2008年 日本の未来に何が問われるのか
― 言論NPOの議論に参加する8氏はこう発言する vol.5 ―
世界の構造的な変化と日本のチャレンジ
日本はこの91年バブルが弾けた後、長い停滞を続けました。日本社会全体が病院に入っていたような空気でした。しかし、2002年1月を底にした今回の経済の拡大は、まだ続いていますし、今後も基本的には続くと思います。そういうふうに今は、日本の社会全体が、長い病院生活から抜け出し、前向きに動き出したところです。経済の基礎体力もかなり回復した面があります。
そういう中で、日本が歴史の発展の中でどういう状況にいるか、それから世界など大きな枠組みの中でどこにいるか、まず立ち位置を再確認しなければなりません。91年、日本のバブルが弾けたとき、ソ連が崩壊して冷戦が終わり、世界は戦後の世界政治経済のパラダイムの最大の転換をしています。インドの台頭もこの辺りから来ますし、中国はそれより前に台頭しています。アメリカも70年代、80年代にはガタガタで日本との摩擦も広がりましたが、復活しました。それから、産業技術においても、情報化技術が起きて、産業技術の形を生み出す安い技術のパラダイムも変わっています。
つまり世界は、日本が病院に入っている間、競争力を持つような、あるいは経済成長発展がしやすいような環境、制度、仕組みを作るための制度改革の大競争をしているわけです。そういう中で日本はずっと小さな病気を治すために、この10年あまり心とエネルギーを集中していったのです。
しかし、その結果として今の時点で、この十数年間に大きく変わった世界と日本の状況の間に、大きなギャップが出てきました。心理的には、日本の経済のデフレがずっと言われていますが、それは要するに問題意識のデフレ、あるいは気力のデフレであり、物事の発想力のデフレです。もう少し別の見方をすると、非常に内向きであったということです。例えば、91年バブル。このバブルが発生したのも潰れたのも全部メイドインジャパン、オウンメイドです。それから、地震、サリンの大事件がありました。あるいは93年以降、自民党一党体制、与党体制が崩壊し、今の55年レジームが潰れて、宮沢さんから数えると、今は10人目の首相です。頻繁に政権が変わり、構造改革を議論していったけれども、実際の改革はほとんど行われていない。しかも細川政権以降みんな連立政権です。
日本の政治もそういう中で内向きとなり国内思考で、世界が変わったことを十分見つめ損なった。この数年間は外交的にも、外交戦略をきちんと行えずに対応しそこなったという面もあります。ようやくそれが、昨年以来、とりわけ言論NPOの触媒効果もあり、中国との関係の改善が実現し、新しいページが開かれました。しかし、まだ多くのページを開かなくてはいけない。これまで閉ざされた本が開かれて、ページがめくられたというのが昨年からです。空白の外交期間を取り返しながら、世界の大きな流れの構造的な変化を見据えた上で、日本の新しい選択をしなければならない。そういう時期に今の日本はあるわけです。しかも、その選択をできるだけの経済体力が戻ってきたわけです。したがって2008年は日本にとっての大きなチャレンジの年になります。
それから、外交関係で言論NPOが果たす役割は非常に大きいと思います。日本だけではなくて、中国でもベトナムでも、その他アジア主要各国もみんな民間セクターのNPO、NGOが育っています。むしろ、他の国の方が育っている面がある。そういうものを通じたこのトラック2が、意外と重要な要素として、今の国際政治あるいは国際世論を規定しつつあります。もちろん政府の役割も重要ですが、政府だけではできないという時代にパラダイムが世界的に変わりました。日本はNGO、NPOの役割も相対的に遅れてきました。ですから、これは非常にこれからひとつのソフトパワーを大事にする上で重要なカギだということで、言論NPOの活躍を期待しています。期待をこめた眼差しが、ますます言論NPOにも注がれているということだと思います。
発言者
小島明(日本経済研究センター会長、日本経済新聞社顧問)
こじま・あきら
1942年生まれ。65年早稲田大学政経学部卒業。日本経済新聞社入社。ニューヨーク支局長などを経て、97年取締役論説主幹、常務取締役論説主幹、専務取締役論説担当。2004年論説特別顧問、日本経済研究センター会長。05年中国ハルビン工科大学客員教授・同大学中日貿易投資研究所長も務める。88年度ヴォーン・上田記念国際記者賞受賞、89年度日本記者クラブ賞を受賞。主著書に『グローバリゼーション』などがある。
日本はこの91年バブルが弾けた後、長い停滞を続けました。日本社会全体が病院に入っていたような空気でした。しかし、2002年1月を底にした今回の経済の拡大は、まだ続いていますし、今後も基本的には続くと思います。そういうふうに今は、日本の社会全体が、長い病院生活から