今回の「工藤泰志 言論のNPO」は放射能汚染の問題について議論しました。
ゲスト:
崎山比早子氏 (元放射線医学総合研究所主任研究官)
菅波完氏(高木仁三郎市民科学基金事務局)
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で6月22日に放送されたものです)
ラジオ番組の詳細は、こちらをご覧ください。
「放射能汚染の問題をどう考える」
工藤:おはようございます、言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る「ON THE WAY ジャーナル」。毎週水曜日は、私、言論NPO代表の工藤泰志が担当いたします。
さて、東日本大震災から3カ月が経過しました。依然、福島第一原発は安定せず、未だに放射能汚染が続いているような状況です。そこで、今回は、放射能汚染という問題をどのように考えていけばいいのかについて、一緒に考えてみたいと思います。今日はスタジオに2人のゲストをお呼びしています。元放射線医学総合研究所主任研究官の崎山比早子さんです。よろしくお願いします。
崎山:よろしくお願いいたします。
工藤:もうお一方、高木仁三郎市民科学基金事務局の菅波完さんです。よろしくお願いします。
菅波:よろしくお願いします。
工藤:お二方をお迎えして、今日、みなさんと一緒に考えたいと思っていることは、放射能汚染、どうしたら被害を最小にできるのか、ということです。こういう問題提起自体に色々と異論がある方もいらっしゃるかと思うのですが、まず、僕たちはそこから入ってみようと思っております。早速、議論を始めたいのですが、まず、私がこの間悩んでいることがあるのですが、よくメディア報道を含めて見ていると、この放射能汚染の現実が軽く考えられているという感じがしてたまらないのですね。放射能汚染という問題はあたかも、時間が経てば夢から覚めるように直っていくみたいな問題なのだろうか、ということが気になっています。汚染の実態を厳しく議論すると、風評被害になっちゃうよ、みたいな感じになって、色々なことが真面目に言えないような風潮もあるような気がしています。ただ、現実をオブラートに包んでも、本質的な風評という問題は解決しないと思っています。その意味で、僕たちは現実をどう捉えればいいのかというところから、お話しをお伺いしたいと思います。
まず、菅波さんから、風評被害というか、放射能汚染の影響に対する動きで今、最も気になっていることは何ですか。
科学的事実は事実として知らせる
菅波:やはり、今、色々な情報が飛び交っていると思いますし、このリスクをどう捉えるのかということで、みなさん、混乱しているというか、不安を感じていると思います。その不安を感じている原因の1つが、政府が「安全です」、「直ちに影響はありません」ということを言い過ぎている面があるのだろうと思います。やはり、放射能の影響というのは、崎山さんから詳しく解説していただくのがいいと思いますけど、確率的なもので、直ぐに人が死んでしまうようなリスクと、長くかかって段々発生してくるリスクがあって、それについては厳しく見る見方と、楽観する見方の2つがあるわけです。その中で、政府が発表していることが極めて楽観的なことだけを流し続けることによって、むしろ不安が増幅しています。その辺が問題なのだと思います。
工藤:確かにそうですね。やはり、こういう場合はむしろ、厳しく見た方がいいのではないですか。
菅波:そう思いますね。
工藤:崎山さんどうでしょうか。放射線の被害の実態を僕たちは、どういう問題だと考えればいいのでしょうか。
崎山:厳しく見るとか、緩く見るとかそういうことではなくて、科学的な事実を事実としてみんなに知らせるということが、いいのですよ。特に厳しくする必要もないし、緩くする必要もない。
これまで、放射線生物学が積み重ねてきた知見を、正確にみんなに知らせるということが理解を深めて、風評を防ぐというか、自分で判断するための正確な知識や情報をみんなで共有することが、風評被害を防ぐ一番いい方法だと思います。正確な情報を流すということです。
工藤:そうですね。そういう正確な情報がないと、僕たちもきちんと対応できませんからね。まず被災地の放射能の汚染という問題。これについて話題になったのは、校庭で子ども達が遊べる時間的な基準があって、それに対して、その基準で大丈夫かという問題が広がっていますよね。やはり、どこまでが安全かということを、みんなも知りたいのですね。そういう不安があるから、何かの基準を求める。でも分からないから、ガイガーカウンターを買って、自分で確認したり、子ども達を全国の学校に転校させたりと、自己防衛をせざるを得ない状況になっているのですが、この問題はどう考えればいいのでしょうか。
政府の楽観的な姿勢が不安を高める
菅波:今、被曝の限度について、1ミリシーベルトにする、20ミリシーベルトに拡大するということが言われていまして、特に、問題になっているのは子どもに対しての基準です。本来、大人よりも子どもの方が放射線への感受性が強いわけですから、もっと厳しく安全側の管理をしなければいけないのに、それができていなくて、今、言われているのが、1時間に3.8マイクロシーベルトを超えるところであれば、外での活動を1時間に制限しなさいという、極めて緩い指導がようやくされています。ただ、それは一般の放射線管理区域で労働者に対する基準が0.6マイクロシーベルトですから、それよりも随分高い場所で子どもが遊んでいてもいい、という風に行政が言っているわけです。冷静に考えると、もの凄く大きな問題であって、こういう国の指導でいいのかというところが、多くの不安を招いていますし、私たちはこの基準は緩すぎると思っています。
