次の日本をつくる言論

2009年 新対談 「世界の大変化の中で日本が考えるべきこと」

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第2話:大きな視点で日本の国益と日本の進路を考える

小林 日本では対中国への認識が問題になっていますが、対アメリカ観もかつてないくらい悪くなっています。そうなってしまった原因は、各種報道の中で、今度の経済危機の諸悪の根源はアメリカだと言われていることではないかと思います。サブプライムの原因は、アメリカの儲け主義だとか、拝金主義だとか言われ、アメリカへの憎しみみたいなところがあったのかもしれません。その一方で、日中の問題の中で靖国神社問題がありましたが、その中で遊就館の話が出てきて、話が広がり、アメリカの原爆投下がどうだったのかとか、東京へのカーペットボミング(絨毯爆撃)はどうだったのかという話になってきました。それは、アメリカがイラクやその他でやっていること無関係ではないのかもしれません。もちろん日米関係は大切だし重要ですが、アメリカを見直そうという空気が静かに出てきているのではないかと僕は思います。

もちろん、それはアメリカの否定というのではなく、日本が自身のポジションやこれから進むべき道について、そしてアメリカとの関係について自分自身で判断をするような方向にきちんといかなければならないということではないでしょうか。世論がある意味では、そんなふうに日本の政治のリーダーシップに対し、メッセージを送っているのかもしれません。アメリカとの関係はかつてないほどいい、と数年前までいわれていましたが、なぜかつてないほどいいのか不思議に思っていました。今回の調査で、悪くなっていくとも思っていませんでしたが。

明石 トップ二人の関係だけがよかったのかもしれません。

小林 ブッシュさんと小泉さんの関係が個人的によかったということはあるかもしれませんが、世論の視野が少し広がり、いい意味で冷静になってきたのかもしれません。僕はその世論のメッセージはかなり重要なメッセージではないかと思っています。

決してアメリカと喧嘩ばかりしようというのではなく、むしろ、新しい政権下でもアメリカが大国であることには変わりはないし、アメリカはかなり前から中国の存在を重要な存在として意識しています。それは趨勢から言えば当たり前で、日本がひがむことは何にもなくて、中国は日本にとっても大切な国です。ただ、米中関係は、今までのチャンピオンと、これからチャンピオンになる可能性がある国同士の関係です。世界の歴史の中でも、こういう動きが出始めると色んな問題が出てきます。

リー・クアンユーさんは、21世紀を考えたときに、特に初頭における米中関係は、世界の秩序を形成する上で、かなり決定的な役割を果たすのではないかと言っていました。僕はまさにその通りだと思います。続けてリー・クアンユーさんは、米中関係がきちんとした方向に行くためにはお世辞ではなく、日本の存在は、対米でも対中においても、非常に重要な役割を果たすことになると本気で言っています。ただ、それをどうしたらいいのかということについては、明言していません。

しかし、それはやはり我々が考えないといけない問題です。単なる政治のリーダーシップということではなく、非常に知的で、透徹した哲学とか理念とか、そういうものに裏付けされたリーダーシップが必要です。それは単に首相が全て持っていなければならないと言うのではなく、とりあえず国を代表する首相がいて、国としてそれをバックアップしていけるだけの理論体系を、日本の中でもきちんと再構築する必要があると思います。

明石 アメリカに対する世論の変化は、中国に対する世論の変化とも重なっているとも思いますが、日本人が対外関係について冷静になり、客観的になった証拠だとすれば、これは喜ばしいことです。しかし、必ずしもそれだけではなくて、情緒的な要素もあるのではないかと私は多少気にしています。中国に対しての世論を例にとれば、工藤さんも先の東京―北京フォーラムでご指摘になったように、ギョウザ事件などが色濃く反映されたと思うし、そういった食に対する日本人の極めて敏感な態度が影響していると思います。アメリカに関していえば、ブッシュさん個人の誤ったイラク政策に対する反応とういうのが非常に大きかったし、それが今度の経済危機、サブプライムローン問題で、日本自身が影響を受けたことに対する感情的な反発もあると思います。

私は、そういう対外的な敏感さや情緒性と同時に、日本人が冷めてきているというよりも、対外関係に対する一つの諦めみたいなものが出てきて、日本という国に心地よく閉じこもっているのが一番いいのだ、というような気持が根底にあるのではないかと思います。国益中心の外交は全ての国がやっていることですが、その国益がどの程度幅広く、長期的な世界を見据えた国益、つまり啓蒙的な国益かということが重要です。そういう国益ならけっして悪いものではないし、各国が追求すべきものだと思います。ただ、狭い国益に閉じこもるというのは非常に困るし、わが国にも1920年代位から、ともすれば心地よい単独行動主義に走りがちな傾向はあるわけです。

田母神論文の問題も靖国問題と多少つながっていると私は思っていますが、横軸としての世界と日本との関係と同時に、我々が自身の過去をどう見て、将来の行動をどのように見定めていくかを決める上で、やはり歴史を忘れたり無視することは許されないわけです。我々の歴史にはいいものもたくさんありますが、決して誇れるものでないものもあったということを、対外的にも対内的にも、同じように言える大人の態度をとるべきです。歴史に関してはやたら自己弁護に陥ったり、過去を否定してしまうことがありました。幸いにして、今の中国は、戦後日本の民主的改革を認めるようになったことは大変いいことです。おそらく、日本人の歪んだナショナリズムも勢いをなくしていくと思いますが、その辺りの整理をして、歴史教育をきちんとすることが必要です。日本文化に対しても他の文化に対しても、どっちがいいとか、どっちが悪いとかという問題ではなく、お互いに尊重し合い、理解しながら進もうという態度に結び付いていけばしめたものです。アメリカと中国とどちらかを選べという問題ではまったくないと思います。

工藤 お二人のお話を伺い、日本の針路というか、日本がこれからの世界の中でどう生きていくのかの、きちんとした議論がないということは共通していると感じました。2009年は、大きな視点での日本の国益を真剣に考えなければならない年だということですね。

明石 そうですね。その中で一言言わせてもらうと、日本人に特徴的な国連論みたいなのがあって、国連を万能視し、美化する考え方と、国連は全く役に立たないから無視していいという国連無視論とがあります。しかし、本当はその中間で、国連はいいこともやるけれど、国連の決定はすべて正しい解釈に基づくものではなく、各国がそこで国益を戦わせながら、何かを生み出していくのが国連だと思います。国連に100パーセント依存することはできないし、日本もそこで主体性を持ってコンセンサス作りに参加しなければいけない、という点を忘れてはいけないと思います。

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