震災から半年、被災地に問われた課題は何か

2011年9月14日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、スタジオに元岩手県知事の増田寛也氏をお迎えして、被災地の現在の状況や今後の課題とは何なのかを、現地で行なったインタビューなどを交え議論しました。

ゲスト:増田寛也氏(株式会社野村総合研究所顧問・元岩手県知事)

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2011年9月14日に放送されたものです)ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。

震災から半年、被災地に問われた課題は何か

工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る「ON THE WAY ジャーナル」。毎週水曜日は「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。

早いもので、あの東日本の大震災が起こってから、半年が立ちました。被災地では避難所から仮設住宅に移り、これまでかなり遅れていた瓦礫の処理も動いているようです。僕も8月の始めに、釜石や大槌町、遠野など被災地に行って、色々な人の話を聞いてきましたが、廃墟などがまだ残っていました。生活再建という点では全く展望が見えない地域も多く、多くの人が不安を抱えているように感じました。
そこで、今日のON THE WAY ジャーナル、「言論のNPO」では、「震災から半年、被災地に問われた課題は何か」について今日は考えてみたいと思います。

今日は、被災地の状況に詳しく、東北の復興に強い気持ちを持っていらっしゃる言論NPOのアドバイザリーボードのお1人で、総務大臣や岩手県知事も務めた、今は野村総研顧問の増田寛也さんに、スタジオに来ていただいています。増田さんよろしくお願いします。

増田:よろしくお願いします。

工藤:さっそくですが、半年後の被災地の状況を、増田さんはどうご覧になっていますか。

増田:確かに動きがないですね。本来なら、被災者の皆さんが気持ちを落ち着けてどこに住むのか、どういう仕事をこれからどこでやっていこうかを考えていい時期なのですが、まだそういう状況になっていません。

工藤:復興というのは,被災地の人たちの生活の目処が付くところまでいかないと駄目だと思いますが、確かに展望は見出せていない局面ですね。さて、どこにその原因があるのでしょうか。


半年経っても復興予算の内容も見えない

増田:岩手県ではやっと避難所が全部解消されて、仮設住宅なり自前で手当てするなり、皆さんどこかしらに、やっと8月末に落ち着かれました。だけど、本来、それは4月末ぐらいで終わっていなければならない作業だったと思います。そうやって気持ちを落ち着けていかないと、将来の仕事をどうするかということに繋がらないのですが、私はその段階までは国や県が相当支援をしないとそういう状況にならないと思います。国なり県なりの役割がやはり不十分であり疎かであると思います。特に、国の第三次補正予算が民主党の代表交代等の影響で、聞くところによると10月末とか言っていますが、信じられないぐらい遅れている、というのが今の一番の大きな原因ではないかと思います。

最後まで国頼みでは駄目だと思います。今度は自分たちでやっていかなければいけないという切り替えがあるのですが、そこの切り替えのポイントが非常に遅れてきているということだと思います。

工藤:今、お話しにも出た第三次補正のことなのですが、私も被災地で言われたのですが、予算がつかないのでどうすればいいのかわからないという人がいました。お金が流れないから止まってしまっているという状況なのでしょうか。

増田:一次補正の瓦礫の処理のお金ですら地元にあまりお金が流れていない状況です。三次補正の中には、例えば、堤防の高さをどこまでにしようかということを決めるような予算なども含まれるはずなのですが、そこが決まらないと、今までの場所が危ないからそこを移らないといけないだとか、ある程度今までの場所に暮らして、避難路だけはきちんと整備しておこうとか、そのあたりの見極めや目測ができないのですよね。だから、三次補正予算というのは、気持ちを落ち着かせて、自分たちで将来のことを考えていこうという方向に転換させる意味では、非常に重要な予算です。それが半年経ってもまだ中身すらわからないというのは、日本は文明国家とは言えないのではないかと思います。


5月の連休以降の遅れは明らかに人災

工藤:僕も青森出身で、増田さんも岩手県知事を務められているのでわかると思いますが、9月になると、冬の気配が感じられます。

増田:9月下旬になると、朝晩ぐっと冷え込み、10℃以下になります。ですから、一刻一秒を争う状況だと思います。今回は天災であり、自然災害でしたが、5月の連休明けごろから、人災の要素が非常に濃くなってきたと思います。

