【インタビュー】メッセージ:挑戦者たちへ 「覚悟を固め "挑戦" の行動を起こせ」

2002年12月27日

yanai_t021227.jpg柳井正 (ファーストリテイリング代表取締役会長兼CEO)
やない・ただし

やない・ただし Profile 1949年山口県生まれ。71年早稲田大学政治経済学部卒。ジャスコに入社後、父親の経営する小郡商事を継ぎ、84年社長に就任。カジュアルウエア小売店「ユニクロ」のチェーン展開で急成長する。99年東証第一部に上場。2002年11月代表取締役会長に就任。

工藤 新年はどのような年になると柳井さんはお考えですか。

柳井 私は、日本はもう本当に追い詰められて、最後のところにきたと思っています。つまり、新年は何が起きてもおかしくない。言論NPOでも年末にデフレの議論を行っていますが、恐慌になる可能性も非常にあるのではないかと思いますし、金融自体も非常に混乱している。また北朝鮮の問題とかイラクの問題とか、何かとんでもないことが起きる可能性が非常に強いのではないかと私は思っています。こういう最後の状況になると、もはや国とか行政の問題とかいっていられる状況ではない。自分は個人としてどう生きるのか、企業としてどう生きるのか、ということが問われていると思わなければいけない、と考えています。我々の会社としては、業績を上げるといったことしかないと思っていますが、どういう状況になっても、私たちは個人としても企業としても生き延びないといけない。これは消極的な意味ではなく、むしろ積極的に行動しないと生き残れないと私は思うし、そのためには準備するということをしないといけない。

工藤 こういう逆境はむしろ個人や企業にとってはチャンスとも思いますが。

柳井 そう思います。私も実はワクワクはしているのです。例えば終戦直後に全部がなくなったけれども、青空みたいにぽっかりと、スカッとした感じになったのではないか、そう思った方もおられたと思いますが、私にもそういう一種の期待感のようなものがあります。つまり、今までの体制が崩れて新しい体制になり、自分がもう一回再出発というか、国がもう一回再出発できるのではないか。そういう期待感です。私たちは苦しいけれどもそういう期待感を持って未来に向かって挑戦すべきと思います。個人としても企業としても、今が出発点だと思ったら別にどうってことないのではないかと。そういう気持ちの中で、今まで以上にどうやって頑張るかということを、個人として企業として真剣に考え、行動する年だと思いますね。だから私はそう悲観的になることはないと思っています。

工藤 今の状況はかって、柳井さんが「ユニクロ」を立ち上げた時の状況と比べて、よりチャンスがあるような期待がありますか。

柳井 それはもう、今のほうがもの凄いチャンスでしょう。私自身はどんなことでも出来るという感じがしています。どんなことでも出来るというのは、やはり今の産業、これは金融業だけではなくて、我々の流通業もそうだと思うのですが、ほとんどが行き詰まっている。行き詰まりで、今やっているのと違う方法でないと成功しないということであれば、例えば、新規でやるにしても今から始めるにしても、スタートラインで一緒です。だとしたら、成功するチャンスは非常に強いし、今基盤があったとしても、基盤がむしろマイナスになっている企業は多い。だったらむしろ、マイナスの部分がない人間で、何もない人間のほうが強いのではないか、と私は思います。

工藤 今の日本で行われている議論は不良債権処理や産業再生とか、これまでの負の遺産の処理や立て直しに集中しています。本当は民間側のやる気、挑戦でしか今の状況が切り開けないのにそうした動きは停滞しているようにも思います。松井証券の松井さんは前回、このウェブサイトで、産業は再生できない、つまり変化に合わないものは淘汰されるしかない、と言っていましたが。

柳井 私も借金だらけの企業はやはり潰れるか整理するか、すっきりさせるべきだと思いますね。私たちが考えなくてはならない「産業」というものは多分、昔の産業ではないと思います。自分達で産業を作る、そういう人達が未来に向かって挑戦することで新しい産業が出来てくる。我々の流通業も同じで、今の流通業はとっくに耐用年数が過ぎていると思います。それはもうだめで、儲かっている企業はほとんどない状況です。これをそのまま形を変えて残そうとするところに無理があるわけで、それなら自分達で新しい流通業を作っていくということを考えて実行すべき時期に来ているのではないですか。

