今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、2014年になって最初の放送。2014年は、様々な出来事が動くとみられ、工藤氏「市民・有権者も当事者性を意識しながら行動すべき」と考えている。そこで「当事者性」を中心に、2014年の「決意」について議論しました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2014年1月23日に放送しました)
ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。
工藤:おはようございます、言論NPO代表の工藤泰志です。2014年ももう一ヶ月が経とうとしていますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。
さて今日は2014年、第一回目の私の発言になるのですが、そこで私は今年、私たち言論NPOが何をしようとしているのか、と言うことについて皆さんと話をしてみたいと思っています。
私は新年、2014年に一番大事なことは私たち自身の「当事者性」だ、ということを発言しました。この「当事者性」というのを英語にする機会があり、「Stakeholder's attitude」とか、色んな言葉を考えたのですが、適当な言葉が見当たりませんでした。私が主張した「当事者性」というのは、政府や政治家などにお任せするのではなく、様々な課題について自分の問題として取り組もうというのが今年、非常に大事なのではないかと考えてこの「当事者性」という言葉を使いました。多分、多くの人がこういう風な自分の問題として社会のこと地域のことを考える、という動きが広がれば広がるほど日本の社会に新しい変化を起こせるのではないかと考えました。2014年は、そういう風な動きの出発点にしなくてはいけないと私は思っています。
さて、そのような思いもあり、年始に、私たちの活動にいろいろな形で参加している学者、ジャーナリスト、国家公務員、企業経営者など、だいたい6000人ぐらいに「2014年はどのような年になると思いますか」と題したアンケートをとってみました。
経済成長よりも近隣諸国との関係改善が最大の関心事に
まず、2014年はどのような年になると思いますか、と尋ねたところ、「決定的とまではいわないが、日本の将来に影響を与える重要な1年になると思う」との回答が68.9%で最も多い回答となりました。このような傾向は毎年同じです。しかし、その次の回答結果に今までと比べて変化がありました。「あなたは2014年日本の社会や政治のことで特に気になっていることは何か」と尋ねたところ、去年、一番関心があったのは、アベノミクスで、日本経済が本当に成長できるのか、ということに皆さん関心を持っていました。それは当然で、安倍首相が誕生によって経済のマインドが変わり始め、株が上昇し円安にも進みました。この状況が続くのか、という点については、非常に疑問ですが、しかしマインドが大きく変わる中で経済に対する期待が膨らんで来たのは事実です。ただ今回のアンケート結果では、「安倍政権の成長戦略が成功できるか」との回答は34.8%で2位でした。代わりに一位に浮上したのが「日本と中国、韓国などの近隣国との関係改善」と、東アジアの問題が一挙にトップに浮上して42.6%でした。このアンケートをとったのが年末年始ですから、想像できるのは、安倍政権発足後、ちょうど一年目の昨年の12月26日に、安倍首相は靖国神社参拝をしました。あの問題に関して中国が抗議するとともに、アメリカ大使館も失望したという声明を出すなど、世界が非常に大きな反応をしましました。それがずっと引きずられて、多くの人のマインドに大きな変化をもたらしたとのだと思います。
また、安倍首相の靖国神社の参拝の賛否についても尋ねたところ、今回のアンケートベースでは「反対」、「どちらかといえば反対」という回答が7割近くでした。私たちが行っているアンケートとメディアが行っている世論調査と違う点は、回答が一般の人たち画は無く、学者、ジャーナリスト、国家公務員、企業経営者など有識者だということです。多分、この問題は靖国参拝の是非についてではなくて、東シナ海で紛争が起こりかねない非常に危険な状態が続いている中で、世界が日本政府のみならず、中国、韓国の政府が紛争回避に向けて取り組むという期待を壊してしまっているのではないか、多分そういう風なことがこの問題の背景にあるのだと思います。一方で、安倍政権に対して、「期待している」との回答が24.6%と3割近くあり、「期待できない」というのは32.0%と同水準であり、まだ安倍政権に対する本質的な期待は失っていなません。しかし、昨年末に起こったこの問題が意外に多く有識者の意識を変え始めているのだと思います。
