「議論の力」で強い民主主義をつくり出す
今年は総選挙が予想されていますが、その1つの切り口として、私は分権ということを言っているわけです。分権1つをとってみれば、1点突破になります。分権という分野においては、仕組みを全部変えた場合、全体最適でないとうまくいかないからです。1点突破をやるときにはいろいろな全体の矛盾が見えてきます。ですから、全体最適にするために全部を変えないと、全部が生きてこない。今はその過渡期にあって、改革疲れということが言われています。
共感を呼ぶ、合意を得る、感動させる、そういったものが政治における多数決の要素には欠くべからざるものです。その共感を呼ぶ最大のものは、やはり腹の底から絶対やるんだという強い意志です。ベクトルを分権のほうへ合わすという強い決意が、まだ両党とも出てきていない。特措法のことについては絶えず語られますが、本当に分権国家を何としてもつくるために、今の官僚機構は全部入れかえるという強い決意、共感のもとに感動を呼ぶ。これがないことを私は残念に思います。
参議院選で、農家に所得補償政策を示し大勝したとしても、過渡期の現象だと思います。あまりにも中央中心で、強者の理論、自由主義、新保守主義がまかり通り過ぎたということへの反動です。だからこそ、ある種のばらまき的なことも許容されたのですが、今アンケート調査をしてみると、改革への動きはまだ生きています。ばらまきではなしに厳しい話になったとしても、将来の見通しなり地域政策があればいい。そういう政党こそが望まれています。
ただ、知事をやっているとよくわかるのですが、民主主義というものは理念だけで格好よく言っても、多数決ですから、改革ではなく癒しという現象も起こってしまう。そこにはやはり、メリットとデメリットがあるわけです。特に、今までは日本の国の体制の下で、自立心のない、甘えていらっしゃいよというおねだりの地方自治体を、国を挙げてつくってきたということがあります。そこで今、地方に力がないというのは、これは当然のことです。そこからつくり直していかなければいけません。
予算も箱物で配分というのではなく、まず1つわかっているのは、地域で総合行政をやらせるべきだということです。地域の再生というのは、農業政策だけでやっても全然意味がないのです。農業政策をやると商工会議所と喧嘩するという状態です。子供の育成もあれば、環境に優しい、観光で儲けるなど、いろいろな要素がその地域にはあるでしょう。そういう自由裁量をきちっと地方に任すという予算体系になってこなければなりません。そのあたりを変えていくということは、やはり政治主導でなければできません。官僚は自分らが正しいと思い、国はまだ地方には任せられないと思っていますから、ここは思い切ってそのパラダイムを変えない限りはだめだということです。
私は新年の課題は分権国家だと思っています。
北川正恭(前三重県知事、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、「新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)」代表)
きたがわ・まさやす
1944年生まれ。67年早稲田大学第一商学部卒業。83年衆議院議員当選(4期連続)。95年、三重県知事当選(2期連続)。「生活者起点」を掲げ、ゼロベースで事業を評価し、改善を進める「事業評価システム」や情報公開を積極的に進め、地方分権の旗手として活動。達成目標、手段、財源を住民に約束する「マニフェスト」を提言。現在、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、早稲田大学マニフェスト研究所所長、「新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)」代表。
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