「議論の力」で強い民主主義をつくり出す
今年の課題は、日本は分権国家に向けた転換を図れるかということです。まず、税体系については、法人二税を云々という話がありましたが、その考え方は地方税を豊かなところと貧しいところとに水平的に分けたということです。では、垂直的な税制の問題や、消費税をどうするか、国の税を地方にどう回すかという話になったときにどうするか。これまで分権そのものは進んできましたが、それは自治行政権といって、行政の裁量権です。例えば三重県ならば、三重県の知事と議会が合意すればできますよということで分権をしたわけですが、自治財政権というものはないのです。夕張市は破綻となりましたが、本来、破綻というのは財政の歳入と歳出を自由にして、それで失敗したら破綻ということです。ところが、歳入は決められています。自治財政権を確立しない限りは分権にはなりません。
もう1つは、私が政治運動としてやっている自治立法権です。今、知事や市町村長に対して地方議会は、ほとんどの場合、追認機関になっていると言っていいのではないでしょうか。それは圧倒的に行政優位だからです。行政側が出した議案あるいは条例について97~98%まで無審査で通ってしまう。議会はあってもないようなものだったのです。これは中央集権で機関委任事務というものがあったからです。国の仕事ですと言えば、議会は百条委員会すらままならない。自治行政権で裁量権がおりてきたわけですし、その上機関委任事務が廃止になったのですから、議会の権限も強くすべきなのです。
私は地方分権で首長の権限はもっと強くならなければいけないという論者です。しかし、首長が余りにも強過ぎたら、当然、問題がおきてきます。議会はそれを本当にチェックし得ているかといえば、そうは言い切れないわけです。だからこそ、議会も強くなるべきなのです。ですから、自治行政権、財政権、立法権を強くする運動をしていきたい。私はそう感じています。
この3つを拡大するための一歩は、1つは分権です。町の憲法を自分たちでつくれという運動をやっています。それは自治基本条例というものです。その町の最高規範を自分たちで決める。その決めていく過程の中で、議会軽視ではないか、直接選挙はどうだといったように、民主主義の原点に関する議論がいっぱい出てくるのです。町の憲法をつくるということは、国にお伺いせずに、自分たちで意思決定して責任をとるということです。
これをするためには2つ支えが要ると思います。1つは、いわゆる行政についての基本的な行政基本条例です。今までの行政は、国でどう考えているかお伺いを立てて、前例でやってきただけです。自分たちが政策を立案し、自分たちで条例に基づいて仕事をしていくことによって、行政に曖昧さをなくしていかなければなりません。
もう1つは議会です。議会基本条例をつくるということです。今、議会の議員さんは特別職扱い、つまり、臨時の扱いなのです。そのように身分が不安定で、議長の権限や常任委員長の権限というものも非常に不明確です。ですから、議会の招集権は今、どこにあるかというと、知事や市町村長にあるのです。議長にはありません。予算の提案権などは執行部にありますから、執行権がないということも含めて、では議会の役割は一体何なのか。例えば、この首長が不正しているというときに議会を招集したいとしても、百条委員会を招集するということができないから、先送りされる場合もある。
そのあたりの基本的なことについて、分権社会でインフラをつくっていかなければ、実際に地方分権も絵に描いた餅になる。そこで、自治に対して行政と財政と立法の3権を制度的につくる。そういう運動を通じて、議会の皆さん方が、今までは中央集権だから地方では行政が圧倒的に優位だったのが、それが実は違っていた、自分たちには立法権もあった、議決権もあって、議決を通じて議事をして、その議事を通じて情報公開を徹底的にしなければならないんだと、いわゆる政策立案議会に変わってもらう。そうしない限り、分権社会というのは描けていけないと私は思っているわけです。
自治基本条例では議員定数なども全部決められるもので、例えば政務調査費についても、自分たちは監視機能だと言われているのに政務調査費が最も怪しいと言われているのなら、自分たちで直していこうというわけです。私は政務調査費は必要だと思っています。しかし、公的な資金が入るのに、そこが曖昧なままで、従来の思い込みでそれはこんなものだからといって直さないのなら、議会の信用はなくなるでしょう。議会は執行権者に対する監視機能だと思い込まされてきましたが、実は会派をつくって多数を握れば提案権もあるので、地方の法律である条例は制定できるのです。ですから、こういうことに気づかせる運動をしています。
現実には地方議会の既得権が改革を遅らせているという厳しい見方もありますし、地方議会には直すべき点が大変多くあります。例えば今の制度では、議員になる人が中小企業のおやじさんか、大組織の労働組合、あるいは自由人といった人たちで、サラリーマンや女性などが非常に出にくい仕組みになっています。議員にある会社員の方が立候補すると、当選すればそのままですが、もし不幸にして落ちられたら、また仕事が継続できるようにするということなども整備していかなければいけません。また、政治資金規制法の観点からも、お金がかからずに、政策の切り口で同調者を募って当選するという、そういう政策中心のマニフェスト型の選挙がもっと出てこなければならない。いわゆる地域の世話役はある意味で必要ですが、そこには必要悪の部分が多すぎて、信頼がなくなっているということも事実ですから、そのあたりも見直していかなければなりません。
議員定数については、私は国会議員もいずれ本当に減らすべきだと思っています。我々の運動は、民が選んだ政治家が主導だという、政治主導の政治体系を望んでいるわけです。ですから、国会議員の定数も減らして、その代わり、立法をするための政策的な手法や場所を確保する。そして、それを担保する図書館や附属の施設などを整える。
やはりここまで来ると、管理する側の官僚だけでは、もはやこれだけの成熟社会で多様な価値に対応しなければならない時代には通用しない。ですから、政治主導で、民の声を聞きながら進めていくという意味で、国会議員の定数を下げる。そして当然自治体のほうも、それぞれ議会自ら定数を削減していくというぐらいの決意がなければいけないと思います。
北川正恭(前三重県知事、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、「新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)」代表)
きたがわ・まさやす
1944年生まれ。67年早稲田大学第一商学部卒業。83年衆議院議員当選(4期連続)。95年、三重県知事当選(2期連続)。「生活者起点」を掲げ、ゼロベースで事業を評価し、改善を進める「事業評価システム」や情報公開を積極的に進め、地方分権の旗手として活動。達成目標、手段、財源を住民に約束する「マニフェスト」を提言。現在、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、早稲田大学マニフェスト研究所所長、「新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)」代表。
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