そして私がさらに驚いたのは、「2014年、安倍政権にとってどのような年になるのか」いう質問に対して最も多かったのは、「様々な問題が表面化し始め、政権運営に黄信号がともる1年になる」との回答で52.5%だったことです。つまり、専門家の間では、安倍政権は本当に大丈夫なのだろうか、という見方が少しずつ出始めているということです。
課題解決の主体は「有権者や市民」
最後にいつも僕たちが訪ねている設問ですが、今のような日本の状況を誰が立て直すのだ、と尋ねたところ、メディアは3.7%、インターネットメディアでも2.9%、学者は0%で誰もいません。経営者は2.0%、地方の首長0.8%でした。「安倍首相」は21.7%と、安倍さんに対する期待は、この設問からも読み取れます。しかし「安倍首相」との回答を上回り、35.2%の人たちが「有権者や市民」と回答しています。つまり、多分この有識者達は、私が冒頭にも言いましたが、僕たち自身が今の状況を考えないと、この状況を変えることはできないのではないか、ということに気付いている人達が沢山いるということです。安倍さんに対して、まだなんとかして欲しい、しっかりして欲しい、いう声はあるものの、それ以上に私たち自身が今の社会を考えなくてはいけない、という事をこのアンケート結果は浮き彫りにしているのです。そうやって考えてみると、「当事者性」ということが、本質的な今年のテーマなのではないかと、私は思い始めたわけです。ただこの「当事者性」ということについて、私自身が急にひらめいたわけではありません。昨年のこれ去年の大晦日に、早く書けとスタッフに怒られながら、年始の挨拶文を書けなくて悩んで、結局、正月になってしまったのですが、その際に、ずっと頭の片隅にあったことは、昨年、私が国際会議に参加をして、話をした世界中のシンクタンクのトップの人たちの話でした。そこでも、共通していたのはやっぱり「当事者性」ということでした。皆さん、政府に注文をつける人たちはあまりいなくて、自分たちが社会の様々な問題を解決していかなくてはいけない、と思っている人ばかりだったのです。
先日、NHK見ていたら、今、日本の政府に信用を裏付けられた通貨ではダメで、国際的な通貨を作ろうという動きが出ていて、それに対してファンドがお金を出したりしている、という動きが出ているという特集をやっていました。やはり政府にお任せするのではなく、個人が何かをしていかなくてはダメだ、という動きがかなりの分野で広がっているのですね。その時にみんなが言っていたのは、市民なり有権者の責任という問題とオピニオンという輿論という問題でした。つまり、何かあったら政府を批判したり、あいつはダメだとか言うのではなく、自分たちの問題として何かを解決しなくてはいけない、という意思に基づいた「輿論」というのが極めて大事になっているということを、世界で痛感しました。その中でも、皆さんが一番気にしていたのは、東シナ海でした。
世界的な関心事は、東アジアでの紛争回避
最近、テレビなどのメディアを見ていて、中国の外交官が日本を批判し、首相の靖国参拝を批判し、対して日本の外交官は、中国の外交感は間違っている、世界が気にしているのは靖国参拝ではなくて、中国の大国的な行動なのだ、とやり取りをしているわけです。その議論を見ていて痛感するのは、外交ラインでは、東シナ海における問題を解決するという意志を全く持っていないのだということです。お互いの正当性を競っているだけで、国際的な「輿論」はそのようなことを気にしているわけではないのです。国際的な「輿論」が求めているのは、東シナ海で紛争が起こってしまうかもしれない、近隣諸国の対立がひょっとしたら世界的な火種になってしまうのではないか、ということなのです。私も驚いたのですが、ロンドンエコノミストなど欧米のメディアは、2014年の最大のイシューとして、東シナ海を挙げ、アジアの問題が世界の懸念になっていると報道していました。そのような状況の中では、どちらの国の主張が正しいとか、言い合っているという状況だけでは話にならなくて、この状況をどのように解決していくべきか、ということが問われているのです。
言論NPOが1月に行ったモーニングフォーラムのスピーカーとして、岸田外務大臣に来てもらうなど、いろいろな人たちと議論をしているのですが、今年は様々なメモリアルイヤーです。その中でも、第一次世界大戦が開戦したのが、1914年ですから、今年は100年という節目の年です。第一次世界大戦の勃発は、サラエボでボスニアの青年がオーストリアの皇太子を撃つという、たった一発の銃声から始まりました。そのような状況と、今の世界の状況に類似性があり、その火種は東アジアであると、主張が国際的な輿論の中に出てきています。それぐらい東シナ海の問題を多くの人は気にしているのです。
言論NPOは、「対話の力」で東アジアの課題解決をめざす
