アジアにビジョンを語りかける日本へ ―日・中・印の協力がカギ―
アジアは歴史的な勃興期にさしかかっています。これは日本にとって、ある意味でチャンスです。というのも、近隣の経済が歴史的勃興期で、毎年8%、9%の成長をしているのですから、たぶんこの調子で行けば2030年頃にはPPP(購買力平価)で見てアジアは世界のGDPの半分位を占めるでしょう。その輪の中に日本がいるということは、確かにチャレンジではありますが、同時にオポチュニティにもなりえます。このチャレンジをオポチュニティに変えることが今日本に問われていることです。また、日本がアジアに積極的に関わっていくことはアジアにとってもプラスです。
日本は依然として世界で第2位の経済規模がありますし、アジアの中でも圧倒的に発展した経済であり、技術開発力も依然として衰えていません。もちろんアジアが追いついてきているという状況ではありますが、日本の力自体が衰えているというわけではありません。事実、今やバブル崩壊以降の10年間の停滞期を脱して、不良債権処理も終わり、日本の企業や金融機関のバランスシートもOECD諸国の中でトップクラスになってきています。この4年間連続して日本の企業は過去最高益を更新してきています。
にもかかわらず、残念ながら日本は、90年代以降バブルが崩壊して国内問題ばかりにかまけてしまったせいか、マインドセットが非常に収縮してしまっているようです。
しかし、勃興期にあるアジアと、バブル崩壊後の10年以上に渡った問題を解消し新しい成長軌道に乗ろうとしている日本を上手く結び付けない手はありません。そのために必要なことは2つあります。
ひとつは、日本から積極的に自分たちのビジョンやアイデア、ストラテジーを語りかけていくことです。バブル期の日本は、トップを走っているという感じで世界が注目していました。バブル崩壊後も、これはこれで大混乱に世界が注目していました。しかしバブル崩壊から立ち直った今、逆に注目されなくなってしまいました。こうした状況に甘んじて萎縮したままでいると、ますます内向きになってしまいます。外に向けて力強く発信していくことが必要なのです。
もう一つ必要なことは、経済を初め色々な面でアジアにおいて力を持つ中国やインドと上手く連携していくことです。もちろん政治的にも経済的にも歴史的にも文化的にも異なる国々ですから、急に仲良くなって家族になるということはありえません。政治や経済の指導者が意図的に日・中・印で協力関係を進めようとしない限り、上手くいきません。ただし、日・中・印が協力関係を進めていくことは長い眼で見れば非常に望ましいことです。また、経済的な協力は、安全保障・平和の問題にも関係してきます。日・中・印が対立していては、大戦争が起きる危険性・可能性は常にあるわけです。それを回避しつつ、アジアの平和をいかに維持していくか。これには日・中・印の協力が必要なのです。協力関係を作り上げるための「種」はいくらでもあります。例えば環境問題や金融の問題、貿易投資や技術開発などが挙げられます。こうした「種」をどう日本が活かしていくかが大事になると思います。
発言者
黒田東彦(アジア開発銀行総裁)
くろだ・はるひこ
1967年東京大学法学部卒業後、大蔵省入省。1971年オックスフォード大学経済学修士取得。国際局長、財政金融研究所長、財務官を歴任。内閣官房参与、一橋大学大学院経済学研究科教授を経て2005年より現職。
アジアは歴史的な勃興期にさしかかっています。これは日本にとって、ある意味でチャンスです。というのも、近隣の経済が歴史的勃興期で、毎年8%、9%の成長をしているのですから、たぶんこの調子で行けば2030年頃にはPPP(購買力平価)で見てアジアは世界のGDPの