この国に、目に見える変化を作り出す―OWJの2年目の課題―

2011年10月17日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、番組が始まってから2年目に突入して、これから何を議論していくべきなのか?市民レベルでの議論の手がかりとは何か?市民は何をすべきか?を考えました。

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2011年10月5日に放送されたものです)ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。

この国に、目に見える変化を作り出す ―OWJの2年目の課題―

工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝さまざまなジャンルで活躍するパーソナリティーが、自分たちの視点で世の中を語るON THE WAYジャーナル。今日は「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。 さて、先日の収録の後なのですが、この番組を聞いているリスナーの人がツイッターでこんなことを書いていました。「ON THE WAYジャーナル、言論のNPOの工藤泰志さんの草の根的な議論活動、本当にためになります」と、こんなことをつぶやいているのを見てですね、僕も非常に嬉しく思いました。この番組を通じて1年間、私は色々なことを提案して議論してきたのですが、それが広がってきているのかな、という風な感じがしました。

この「言論のNPO」、今日から2年目に突入しました。先週はこの1年間を振り返ったのですが、今日は、この2年目の議論づくりをどのように行っていくか、ということについて、僕が色々考えていることを皆さんに伝えたいなと思っています。


「今、直面している課題について皆で一緒に考えてみよう」

谷内:おはようございます。ON THE WAYジャーナル「言論のNPO」のスタッフ、谷内です。早いもので番組2年目ですね。

工藤:そうですよね、52回ですよ。

谷内:あっという間だったような気もするのですが、その間に震災もあったり、色々なことがありました。

今日は「言論のNPO」の2年目の初回ということで、この番組での議論を今後、どのようにやっていくか、ということで進めていきたいと思いますが、本題に入る前にリスナーの方からメールをいただいているのでその一部を紹介したいと思います。ラジオネーム・エコライフ翁65別府亀川さん、60代の男性です。「日本の今の政治状況について色々な話がありましたが、1つだけ気になったのは、国民がもっと意見を主張すべきである、と工藤さんが言われていたことがありました。もっともなことですが、今の国民がもっと意見を言える場所、方法が実際にあるのでしょうか?」ということですが、どうでしょうか。

工藤:僕がこの1年間、ON THE WAYジャーナルでみなさんに伝えたかったことは、まず自分たちが、今、直面している課題について皆で一緒に考えてみよう、ということだったのですね。やはり、考えれば考えるほどなぜそれが解決できないのか、ということの原因やその他色々なことに気がついていくと思うのですね。僕は実を言うと、自分たちが考えないといけない、つまりそれは自分たちが発言するということと同じなのですが、考えるところから始めないと、この国が直面している色々な問題を、もう解決できないのではないか、そんなところまで来ているのではないか、ということを私はいつも考えています。そういうことで、私はみなさんにまず発言しよう、考えよう、ということを呼びかけている状況なわけです。

僕はこのON THE WAY ジャーナルだけではなく、十数年色々な議論作りをやってきました。その中で、政治家や官僚など、色々な人たちと議論してきたのですが、やはり考えることがあるのです。その人たちは色々なしがらみや利害関係の中で、その状況は変わらないという前提で議論しているわけです。だから、思い切った決断とか行動ができないわけです。震災の時にまさに命を助けなければいけないという動きがあっても、テレビを見ると政治はずっと議論しているじゃないですか。結局ズルズルと遅れていって、気がついたら党内対立とか、政治的な対立になって、権力争いになっていく。つまり、自分たちのゲームをしているだけだという状況がはっきり見えてきた。

この状況は僕が十何年やってきて、同じ状況をいつも痛感していたのですが、この局面でもまだこんなことをしているのか、ということを考える非常に大きな機会を得たな、という風に思っているわけです。

では、これをどうすればいいのだろうか、ということを次に僕たちは考えないといけない。その時に、まず考えて議論するところから始まるのですが、議論すればするほど議論の限界が見えてくるわけです。