工藤:さて、先月8月の中旬になりますが、私も被災地の現状を知るために、釜石市や、大槌町,遠野などを見て回ってきました。まだ廃墟というか、壊れたままの建物がたくさんありますよね。

増田:市町村ごとの差が大きいですよね。大槌町は今回の被災地の中で一番遅れているのではないでしょうか。町長さんも亡くなりましたよね。

工藤:この前、町長さんもようやく決まりましたよね。私、行ったら役場正面の掲げられた時計が止まっていましたよね。

増田:そのままでね。

工藤:非常に痛ましい状況になっていました。釜石では、大きな船が岸壁に乗り上げていて、びっくりしました。そのような中でも、全国から届いている支援の受け皿としてがんばっているNPOや行政の人たちにインタビューをしてきました。その話の中に、半年で浮かび上がった被災地の課題があるように思いました。今日は時間の関係でそのすべてを紹介できないし、まだまだ私も被災地に行って,多くの人の話を伺いたいと思っているのですが、その中で何点か気になることがありましたので、そのインタビューした内容を聞いていただいて、増田さんと話を進めたいと思います。

今日は2人の発言を紹介します。1人は岩手県のボランティアの受入れ団体の代表の方、それから、もう1人は福島県の相馬市長の立谷市長です。


ボランティアの受け入れ団体の話

-必要な仮設はほぼできているのでしょうか。

団体:ほぼできました。仮設に入ってからの問題なので、モノで繋がり、あるいはヒトで繋がっていく。私たちが提起したコミュニティ単位で仮設に入れてくれと。例えば、抽選は一世帯単位ではなく、自治会単位で調整をしてくれと主張したのですが、それもなかなか聞き入れられなかったですね。それから、必ず集会所を作ってくれということも、聞き入れられませんでした。これがこれからの課題になるかと思います。

例えば仮設に入った途端に災害救助法の適用をやめると。したがって、行政は物資の供給、食料の供給をやめるということです。それが止まったらどうするのかといったら、それは行政の手法でいえば、生活保護ですよね。それでやりきれるかどうかというのが、我々の疑問なのです。私たちとしては、必要な人に必要なものを必要な時にお配りするというのは、おそらくこれから5年ぐらい続くのだと思います。

言われる通り、復興が我々の思いですからね。あまりにも過度にものをやり過ぎるというのはまずいという思いはあります。今そのような風潮が出ていますよね。タダであったらなんぼでももらえるという。いわゆる買うという風習がないのです。


-こちらでも自殺者がいますか。

団体:いや、もう前からあります。


-集会施設の要望が聞き入れられなかったという話ですが。

団体:それはだから、今の政治の過渡期で、自治体、地方分権、地方主権みたいなものがどんどん進んできていますよね。国は「どうぞお作りください」と言ってくれているのですよ。5軒でも10軒でも作っていいと言っているのです。ところが、受けた側の県や市町村がそれをやらないということなのです。基準があって、50戸の仮設に1軒という基準がとりあえずあり、必死にそれを守ろうとするわけですよ。だから、50戸にならないように48戸で止めるわけですよ。そんなことまでやっているのです。国は「自治体で決めてください。自治体どうぞ。自治体が本来決めるべきだ」と言っているのですが、その自治体が決められないという状況なのです。今の自治体は、人間が好きにやれと言われたときに、何もできないというような現象ですよ。だって民主主義そのものが日本に定着していないから、その中で起こった国と自治体の関係の悲劇だと思います。


福島県相馬市の立谷市長の発言

立谷:僕は被災地のまっただ中にいますから、日本のためにこの際、地方分権とか何とかというほど余裕はありません。そのことをひとつ理解していただきたい。ただ、我々は地方政府です。ですから、地方分権とか何とかという意味ではなくて、これは地方政府として、そういう気持ちを持ってやっていかないと駄目です。というのは、孤立している方がいる。その方々を避難所に入れて、避難所をどうやってマネジメントしていくかというようなことは、もう全部我々がやらないといけないのです。国が何かやってくれるとか、県が何かやってくれるとか、待っていられません。ですから、我々の責任でやらなくてはいけない。

