとし、来たる東京での「第1回 北京-東京フォーラム」への強いサポートを表明しました。


 そして、スピーチでは、日本で王大使が実感することにつき、次の二つの面から意見を表明しました。

 一つは、改革開放後の80年代に日本の経験に学んできた中国は、その後、日本のバブル崩壊のせいもあって、欧米の方を向くようになっていたが、ここに来て、もう一度日本から多くのことを参考にして行く局面に来たということです。それは、中国の発展がエネルギー・資源の大量消費から省エネ循環型社会への転換、アンバランスの是正、農民・農村の問題の解決など、今日の中国が直面するようになった課題の解決はいずれも、日本が中国にとってふさわしい経験を経てきたことであるからです。従って、日中は、色々な分野で民間交流を深め、協力する余地が数多くあるとしました。

 もう一つは、日本には中国について様々な誤解があるということです。必要なのは、まず相互理解ですが、それにも関わらず、とりあえず次の5つの誤解があると王大使は指摘しました。それは第一に、中国が日本の内政に干渉しているという誤解です。中国が堅持してきた外交政策は内政不干渉ですが、日本でのA級戦犯の処理の仕方については、被害国と直接関係しており、内政とばかりは言いきれない問題であって、戦争被害者としての中国国民が大きな関心を持っているのはこの一点だけであるとしました。

 第二に、中国は靖国問題をカードに日本に圧力をかけているという誤解です。86年の官房長官の参拝中止の正式談話が日本の一種の国際公約だったにも関わらず行われた日本の指導者の度重なる靖国参拝は、日中国交正常化の政治的基盤を損ねるものであり、逆に、中国が日本からの圧力を感じていること、「カード」には見返りがあるはずだが、参拝反対で中国が得る見返りはないことなどを王大使は強調しました。

 第三に、靖国問題が解決しても、中国は他の難問を投げかけてくるだろうという誤解です。王大使は、トゲが一つでもあると体全体がおかしくなるが、トゲを抜けば体は元気になるとして、この問題を乗り越えれば基本的な信頼が回復するとしました。また、中国は他の近隣諸国とはロシアを含めいずれも良好な関係を築いており、自国の国内問題を解決することが中国の世界に対する最大の貢献である中で、対日関係だけ悪化させるために余計なエネルギーは使いたくないとしました。

 第四に、中国の軍事予算の増大が日本の脅威になるという誤解です。これについて王大使は、あまりに低かった軍人の人件費の正常化などの種々の要因を挙げ、財政全体に占める軍事費の比率は近年、不変であり、それは世界の主要国よりも低く、80年代に比べても大幅に低下していることなどを指摘しました。

 第五に、中日両国はアジアの主導権を争っているという誤解です。王大使は、中国が特にアジア通貨危機以降に積極的になったのは、東アジアの地域協力であり、多様な地域であるアジアでは、まずはアセアンがリードする形で東アジア共同体を目指すことを中国はサポートしているとし、その上で、日本がより大きな力を発揮し、中国とも手を携える関係となることへの期待を表明しました。

 その後、メンバーから活発な意見表明がありましたが、それに答える中で、王大使は、日中で体制の違いを超える新たな共通利益を打ち立てるべきであるとし、それはかつてはソ連の脅威だったが、現在では「アジアの振興」であり、それは人類の発展の上で必要なステップであるとした上で、①開放的、②相互尊重、③平等互恵を原則とする新しい「アジア主義」の必要性を訴えました。

 今回の王毅大使との意見交換もそうでしたが、言論NPOでは、国や立場を超えて、各国の当局者や有識者たちと、「ここでは違う意見が言える」という本音での建設的な議論の場を構築しようとしています。既に日中間では、こうした場として第1回 北京-東京フォーラムがスタートしていますが、私たちは、それが本物のコミュニケーションチャネルとなるよう、今年の東京での第二回の成功に向けて鋭意取り組んでまいります。

 中国の駐日特命全権大使の王毅氏が言論NPOメンバーフォーラムで日本の有識者たちに日中関係について本音を語る。言論NPOと第1回 北京-東京フォーラムに支持と期待を表明。