儲からないということは、今のやり方ではコストと効果が合わないということです。私はいつも言っているのですが、今言った流通業とか繊維産業とかは産業分類での考え方です。それを、我々は、カジュアル業を作るという発想に切り替えたわけです。自分達で企画して自分達で販売して生産して、そういうことをトータルしてやるようなそういう産業を、自分達で作るんだということで私たちはやってきたわけです。その産業を、自分達でうまく構築できて、日本だけではなくて、例えば中国や米国、あるいは英国でも、そういった所の資源や人材とか設備とかを利用して、自分達で儲かる産業を作っていくという、そういったことをやろうと思った人にとっては、今はもの凄いチャンスだと思うわけです。

これは日本国だけにとらわれていると、そういうチャンスが見えない。全世的に見て、やっぱりそういうチャンスがあると思っている人が、次の行動をして、チャンスを得るのではないでしょうか。私が今、非常に残念なのは、そうした可能性は広がっているのに、日本では未だに保護政策みたいなことをやろうとか、あるいは、米国でハイテクのバブルの崩壊があると、米国の経営が全くダメとか、また昔の日本の経営に戻りましょうとか、そういう風潮がでることです。今回の道路公団の改革なんかもそうですが、改革案が出たら、政治家なんかはもう全部反対ですよね、あれはもう、政治家なんかは辞めるべきだと思いますね。やはり今から本当に新しいものを作っていくことに関して、もっと躊躇せずに、昔に戻らないという覚悟は必要なんじゃないでしょうか。

工藤 その通りですよね。私も最近の論調で気になっているのは、外資に日本を売り渡すとかいう感情的な議論がよくでることです。中国では外資をどんどん入れて成長を図っていますが、経済のグローバル化が進む中で変化が進んでいるのに、こんな鎖国的な議論を行っている国は世界中でも珍しいと思います。

柳井 外資が入らない国なんて魅力のない国です。外資が入ってきて産業を興して資本を入れてくれるというのは、良いことで、そうした論調は危険ですね。そうした閉鎖的な発想は日本を衰退させる源になってしまう。外資が入ってくるというのはその国に魅力があるからで、やはり儲けるチャンスがあるからです。その結果、雇用は増えます。だから雇用を増やして、儲かる企業を誘致してくる、それで税金を払ってもらう。これは今の日本にとっては大切なことです。逆に世界から無視されたら、もはやどうしようもない。

これは日本が島国だということともあると思います。そういっている本人達は気づいていないとも思いますが、昔の軍国主義のような閉鎖的な雰囲気に入る前兆みたいな、日本の暗黒主義的なそういうものを感じます。私はもっと世界に開かれた日本であるべきだと思うし、日本という前に、世界でどう私たちが生きるべきか。企業とか個人もそれを考えないで、日本だけで閉じこもっていると、もうチャンスはないですね。

工藤 こうした状況の中で、日本は多分、正念場となる新しい年を迎えるわけです。私は新年こそ、個人がやる気を起こして、自らが挑戦する年にしなければならないと思っています。言論NPOもそのための建設的な議論の舞台として立ち上げたわけですし、そうした挑戦する側の発言をどんどん取り上げていこうと思っています。では、柳井さん、この正月、私たちは何を考えるべきですか。

柳井 やはり、例えば国とか行政とか日本がどうあろうと、「3年後は自分はこういうふうにする」「3年後は自分の企業をこういうふうにする」というはっきりした方針を決めるべきではないでしょうか。それで、そこに向かって新年は実行する。みんな、悲観論ばかりを言っていると思いますが、それだけでは状況は変わらない。どんな危機でも生き延びて成功させるためには、「こういうことをやる」ということを、各企業と各個人が決めるべきですね。とくに若い人はそれをやらなければならない。

工藤 政府は経済手術を行おうとしていますが、極端に言えば、それが成功しようが潰れようが、はっきり言って関係ない。失敗したら失敗したなりに僕達は挑戦すればいいだろうし、それが個人や民間のベースでは問われているのだと私は思います。

柳井 新年は自分達はどう生きるかというところを問われていると思います。今まで、日本のバブルがはじけてずっと「停滞の10年」とか「第二の敗戦」とか言われていたのですが、来年が初めて「敗戦した」というのを実感する年だと思うからです。だったらそれから立ち上がるしかないわけです。それなら、今から出発だと思ってやればそれでいい。それと、国に過大な期待をすべきではないし、国に多大な期待をして、税金を払ってない人間が、「こうやって税金を使え、ああやって税金を使え」と言うこと自体がおこがましいと私は思っています。私は、率直に言って税金はもう使ってもらいたくないし、無駄な金は使ってもらいたくない。政府にはもう、いらないことはしてもらいたくないですね。政府にはお金もないし、しかも行政能力もないですから。やはり、民間でやっていかないといけない時代が本当に始まると私は思います。

