小倉 和夫
(国際交流基金顧問)
民主主義の矛盾(?)と言論NPO
世界中で、民主主義の逆説あるいは矛盾とでも言うべき現象が起こっている。
一方では、社会が「開放的」になって、遠い国からの移民や近隣の外国人の受け入れが進み、観光客も増え、経済も規制が少なくなり、貿易、投資が増え、政治面でも、情報公開などの透明性や、裁判員制度などに見られる市民の「監視」と参加が深まっている。
そして、今まで民主的選挙が定着していなかった国の多くでも、選挙が行われ、自由と民主、そしてそれに平行して市場原理が、世界を一つにしつつあるように見える。
けれども、その一方で、日本や西欧民主主義国において、移民や外国人滞在者に対するいやがらせや、「極右」政治勢力の台頭が目だってきている。米国でも、ティーパーティー勢力の影響もあって、政治における左右対立が先鋭化し、一時的にせよ政府機能が麻癖しかねない状況さえ生じたことは、記憶に新しい。また、ロシアにおける報道の自由の問題やウクライナのEU加盟への道の逆もどり、エジプトでのクーデターなみの政権交代、選挙自体が偽善だと主張するタイの反政府運動――そう数えていくと、民主主義の矛盾、危機、逆説という言葉がささやかれるのも、もっともに思える。
こうした矛盾ない逆説の背後には、グローバリゼーションと市場原理の浸透によって、社会的、経済的格差が生じているにもかかわらず、政党の機能低下、労働組合や農業団体の政治力の低下といった状況があり、さらにその裏には、個人主義の莫延と社会の微粒子化という状況があるように思われる。
そうだとすれば、そのギャップをうめる一つの方法は、いわば、草の根の「市民」が、「反対」や不満を叫ぶだけではなく、自らが直接「課題解決力」を持ち、積極的に社会的参画を実現することではなかろうか。
言論NPOの使命は、正に、そうした「市民」の自覚と課題解決力と実行力を高める触媒になることであり、そうした機能は、今やますます必要になっているのではなかろうか。