工藤:何でそうなるのかという疑問があるのですが、この放射線被曝の1ミリシーベルトとか、20ミリシーベルトとか、この単位がどういうことを表しているのかということについて、崎山さんの方から説明していただけますか。
崎山:1ミリシーベルトというのは、私たちの体は60兆個の細胞からなっているわけですが、その細胞の真ん中に核があって、そこに体の設計図であるDNAが入っているわけです。そのDNAに傷がつくということが、私たちが一番害をうけやすいというか、放射線の障害の一番重要な作用なのです。そのDNAが入っている核に、平均して1本の放射線が通るというのが1ミリシーベルトということです。ですから、CT検査で胸のCTを撮りますが、10ミリシーベルトぐらいを受けるわけです。
工藤:CTスキャンで撮られると10ミリシーベルトも放射線を受けるわけですか。
崎山:そうです。ですから、CTスキャン検査を受けると、平均して10本の放射線が通るという感じになるわけです。
工藤:結果として、今の被曝の限度と、人体に対する影響は、一般的にどういう風に言われているのでしょうか。
崎山:だから、1万人の人が1ミリシーベルトを浴びると、その中の1人が、10ミリシーベルトだと10人、100ミリシーベルトだったら100人が癌になるということを、国際放射線防護委員会(ICRP)が、これ以下だったら安全だというしきい値がない直線説というのですが、しきい値なし直線説に基づいて防護をしなさいという勧告を出しているわけです。
工藤:しきい値がない直線というのは、つまり基準以下だと安全ということはなくて、ゼロから段階的に増えて行けば、それに比例して被害のリスクが増えるということですね。このICRPの基準というのは、変な言い方になりますが、信用できる基準なのですか。
崎山:それは、一番きちんとやっているのが、アメリカの科学アカデミーなのですよ。アメリカの科学アカデミーが、今までに発表された非常に多くの論文を全部総合して、これ以下だったら安全量はないと、直線説で計算した方がいいということを発表するわけですね。それを国連科学委員会が認めて、それからICRPに来るわけです。だから、元々はアメリカの科学アカデミーが、そういう全ての研究をまとめて結論を出す。それに従ってICRPがやっています。でも、科学アカデミーの方は、ICRPよりも少し厳しくやっています。
工藤:すると、今のICRPの基準から見ても、1年間で20ミリシーベルトというのは、1万人の中の20人が癌になる可能性があるという位の量ですね。子どもの場合はどうなのですか。もっと高いのでしょうか。
崎山:発表する人によって違いますし、子どもの年齢によっても違います。ICRPのモデルも、広島・長崎の被爆者を基礎にして出しているわけですが、広島・長崎から出ている論文だと、やはり、0歳から9歳までの被曝と、例えば40歳以上の被曝というのは、10倍ぐらい違うのではないかというモデルは出ています。
政府の基準はクリアしたら安全か
工藤:10倍ということは、一万人の中で200人ということですか。
崎山:そうですね。
菅波:大きいですよね。
工藤:そうなると、やはり不安ですよね。
崎山:不安ですよ。
菅波:当然だと思います。
工藤:だから、それに対して、まずそういうリスクをきちんと考えるということですよね。ただ、みんな今の見方がなかなかわからないと思うのですね。テレビを見ていたら、海水浴場を開きたいので、基準を政府に早く決めてくれみたいな議論になります。そういう基準というのは、それをクリアしたから安全だという基準だという理解でいいのですかね。
菅波:それは、他の公害でも環境基準があるようなものは、全て同じ事なのですが、ここまでだったら安全ということではありません。やはり、社会的に色々な産業との関わりの中で、産業上のメリットも考えた上で、実現可能なところで社会的に合意してきているわけです。
工藤:つまり、人体だけのことを考えると、本当はそこで泳がない方がいいのだけど、しかし、そうなったら、そこでは色々な生活もあるし、色々なビジネスもあるし、大変な影響が出てしまう。なので、これぐらいだったら何とか我慢できるのではないかという目安だということですか。
菅波:一応、それ以下に押さえようということを、社会的な運用上の合意としてやってきているわけですね。実際に、放射線の1ミリシーベルトというのは、実状からしてみれば高い数字です。現状がその数字ギリギリまでいったので気をつけろ、というのではなく、今は1ミリシーベルトだからいいと言うのは、かなり危ない議論だと私は思います。
工藤:その1ミリシーベルトというのは、かなり高いとおっしゃったのですが、崎山さんの講演録を読んでいたら、一般の自然界でも放射線があって年間で1ミリシーベルト以上を浴びていると書かれていたのですが、それは高いと見た方がいいのでしょうか。
