今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、2012年12月末に行われた衆議院議員選挙の結果を受けて、今後、有権者である我々は何に視点を置いて考えるべきなのかを議論しました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年1月2日に放送)
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選挙を受けて私たち有権者は何を考えればいいのか
おはようございます。また、新年明けましておめでとうございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝様々なジャンルで活躍するパーソナリティが自分たちの視点で世の中を語るON THE WAY ジャーナル、今日は「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。
大きな変化となった選挙結果
さて、改めて新年あけましておめでとうございます。とは言うものの、今日の放送は去年の12月20日に収録したものです。ですので、正月を想定して今日はいろいろと皆さんにお話ししたいと思います。今、私の関心事は総選挙の結果です。言論NPOはこの総選挙のためにスタッフ全員で取り組み、皆、風邪を引いて倒れている状況です。それでも今回の選挙は、非常に大きな意味を持つものだと思っていましたので、やれることは全てやりきりました。ただ、選挙結果が私たちの考える以上に大きな変化になったので、この状況をどう考えていけばよいのかをまずお話しして、新年の課題に話を移していきます。
ということで、ON THE WAY ジャーナル「言論のNPO」、今日のテーマは「選挙を受けて私たち有権者は何を考えればいいのか」ということです。
先ほども言いましたが、このように選挙のたびにダイナミックに変わってしまうのは小選挙区制度の問題点かもしれません。投票数から見ると自民党が大勝しているわけではありませんが、やはりそのようになる選挙制度は怖いと思いました。ただ、今回の選挙結果は色んな意味を私たちに提起しています。
今回、有権者の私たちは、結果として自民党政治を選んだ格好となりましたが、それは消極的な支持であり、民主党という政党を拒否したというのがこの前の選挙結果でした。ただ、ちょっと気になったことがあります。僕も投票所で行列になって並んでいましたが、今回は非常に冷めたような感じで、投票率は戦後最低でしたね。ひょっとしたら、投票所まで行っても、小選挙区制と比例でどこに投票すればいいか、どうしたらいいかわからない。はっきりしているのは民主党という政党は駄目だけど、どうしたらいいのか分からない、という悩みがあった選挙だったのではないかと思っています。それも軽視できない結果です。
では、民主党の何が駄目だったのか、これが意外に重要なことだと思います。選挙に際し、言論NPOは政策評価を行い、民主党政権の実績評価を出しました。これが非常に悪い点数で、5点満点で2.2点でした。それから各12党の公約を、本当に国民に向かい合おうとする姿勢が各政党にあるのか、という視点でマニフェストの基礎評価を行い、その中で選ばれた5党を対象に、11の政策分野にわたり詳細な評価を行いました。評価の詳細についてはホームページで公開していますので、関心のある方は改めて見ていただきたいと思っています。しかし、それだけでもまだ足りないと思って、ラスト1週間はスタッフ全員で候補者の事務所に電話をして、候補者アンケートを行いました。そのアンケートでは、候補者1504人中、半数以上の789人が回答し、その結果も公表しました。そうすると候補者が何を考えているのかが見えてきました。スタッフから見ると、自民党の事務所の応対が悪いので自民党が嫌いになったという人もいましたが、結局、自民党が勝ちました。
評価活動を通して見えてきた2つの手がかり
これをつなぎ合わせてみると、何か、手がかりが見えてきた感じがします。私たちは2005年から、有権者主体の民主主義を作りたい、有権者が主役の社会にしたいという思いから、こうした評価活動を行っています。この長い間に2つ気づいたことがあります。それが今回の結果に表れています。1つは日本の政党は日本の直面する課題から絶対に逃げられないということです。どんなに政党が、私は改革者だと言っても本当に日本が困っていること、例えば社会保障の問題、生活の問題、中国の問題、原発の問題など、本当に考えなければならないことからは逃げられない。そこに対してきちんとした答えを出しているかどうか、出していなければその政権は荒れて短期で終わる状況になりました。それが、1年ごとに首相が変わる大きな理由です。
