武藤 敏郎
(大和総研理事長)
民主主義を機能させるための「言論」の役割とは
転換点となる2014年
わが国は資産バブル崩壊以来、20年以上にわたって停滞し、ジャパン・パッシングと揶揄されてきたが、新年は日本再興に向けた転換点となるであろう。
この失われた20年の間に、わが国は多くの課題を解決できず、先送りを続けてきた。経済構造の革新、高齢社会に対応した社会経済システムの構築、財政再建と税制の改革、グローバル化への対応、アジアにおける外交政策と安全保障問題など課題は山積している。これらの問題を解決するためには、強力な政治のリーダーシップが必要であるが、それを支えるのは、国民の意思と行動であることはいうまでもない。改革に伴う痛みと負担を国民が進んで受け入れなければ、課題を解決することは困難である。しかし民主主義は、とかくポピュリズムに陥りやすいのが現実である。有権者のレベル以上の政治は期待できないのである。
昨年、消費税引き上げの決断、TPPへの参加、社会保障制度改革の道筋の提示など、少しずつ変化の兆しが現れている。国民が自らこれらの問題に取り組む主体性が、今ほど求められているときはない。
言論NPOへの期待
民主主義の基本は、言論であるといっても過言ではない。しかし新聞、テレビをはじめとする既存の言論を見ると、世論に迎合するような報道振り、客観的な事実と主観的な主張の不分明な混在、正論よりも異端の主張を面白いという理由で取り上げる風潮、批判とバッシングの区別が付きにくい報道など、残念ながら理想とはかけ離れているのが現実ではないか。民主主義が機能するためには、不偏不党で公正な言論、利害関係から独立した言論、国民を説得するだけの強靭さを持った言論が不可欠である。言論NPOが、このような言論を代表することを期待したい。それによって既存のメディアにもよい影響を与えることができるだろう。
なお、言論NPOが活動を続けるためには、人的、経済的基盤がしっかりしなければならない。各方面の理解と協力を得て、今年は言論NPOの体制強化を行うことが必要だと思う。