参加者:
明石康 氏( 国際文化会館理事長 )
宮本雄二 氏(宮本アジア研究所代表)
武藤敏郎 氏(大和総研理事長)
司会: 工藤泰志(言論NPO代表)
2013年、私たちは何を考えなければならないのか
工藤:2013年は、日本の未来にとって非常に重要な年だと思います。昨年末には、日本にも新しい政権が誕生しましたが、私はこの新しい年が、有権者がこの国の未来をきちんと考え、質の高い民主主義をつくり出していく大事な年になると考えています。「言論NPO」のアドバイザリー・ボードである、明石康さん(国際文化会館理事長、元国連事務次長)、武藤敏郎さん(大和総研理事長、前日本銀行副総裁)、宮本雄二さん(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使)に、新年をどのように迎え、どういうことを考えるべきかについてお話を伺いたいと思います。明石さんからお願いします。
外交問題が内政に響いてくる時代を、広い視野で考える
明石:昨年12月の総選挙は、自民党が大勝したと言われていますが、私は自民党の大勝というよりは民主党の大敗であったと思います。それから、投票率が低かったのは国民の間に吹っ切れないものがあって、どの政党に、どういう政治家に日本を託していいかということに関する戸惑いがあったと思います。それはまだ続いていると思います。外交と内政というものが、もはや区別できない時代になったということであり、それは外交問題が内政に響いてくる時代になった。そういうことで外交問題について一般の人が興味を持ち、ともすると情緒に流されてしまう危険も出てきたと思います。ですから、我々は自分の国の将来というものをアジアの中で考える、世界の中で考えるというスタンスがますます必要になってくると思います。そういう意味でも今年は参議院選挙もあることですし、我々も日本という国の視野からのみものを考えるのではなくて、世界が日本をどういう風に見つめているのだろうということを忘れてはいけないでしょう。
工藤:では、武藤さん、お願いします。
デフレ脱却へ曙光が見える―期待を込めて
武藤:私は、2012年は非常に不確実性の高かった年だったと思います。その最たるものが、世界で選挙が次々と行われました。米国、フランス、ロシア、中国、韓国、それに日本ということで、結果はそれぞれ予想通りのこともあったり、そうではなかったところもありますが、新しいリーダーシップが年末までに出来上がりました。ところが、直ちに不確実性が払拭されるという状況では全くありません。それぞれ課題が残されています。2012年の不確実性は欧州のソブリンクライシス(国家債務危機)が基本的に全体の基調を決めていました。それが劇的によくなったということではありませんので、2013年も引き続き不確実性が残った年だと思います。
ただ、だんだんその不確実性が払拭され、新しいリーダーたちが打ち出してくる様々な政策、経済、外交、あらゆる面での方向性が徐々に明らかになるにつれて、霧は晴れていくのだろうと思います。日本については、参議院選挙でねじれ問題が解決しないと、統治機構の不全が、もとに戻らないと思います。米国では、現実に上下両院のねじれ現象から非常に不安定な状況になっていて、その轍を踏まないように考えていかなければならないでしょう。
経済問題については、安倍総理が、デフレ脱却が最大の課題ということに位置付けた通り、日本にとって最大の問題だと思います。しかし、そろそろ20年近くに渡るデフレから脱却できるかもしれない、という期待が、芽生えてきているのではないか。安倍総理がここで極めて強烈にデフレからの脱却を打ち出したことが引き金となって、雰囲気を変えつつあります。勿論これからどんな政策を実行するかが大事なのですが。2013年はユーロゾーンも少しずつ改善が見られますし、日本も東日本大震災から少しずつ立ちあがっていくので、非常に明るい2013年になるとは言い切れませんが、少しずつ曙光が見えてくるような、そういう年になるのではないか。これは半分、期待も含めてですけど、そういう風に思います。
工藤:明るいかどうか、そこまで明るくはないが霧は晴れていくのではないかという話でした。宮本さんどうでしょうか。
世界に日本を合わせるのではなく、主体的な働きかけを
宮本:私は年が変わるというのは、だいたい悪かったことを皆、忘れて、来年は何か良い事があるという気持ちにしてくれる、なかなか良い仕組みだと思っています。