もう1つは、国民にきちんと向かい合う政治でないと、国民・有権者との距離が広がり、次の選挙で大敗するような大きな変化になることです。国民に向かい合うというのは、我々はこういうことをしっかりと実現しますとか、出来なければこうした理由があるからです、と説明する政治です。民主党政権はそれができないだけではなく、よく見たら、政党の中がガタガタで、党内の意見もまとまらず、党員が辞めてしまう状況でした。つまり、国民に向かい合うための政党のガバナンスが機能していなかったのです。
有権者は選挙の怖さを改めて実感する必要がある
この2つを見て、今回の選挙結果はどうだったのか。まず、はっきりしたのは、その政党のガタガタ、国民に色んなことを言っても結局、その党が分からない、例えば出来たばかりだとか、党首が何人いるかわからないとか、党内にまだ反対派がいるとか、そういう政党を有権者は選んでいない気がしました。相対的に見ると安定している政党を選んだような気がします。だから、今回、民主党政治が駄目だったのは、まず政党としてちゃんとしてくれよという展開だったのではないか。それが自民党へ支持が移った理由ではないかと思います。私も自民党の国会議員にインタビューを行い、党としては色んな問題がありますけど、一番ガバナンスの仕組みがまとまっています。公明党もそうだし、共産党もそうかもしれません。政党としての機能がより安定している党を選んだのかもしれません。そういう感じがあると思います。逆に言うと第三極もできたばかりで、言っていることが非常に曖昧だったり、党内で意見が分かれたり・・・こういう所に託しても実現できないということが分かります。多分、そういう見方が大きくなって、1つの民意に集約する形にならなかった理由だと思います。
もう1つは、政党が課題に向き合っているのか、という点です。投票日の翌日の朝に、言論NPOに登録している有識者、この中には学者とか、ジャーナリスト、公務員、企業経営者など様々な人がいますが、2000人の方に緊急アンケートを実施しました。その結果、半数近くの42.6%が今回の選挙結果について「心配な結果である」と回答しました。また、自民党の政策に関しては6割が支持していないと回答しています。これはどうしてかというと、1つは自民党が大勝しすぎたということですが、大勝した政党が何をするか、を考えてみると意外にわからない。メディア報道を見ていると憲法改正など勇ましい話や、日銀の問題など、ある意味では強烈なメッセージがあり、今までとは違うということで評価できる部分はあるかもしれません。しかし、非常に右傾化が進むのではないか。この本質的な戸惑いについて、我々は何も合意してない。合意していないけど、先ほど言ったように他の党があまりにも変だから、安定した所を選んでしまった。その先はこれからだ、と思っている人がたくさんいると思います。しかし、現実は残酷で、選んでしまった以上、民意としては政党を変えたことになったけれども、絶対多数になり、他の党と連立を組めばいろんなことが出来てしまう状況です。選挙はやはりそういう怖さを持っているということを、僕たちは今回、考えなければならないと思っています。
候補者の考えから読み取る自民党の課題認識
では、この自公政権が本当にどうなるのか。多分、正月にかけて予算の問題、補正予算を10兆円規模で出すとか、いろんな話が出ていますし、この放送時には安倍総理が誕生しているでしょう。しかし、実際に何をしようとするのかはこれから出てくると思います。政権運営に関して、経済的には小泉政権時の経済財政諮問会議みたいな枠組みを作り、動かすと思います。ただ、それがどのように展開するのかについては、注意しないといけません。
実際に何を考えているのかについて手がかりがないと不安ですが、候補者アンケートから自民党の候補者が何を考えているのかが分かります。それを皆さんに今日は説明させていただきます。まず、自民党の候補者のうち130人ぐらいが回答していて、その大半が当選しています。その人たちが何を考えているかについて、1つはっきりしていることは「経済成長」をやりたいと考えているということです。他の全ての候補者を合わせると、一番多いのが「脱原発」です。しかし、自民党の候補者で一番多いのは「経済成長」で、73.4%と圧倒的です。では「経済成長」をどのように進めるのか、というと、量的緩和とか、最先端の分野の市場開拓などいろんなことを言っています。また柔軟な財政出動との回答もあります。その点が少し違うということです。原発に関しては自民党の候補者は依存を少なくするけれども、原発は継続するという意見が大半でした。これは政党と言うよりも候補者そのものの考え方です。
