おねだり社会の破壊、そして自立社会の創造
大上段に構えた言い方になるかもしれませんが、私が小学生くらいの頃にケネディが言った言葉で、「国家が自分に何をしてくれるかを考えるよりも、自分は国家に何ができるかを考えるべきだ」というものがあります。いま日本国民に問われているのはまさにこの言葉なのではないかと思います。国家が財政的にほとんど破綻している、という意味を多くの人は良くわかっていないのではないかと思います。財政破綻が話題になるときでも、テレビやワイドショーでは他人事のようです。しかし、国家の問題は、巡り巡って自分のところに返ってきます。多くの人はそれを理解しているのでしょうか。
例えば格差の問題は無視することはできません。社会的弱者を支えることは何より必要です。そうしたセーフティーネットは競争社会では不可欠です。一方、競争に敗れた敗者については、ステージから退場してもらうべきで、弱者と敗者を混同すべきではありません。敗者についても国家に救済を求めてよい、と考える人が出てくるのは危険なことです。ところが政治家はそのあたりを混同して、まるで他人事のように「白か黒か」という子どもじみた議論をずっと続けています。競争したくない、乃至は、競争しても負ける、と思う者ほど、国に大きな声で『おねだり』するものです。自立しようとしている者はそんな行動はとりません。票が取れるか取れないか、その観点でしか政治家が政策を語れないというのは、極めて憂慮すべき状況です。
来年は、一人一人が「社会の為に、自分は何ができるか」を問わなければならない年になると思います。まず経済の面で変化が起きるのではないでしょうか。日本人は基本的に逆境に強いですが、逆境にならないと動かないというのも特徴ですから、良い意味でも悪い意味でも来年は切羽詰まった年になるのではないでしょうか。これは決して悲観的な見方ではありません。本当の意味での行動を起こすべき、乃至は、起こさざるをえない年になるのではないかと思っています。
『国家のあり方』がいま問われています。「大きな政府」「小さな政府」いろいろな視点がありますが、21世紀は組織の時代からネットワークの時代になってきます。そうなると、パレート最適を追求するといった単純な図式ではなく、もっともっと人間的な、非論理的な多様性・複雑性が増す社会になっていくと思います。多分、旧来の『国家のあり方』も抜本的見直しをしなくてはならなくなるでしょう。その意味でNPOが活躍すべき時代の到来と言えると思います。
言論NPOは中国などとの橋渡しをしてネットワークを築いていこうとしています。このような、役人でもなく、企業でもなく、企業が集まった経済団体でもないような、個が集まって日本を何とかしようという全く別の組織としての言論NPOは、新たな時代にふさわしいものであると思います。しかし、それをサポートする人間を募り、組織として確固たるものにしなければ、この運動は継続できません。みんなで知恵を出し合って、サステナブルな基盤や仕組みをつくっていくことが今求められています。
発言者
松井道夫(松井証券代表取締役社長)
まつい・みちお
1953年長野県生まれ。76年一橋大学経済学部卒業後、日本郵船を経て87年義父の経営する松井証券に入社。95年より現職。経済同友会幹事、東証取引参加者協会理事、国際IT財団理事等を兼任。著書に『おやんなさいよ でも つまんないよ』。
大上段に構えた言い方になるかもしれませんが、私が小学生くらいの頃にケネディが言った言葉で、「国家が自分に何をしてくれるかを考えるよりも、自分は国家に何ができるかを考えるべきだ」というものがあります。いま日本国民に問われているのはまさにこの言葉なのではないかと思います。