武藤さんの言われたように、各国でリーダーが変わったりして、そうするとリセットして前に進んでいくかな、という気持ちに世界中なっています。とりわけ日本の周辺の国々でそういう状況ですから、それを日本はしっかりつかんで、そこからどういう風に立ちあがって、さらに前に進んでいくか。我々は内向きの話でエネルギーを消耗した気配があるので、そろそろそこから脱却して、どういう風に日本自身を立て直すか。日本人は、世界に自分を合わせることばっかり考えてきましたが、そろそろ世界をちょっと変えてみようかと、また日本にとって良い世界は、どういう風に作れるだろうかと。世界に合わせるのを変えて、日本に都合のいい世界を作る。とりわけ周辺関係を作っていくという発想方法で皆、考え始めたらいいと思っています。
そうするとアジアで経済の枠組みをどうするのか、もちろん米国との関係は大事ですから、そこも踏まえて考えていかなければならないですし、とりわけ安全保障は日中も含めて大変な状況になっていますから、この東アジアでどのようにより安全な仕組みを作っていくのか、これは我々が主体的に働きかけていける世界です。そろそろ前向き思考というか、国内に埋没しかかっていた日本が外を見て、世界とどのように関わっていくべきか、周辺の環境をどういう風に変えていけばよいのか、こういう気持ちに日本自体がなってもらいたいと思います。そうすれば、私は生来の楽観主義者ですので、世界が回っていくのではないかと思います。
工藤:「言論NPO」は、健全な社会には健全な言論が必要という思いから、様々な取り組みを行ってきましたが、新年、「言論NPO」は何をすべきなのか、「言論NPO」に期待していることでも、やらなければならないことでもいいのですが、それを一言お願いしたいと思います。明石さんどうでしょうか。
「言論NPO」への期待は
掛け声だけではない、実体ある民主主義を
明石:「言論NPO」に期待したいのは、市民社会の質のいい部分をぜひとも代表して、出来れば具体的な政策の形で練り上げていってもらいたいと思います。我々は民主主義を支持していますが、民主社会はともすると空回りしがちです。誰がこの民主主義に実体を与えるのかということで、「言論NPO」が中核となって、日本の抱えている課題にどのような内容を与えるかということになるわけだと思います。そういう意味では2013年というのは民主主義が掛け声だけではなく、実体を得ることができるか、という境目に立っているということではないか、と思います。
工藤:武藤さんどうでしょうか。
民主主義が抱える試練克服に、質の高い言論を
武藤:私も基本的には明石さんと同じ趣旨なのですが、大局から見ると民主主義は試練の下にあるのではないかと思います。と言いますのは、例えば、政治は国民の負担を増やすとか、TPPに参加して国内の一部の既得権に大きな悪影響があるとか、そういう問題について判断を先送りしてきたと思います。しかし、大局から見て望ましい事、日本国にとって正しいことは決断をして、政治が国民を説得して進めていかなければ民主主義は単なるポピュリズムに陥ってしまう。そういう意味で民主主義の試練だと思います。
従って、政治が国民の願望に沿おうという気持ちのあまり、客観的に本当に何が正しくて、何が誤りなのかをあまり深く考えずに行動しがちである。言論はそれをきちんと分析して、何が問題で何が正しいのかということを国民に明らかにするという事が重要な役目になっています。そういうことを、国民一人ひとりが自分で判断出来ることが一番、望ましいのですが、我々だって自分に関係ないことはなかなか判断出来ない。大衆に理解してもらうためには質の良い解説、分析が必要だと思います。「言論NPO」には、まさにそういう役割も演じてもらいたい。メディアの中には、逆にこれと正反対のようなことをすることもしばしば見受けられるので、そういう意味で「言論NPO」に期待したいと思います。
工藤:宮本さん、最後にお願いします。
政治家に白紙委任をしない―政治は今、何をやらなければいけないか、を問う
宮本:「言論NPO」が、政治家に白紙委任をしないというキャンペーンをやって、本当にいいことをしていると思います。「言論NPO」に参加しているメンバーの方々、会員の方々も真剣に日本の将来を考えている、そういうグループだと思います。白紙委任をしていないということは、「言論NPO」はアジェンダ設定というか、課題設定というか、要するに政治が今、何をやらなければいけないかということを随時、つきつけていく必要があると思います。日本にとって優先順位は何なのか、これを探り出して国民に提起し、それに対してどのように政治は向き合うべきなのか、対応すべきなのか、こうしたものを中心にやってもらう、それが白紙委任をしないという我々の掲げている運動につながっていくという気がします。
「言論NPO」は、何が日本社会にとって優先順位が高くて、緊急度が高くて、重要性があるのかということを政治というか、社会に対して発信して欲しいと思います。
工藤:どうも、ありがとうございました。
参加者:
明石康 氏( 国際文化会館理事長 )
宮本雄二 氏(宮本アジア研究所代表)
武藤敏郎 氏(大和総研理事長)
司会: 工藤泰志(言論NPO代表)