谷内:議論だけじゃ駄目だ、ということですか。


当事者意識を持ち議論することはスタートに過ぎない

工藤:そうです。つまり、議論のために議論をしているというのではもうダメだと。別に議論を趣味でやっているわけではないので、何かを解決するために議論というものがなければいけないだろうと思います。つまり、議論をすることによって自分は何ができるのだろうかと考える。この問題をこんな風に解決している人たちもいるのかとか、何かその人たちをヒントにして自分でもできないだろうか、とつながっていく。そういう風な動きが始まっていかないと、この議論の意味がないと思っています。

だから、さっきのリスナーさんの話なのですが、私はまず考えて現状を知る。その中で自分も発言するところから始めようと。しかし、それはゴールではなく、スタートだと。そこで僕が特に言いたいのは当事者の意識を持って欲しいということなのです。この点について、どれだけの人が気付くかで、多分この国の未来が決まってしまう、それくらいの局面に来ているのではないか、ということなのです。

そういう視点で注意深く見てみると、日本の社会では色々な変化が起こっています。この1年間、私は多くのゲストを呼んでその変化をみなさんに伝え続けようと思ったわけです。例えば、お医者さんたちが自分たちのネットワークを通じて、多くの被災地の人たちを救済した。そのドラマを続ける時に壁になったのが政府とか行政だった。そのドラマをつくり、頑張っている人たちが自分の言葉で語り始めたわけです。

僕がこの前驚いたことは、被災地の問題について被災地のある市長さんが言っていました。被災地の問題というのは自分たちが主役にならないといけない。しかし、今まで行われきた地方分権の議論は、実を言うと被災地とか地元が自立する動きとは違うのではないか。単なる中央の政府の解体というか、政府は駄目だ、と言っているだけなのではないかと。

でも、地元が自立するためにどうするのかということについて、今、被災地の人たちが自分で気づき始めているわけなのです。多分、これは財源だけの問題ではなくて、自分たちが主役として行動しなければいけない。元総務大臣の増田さんがこの前ゲストで来た時も同じ議論になりました。彼は国会が独占している立法の機能を、地方に分権することが大事なのではないかと言っていました。つまり、自分たちが自分たちで意思決定するためには条例でもいいのですが、何かを決定する仕組みがないといけない。しかし、日本の政治ではそんなこと誰も議論していない、ということを彼は言っていました。

その時、私も思ったのですが、本当に地方分権を考えるのであれば、国会議員を半分ぐらいにしてもいいのではないか。だって、地域で自分たちの意思決定ができるのであれば、国会に480人も議員はいらないですよね。でも、そういう議論が起こらないのはなぜなのか。

これは原発も同じで、国で決めた様々な問題、そこには色々な利害関係が、非常に複合的に定着してしまったわけです。だから、それらはタブー視されて議論することもなかった。しかし、ここまで大きな被害が出てしまった時に、この原発という問題、しかもそれを支えていた経産省、安全委員会、電力会社など、色々な構造に対して、何なのだろうということを生活レベルで皆考え始めてきている。つまり、課題を発見して、見るということは、実を言うとそういうことに気づき始めることなのです。だから、その議論、発言することによって色々な問題が明らかになり始めた時に、後はそれを解決するしかないだろうと。議論は次のステージにいくしかないのだろう、と私は思うのですね。

谷内:工藤さんは外交の問題でも、中国との議論の場を民間で作っていますけど、それもそういうような思いからなのですか。


誰が、この状況を解決できるのか

工藤:そうですね。この前もここで議論したのですが、その後テレビを見て、びっくりしたことがありました。野田さんが国連に行って一連の外交をやりましたと言って、国連で演説している様子がテレビで報道されていましたけど、世界の大使がどんどん退席して、会議室からどんどん帰っていって、人がいなくなっていく中で、1人で...まだ何人かはいたけど、原稿をずっと読み続けている総理の姿。これは何だろうと。つまり、そういうところでも頑張ったという評価もあり得るけど、逆に言えば世界の中で日本がここまで孤立しているのではないかと。

僕は別に中国の専門家ではないのだけど、中国も実を言うと同じで、7年前に反日デモがあって凄く大変だった時に、政府関係の外交がほとんど停止して、ナショナリズムが高まって国民の感情が爆発寸前になってしまった。