私も民間外交を昨年から、かなり本気でやっているのですが、今、日本と中国との間にはホットラインがありません。対立する中国と韓国の間にはホットラインがあるし、アメリカと中国の間にもあるわけです、政治的には。しかし、日中間には全く政治としてのコミュニケーションチャネルがない。この前も防衛省の人達と話をしていたら、今、日韓間でも将官クラスとは対話が出来ていないと言っていました。私も、尖閣諸島は日本の領土だという点は譲れませんが、いろいろなせめぎ合いがあり、お互いの意見が違う中で、誰もそれをまともに考え、解決に向けた動きをつくろうとしていないのです。そういう状況を、世界は注視しているわけです。
私はこれらの状況を考え、言論NPOは当事者として、1つの覚悟を固めました。少なくとも東シナ海での対立を対話の力でなんとかしよう、ということです。これは政府間外交が仮に機能しなくても、僕たち民間でやろうというのが僕たちの新年の決意なのです。ただ、私たちだけがやってもダメだと思っています。私たちがやっていることを、多くの人達に理解してもらわなくてはいけません。中国の行動で不可解な問題は確かにあります。韓国も多くの問題がある。ただ思案していても何も解決しないので、今のような厳しい環境をとにかく立て直そうという動きを、多くの人達も自分の問題として考えて欲しいと思います。
「当事者性」が政府や政治を動かしていく活力に
こういったことをベースに、日本の社会で課題解決に向けて様々な動きが始まると思います。それは、東アジアの問題だけにとどまりません。今、日本の未来は非常に危機的な状況にあると思います。例えば、財政破綻は本当に回避できるのか、また、お年寄りが増えて地方では本当に人口が減少して衰退しています。高齢化・人口減少という大きな流れが、日本の社会を大きく変えようとしている。そういった多くの問題について、国民に十分に説明されないまま動いています。また、こういった課題の解決のための設計図があるかと言うと、まだありません。たしかにこの状況の様々なジクソーパズルを解きほぐして答えを出して行くには、経済を回復して人々が元気にならなくてはいけない。多分、安倍政権はその点に集中しているのだと思います。一方でアジアに対して非常に大きな摩擦をつくり出す。しかし、将来に向けて本当に考えなくては行けないことが全く提起されていな点は、やはり不健全だと思っています。こういう状況が許されているということは民主主義の力が弱まっているのだとも思います。東アジアでの紛争を世界が気にしていて、危機感が強まっている時に、単に政府がどうだと言うだけではなく、自分たちで考えて乗り越えていこうとする大きな力が、逆に政府間外交をつくり出したり、将来に向けたいろいろな課題について、政府や政治に対して大きなプレッシャーを与えていくことになる。つまり、民主主義社会では自分たちが主役な社会だからこそ、課題を見つけ解決していくような動きをつくり出していくのは、実は当事者なのです。
民主主義を機能させるためにも「当事者性」が重要
言論NPOのやるべきことは、東アジアの問題に対してみんなが考える、という状況をつくり出すと同時に、この問題を何としてでも解決するという意志を持った行動をします。私たちの運動は絶えずいろんな人達にも公開し、伝えていきますので、ぜひ皆さんにも見て頂きたいと思います。そして、本当に課題解決に発展する為には、いろいろな人たちが、様々な場所で、日本の未来に向かって動き出すことがどうしても必要なのです。そういう風な議論を、その舞台づくりを、今年は何としてでも行いたいということを私は考えています。新年1回目のON THE WAYジャーナルでは、このことを皆さんに何としても伝えたいと思ったわけです。
私たちが言っている「当事者性」というのは、まさに民主主義の力そのものなのです。課題に向かい合うという、少しの勇気があると必ず社会を変えられるのです。私たちはまさに、未来に向かって動いていくような社会になっていけばいいと思っています。その動きは、誰かにお任せする社会ではなく、自分たちが当事者として参加する社会だと思います。皆さんも今年一年のことを考えて頂きたいし、言論NPOの活動に注目して頂きたいと思っております。
というところで今日は時間になりました。今回ご紹介したアンケート結果は、言論NPOホームページで公開しています。また、このアンケートを軸に言論NPOのアドバイザリーボードの元国連事務次長の明石康さん、大和総研理事長の武藤敏郎さん、元駐中国大使の宮本雄二さんの3人で行った議論もホームページで公開していますので是非そちらもご覧になって頂きたいと思います。
今年一年、日本の民主主義と未来の為に是非皆さん一緒に頑張りたいと思います。ということで今日は今年の決意を伝えさせて頂きました。どうもありがとうございました。
今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、2014年になって最初の放送。2014年は、様々な出来事が動くとみられ、工藤氏「市民・有権者も当事者性を意識しながら行動すべき」と考えている。そこで「当事者性」を中心に、2014年の「決意」について議論しました。