工藤 ただ今の政治や政府は困難を先送りする可能性はありますね。本来は政治や政府がリーダーシップを取って民間側が挑戦しやすいように、出口を描く必要があるのですが。

柳井 本来は政治が責任を果たす時期でもあるのですが、先の道路公団の改革みたいな議論を見ていても、本質的にもう国の金を使えないという状況にも関わらず、議員のほとんどが反対するというのは、そんなのはもう政治になってない。だから私はもう単純に、政府がもう余分なことをしない、身軽な政府になるということしかないと思いますね。例えば、道路公団なんかも国は一切お金は出さない。ファミリー企業とかああいうのを、雑誌とか新聞とかで読んでいると、これはもう民間だったら許されない話です。だから、小泉さんに本当にやる気があるのなら、今がタイミングだと思います。自民党を潰して、新党をつくるとか、それ以外には、もう日本は政治的には再生しないかもしれない。

もし、これ以上先送りするということになれば、この国は破綻すると思います。円安どころではなくて、ハイパーインフレ。3年後には中南米みたいにハイパーインフレで、経済はメチャクチャになると思うし、すでに危険水域まで来ているというふうに思いますね。これでは多くの企業は日本で商売が出来なくなる可能性があるし、日本から逃げ出すしかなくなる。

工藤 柳井さんも今、新しい挑戦を始め、野菜を売り始めていますが。狙いは何ですか。

柳井 私の場合は、「永田農法」といって永田先生という方が、50年間、日本の農業を良くしようということでやってこられたのですが、今のままで行くと、日本は、農業というものが全部消える、と。技術的にはいいものを持っているのですが、日本の農業の先行きが見えなくなっていることを知ったわけです。これを協力することはもの凄く社会的に貢献する事業なんじゃないかと思いました。しかも衣料品以上に、食料品というのは生活に密着しているので、美味しいもので安全なもの、こういったものをもっと大量に作って食べてもらいたいという単純な理由がまずありました。

私は社会の矛盾を解決することがビジネスなんじゃないかと思っています。それを解決することにおいて社会貢献する、そこで収益が上がる、社会貢献するということと収益が上がるということは、イコールに近いのではないかと思いますね。野菜などの販売も初めは「気は狂ったのではないか」とまで言われたのですが、日本には、「農業」という産業はなくて、産業でではなく、もう全部、兼業農家、年配の人で維持しているだけです。農業だけでは食べていけないからそうなっている。だから、農業という産業をゼロベースで今から作っていかないといけないと思ったし、農業という産業を作っていく上で、我々みたいな今まで小売業をやっている人間は、もっとそこに協力していかないといけないと考えたわけです。その意味では若い人には農業をやって、「農業」という産業を作ってもらいたいとも思っているのです。

工藤 最後に、若い人にメッセージをいただけますか。今の若い人達はどのような覚悟を固めないといけないですか。

柳井 もっと、自分の命というのは有限だということを考えないといけないと思います。若い人達も、あとあまり寿命はないんだというふうに考えないと。今の若い人たちと言っても、僕らと10年とか20年ぐらいしか違わない。しかも状況はさらに厳しくなるわけです。だったら、自分と、生きてどういうことをやるのかはっきり決めて、そのために努力する。そうでないと、「人生を生きた」っていうふうには言えないと思いますね。未来に向かって、若い人だからやはり、「10年後は自分はこういうふうにする」あるいは、「自分が引退する時には、自分がこういうふうにありたい」というふうに目標をもっとはっきりと決めるべきなんじゃないでしょうか。それで、それに向かって努力することですね。若い人達の一番悪い点は、その日暮らしということ。日本とか企業とかそういうものが今後も安泰だったらいいですが、そんな状況ではないわけです。もし、日本とか企業が安泰ではないとしたら、個人としてはどういうふうに生きるのかということを考えて実行すべき時期ではないでしょうか。だから、若い人がやっぱり、農業でも何でも、もっと起業してほしいし、NPOに参加するのでもいい、自分の人生として挑戦を始めるべきだと思います。

工藤 ありがとうございました。

(聞き手は工藤泰志・言論 NPO代表)

柳井 私は、日本はもう本当に追い詰められて、最後のところにきたと思っています。つまり、新年は何が起きてもおかしくない。言論NPOでも年末にデフレの議論を行っていますが、恐慌になる可能性も非常にあるのではないかと思いますし、金融自体も非常に混乱している。