その時、誰がこの状況を打開できるのだろうか、と本当に切羽詰った危機感がありました。僕は別に中国のことを、単純に好きとかそういう話ではなくて、ちょっと違う国だしどうしようか、と思ったのですが、それでも自分たちがやらないといけないのではないか、と思ったのです。同じ局面が今の日本にもあるのだと僕は思っています。つまり、色々なものが何か動かなくなってしまった。だけど、それを黙って見ているだけでは、僕たちにはもう未来がない、という状況にあるのではないか。だからこそ、それを知るという議論の力がすごく大事なのです。

谷内:具体的に、その状況というのをどう変えていけばいいのでしょうか。


世界でも基本的なところで変化が始まった

工藤:色々な課題を知るというプロセスから、今度は自分たちが何かできないか、という動きが始まっていかないといけないと思うのですね。昔、東大総長だった佐々木毅さんにスタジオに来てもらって議論したのですが、民主主義というのは、ただ代表を出すだけでは駄目なのですね。代表を出すのだけど、その代表に対して「いい加減なことをしたら許さないぞ」みたいな緊張感を与えなければいけない。でも、それだけでは駄目で、その代表がちゃんと機能しなければ駄目なわけです。佐々木さんも言っていましたけど、民主主義というのは僕たちが参加する、僕たちが主役になる仕組みなわけです。だとすると、政治に対して緊張感を作り出すことは大事なのだけど、それだけではなくて、自分たちが何かをするという仕組みが大事なような気がしているわけです。だから例えば、自分たちが何かを解決していく。つまり、自分たちが単に政治にお任せしているわけではなくて、自分たちも何か実効策を考えて、それを実現するために、政治に問うていく。つまり、民主主義は2つのチャネルが色々な形で動き始めていくという仕組みに来ているのではないか。この間、世界を見渡しても、リビアやエジプトもそうだし、中東でもツイッターやソーシャルメディアを使って、みんなが行動し始めたじゃないですか。

この前、北京で開催した「北京-東京フォーラム」のメディア対話でびっくりしたことがありました。日中の両国のジャーナリスト同士が議論するのですが、今までは日本と中国のメディアがお互いに言い合うだけでした。つまり、日本のメディアは中国メディアに対して、「あんたたちは自由に発言できる国ではないから報道が規制されているじゃないか」と言うわけです。一方、中国メディアは「確かに私たちには色々な規制はあるけども、しかし、あなたたちの国は自由だと言いながら、何でどの新聞も一面トップは同じなのだ。あなたたちは自由じゃないではないか」と。いつもそういう喧嘩になって、会場から一般の市民がそれを仲裁したり、そういう感じだったのですが、今回は違ったのですね。今回は被災地、つまり日本の原発問題の中で日本のジャーナリズムが、やはり政府の報道を流すだけでは駄目だったと、自己批判みたいなことをしていました。

つまり、市民を守るために、本当に大変だった被災地の状況を、もっと自分たちの判断で伝えなければいけない。一方の中国も、今もまさに続いている問題ですが、新幹線の問題で中国の政府に対して中国メディアがすごく詰め寄っている姿。僕は、これまで中国と7年間対話をしていますけど、そういう光景は見たことないのですよ。それが今回の対話でも話題になりました。そうしたら、日本と中国のジャーナリストの間で、メディアの立ち位置は「市民の安全」とか、そういうことを考えることにあるのではないかということで意見が一致したりしているのですよ。

谷内:ベーシックなところで何かが変わっている。


2年目は日本が直面する課題を解決するための議論を行いたい

工藤:そう。これも凄く大きな変化だと思うのですね。やはり、何かが変わり始めているのです。その変わり始めている共通の問題は一般の人たちなのです。一般の人たちが、直面している課題に対して抗議したり発言したり、どういう風に変えていったらいいかというところからスタートしているのだと思うのですね。だから、今、僕が非常に大事だと思っているのは、冒頭で紹介したツイッターでの言葉が嬉しかったのですが、草の根の動きの中で様々な課題解決のための議論を作り出していく、ということをやらないといけない。そして、その方向に色々な専門家、メディアもその立ち位置に立って、その大きな動きとつながっていかないと日本が変わらないような気がするのですね。
僕はそういう風な草の根の動きと学識経験者や専門家とかがつながっていくような仕組み、そういう議論のプラットフォームをこれからどんどん作っていって、その議論の中から課題を解決して政治を動かしていくような、そういう流れが世界でも起こっていますけども、日本でも起こっていかないといけないくらいの、危機が来ているのではないかと思っています。