ただ、経済成長を考えながら、一方で財政再建の問題についてはどのように考えているか。社会保障と税の一体改革によって、経済がよほど悪化しなければ消費税が2014年から上がりますが、これに対して財政再建の目途がついたのか、それから高齢化が進んでいるが、社会保障制度が持続可能になるのかに関して説明を求めています。すると、「この前の一体改革では足りない」、「それに追加でいろんなことをしなければ財政再建が成り立たない」と92.0%の候補者が回答しています。この結果は意外に正直だと思いました。つまり、私もそう思っていまして、日本の財政が非常に心配です。特に新年は、ユーロ市場の動向もありますが、日本の債務残高が余りにも大きすぎて財政規律を少しでも手を抜くと、マーケットが挑んでくる気がしています。それに関しては自民党の人たちは非常に考えている。だけどそれに対してどうすればいいのか、というと答えがまだありません。だから、多分自民党の人はわかっているのだけれども、それをどうすればいいのかということがこの前の選挙では提案されなかった。それから社会保障に関しても今のままだったら破綻するという人が多い。このまま行けば破綻するが66.0%です。だから、一応、自民党の候補者は今の日本の課題を認識しているのです。
しかし、この解決案が具体的にこの政党から出てくるかに関して、いろいろ不安な問題があります。つまり、実際問題、社会保障をどのように改革するのか、TPPの問題、日本の農業をどうしていけばよいのかなど、いろいろ聞いていますが、そこに関しては非常に歯切れが悪い。選挙中ということもありますが、解決に関しては腰が引けているという感じです。最後にもう1つ気になったのが、尖閣問題です。尖閣諸島は日本の領土ですから、その主権を主張しなければなりません。しかし、主張するだけが外交の目的ではない、とこの前、私は話したと思いますが、そういうことを主張しながら、どのように解決していくのか。少なくとも軍事紛争になるような状況は世界の誰も求めていません。これに関してどう考えているのかということですが、他の政党もどこも同じで、「主権は主張するけれども、軍事紛争にならないように取り組みたい」というのが多くなっています。しかし、2つの政党だけ「日本の主権を断固として主張する」という回答が3割近い。それが自民党と、石原さんと橋本さんが共同代表の日本維新の会です。この状況が今後、政権の動きの方向感をつけていくと思います。
2013年、有権者主体の政治をつくるための勝負の年に
2012年末に海外のメディアから、私のところにも多数、取材が来ました。皆さん同じことを言うので「なぜだろう?」と問い返しましたが、日本はこのまま右傾化するのかと質問されました。これに対して私は、先ほど言ったように2つの手がかりを得ました。つまり、国民に向かい合う政治でないと駄目だ、それから課題解決に向かう政党でなければ駄目だということです。そう考えた場合、今のままの政権では、この2つとも実現できない可能性があると思います。今年は参院選があり、その前に一票の格差を是正して、違憲状態を解消しなければならない。そういう形でもう一回、国民がこれを考えるタイミングになると思っています。その時にはやはり、国民に何をしたいのかを説明しなければならない。一方で、有権者もこの前は政党の不安定さを民意として判断したけれども、今度は未来に向けて何をしなければならないのか、ということを考えていかないと、将来が不安定になると私は思っています。
もちろん言論NPOはそうしたことを考えて、新年は徹底的に議論を皆さんに提供したいと思っていますし、やはり有権者主体の政治を作るという僕たちの目的からいけば、今年こそが本当の勝負だと思っています。是非このON THE WAY ジャーナルでも色んな議論をしていきたいと思っています。
ということで新年一発目のON THE WAY ジャーナルはお時間となりました。私たちは今回の選挙をどのように考えていけばいいのかということから、今年は議論を始めさせていただきました。ありがとうございました。
1月2日放送の「工藤泰志 言論のNPO」は、2012年12月末に行われた衆議院議員選挙の結果を受けて、今後、有権者である我々は何に視点を置いて考えるべきなのかを議論しました。