工藤:この前国会で市長の発言を見ていたら、地方分権の議論で、国の出先機関を廃止しろという議論があるのだけれど、今回の震災ではそれが役に立ったと。だから、今までの設計の建て方をもう一回考えた方が良いのではないかという話がありました。

立谷:あれは中央政府廃止論でしかないのです。中央政府の縮小論でしかないのです。非常に無責任です。今回道路がいかに大事かということについて、みなさんよく分かったと思いますけど、道路が無かったらみんな死んでいましたから。

工藤:津波も止めましたよね。

立谷:そうです。津波を止めるのと、「くしの歯」作戦というのがなかったら東京に医薬品を取りに行けませんでした。ですから、道路がいかに大事かというのは皆さんよく分かったと思うのですけど、この道路整備は国交相の東北地方整備局というのがやるのですが、こういう所は無駄だから、地方に任せろと。その地方はどこだと思います。

工藤:県ですね。

立谷:そうです。ただ、はっきり言いますけど、県にそんな能力はありません。今回よく分かりました。県にそんな能力ないですよ。そうやって地方分権だ、地域主権だという方向にいこうと思ったら、大きな間違いです。やはり国のやること、それから我々のような基礎自治体がやることをちゃんと明確にしなくてはいけない。その中間にある県がどういう役割を果たすのかということも明確でなくてはいけない。そこで、県に国の出先を全部押しつけたら、これは機能しません。

相馬市はある程度落ち着いてはいます。一応、これからのビジョンを持っているのですが、このビジョンが実現するかどうかというのは、国の対応待ちなのです。恐らく他の被災地も、みんな同様のテーマを持ってくるようになると思います。相馬は仮設住宅が早くできたりした分だけ、先を見ようとするところがあります。例えば被災地を公用地化して、どういうように利用するのか。ソーラーパネルをしきたいと思っています。だけど、今は個人のものなのです。被災地の買い取りをやって、公用地として使わないと、次にいけないですよ。その枠組みというか、その方程式は未だできていない。それはいずれつくらざるを得ないでしょう。ですから、もうちょっと他の所も備わってきたら、よその市町村にも声をかけて、連携してやりたいと思っています。


工藤:こうした被災地の声は、まだまだ紹介したいものがいろいろあるのですが、被災現場では土地の問題がよく聞かれました。土地をどうするのか、その判断が決まらない限り、先に進めないという問題が出ていたました。

それから、被災地の自立に向けた様々な議論が、色々な形で被災地の現場からも出ていました。今紹介した中でも、被災地の自治体が自己決定する場としてなかなか機能せず、指示待ちになっている。一方で、被災地の基礎自治体が中心的に動いているのですが、県との関係でかなりの不満が出たり、不信感があるというようなことも話の中で出てきました。これらは、非常に大きな課題として出ていているものなのですが、こうした点をどう考えればいいでしょうか。


いまはまだ非常時モード、県は後方支援に

増田:3月11日で完全に非常時モードに切り替わらないといけないわけですよね。平常時から完全に非常時になる。言葉を換えれば戦争状態ですから、そのときに国も県も市町村もその違いは基本的には無くなっていると。住民の命を守るために、身近なところに市町村があり、この人たちが「こうやれば住民の命が守れる」ということだったら、それは財源の心配をせずにどんどんやれるようにしていかなければいけません。後、とにかくこのような非常時の時には、国の役割は非常に大きいわけです。災害の時の復旧・復興というのは、国がまず災害の色々な補助金を持ってやるわけですから、そこが最大限動くようにしていかないといけません。県は市町村で足りないところを広域的に見て国に繋ぐとか、邪魔しないように後方支援に徹しないといけないのですが、このような非常時モードになるというのは、今まで日本ではあまり経験がないので、必ずいつもギクシャクします。国はこのような非常時モードの時に、国の役割が大きいからということで、平常時のときにも国の縄張りを伸ばそうとします。こういった非常時なのか平常時なのかというスイッチの切り替えだとか、今どちらにいるのかとか、そのあたりを皆で考える必要があると思います。

