昭和49年一橋大学経済学部卒業。同年日本興業銀行(現みずほコーポレート銀行)入行。ニューヨーク、ロンドン勤務を経て、平成16年常務執行役員就任。シンジケーションユニット・グローバル投資銀行ユニットを統括し、経営会議メンバー、コンプライアンスグループ統括役員も務める。平成19年KKRジャパン入社。現在、同社代表取締役社長。
50数年ぶりの本格的な政権交代で盛り上がった変化の潮流は急速に萎みつつあるようだ。内閣支持率がかくも短期間(実質6カ月)で大幅に低下したのは大変な驚きである。これは何も日本だけの現象ではない。米国でもあれほど人々が熱狂したオバマ政権の人気にも急速に陰りがみえている。しかし、変化の可能性を秘めているかもしれない新政権をこういとも簡単に見限ってしまっていいのだろうか。日本について言えば、50年続いた自民党政権が残した負の遺産をわずか6カ月で新政権が解決してくれると期待する方がおかしい。もう少し忍耐をもって見守ってみても良いのではないだろうか。
確かに今の日本には元気がない。仕事柄(グローバルな投資会社)ほぼ毎日、アジアや欧米との接点を持っているが、どうも日本は(やや欧州もこちらに近いが)グローバルの潮流から蚊帳の外におかれてしまっている感じが強い。しかし客観的に見れば、日本は今現在でも強大な国である。世界第二位のGDPというホームマーケットを持ち、1500兆円ともいわれる個人資産を誇る。加えて、多くの世界最先端技術を持ち、国民の教育水準は高く、労働力の質も高い。しかしこの国の人々は自らに極めて悲観的である。それは、過去20年間にわたりGDP名目成長率ゼロの状況が続き、国民の生活水準が一貫して低下の一途を辿っているからだろうか。はたまたメディアの悲観論のせいだろうか。今や国民も企業も引きこもり症候群になっていて、国内に留まることで何とか生き延びようと身を縮めているようにみえる。しかし、これは外からは非常に不可解に映っている。なぜ日本企業は円高を背景に海外企業を買おうとしないのか、日本も中国の様に海外に押し寄せてもよいはずなのに、来ないのはなぜだろうかと思う。そして押し寄せて来ないと見るや、今度は逆に彼らは舐めてかかってくる。グローバルな競争社会では、闘争心の無い奴は無視されるのである。ジャパンパッシングとはこういう舐められた状況なのである。日本に足りないものは何か、それは前向きな闘争心ではないだろうか。先日、わが社のかつての投資先の英国企業を立派に立て直したCEOの話を聞く機会があった。彼は、200年の歴史ある企業だが衰退して業績の悪化した企業を僅か数年で立て直し、企業価値を10倍にしたのだ。その人が、成功の鍵はチームワーク(職場の一体感)や情報共有と言った上で、実は最も重要なのは経営者のパッション=情熱だと力説した。会社を大きくするぞ、企業価値を上げるぞという熱い気持ちなのだと。彼の話を聞いていて、日本企業にもチームワークや情報共有の精神はあるが、一つひょっとして欠けているとしたらそれはこのパッションではないかと思い当った。日本が競争に勝つ全ての要素を備えているにもかかわらず、国内に引き籠っている状況であるとすれば、それを打破するための答えはこの英国の社長が言うようにパッションにあるのかもしれない。かつて我々は経済一流、政治二流で結構、この国は経済人が引っ張っていると豪語したものである。政治がどうであれ、企業がグローバリゼーションの先頭に立って国を引っ張れば、政治は後から付いてくる。このくらいの気概をもってリスクをとって世界の競争に参戦すれば、この国の閉塞感も解消できるはずなのだ。経済の先行きが全く不透明であった昨年と違い、今年は先行き数年の見通しも立ちつつある。そうした中で、世界に打って出ようとする日本企業も徐々に増えている。戦い始めれば結構頑張るのがこの国の国民性だとすれば、これから1-2年が勝負ではないだろうか。日本の企業の経営者の方々には是非とも先頭に立って、先に述べたパッションを見せていただき、大いに企業を発展させていただきたい。戦いの担い手は企業主体であり、政府や官僚はその脇役に過ぎないのであれば、現政権へのもっとも強いメッセージは、自ら戦う姿勢を見せることに尽きるのではないだろうか。
50数年ぶりの本格的な政権交代で盛り上がった変化の潮流は急速に萎みつつあるようだ。内閣支持率がかくも短期間(実質6カ月)で大幅に低下したのは大変な驚きである。これは何も日本だけの現象ではない。米国でもあれほど人々が熱狂したオバマ政権の人気にも急速に陰りがみえている。しかし、変化の可能性を秘めているかもしれない新政権をこういとも簡単に見限ってしまっていいのだろうか。