「議論の力」で強い民主主義をつくり出す
「官から民(みん)へ」と言われていますが、それは、「民(たみ)」と読み替えてほしいのです。「民営化(みんえいか)」ではないのです。民(たみ)をきちんと相手にしろということです。安倍さんも、民(たみ)を相手にしてくれていないから、サポートされなかった。そこで、今や何でも「格差」などという言葉で表現してしまう。
確かに地域に格差はあります。それを言う人には、実際に地方で皮膚感覚で感じている人もいれば、口だけで言っている人の両方がいるような気がしますが、ちゃんと体を動かして地方の町を見て回ってくれれば、すぐに分かります。東京に近い木更津もそうで、アクアラインの恩恵は何も受けていない。通過しているだけで、アクアラインを通って、数千円を払って木更津に行く理由は何もない。結局、木更津は衰退しきっているわけです。そのような問題は各地にあります。それに対する答えは何か。私は基本的には今、全国で進められていることは、間違っていると思っています。
つまり、産業振興という形では高齢化に直面している地方は復興しないのです。消費が伸びなければ復興しません。ほっておけば高齢者は消費をしませんが、消費させようと思えば高齢者は消費します。地方格差だと言われると、すぐに地方交付税などの話になり、またバラ撒きなのかということになってしまう。もう少しきちんと考えてくださいということです。
マクロ的にみて、日本の1500兆円の個人金融資産のうち7割を60歳以上の人々が持っていると推測されます。それは1000兆円ということになります。土地などの個人が持っている日本の非金融資産は2000兆円近くありますが、その6割から7割はたぶん、60歳以上が持っていると思います。それを1500兆円とすると、合計2500兆円にもなる。片や、政府のほうは、債務残高が800兆円あるとされますが、国の債務残高が減るわけでもないプライマリーバランス達成のためでも歳出と歳入のギャップが19年度予算では4兆円あまり、国の債務残高を減らしていくためには、それは14兆円にものぼる。結局、歳出を増やすことはできない、つまり、何をやろうにもお金が出てこない状況です。
皆さんが錯覚していますが、日本国政府は貧乏だけれども日本国民はお金持ちなのです。それが偏在しているという問題があって、それは、若者と年寄りとの間の偏在と、年をとれば取るほどお金持ちと貧乏人の格差が開いて行くという状況になって現れている。大変貧しいお年寄りも増えたわけです。そこのところに対策を打たない限り、答えにならない。
ただ、それは産業振興なのかということなのです。ひとつの例として、東国原さん(宮崎県知事)はいろいろともてはやされていますが、なぜもてはやされているのかということを誰かがきちんと言わなければなりません。彼は消費振興をやっているのです。他の首長で一生懸命消費振興をやっているというのは、聞いたことがない。皆さん、産業振興なのです。工場誘致であり、中小企業の再生であり、三セクの整理です。しかし、今、必要なのは消費振興です。
たまたま東国原知事はテレビ的に知名度があるし、タレントであったから、自分のできるやり方で人を呼び込んでいるわけです。宮崎県というのは宮崎県の人だけでは規模的に回らない部分があって、常に新婚旅行などの観光によりかかってきましたが、それが衰退していたわけです。それを違う形で人をよそから呼んでいるわけです。定住人口で回らなければ、旅行客という短期滞在人口を増やすという形で、まさに私が考えているような形で回そうとしています。
ただ、ひとつの課題は、一回は来てくれるけども何度も来てくれるかということです。東国原知事だからといって何度も来るかという問題があります。要するにリピーターが増加するかという問題です。そこには彼はまだ答えを出していませんが、少なくともお店の人たちは、東国原知事のおかげで売上げが伸びたと言っています。売上げが伸びれば少し資金が潤沢になり、そして先行きの希望も少し見えてくる。そして店舗改装をすると、店舗改装というのは大変効果がありますから、お客が帰ってくるのです。魅力がある店舗になればそうなります。店舗改装をする資金が自分で捻出できるような循環が始まったと思います。
まず、呼び込んだことによって、そして売れ行きが伸びたことによって、お客がどういうことに喜んでくれるのかということがだんだん分かってきたことによって、その循環が始まりました。それがすべてではありませんが、消費振興のひとつのパターンです。そこで良循環を作り始めるきっかけができた。そういう形で評価している人がどれくらいいるのか私にはよく分かりませんが。
地域振興という言葉を地域産業振興と捉えるな、地域消費振興という形で捉えろと言いたいのです。富は偏在していますが、お金は沢山あって動かせば動くのです。定住人口でもたないのなら、やるべきことは誰かを呼び込むということです。
2500兆円の資産を60歳以上が持っているとすると、それを使わないまま持っているのです。ですから、日本の外貨資産は大変多く、世界最大の債権国です。使わないから貯まっているのです。そして90過ぎまで生きていく。いま60歳前後の団塊の世代は2人に1人は90歳を越えるだろうといわれています。めでたい話ですが、いろいろな問題がある。皆さんは、この65歳以上の、稼がないで社会保障ばかり使う人口が増えると言っていますが、もうひとつ大きな問題があって、90過ぎまで生きて95で亡くなったとすると、その財産を相続する人は皆さん、65歳です。その歳になると、相続しても、とりわけ欲しいものもないし、食欲も落ちてもう使わないわけです。
土地を相続したら、それをまた新たに使えばいいのですが、実際は少子化ですから、夫婦で両方の親から相続すると、一方しか使わない。サラリーマンが大半ですから通勤の便が悪いとう問題があったり、あるいは一方の親が住んでいるところに住まなければならないといったことで、結局は住まない。そこで、使われていない住宅が実は結構あるのです。そうして、家は空き家になっていうだけで、新しい消費は起こらない。65歳で相続して、また30年後に亡くなって相続すると、同じことが起こり相続だけでくるくる金が回っているという状況になり、消費に回らない。
それが私の計算では、毎年50兆円から70兆円ぐらいはある。しかし、相続税というのは最も捕捉がしにくい税です。表に出ているのは35兆円くらいでしょう。現実の相続税収は2兆円程度で、捕捉率が悪い。日本のつじつまの合わなさについてもっと言えば、今の国税庁、税務署は相続税などのストック課税の捕捉が得意でないだけでなく、訓練もまだ十分にされていません。しかもグローバリゼーションの時代になっていますから、日本からお金が出て行くと捕捉ができない。これは世界主要国のすべての徴税機関が悩んでいる問題です。
そういう状況にも関わらず、日本国政府は「小さな政府」というスローガンの下に、平成12年から10年かけて一律に公務員の1割削減を進めています。ですから、56000人程度の税務職員を5000人強も削減する。ストック課税という難しい課題があるのに、訓練ではなく削減をする。ここに日本という国のどうしようもないおかしさがあります。
この国は、何か大事で、どういう因果関係があって、どういうようなつじつまが合うのかということをきちんと考えるという思考能力が弱いのです。
横山禎徳(社会システムデザイナー)
よこやま・よしのり
1966年東京大学工学部建築学科卒業。建築設計事務所を経て、72年ハーバード大学大学院にて都市デザイン修士号取得。75年MITにて経営学修士号取得。75年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、87年ディレクター、89年から94年に東京支社長就任。2002年退職。現在は日本とフランスに居住し、社会システムデザインという分野の発展に向けて活動中。
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