工藤:土地の問題なのですが、これはどのように考えればいいのでしょうか。この被災された土地の処分の方向が決まらないから、前に動けない、という話を私も被災地で何度か聞いたことがあるのですが。土地は公共の福祉の立場から国が方針を確定させることが先決

増田:日本でこのような災害とは違うのですが、公共の福祉で必要な場合には、土地を買い上げるという議論が必ず出てきます。だけど、財政上の問題があって、国は必ずやらないので、財源はいろいろ手当てして、自治体が土地を借りるということはあります。小笠原が日本に戻ってきたときに、旧島民の所有権はあるのですが、非常に優れた自然があるので、そこを東京都が借りて、良好な自然を残して、今回、ユネスコの世界自然遺産に登録されました。日本の場合、世界的に見ても個人の所有権は非常に強く保障されています。しかし、憲法を見ると、公共の福祉に合う場合には、正当な補償をお支払いして財産権を制限できるとなっています。公共の福祉が今まできちんと議論されてこなかったのですが、そのような公共の福祉に適うときには、買い上げも究極な手段です。あるいは、長期の特別な賃借権を設定して、思い切って公的なところが公共の用に供する。それらについて、もう一歩ここで前に乗り出すべきではないかと私は思います。

工藤:それは国が決めることなのですか。

増田:国が法律で決める話です。憲法には書いてあるのですが、国の法体系はそうなっていないので、やはりそれは国が決めることです。あと運用は、国と自治体が相談してやることになります。被災地は防災上の観点から公共の福祉による制限についての理由があるから、非常に国民の理解は得やすいと思います。それを町づくり全般に広げればいいと思います。何も中国のように、三峡ダムのときに100万人を立ち退かせたとか、新幹線の線路を敷設するために皆どけどけとやるとか、あそこまでの国になる必要はないと思います。しかし、もっと公的な必要性が高い時には、一定の土地の所有権の制限も受けるということは、これからの日本は人口減少時代が続きますから、前に進めていくべきではないかと思います。私は、今回の震災で土地問題が非常に大きいというのはそこを言っているのです。

工藤:さっきも話に出ましたが、東北ではまもなく冬が訪れ始めます。日本では野田新政権ができましたが、とにかく止まっている状況をとにかく動かさないとならない。新政権はこの被災地の復興で何をこれからすべきだとお考えですか。


新政権がまずやることは、三次補正を決定させる、こと

増田:三次補正ですね。三次補正はいろいろ与野党議論になって、復興増税の問題もすぐ出てきますから、政権が躓く可能性があります。だけど、予算は早く作ってほしいですね。

工藤:なるほど。先ほどの土地の問題も含めて、被災地が受けるような体制を整え、実際に動かさないといけませんよね。

増田:そうですね。


工藤:ということで、時間になりました。今日は増田さんに来ていただきました。冒頭で増田さんもおっしゃっていましたが、半年経ってもこの状況だというのは、人災だとおっしゃっていました。

増田:まあ人災じゃないですか。
工藤:これは厳しいですね。
増田:連休明けから人災だと思いますよ。

工藤:これを何とかしなければいけないことを私たちも痛感しました。今日は、「震災から半年、被災地に問われた課題は何か」について、野村総研顧問で、総務大臣や岩手県知事も務めた増田寛也さんをお迎えし、被災地の人の声を交えながら一緒に考えてみました。復興とは被災地の人の生活に目処が付くことであり、そのための作業を急ピッチで動かさないといけないことを痛感しました。増田さん、どうもありがとうございました。

増田:ありがとうございました。


今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、スタジオに元岩手県知事の増田寛也氏をお迎えして、被災地の現在の状況や今後の課題とは何なのかを、現地で行なったインタビューなどを交え議論しました。
ゲスト:増田寛也氏(株式会社野村総合研究所顧問・元岩手県知事)