崎山:自然放射線というのは、鉛の家に住むわけにもいきませんし、どうやったって避けることができないわけです。また、食べ物を食べれば放射性のカリウムがあるので、内部被曝もしているわけです。だから、生きている以上は、絶対に避けられないものとしてあるわけです。今回の問題はそれにプラスで人口放射線ということになるわけです。それが自然放射線と同じだから安全という保障はないわけです。色々な人口放射線なども全くなくて、科学物質も全然ないような大昔でも癌はあったわけです。そういう癌は、もしかしたら自然放射線が原因だったかもしれない。自然放射線でも、人口放射線でも同じ放射線ですから、DNAを傷つけるということは変わりないわけです。だから、全く安全だということではありません。
命を守ることが軽視されていないか
工藤:これまでの議論はまだまだ初めの段階で、1回だけで終わるような話ではありません。ただ時間の限り続けたいのですが、例えば、汚染地域というか、原子力発電所の周辺の人達が退去・避難されています。それは、同心円状でなくても、風向きなど色々な形があって、それがだんだん拡散している状況があるのですが、実際問題として、汚染地域の現状を見た場合、この汚染は元に戻るのですか。それを期待していいのか、それとも、かなり厳しい事態だと考えればいいのでしょうか。
菅波:まず、既に出ている放射能の汚染の話と、福島については、これからまだ出るかもしれない放射能の話があって、両方を考えなければいけないと思います。両方を含めて、汚染の高い地域から優先的に移動するとか、避難する。そのためには、コストもかかりますし、手順も必要だと思いますから、優先的に動ける人からきちんと手当をして、動くということは必要だと思います。
工藤:僕が気になっていたことは、確かにそういう汚染が深刻なところは異動すると。ただ、移動するとなると、1人暮らしのお年寄り達は、移ったことによって逆に弱くなってしまうということもあり得ますよね。だから、こうした移動された方のケアは社会として考えなければいけないと思うのですが、一方で、残っている方の人も被曝の状況をちゃんとモニタリングして、人体にどのような被害があるのかを、見ていければ、安心するじゃないですか。そういうことは、今やっていないですよね。やっているのですか。
崎山:やっていないでしょ。ホールボディカウンターの数が足りないのでしょうね。高汚染地域にいる人、特に子どもは、心配だったら放射線量を測ったほうがいいと思いますね。
工藤:ホールボディカウンターとガイガーカウンターは違うのですね。
菅波:違います。体の放射線を計測する機械があります。
崎山:中から測るものです。ガイガーカウンターは空間線量を測るものです。空気を吸ったり、それから食べ物を食べて汚染されたりしますよね。特に、地方に行けば自家野菜を食べるじゃないですか。それがもし汚れていたら、食べ物から内部被曝をするということで、やはり環境が汚れていると、それに比例して内部被曝も高くなるから、どうなっているのか不安だったら、やはり調べる方がいいと思います。
工藤:最低限そういうことをやらないと。
菅波:やはり住民のみなさんの被曝の状況もきちんと管理して、記録して、それに対するちゃんとした対応ができるように、今からしていかないといけないですね。
工藤:被爆者手帳というものがありますよね。
菅波:それをするべきだと思います。
工藤:そういうのがあって、自分の状態が分からないといけない。でも、そうやって考えてみると、それをやろうという動きが出てこないのはなぜなのでしょうか。
菅波:福島県では、そういう話が出てきています。また、そういうことを主張している人も出てきていますから、やはり住民の被曝の管理をきちんとしていかないといけないと思います。
何が優先すべき政策なのか
工藤:やはり対応が後手に回っていますよね。なぜでしょうか。命を守るということが凄く軽視されているという感じがするのですが、そういう僕の感じはおかしいでしょうか。
崎山:いや、それは私も思います。命が第一で、命をまず優先させるという政策というか、考え方が無いのですよ。私は思うのですが、命を守るのか電気を守るのか。私たちは、そういう究極の問いの前に立たされていると思いますけどね。
工藤:なるほど。話がつきなくて、いいところまで話が進んでいるのにという感じなのですが、時間が無くなってきたので、こういう話を何回もやっていきますので、この番組を聴いている方からも、どんどん意見を寄せてほしいと思います。やはり、自分達の命を守らなければいけないということだけではなくて、被害や大きな災害に関して、みんなが必要な考え方を共有する必要があると僕は思います。
そういうことで時間になりました。今日はゲストに崎山比早子さんと、菅波完さんに来ていただきました。今日はどうもありがとうございました。
ちなみに、言論NPOでは、6月23日(木)の18時から、言論スタジオで原発問題について議論してみようと思っています。いよいよ、僕たちも原子力発電、エネルギー、命の問題に対してきちんと議論をしたいと思っています。あらためて、みなさん、今日はありがとうございました。
一同:ありがとうございました。
今回の「工藤泰志 言論のNPO」は放射能汚染の問題について議論しました。
ゲスト:
崎山比早子氏 (元放射線医学総合研究所主任研究官)
菅波完氏(高木仁三郎市民科学基金事務局)
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で6月22日に放送されたものです)