次の日本をつくる言論

「2008年 日本の未来に何が問われるのか」 / 発言者:横山禎徳氏(全5話)

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第4話:地方に問われる問題解決の思考訓練

 今、地方分権と言われますが、地方分権をすれば地方官僚が地方のことをちゃんと回すようになるのでしょうか。地方官僚と中央官僚には大きな違いがあります。

 日本は議員立法が少ないですから、行政府が実質的に立法府のようなことをしている中で、中央官僚は制度設計をやり法律をつくってきた。ですから、組み立てる訓練は経験していますが、最大の問題は、自分の省庁の中だけで制度設計をやるということです。それで今日本が直面している問題に答えられるわけがない。年金制度の問題は厚生労働省の中だけでは答えられません。税金で補填するなら財務省の問題ですし、高齢者に働いてもらうならある種の就職機会を新しくつくらなければならず、それは経済産業省など色々なところが絡んでできるものですが、今の官僚はそういう新しいタイプの制度設計の訓練はされていません。

 しかし、地方官僚はそもそも、そういうものをつくったことがない。市や県の条例をつくっていても、実際には基本的に国の枠組みの中でやってきたわけです。地方分権とは、そこから抜け出して自分でそれを自由に組み立てることができるようにするための地方分権です。それなのに、地方分権とは中央政府からいただくものになっていて、喧嘩し、戦って勝ち取るものではない。それでは地方分権はできません。それだけの人材を育成し訓練してきたのでしょうか。地域の活性化をするために必要な消費振興のための組み立てを訓練されている人などどこにもいません。多くの地方官僚には地域を経営する意志などほとんどない。

 このまま放っておけば、地方分権というのは総務省の天下にするだけのことになるのではないでしょうか。総務省に頼らないと何もできないわけです。ところが総務省自体にそれほどの覚悟と志もないというさびしい状況です。

 道州制も、箱物行政と何も変わらず、形だけです。道州制とは何を目指しているのかが民(たみ)に伝わってきていません。私は道州制は結果的に失敗するだろうと思います。なぜなら、州と県と市町村という三層構造になるだろうと思うからです。道州制がそれほど優れているなら、北海道はもっとよくなっているはずです。そこには長年補助金に慣れすぎているという問題もありますが、もうひとつ、17支庁があるため三層構造になっているという問題もあるのです。それと全く同じものができる可能性がある。結局、つまらないプライドの闘いになり、熊本か福岡かという問題になって、何かの仕組みとして県の枠組みが残ってしまい、三層構造になる。組織論的にいって三層構造ほど駄目なものはありません。何も動かないのです。

 こういうことを世間に広く理解されるように議論すべきです。専門家が極めてテクニカルに議論をしていますが、全体にそういう問題を公開しているわけでもなく、三層構造は駄目だということも素人にはわかりにくい話です。そうすると、何をベースに議論をしたらいいかが一般市民は分からない。そのまま道州制が決められていくと、突如、中央政府からこれが道州制ですと言って渡されることになる。何かおかしいでしょう。

 今年は、消費振興から地域経済を組み立てるということに発想を転換し、それを仕組みとして設計することを始める年にしてはどうでしょうか。それぞれに特徴があるのですから、地域振興の実践を地域ごとに競争させるのです。

 定住人口に満たずに人口が減っていく所では、人を呼び込まなければ経済的に成り立たない。より多い人口で成り立つ仕組みをすでにつくってしまっているからです。鳥取県でしたら、80万人必要なところが60万人になりそうというなら、仕組みがもたないことは明らかで、そうであれば他県から人を呼び込まなければいけません。大阪市は定住人口に対して昼間人口が4割り増しです。大阪のようにはいかなくても、呼び込まなければ回らないだろう。そうであれば、逆立ちしてでもそういうことをやるべきではないでしょうか。

 それをやった結果として、精根尽き果てて、これは無理だ、ある種のスケールがなければ成り立たないというところまで来たのであれば、別の組み立てを考えてみる。それにも様々なモデルがあるのであり、その中で道州制というものを選択するというのであれば、もっとリアリティのある道州制になるはずです。そもそも日本中一律道州制というのもおかしいのではないかと思います。本当は自然な経済単位は地域ごとに違うはずです。「いろんな工夫をしてみたが、これはある種のクリティカルマスに達しないからできない」というような切実な経験が大量にないから、州都は広島だ、いや岡山を州都にしたいから中国四国州にするという何の意味もない議論になってしまいます。

 地方の方々は自分たちは弱者だと言って甘えているようですが、シビアなことを言えば、こういった自然な経済単位の把握に基づいた施策や戦略を作るための思考訓練がされていないのです。幸いなことに問題解決業に長年携わった結果、私はそういう訓練をされるような状況にありましたが、多くの人は必ずしもそういう経験がありません。これはポジションが偉いということとはほとんど関係がありません。ものを考える、問題解決をどうするのかという思考訓練が大切なのです。いまの公共政策大学院大学のようなものではなく、地方官僚に施策立案実施の実際的な訓練をする職業学校、あるいはプロフェショナルスクールが必要なのです。

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発言者

横山禎徳氏横山禎徳(社会システムデザイナー)
よこやま・よしのり
profile
1966年東京大学工学部建築学科卒業。建築設計事務所を経て、72年ハーバード大学大学院にて都市デザイン修士号取得。75年MITにて経営学修士号取得。75年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、87年ディレクター、89年から94年に東京支社長就任。2002年退職。現在は日本とフランスに居住し、社会システムデザインという分野の発展に向けて活動中。

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