1年目のON THE WAY ジャーナルでは、日本の課題を知るための手がかりをみんなと一緒に考えました。2年目は、日本が直面する課題を解決するための手がかりをみなさんと一緒に議論してみたいと思っています。

谷内:そんな中で、このON THE WAYジャーナルも2年目になりましたけども、言論NPOさんも今年の11月で10周年になると聞いたのですが、これからどういう風に考えていこうと思っているのでしょうか。


新しい強い民主主義を目指したい

工藤:僕は言論NPOを設立したとき、10年も持たないと思っていました。しかも、すごく大変な議論作りなのですね。だけど、そうは思いながらも、気がついたら10年経ったのですね。ただ、この10年は次のための準備期間だったと、今では思っています。さっき言ったON THE WAYジャーナルの話ともつながるのですが、やはり課題を解決するための議論作り、課題を知るだけではなく、それを変えるための議論作りのプラットフォームを言論NPOはまず作り上げたいと思っています。ただ、そのためには色々なテーマにそったラウンドテーブル。つまり、課題を解決するための議論をするため、専門家たちを集めたラウンドテーブルを作ります。民主主義を立て直し、強くするためとか、外交とか被災地のことなど、色々なことを考えるための議論を、目に見える形で次々に行っていきます。

一方で、一般の人たち、草の根の動きと専門家の議論をつなぎたいのですね。例えば、僕たちのラウンドテーブルに一般の市民とか主婦に入ってもらったり、地域で色々な課題に対して実際に動いている人たちとつながっていく。僕も被災地に行ってきたのでわかるのですが、被災地の復興となると、土地問題をどうするのか、法律をどうするのかとか、様々な問題がだんだん制度問題などに変わっていくのですね。もちろん、それだけではありません。本当の意味で、地域が元気になるとか、さっき言った野田さんの演説のような感じではなく、日本が国際社会の中で存在感を回復するためには色々な動きとつながらないといけないと思うのですね。多くの人が、こうしてられない、ということで動き始めた。言論NPOはその人たちとつながっていく仕組みを作らなければいけない、と思っているわけです。

僕は、日本の課題解決という点で言えば、高齢化社会が進み、財政も非常に厳しい。この番組で何回も言いましたけど、本当に時間との戦いだと思っているのですね。しかし、この国が駄目になってしまうということは、何が何でも絶対に阻止したいのですね。ただ、僕たちが何となく専門家と真面目な議論だけをするのではなくて、みんながそれに気づいて自分たちの手で未来を切り開いていく。それは国という大きな単位ではなくて、自分が住んでいる地域や職場、色々な形でいいのですが、そういう風な大きな流れが始まっていかないと多分変わらないと思うし、それこそが新しい民主主義、しかも強い民主主義を作るということだと私は思っているわけです。

なので、私はON THE WAY ジャーナルの2年目、その議論作りをこの場でやりたいし、私たち言論NPOの議論とそれをいかに連動させるのか、ということを考えたいと思っておるところです。

ということで、時間になってしまいました。私はこれから色々な議論をしていきたいし、色々な地域を回ってみなさんと対話をしたいし、色々なことを考えています。日本を元気にするための、それから未来を作るための議論をみなさんと色々な形でやっていきたいと思っています。みなさんもご意見があれば寄せてほしいと思っています。

今日は、ありがとうございました。

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、番組が始まってから2年目に突入して、これから何を議論していくべきなのか?市民レベルでの議論の手がかりとは何か?市民は何をすべきか?を考えました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2011年10月5日に放送されたものです)ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。